UXデザイナーが平面だけをデザインする時代はまもなく終わるのかもしれません。

インターネットが登場してから約30年弱の間、Webデザインといえば「平面をデザイン」するものでした。
ところが昨今のVRの登場によって、私たちは3Dの仮想世界を体感できるようになり、WebVRの登場でインターネットを経由したVR体験も可能になりました。

これからUXデザインの範囲は、2Dから3Dへと変わりつつあります。
今まで2Dのフラットな世界をデザインしてきたUXデザイナーが3Dに取り組むにあたり、特に物理学を学んでおいたほうがいいかもしれません。

今回は、多くのデザイナーが*「物理学」*を学ぶべき5つの理由を解説します。

VRの前提:Vectionを回避したモーションデザインへ

VRについて考える上で、*「Vection」*について外すことはできません。

Vectionとは造語で「Vestibular illusion」(三半規管の錯覚)をもじったものです。
VRを通して現実の物理学では起こらないようなことを体験すると、少しの間(場合によっては数年間続くことも)気分が悪くなったりしてしまう体験のことです。

よく*「VR病」*(VR sickness)とも呼ばれているVectionですが、単に「デザインがかっこいいから」という方向性でVRのモーションデザインを行ってしまうと、ユーザーに負担をかけてしまうことになります。

初期のVRヘッドセットは、Vectionを回避する解決策を見つけられませんでした。
しかし、Oculus RiftやHTC Viveをはじめとして、近年主流になりつつある「モダンヘッドセット」では、ステレオ音源や、カメラアングルが移動するような3Dイメージなど、高度な性能によりVectionの発生を克服できつつあります。

Vectionについて理解すればするほど、VRのモーションデザインとはどうあるべきかを理解することにつながります。

例えば、VRカメラを急に加速的に移動させたり、回転させたり、急にスピードを落としたりするのは、三半規管に影響を与えるので回避すべきです。
しかし、一方で固定した速度で動かすのも物理法則に反しているので、ユーザーに慣れない挙動を体験させることになってしまうため、避けたほうがよいでしょう。

また、VRカメラを固定したり、アニメーションして動かすのもVectionを引き起こす原因になります。
VRカメラの位置はユーザーが装着しているヘッドセットに準拠しなければなりません。
つまり、ユーザーが頭や首を動かすことで視点をコントロールできるようにする必要があります。

上記はほんの一例ですが、Vectionを回避するためにも、デザイナーが物理学の基本的なことを学ぶと、ユーザーを危険にさらすことなく、なおかつ現実と同じ法則で世界をデザインすることができるようになります。

VRのモーションデザインを行う上で考えておきたいこと

VRは、3次元上で単にグラフィックデザインを行うのとは勝手が違います。
次に列挙するのは、Vectionを発生させずに、なおかつVRをより現実法則に即してリアルに体感できるものにするために考えたい、物理的な着眼点です。

1. 直線的な加速にならないよう設計する必要がある

VR上のミスで比較的多く発生してしまうのが、加速の割合を一定に保ってしまうことです。
自動車や電車が出発するときは、慣性の法則が働いて、最初はゆっくりと、そしてだんだんと加速をしていくという、二次曲線的な加速になるはずです。

しかし、カメラの視点がスムーズに前進したとしても、加速や減速なしに固定された一定の速度で直線的に加速していったら、Vectionが起こりやすくなってしまいます。

2. 「トンネルビジョン」現象を理解しなければいけない

トンネルビジョンとは、VRのヘッドセットを被ったときに目の形に切り抜かれた穴を覗くと、視界が狭くなって周囲の視野が狭くなってしまう現象を指します。
VRアプリの中には動くときだけ周囲の視界がぼやけてしまったり、あるいはホラーアプリのようにあえて視界を暗くして楽しんだりするものもあります。

意図的にトンネルビジョンを起こすこともありますが、多くのアプリはトンネルビジョンによってVectionが起こりやすくなってしまいます。

3. 奥行きを誤認識させない工夫が必要

VRコンテンツの中には、3D空間中にメニューやボタンのような2DのUIが配置されている場合があります。

ただ、適切に使われないと、異なる奥行きのものが脳の中で競合してしまうので、脳におかしな錯覚を与えることになります。
一般的には、浮かんでいるUI要素は奥行きや層に関係なく上にあるように見えます(例えば、字幕は背景にあるオブジェクトの「後ろ」に隠れることは滅多にありません)。

VRでは、ユーザーが立体的な視野で浮かんでいる要素を見ると、奥行きを正しく認識することができなくなってしまいます。
カメラと要素との距離は3Dオブジェクトであれば光の当たり方や影のでき方で分りますが、2DのUIオブジェクトでは、モノの「前」にあるのか「後ろ」にあるのかが分からなくなってしまうのです。

そうすると今度は3Dオブジェクトに関する奥行きに関してもうまく認識することができず、もやもやしはじめてしまいます。

4.物理学を知らないと、ありえない物理法則が適用されてしまう可能性がある

現実ではあり得ないことですが、人が壁を通り抜けてしまったりすることもVRの世界では起こってしまいます。
仮想空間であっても、壁に当たった時は衝突するといったように、ごく当たり前の挙動をするかどうかを確かめておきましょう。