近年、ビッグデータの活用が広がっています。2016年末から2017年にかけては、行政手続きや民間取引でのデータ活用の推進や、個人情報の適正な流通のための環境づくりなどの法整備も進んでいます。

2017年10月、株式会社電通と楽天株式会社が、マーケティングソリューションを提供する新会社「楽天データマーケティング株式会社」の営業を開始します。楽天グループのビッグデータを活用した顧客分析をもとに、電通グループのメディア広告の知見と戦略構築力で、企業のプロモーションを支援していくようです。

参考:
楽天と電通、新会社「楽天データマーケティング株式会社」を設立−両社のデータ・知見を融合し、新たなマーケティングソリューションを提供−|株式会社電通

このような流れの中で、ビッグデータの言葉の意味は何となく理解していても、具体的にどのような情報をどのように活用しているのか理解している方は、少ないのではないでしょうか。
今回は、ビッグデータの基本的な知識から活用事例まで、分かりやすく解説します。

ビッグデータとは

ビッグデータとは、スマートフォンやインターネットを通した位置情報・行動履歴や、ホームページやテレビの閲覧・視聴に関する情報などから得られる膨大なデータを指します。
2012年、アメリカの科学技術政策局がビッグデータに関する研究と発展について発表したことで、大きく注目されるようになりました。

ビッグデータの分類

膨大なビッグデータの分類法には様々な考え方があります。そのひとつとして、総務省は「国(政府)・企業・個人」の3つに着目し、以下4つのグループに分類しています。

国(政府):オープンデータ

オープンデータは、政府や公共団体が保有している公共情報で、「官民データ」とも呼ばれています。2016年12月に施行された「官民データ活用推進基本法」により、データを活用した新ビジネスの創出や、既存事業の効率化などを目的に開示を推進しています。

企業:ノウハウを構造化したデータ

企業のビジネスに関するノウハウをデジタル化・構造化した情報です。「知のデジタル化」とも呼ばれています。

企業:M2Mのストリーミングデータ

M2M(Machine to Machine)とは、個々に稼働している機器をネットワークでつなぎ、人の介在がない状態で機器間の情報交換が行われるシステムです。

例えば、自動販売機が自動で売上情報、在庫情報などを把握し、遠隔地にいる管理者に通知するシステムなどがあります。ストリーミングとは、ファイルをダウンロードしながら同時に再生する技術です。

「知のデジタル化」と「M2M」を合わせて「産業データ」と呼ばれています。

個人:パーソナルデータ

パーソナルデータは、個人の名前などの情報、行動履歴、ウェアラブル機器(メガネやアクセサリーのように身につける電子機器)から収集された個人情報です。2017年に施行された「改正個人情報保護法」によって定められた、特定の個人を判別できないよう加工された「匿名加工情報」も含みます。

ビッグデータ利活用元年

前述した「官民データ活用推進法」と「改正個人情報保護法」により、これまで懸念されていたデータの取り扱いに関する不安は解消に向かっています。

ビッグデータ活用のための法整備が整ってきたことで、今後は一気に活用の流れが加速すると期待できるでしょう。

総務省は今年を「ビックデータ利活用元年」と呼んでいます。

参考:
平成29年版情報通信白書|総務省

ビッグデータの取組状況

企業も、ビッグデータの活用を前向きに検討しています。

ビッグデータに関する取組状況.png

参考:
平成29年版情報通信白書|総務省

情報収集中の段階も含めると、2年前に比べ約3倍に増えています。全団体の比率は31.2%です。

後述するグラフからも読み取れますが、「改正個人情報保護法」の交付が2015年であったため、個人情報に関するリスクが軽減する可能性を得て前進した企業が増えたのだと考えられます。

ビッグデータに関する取組を進める上での課題.png

参考:
平成29年版情報通信白書|総務省

一方で、取り組みを進める上での課題もあります。全体的に割合は大きく変化していませんが、「人材が不足している」「職員のスキルや活用のツールが不十分」の項目は2年前より割合が増加しました。

少子高齢化の進行により人手不足に陥っており、ビッグデータ活用という新しい取り組みにさける人材が不足していると考えられます。また、「庁内推進体制が不十分」である課題は解消に向かっているものの、実際に取り組むとなったときの動きに戸惑っている企業も多そうです。

企業の活用事例

ビッグデータを実際に活用し、ビジネスや社会に貢献している企業の事例をみてみましょう。

園内での支払いを一括化(ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー)

フロリダのディズニーワールドには、IoTとビッグデータを活用したMagicBandというウェアラブルリストバンドがあります。センサーを搭載しており、ディズニーワールドへの入場から、アトラクションの予約、ホテルのチェックインまで一括して利用できます。

同時に、ディズニーは着用者の行動をデータとして収集します。アトラクションの混み具合やレストランの滞在時間を調べることで、来場者がスムーズに楽しめるよう、スタッフの配置や在庫補充に役立てています。

参考:
MagicBand|DisneySTORE

自殺の予兆を早期発見(株式会社 LITALICO)

約7,000人の精神障がいのある方の支援に取り組んできた障がい者就労移行支援事業「ウイングル」の支援記録のデータを分析し、自殺の予兆を早期発見する仕組みを構築しました。

2018年度から精神障がい者の雇用義務化が始まり、雇用の増加が見込まれます。一方で職場のストレスにより精神障がいを発症する方も増えてきているようです。自殺者の内訳で多くを占める精神障がいを持った方の支援をすることで、LITALICOのビジョンである「人の幸せ」に貢献しています。

参考:
LITALICOとUBIC、人工知能を活用した協業を開始|株式会社 LITALICO

まとめ

これまでは、決められた項目で整理されたデータの分析による商品開発やビジネス活用がほとんどでした。今後は、多様で膨大なデータを、顧客の変化するニーズと行動履歴に柔軟に対応しながら分析した活用が広がっていくことが予想されます。

ビッグデータの活用には、個人情報保護のリスクや、分析能力向上の必要性など決して低くはないハードルもあります。しかし、顧客のニーズに寄り添ったサービス展開を目指す上では注目すべきものでもあります。