世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。

ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。

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ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+ 秘伝のレシピ

  
本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。

第2回目は、株式会社マネーフォワード(以下、マネーフォワード)の代表取締役社長 辻庸介 氏の秘伝レシピを探ります。

読者の皆さんが、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
  

目次

1. 序文  -  マネーフォワードのビジネスモデル -
2. 秘伝のレシピ1:自分たちが抱える課題を解決するためにビジネスを作る
3. 秘伝のレシピ2:経営指標よりもユーザーを見る
4. 秘伝のレシピ3:ディスラプト型よりもコラボレーション型のイノベーションを意識する
5. 秘伝のレシピ4:チャンピオンユーザーを見付ける
6. 秘伝のレシピ5:泥臭さとスマートさの両方を追求する
7. まとめ

  
2014年頃から徐々に火が付きはじめ、昨今、一大ムーブメントとなりつつある「Fintech(フィンテック)」(※1)

今回は、自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」とビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」で大きなシェアを持ち、日本のFintech業界を牽引しているマネーフォワード代表取締役社長CEO辻氏に話を伺いました。

※1:Fintech・・・financeとtechnologyを掛け合わせた造語。金融関連のテクノロジーを扱うビジネスの総称。

参考:基調講演「Fintechとは」ーFintech Venture Meetup 2015ー株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長 瀧 俊雄氏|ferret

  
辻 庸介 氏 プロフィール
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株式会社マネーフォワード 代表取締役社長CEO。京都大学農学部卒業後、ソニー株式会社に入社。 2004年マネックス証券出向(その後転籍)。 2009年ペンシルバニア大学ウォートン校に留学。 帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、マネーフォワード創業、代表取締役社長CEOに就任。1976年生まれ。

  
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
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日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。

  
田所:創業されて5年弱ですが、凄まじい勢いで成長されていますね。成功の秘訣は何ですか?

辻氏:まだまだ、やりたいことの1%位しかできていないんです。
ある地点までいくと、また次、これもあれもできる、これもあったらユーザーさんに喜んでもらえるといった感じで、改善を重ね続けています。

田所:とはいっても、ユーザーの数はすごく伸びていますよね。

辻氏:おかげさまで、BtoCだと今500万人以上の方にご利用いただいています。BtoBの法人・個人事業主向けサービスのユーザー数は50万で、2,000以上の会計事務所様にもご利用いただいています。

田所:すごいですね。この5年間で、急激に成長された要因について今日は色々とお聞きしたいと思います。
  

秘伝のレシピ1:自分たちが課題と思っているものを解決するためにビジネスを作る

田所:そもそも、最初にこのサービスを作ろうと思ったのは、自分自身の課題を解決しようというのがきっかけですか?

辻氏:そうですね。自分自身が感じていた課題を解決するために起業しました。連続起業家などは、課題を感じていない分野でビジネスを立ち上げる場合もありますね。僕の場合は自分自身の課題でした。僕らが目指すのは、「お金の不安や心配がなくなる世界を作る」ことで、「お金を前へ。人生をもっと前ヘ。」というミッションを掲げています。

田所:そのミッションを具現化したのが自動家計簿・資産管理サービスの「マネーフォワード」だったわけですね。

辻氏:そうですね。お金の心配がなくなる世界を作るためには、まずは家計を見える化する必要があると思ったんです。自分が何にお金を使っているかが見えると、改善点が見えてきます。見える化することで初めて、節約とか、運用とか、次のアクションにつなげられるようになりますよね。

田所:ユーザー自身がお金に関して可視化できていない、モヤモヤしているところを顕在化することにフォーカスしたんですね。

辻氏:そうなんです。

田所:現在、様々なサービスをローンチされています。やはり課題ありきで事業を設計されているんですか?

辻氏:そうです。確定申告ソフトの「MFクラウド確定申告」を始めたのも、「マネーフォワード」の利用者に1番ほしいと思うサービスについてお聞きしたら、「確定申告」だったからです。僕自身も確定申告をしていたので、面倒な手続きが多いことは認識していて、自分自身の課題でもありました。

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秘伝のレシピ2:経営指標よりもユーザーをみる

田所:なるほど、辻さんの話を聞いていて、すごくユーザー目線だなということを感じます。ユーザー目線できちんと考えるという文化は会社に根付いているんですか?

辻氏:そうですね。ユーザーの立場に立ってサービスを作らないと誰にも使ってもらえないと、僕はいつも言っています。

田所:なるほど。経営指標はどのあたりをみていますか?

辻氏:マーケティングを行う時は、投下する費用に対するLTV(顧客生涯価値。顧客一人から得られる総利益のこと)を見なくてはなりません。ただ、僕はLTVという考え方が余り好きじゃないんです。LTVって提供側目線としての捉え方で、LTVより前に考えるべきことは、ユーザーに対して本質的な価値を提供できているかどうかだと思っているんです。

もし、僕らがユーザーに1,000円以上の価値を提供できたら、1,000円までは対価として頂くことができる。
10,000円以上の価値を提供できたら10,000円までの金額を対価として頂けるわけです。
だからこそ、1番初めにフォーカスするべきは、ユーザーに提供できる価値をいかに上げるかだと思うんですよね。

田所:なるほど、徹底されているんですね。

辻氏: 経営指標にこだわり過ぎると、長期的に見たユーザーにとっての利益を短期的に取りに行くみたいな視点になりがちです。短期的な指標はわかりやすいし、行動しやすいんですよ。

でも、短期的な指標を追い続けちゃうと、ユーザーそのものが見えなくなっちゃいますよね。
そこは非常に怖いです。

田所:経営指標ではなくユーザーを見るっていうのは、すごく人間くさいですよね。「マネーフォワード」もそうですし、「MFクラウドシリーズ」もそうなんですけど、人を見てサービス作っている感じがありますね。

辻氏: 社内だけで議論していても、良いサービスはつくれないと思うんですよ。自分たちの勝手な思い込みで良し悪しを議論してしまうことも多いじゃないですか。実際に使ってくださっている方に聞きに行くとか、サービスを早く出して使っていただくとか。泥臭いですけどその繰り返しでどんどん改善されていくと思います。社内の開発メンバーにも「定期的にユーザーの話を聞きに行った方がいい」とよく言っています。

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秘伝のレシピ3:ディスラプト型よりもコラボレーション型のイノベーションを意識する

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田所:この前、地銀(地方銀行)とか、地銀のファンドを運営している人と話をすることがありました。
地銀は、最近変革を迫られていますよね。マネーフォワードさんも色々な地銀さんと組まれていますが、どういったことを意識されていますか?

辻氏:地銀の方とお会いしていると、地域のインフラとしての役割を果たされていると感じます。その地域を良くするためにどうすればいいかを本気で考えられ、様々な取り組みを実際に行われています。
当然、地元企業の課題もわかっていらっしゃいます。すごく貴重な存在だと思います。
一方で、ITについては僕たちの方が専門的に取り組んでいるので、そういう面で手を取り合って取り組んでいますね。

田所:なるほど、つまりディスラプト型(破壊型。既存の組織や業界を破壊する意味で使われる)ではなく、コラボ型(協業型)のイノベーションを推進しているんですね?(※2)

辻氏:ディスラプトイノベーションってよく言われる言葉ですが、ディスラプトするよりも、コラボした方が合理的だと思います。

田所:それは、地方で活躍する税理士や会計士の場合も同じですか?

辻氏:僕は地方の中小企業にITサービスを届けるには、税理士や会計士の方々の協力が絶対に必要だと思いました。中小企業のIT化が進まない理由の1つは、ITに詳しい人が少ないからなんです。ですから、会計事務所や地方銀行のような、普段から中小企業と接している人達がサポートするのがベストだと考えています。
  
※2:イノベーションは、持続型、破壊型、協業型の3つのタイプに分類できます。詳細は以下のスライドをご覧ください。

  

秘伝のレシピ4:チャンピオンユーザーを見付ける

田所:「MFクラウドシリーズ」の話を聞きたいのですが、BtoBのサービスってなると、既存のプレイヤーが固まっていた領域じゃないですか。そこの中でユーザードリブンだって言ってもなかなか通用しにくい領域ではないかなと思っていたんですけど。どうやってマネーフォワードは拡大していったのですか?

辻氏:そうですね。今も苦労していますし、BtoBBtoCは全く違います。

田所:良い良い、というだけではすぐにユーザーは動かないですよね。

辻氏:そうなんですよ。
まだまだクラウド会計ソフト自体の市場をもっともっと拡大していかないといけないんですが、2014年の1月にMFクラウド会計をリリースして、数ヵ月後に全面的にソフトを導入してくださった会計事務所様がいらっしゃって……。大阪にあるトリプルグッド税理士法人様という会計事務所様なのですが。サービスの機能がまだまだ足りていない段階から導入を決めてくださいました。

代表の実島先生という方は、記帳代行や申告だけではなく、中小企業の経営そのものを如何に良くするかとか、どうやったら世の中が良くなるかをすごく考えていらっしゃる方なんです。IT系のソフトも様々なものを導入されていて。

トリプルグッド様への導入が決まってから、少しずつですがほかの会計事務所様にも使っていただけるようになりました。

田所:その出会いがあったのは、やはり、地方の中小企業をサポートしたいと言うメッセージを打ち出したり、そういうイベントを行っていたからですか?

辻氏:そうですね。僕は以前ソニーで経理やっていたので、経理という仕事の大変さを身を以て経験しました。中小企業は人材不足の所が多いので、なかなか経理業務に手が回らないことも多いと思います。なので、そこは会計や税務のプロである会計事務所様のサポートが必要になってきます。

全国の中小企業が「MFクラウドシリーズ」を活用することで生産性の向上に成功して、さらには会計事務所様による経営アドバイスが受けられるようになって、稼ぐ力をつけることができる。そんな世界を目指してやっています。

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秘伝のレシピ5:泥臭さとスマートさの両方を追求する

田所:辻さんは、Fintechという先進的なビジネスという側面と、商売というある意味泥臭さの2つを追求されている感じがします。

辻氏:めちゃくちゃ泥臭いです。僕の考える商売は、徹底的にユーザーの立場になって考えるということです。
セブンイレブンの鈴木さん(株式会社セブン&アイ・ホールディングス 代表取締役会長 鈴木敏文 氏)やクロネコヤマトの小倉さん(元ヤマト運輸代表取締役会長で「クロネコヤマトの宅急便」を立ち上げた故・小倉昌男 氏)も常にユーザー目線でサービスをつくられていましたよね。

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ユーザー目線で考えないと、世の中の流れに追いつけないと思うんです。
そうするとやっぱりユーザーに会いに行くしかないんです。本当はもっとスマートにできればいいんですけどね。
  

まとめ

「Fintech」と聞くと、一見スマートな印象があるかもしれません。
国内Fintech業界の中でもトップを走っているマネーフォワードのCEOである辻さんからは、ユーザーに価値を届けるためなら、泥臭いことを実直に行う」という、尋常でないこだわりを感じました。

スタンフォードMBAホルダーで現Fintech研究所所長兼マネーフォワードの取締役である瀧さん。
知性派のイメージがある彼も、マネーフォワード初期の頃はユーザーから届いた全てのメールやGoogle Playのコメント全てに返信していたらしいです。

そんな泥臭さと、緻密にサービスを設計するスマートさの両方を持ち合わせるマネーフォワード。毎月のように新しいサービスやパートナーシップを発表し従業員も200人を超えました。これからさらに成長していく大きな伸びしろと勢いを感じました。要注目の会社です。
  

企業プロフィール

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https://moneyforward.com/

マネーフォワードは、資産管理・家計管理サービス「マネーフォワード」およびビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを提供している日本の株式会社。「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに 「個人や法人すべての人のお金に関する課題の解決」を目指している。