9月29日(火)、Samurai Incubate Inc.(サムライインキュベート) 主催のイベント「Fintech Venture Meetup 2015〜注目のFintechスタートアップによるMeetup!〜」が開催されました。

今回は、株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧 俊雄(たき としお)氏による、「Fintechとは」についての基調講演をお届けします。

登壇者紹介

株式会社マネーフォワード取締役 兼 Fintech研究所長
瀧 俊雄(たき としお)氏

2004年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。
2011年、スタンフォード大学経営大学院卒業。同年、野村ホールディングスCEOオフィスに所属。
2012年10月より株式会社マネーフォワードに参加。経営全般を担当。

マネーフォワードの紹介

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マネーフォワードでは、個人向けとビジネス向けにサービスを提供しています。

個人向けには全自動の家計簿作成アプリ『マネーフォワード』を提供しています。同サービスは、利用している銀行、クレジットカード、証券会社、FXなど家のお金に関する情報を自動でまとめてくれるサービスです。
対応金融機関が非常に多いだけでなく、さまざまなデバイスに対応しているため、簡単にお金の管理をすることができ、現在250万人以上の方にご利用頂いています。

一方で、ビジネス向けには、会計サービスや給与計算、請求書発行などを行える『MFクラウドシリーズ』をご提供しています。

Fintechの定義について

まずFintechとは何か、ということについてですが、この言葉はこの1年くらいで世界的に盛り上がりを見せている言葉です。

なので、今日お越しのほとんどの皆さまにとって、今年になって初めて聞いたという言葉、ということになるかと思います。

Fintechとは「ファイナンスとテクノロジーをかけ合わせた言葉です」と解説をすることが多いのですが、本来、金融産業というのは情報産業とほとんどイコールの概念です。

元来、金融市場や様々な情報ソースからデータを集め、分析を行うのが金融産業ですので、これは結構当たり前のことを言っているに過ぎません。
ただ、最近のFintechの流れでは、最前線の担い手が変わってきましたよ、というのが大事なメッセージになります。

今までのFintechプレイヤーというのは、(以下の図の)左側にあるような、さまざまな仕組みやシステムを、可用性の高い形で提供する方々が中心でした。
一方で、欧米のニュースを見られる方々にとって、今時のFintechリストというのは、おそらく(図の)右側のような方々でしょう。

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左側は大手資本でさまざまな経験値を積んだ方が、安全に仕組みを運用するところに大きな付加価値があります。一方で
右側は、どちらかというとBtoCのユーザーさんに直結しているようなケースが非常に多く見られます。

一番分かりやすい事例としては、PayPalやSquareなどが挙げられると思います。

事例紹介

概念の話ばかりしてしまったので、いくつか事例のお話をします。

Acorns

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まず、Acornsというアプリについて紹介させていただきます。
Acornsをご存知の方はどれくらいいらっしゃいますか?

(ごくわずかの参加者が挙手)

Acornsというのは、Acorns証券というアメリカの証券会社のアプリです。
ただ、おそらくアメリカ人のほとんどは、Acornsを証券会社だとは思っていません。

アメリカではクレジットカード社会で、その辺のスタバとかコンビニで商品を買う際も全部カードを使っています。
このアプリは、端数を貯金しておきますという、一言で言うとそれだけをやっているアプリです。

例えば、コンビニで現金でのお買い物をされる際に、横に募金箱が置かれていて、320円の買い物をして400円を支払い、80円を募金箱に入れるようなことがあると思います。ちょうどあのような感覚で自分に投資をしてくれるというのが、Acornsのモデルです。

非常にあっけないモデルなのですが、これは心理学をうまく利用したサービスです。人間は、収入の2割貯金してくださいと言われると、自分の支出が抑制され、抵抗を覚えるのですが、それに対して、あなたは既に320円使っているので、80円分は貯金しておきましたよ、と言われると実はそんなに痛くないという現象が発生します。

少ないおつりであっても、それを積み上げていくと、月間では数百ドル、つまり数万円くらいの結構な額の貯金になります。
実際のユーザーであるアメリカ在住の友人が、月間6〜7万円くらい貯金できるようになったと言っていました。

ほとんどの人にとって、お金の不安とか悩みとは、貯金ができないことです。

その貯金ができないことをダイレクトに解決してしまうというのが、このアプリの面白いところでして、それほどハイテクでも新しくもない発想ではあるのですが、すごく使いやすいアプリになっているという一点だけで、多額の資金調達を行っています。

Vouch

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次に紹介するのはVouchという米国でお金を借りられるサービスです。

アメリカなどでは車のローンやクレジットカードの金利が年15%〜20%と高くつくことがありますが、その金利をできるだけ安く済ませる為に友だちと
連帯保証を、しましょうという仕組みのノンバンクです。

例えば、ある人に6人の友人がいるとして、それぞれから30ドルとか60ドルとか「この額だけ保証してください」という形で、信用力の積み上げを行います。

そして承認されると、この人の金利がどんどん下がっていくという仕組みになっています。
なぜそれを友人がやるのかというと、自分も逆に連帯保証してもらうことで金利が安くなる、という協力関係があるからです。

以上に見てきた事例は、貯める方と借りる方の手段ですけれども、非常に分かりやすいだけではなく、従来できなかったであろう、貯蓄習慣が身に付き、目に見えて金利が下がる形でメリットが発生するといったところが面白いところなのかなと思います。

これらのサービスが生まれた背景

このようなサービスが生まれた背景としては、情報サービスにおけるトレンドと、その中で規制を受ける金融産業がどう進化してきたのか、というところに分けて考えられるのかなと思います。

例えば、人間がどんどん検索をするようになって、サービスもクラウドで使えるようになって、それを手元のスマートフォンで使えるようになるという、それがさらにビッグデータ分析すると、どんどん有利なサジェストが簡単に得られるようになるという、大きな情報の流れがある訳です。

この流れの中で、金融産業がどのように対応してきたのかを見ますと、90年代の後半は大手の会社もインターネットに対応する時代でした。

しかし、2000年前後になると、例えば証券業とかが分かりやすいのですが、松井証券やSBI証券、マネックス証券といった、オンライン専業業者が、ディスカウンターとして台頭してきました。
純粋な機能提供であれば、非常に安い選択肢を消費者は選べるようになりました。

その後15年くらいかけて、安いだけではなく、中立的なレコメンデーションであるとか、自分のための情報選びといった特色が出る中で、より使いやすく、より簡単に問題を解決できる
サービス選別が行われてきた形になります。

お金に保守的な層こそがFintechのコアユーザー

また、これはアメリカ側のトレンドではあるのですが、ミレニアル世代という層が存在します。
最近私は、ミレニアルのことを草食系とも呼んでいるのですが、従来のように株式投資をどんどん行い、不動産も学費もたくさんローンを借りて、という強いアメリカ人像から一転して、リーマンショック以降は20代30代の人たちが、借金返済や貯金にいそしむ傾向が見られています。

昔ほど景気が良くない点もありますし、自分たちが大人になって2回も経済危機を経験している世代ですので、実直な貯蓄をしたいし、できるだけお金は金利を安く借りたいという節約志向が強くなっています。

こういう人たちこそ、Fintechの強みである情報産業としての性質を、一番評価している層になります。

Fintechの今後

政府は今後、2020年のオリンピックに向けて、現金取引をできるだけ少なくする政策を進めていきます。

現金の代わりに、例えばApple Payをスマホではなくて時計などで使ったりする他にも、通常のデビットカードとかクレジットカード、電子マネーの使い勝手もどんどん高まっていく見込みです。

この流れの中でポイントになってくるのが、ATMがなかなか使われなくなるという観点です。

月に4回ATMを使っていた人が、ひと月やふた月に1回しか行かなくなる、そういったことが想起されるわけです。

そうなると、ATM自体の価値や、銀行さんにとって顧客との接点とかCRMのあり方とか非常に変わってきますよということが言えるのかなと思います。

アプリを使っていただくO2O的なサービスを考えなければならないですし、店舗を仮に減らす方向になるのであれば、従来の接客をタブレットでビデオチャットを使う、といったところもでてくるかなと考えているわけでございます。

ただし、このような危機感もある中で、日本のFintech企業は、まだ数が非常に少ないのが現状です。

アメリカで1,000を超えるプレーヤーがいる中で、日本では30社ほどにもならないんです。

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日本はまだFintech元年と言われていますが、プレーヤー数的にはこれから始まっていくようなフェーズでもあります。
そういった中で自分たちも含め、着実にいろんな大きいプレーヤー事例を作っていくのが重要なことかなと思います。

まとめ

Fintech産業は、今非常に注目されている領域です。
しかし、その概要を理解できている方は少ないのではないでしょうか。

まずは、今回瀧氏がお話された、Fintechが盛んになってきた背景から紐解いていくことをオススメします。

携わっていない方にとっては、なかなか難しい内容ではありますが、事例紹介でもありました通り、難しいアイディアを形にするというよりは「ユーザーのお金に関する問題を、テクノロジーで解決しよう」という、シンプルな発想がサービスの発端となっています。

Fintech産業に限らず、ユーザーの問題解決をしようという視点は、どんなサービスにおいても必要であると言えます。