ファミリーレストランでメニューを選んでいる際に「店長おすすめ」といった文字が書かれているのをみて、思わずそのメニューを注文してしまったということはありませんか?
このような、ちょっとしたきっかけを与えることで消費者に行動を促す手法を*「ナッジ(nudge)」*と言います。

今回は、ナッジの具体例と活用術を紹介します。
ナッジ活用のためのチームが環境省に設置されるなど、行政においてもナッジは注目されています。マーケティングや営業にも役立てられる技術なので、ぜひ活用術を学んでみましょう。

参考:
[日本版ナッジ・ユニットを発足します!~平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業の採択案件について~|環境省] (http://www.env.go.jp/press/103926.html)

ナッジとは

「ナッジ(nudge)」とは注意や合図のためにひじで人をそっと突くことを指す英単語です。2003年にシカゴ大学経営大学院に所属するリチャード・セイラー氏と法学者キャスサスティーン氏の論文「リバタリアン・パターナリズム」で提唱されて以降、行動経済学の分野で注目されてきました。

では、具体的にナッジとはどういったものを指すのでしょうか。
例えば、以下のような例が挙げられます。

 ・コンビニのレジ前に足跡をつけておき、そこに並ぶように誘導する
 ・ネットショップの会員登録時に、メルマガ登録のチェックボックスにすでにチェックが入るように設定しておき、登録したくない人はチェックを解除するようにする
・レストランのメニューのうち、特定のメニューにのみ「おすすめ」を表示しておく

ナッジとは、「人の思考のクセ」を利用し特定の選択肢に導いていく手法とのことと言えます。「人の思考のクセ」とは何でしょうか。それには3つのタイプがあることが分かっています。その3つは「限定合理性」、「限定自制心」、「限定利己心」です。

「限定合理性」とは、回答を導く際の根拠を出来る限り簡単にわかるものに置く考え方を指します。例えば、「新薬Aは患者の7割も救うことが出来る。」と「新薬Bは3割もの患者に対して全く効果がないことがわかっている。」この2つは同じことを言っていますが、前者の方が支持される確率が高いです。

「限定自制心」とは、リスクを過大評価してしまう考え方のことです。例えば、80%の確率で4万円もらえるのと、100%の確率で3万円もらえるのでは、後者を選択する確率が上がります。
「限定利己心」とは、周囲の他者と同じように行動しようとする考え方のことです。例えば「あなたの睡眠時間は6時間です」と言われた人と、「あなたの睡眠時間は同年代平均から2時間も短い6時間です」と言われた人では、後者の方が睡眠時間を伸ばす確率が高まります。

このように、ナッジはあくまで選択の余地を残しながらも消費者を特定の選択肢に誘導させるという手法です。消費者にとっては自発的に選択した感覚があるため、商品やサービスの体験を損ねません。そのため、マーケティングや営業においても、顧客を満足させつつ自社の誘導したい選択肢へと導く方法として知っておきたいところでしょう。

参考:
「ナッジ」で変える個人投資家行動 |大和総研

ナッジの活用事例:納税通知書への周辺住民の納税率を記載することで納税率アップ

では、実際にナッジを用いて、消費者の誘導に成功した事例にはどういったものがあるのでしょうか。代表的な例である、イギリス歳入関税局での事例を紹介しましょう。

ナッジを政策に活用するための設立されたイギリスの専門チーム「BIT(the Behavioural Insights Team)」では、税金の滞納者への通知に同じ地域に住む住民の納税率を記載することで、納税率に変化が現れるかの社会実験を行いました。
結果として、同じ地域に住む住民の納税率を記載した通知書は通常の通知書よりも高い納税率を実現し、年間3000万ポンドもの滞納金の回収を実現しています。

このように、行政においてもナッジは活用されています。
実際に、イギリスだけでなく、アメリカにおいても2015年にナッジを活用するようオバマ元大統領による大統領令が発令されています。また、日本国内においても2017年4月低炭素型社会の実現のため、国民一人一人が自発的に行動を起こすよう促すことを目的としたナッジ活用の特別チームが環境省内に設立されました。

参考:
ナッジ|株式会社日立総合計画研究所

ナッジを考えるために覚えておきたい4つのテクニック

「ナッジがどういったものかはわかったけど、自分の状況に合わせたナッジは思いつかない」という方もいるかもしれません。
そういった方はナッジの基本的なテクニックを学び、自社の運営へ落とし込むといいでしょう。

1.デフォルト(初期設定)

デフォルト(初期設定)とは、とってほしい選択を最初から設定しておくことで、異なる選択をとる可能性を低くするテクニックです。

例えば、Amazonではプライム会員の加入を促すために無料期間を設けています。無料期間中に加入した人はいつでも解約できますが、そのまま継続してしまう人もいるでしょう。このように会員となっている状態がデフォルトになってしまうと、解約するには手間がかかります。例えそれが簡単に解約できる内容であっても、なんとなく続けてしまう人は多いでしょう。

2.フィードバック

フィードバックとは、特定の行動を起こしたらすぐに反応が返ってくる仕組みを作ることで、自発的に行動を起こすよう誘導するテクニックを指します。

例えばネットショップの会員登録を行う入力フォーム上で、電話番号を全角で入力していたら画面上に「半角で入力してください」と出てきたとします。その結果から学んで、住所を入力する時は最初から半角数字で入力を行うでしょう。

3.インセンティブ(動機)

インセンティブとは、特定の行動をとった際にメリットを与えることで、再度その行動を促すテクニックを指します。例えば、飲食店のポイントカードもインセンティブの1つでしょう。

4.選択肢の構造化

選択肢の構造化は、複雑な選択肢をわかりやすくすることで、特定の選択肢に導くテクニックです。例えば、ファミリーレストランのメニューには「店長オススメ」や「期間限定メニュー」といった文字が掲載されているでしょう。こういった案内があることで、大量にあるメニューから選ぶべきメニューが絞られ、消費者にとって選択しやすくなります。

参考:
情報を用いた誘導への一視座 : 行動経済学,ナッジ,行政法|R-Cube
他人を巧妙に誘導する〜ナッジの技術|福岡県中小企業団体中央会
行動経済学の“選択アーキテクチャ”をSEOやサイトCROに応用する(前編) | Moz - SEOとインバウンドマーケティングの実践情報 | Web担当者Forum

ナッジの考え方を使ってマーケティング戦略を練ろう

ナッジとは、ひじを軽く突くという意味であり、消費者にとって選択の余地を残したまま、特定の選択肢をとることを促す仕組みを表します。ナッジには、とって欲しい選択を最初から設定しておいたり、特定の行動を起こした時にのみフィードバックを与えたりといった方法が挙げられます。

こういった仕組みを使うことで、消費者を誘導することが可能になる一方で、消費者の自由意志を削ぐ可能性もあります。例えば、新商品のうち特定の商品のみを売れるようなナッジを仕掛けることで、他の新商品がヒットする可能性を下げるといった危険性があるでしょう。こういった危険性があることを考慮した上で、ナッジを活用していきましょう。

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