インターネットが生活に浸透したことで、誰でも自由に情報発信できるようになりました。
ブログやSNSを通じて多くのコンテンツが溢れる中、ただ情報発信を行うだけではユーザーの関心をひくことはできません。

そんな中、ひときわ人々の関心をひく2つのメディアがあります。
コピーライターの糸井重里氏が中心となって立ち上げた「ほぼ日刊イトイ新聞」と、豪華列車の先駆けとなったJR九州の「ななつ星」、まったく異なる分野ながらある共通点を持っているのはご存知でしょうか。

「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する株式会社ほぼ日とJR九州は、それぞれ2016年10月と2017年3月という同時期に上場を果たし、新規公開株は公開価格を大きく上回る価格がつけられました。
投資家の注目もさることながら、どちらも周囲の人やサービスをつないでいくメディアとしての役割を果たし、ファンからも深く愛される存在となっています。

このように愛されるメディアが生まれた背景には、どんな思想があったのでしょうか。

今回は、ad:tech tokyo2017「楽しいがすべてを超える」より株式会社ほぼ日代表取締役 糸井重里氏とJR九州代表取締役会長 唐池恒二氏の対談の様子をお伝えいたします。

参考:
JR九州東証1部上場、初値3100円 収益期待で売り出し価格上回る|日本経済新聞
[「ほぼ日」上場、脱「個人事務所」目指す|日本経済新聞] (https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ16ICS_W7A310C1000000/)

登壇者紹介

アドテック:糸井氏2.jpg

糸井 重里
株式会社ほぼ日 代表取締役
1948年群馬県生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。コピーライター、エッセイスト、作詞家、ゲーム製作など多彩な分野で活躍。
1998年に毎日更新のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設し、同サイトの活動に全力を注ぐ。2016年6月には犬や猫と人が親しくなるアプリ「ドコノコ」をリリース。運営会社の「ほぼ日」は3月ジャスダック市場に上場した。
引用元:[糸井 重里 | アドテック東京 公式サイト] (http://www.adtech-tokyo.com/ja/keynote/kspk001.html)

アドテック:唐池氏1.jpg

唐池 恒二
九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長
1953年4月2日大阪府生まれ。「ゆふいんの森」や「あそBOY」等のD&S(デザイン&ストーリー)列車の運行をはじめ、博多~韓国・釜山間の高速船「ビートル」の就航に尽力。その後、毎年大幅な赤字を計上していた外食事業を黒字化し、子会社化したJR九州フードサービスの社長に就任。2009年6月JR九州の社長に就任後、2011年に九州新幹線全線開業、国内最大級の商業駅ビル「JR博多シティ」開業と、2大プロジェクトも成し遂げた。2013年10月に運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、その企画から運行まで自ら陣頭指揮を執った。2014年6月、JR九州会長に就任。
引用元:唐池 恒二 | アドテック東京 公式サイト

糸井氏「ななつ星こそメディアじゃないですか」

糸井 重里氏(以下 糸井氏):
「ななつ星」に乗ってみないかと番組に誘われた時に、列車についてやたらに自慢する親父がいるなぁと思ったら会長だったということから僕と唐池さんの関係が始まりました。
それから唐池さんの著書を読んだり、やってきたことを知ったりして、自分と近いことを考えている方だと思いました。
唐池さんは僕らに共通する点があると感じている部分はありましたか?

唐池 恒二氏(以下 唐池氏):
いやいや、糸井先生と私なんて比べようがありません。今日は三歩下がってついていきますから。

糸井氏:
こういう嫌なつき方をする人なんですよ。
先に本題を出すと、今日、僕自身が唐池さんから聞きたかった話は「メディアを作るということ」です。
メディアと言うと4大メディア(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)、最近ではインターネットが新しいメディアとして常識になってきたと言われています。

ですが、僕自身はメディアは作るものだと思っています。
その例として、ほぼ日刊イトイ新聞が運営している「生活のたのしみ展」を紹介しましょう。

「生活のたのしみ展」は展覧会という名前のフェスです。お買い物フェスや雑貨フェス、趣味フェスと言えるでしょう。例えば、この日に桜が咲くように育てた桜だけの花屋やオリジナル料理の食事ブースなど、「生活の中で”楽しみ”と呼ばれるものはみんな参加すればいい」という考えで運営しています。

生活のたのしみ展は展覧会ではありますが、それそのものがブランド名だと思っていただいて構いません。
展覧会は元々なかったもので、まさしくメディアを作ることによって、メディアにコンテンツが乗ってくる・あるいは新しくコンテンツとして考えたものをここに乗せられた事例です。

例えば、モンベル(mont-bell)というキャンプ用品を作っているメーカーがあります。ここで作っている傘は小ささも軽さも圧倒的に良いものなので、キャンプ用品ではなく傘の店として売れば、組み合わせとして喜ばれるんじゃないかと考えました。そこで、モンベルさんに声をかけて傘の店として出店してもらっています。

このように「この媒体だからこういうことができます」というのが土台としてあって、1つ1つ編集し直してはここに持ってくるというのを今までやってきました。

メディアと言ってもいいし、ブランド運営と言ってもいいかもしれません。
この中に「さぁ、どんなコンテンツがこれから乗っていくんでしょう」と考えていく。
これが、メディアを作っていくということなんじゃないかと思います。

唐池氏:
糸井さんからメディアを作るという話を聞いて自分の出番じゃないと思いました。ただ、糸井さんは盛んに「ななつ星こそメディアじゃないですか」とおっしゃるわけです。
確かに言われてみれば、地域やお客様、運営する社員、それぞれがコミュニケーションを取っています。つまり、ななつ星を作ったことは、1つのメディアを作ったと言えるかもしれません。

実際、ななつ星が運行し始めた1年後に日本PR大賞をいただいています。それまでPRというのは広告という意味だと思っていましたが、PRはもともとパブリックリレーションの略語なんですね。

地域と関わって、新しいものを作り上げてきたことが表彰の対象になったななつ星は、パブリックリレーションの枠組みに入るんだと驚きました。

例えば、筑後川の鉄橋の下で河原に集まって初めてななつ星をご覧になった177名の方は走った姿をたった10数秒だけ見ただけで、半分が泣かれ、さらにその半分がただ泣くだけじゃなく、号泣だったと聞いています。

この現象に、私自身最初は説明がつきませんでした。
今では、我々やデザイナー、職人、社員、客室乗務員達の想いと、かけてきた手間がななつ星にぎっしり詰まって、それが「気」を作りあげた結果なのかなと思っています。

気は英語で「エナジー」と言います。中国思想なので、欧米の人には理解されにくいんですが、エナジー・エネルギーというとわかるそうです。

中学の理科に出てくるようにエネルギーは変化します。蒸気機関車が動くと熱エネルギーが運動エネルギーに変わるなど、エネルギーは変化します。だから、ななつ星に込められた「気」は見た人や乗車した人の「感動」というエネルギーに変化したのではないかと思っています。

糸井氏:
子供が1人で泣き出すと釣られて他の子供泣くじゃないですか。それと同じですかね。

唐池氏:
いや、いいとこついてますけど違いますね。
以前、証券会社の経営者の方がいらっしゃった際に、私のほうで5分間だけ案内をしました。その際、5分間ご覧になっただけで号泣されていました。環境に立っただけでジワァと「気」が伝わったんですね。

ななつ星自体にエネルギーが詰まっているんです。そして、それを受け止める側がそのエネルギーを感動のエネルギーに変えていく。

それこそ、糸井さんがおっしゃるように、ななつ星こそ人に感動という情を発信しているメディアじゃないかと思いますね。

糸井氏:
ディズニーランドみたいな新しい施設ができたら、これがメディアだよって言われても、一目で全部が把握できるのでわかりやすいと思います。イベントも同様ですね。
ただ「ななつ星」は昔からあったローカル線の線路を走って回って、しかも元に帰ってくるんです。これはいわば無駄なことじゃないですか。

唐池氏:
ななつ星は博多駅から出発して、博多駅に帰ってくるんですよ。それのどこがわるいんですか。

糸井氏:
いや、批判しているわけではなく、それを味わうということが鉄道が始まった時にはわからなかったんじゃないかなと。鉄道がどこからどこかへ運ぶという考え方では成り立たなかったと思います。

糸井氏「毎日食べるわけじゃないご馳走がどんどん出てくるのじゃなくて、毎日続いても嫌じゃないものが、とても選ばれている」

アイキャッチ1.jpg

唐池氏:
西武百貨店のキャッチコピー「おいしい生活」や「生活の楽しみ展」など、糸井さんの好きな言葉の1つが「生活」だと思います。

この「生活」について、湯布院にある旅館の方に聞いた話を思い出しました。
私自身、湯布院は非日常をお客様に体験していただく・提供するものだと思っていたんですが、実は「こんな日常生活があったらいいな」というものを提供しているんだそうです。
ディズニーランドのような非日常とは違いますね。

ななつ星も「こんな日常生活があったらいいな」というのを提供していると思っています。
7両の車両に14の客室があるため「走るホテル」と言われますが、それは違います。
走る生活・走る街なんです。というのも、14組は個室で過ごしますが、食事の時は1つのダイニングカーに集まっていただきます。

これは江戸時代の長屋における井戸の前に近いんじゃないでしょうか。この時にお客様同士で仲良くなる。ホテルではありえないことですよね。

実際、デザイナーの方も車両をまちづくりという観点でデッサンしているとおっしゃってました。

糸井氏:
「夢の国にいきませんか」というお楽しみもあると思います。
ただ、日々の「ハレとケ」でいえばケの部分が一番嬉しいものでありますようにというのが「生活」という言葉で表現したい場所なんです。

1981年に「おいしい生活」というコピーを考える前に「おいしい生活」の雛型を見た覚えがあります。それは、今はもう亡くなった西武流通グループの堤清二さんから、打ち合わせが始まる前にご飯をご馳走してもらった時のことです。

西武百貨店本社の中にある食事スペースに普通に美味しく炊いたご飯と普通の味噌汁と、干物が置いてありました。ちょっと気の利いた旅館の朝ごはんみたいなものなんです。

これを見た時に、毎日食べるわけじゃないご馳走がどんどん出てくるのではなくて、毎日続いても嫌じゃないものが選ばれているんじゃないかと思いました。
そこで、自分に自由が手に入るとしたら そういう方向に行きたいんだろうなと思ったんです。

唐池氏:
究極の楽しみや喜びというのは生活にあるんじゃないかと思いますよね。

糸井氏:
一番多く時間を過ごしているのは、人間として生活している時間です。
今までは仕事の現場がどれだけ興奮を作ってくれるかに過剰に重心いっていたと思うんです。でも、これからは何で仕事をしたかとか、どういう魅力的な仕事をしたかだけでなく、ただの人としてどれくらい素敵だったかが大事になるんじゃないかと。

唐池氏:
多分それは1981年に「おいしい生活」というキャッチコピーを作った時にすでに気づいてたんですね。生活こそ一番の人間が求めるものだと。

糸井氏:
一番人間を短く言うと。、ただ生きて、死んでいくかだけなんですね。そこが「よかったなぁ」と思えるかどうかが大切です。
例えば葬式の時に「こいつはノーベル賞を取ったから葬式に行くべきだ」ではなく、「こいつだから葬式に行く」みたいな人でありたいなと思います。

そして、自分もそうだし、人々がみんなこの方向に向かう時代になっていくんだろうなぁと感じています。この思いを持って、今まで色んなことをやってきました。
ここを軸に考えると、メディアは「作るもの」だと思います。

例えば人が集まる井戸を作ることもメディアを作ることなんです。大袈裟に言ってしまえば、砂漠の井戸もそうなんですよ。みんな水を求めてやってきますから。
もし町内で誰かが犬を飼ったら、その犬を中心とするメディアが出来上がります。

さらに、メディアはコンテンツを呼び寄せます。
犬を飼っていたら「おたくのワンちゃんにこのおもちゃ買ってきたんだけど」と声をかけられるかもしれません。それは犬というメディアの中に、おもちゃというコンテンツが投入されたということです。

今までは5大メディアの売り買いが一番ビジネスにとってわかりやすいので、そちらが進化してきました。ただ、インターネットが発展して、このようなメディアのあり方がわかりやすくなっています。
インターネット上でお手本がいくらでも見られるようになったので、「メディアは自分ですぐ作れるんだよ」というのが実感できるようになったと思います。

唐池氏「手間がここまでかかっているのかと思える料理は味が多少自分の好みと違っても、受け入れてもらえる。」

糸井氏:
では、メディアが何に支えられているかというと、先ほどから唐池さんが「気」と表現したものです。
例えば鉄道は線路を引くのも、石を積み上げるのも1つ1つが労働集約型であり、とても手間がかかります。

「これは人間がやらなくてもいいんじゃないか」「機械に任せてもっとクリエイティブなことを人間はすればいいんじゃないか」という方もいるでしょう。
ですが、無駄なことを省こうとしている時代でも、手をかけたところに人が集まってくるんです。サービスを享受する側だけじゃなくて、「ぜひ働きたい」というスタッフもです。

以前、東北の復興のお手伝いを行っていた時に、手編みのニットの会社を立ち上げました。
手編みのセーターと同じものは機械で作れるし、似せて作ることも可能です。

でも、50時間かけてセーターを編みたいという方がいて、手編みだからと15万円くらい出して買ってくれる人がいました。これは、効率や機械に任せにすればいいという感覚とは真逆のものです。ここに、人が何を求めているのかが隆起してきたような気がするんですね。

唐池氏:
飲食を例に取ると、お客様がレストランに求めているものは、自分が普段作れない「手間のかかっている料理」なんです。
おそらく女性の中で、レトルトで作られるカレーショップには行く方はいないでしょう。
ですが、同じカレーでもトッピングが選べるところには行きますし、さらに自分が普段作れない手間のかかったカレー屋さんには行くと思うんです。

実際、ななつ星でも、手間のかかった料理を出せる料理人かどうかを料理選びの基準として採用しています。これは、美味しいとかまずいを超えてるんですよ。

「手間がここまでかかっているのか」と思える料理は味が多少自分の好みと違っても、受け入れてもらえる。
そういえば、糸井さんの「ほぼ日刊イトイ新聞」も手間がかかってますよね。

糸井氏:
ほぼ日は大変な労働集約型なんですよ。
「大変なだけ人はよろこぶ」という考え方がどこかにあって、ブラック産業にならないようにどこでどう切り分けるかは迷っています。例えば働くことの中には楽しみでやってることが混ざってくるので。

迷いはありますけど、1つ大きな軸となる考え方があって、それは「機械でできることを人がやることで喜ぶ」ということです。

人類が50万年あったとしても、ここまで便利な社会になったのは1,000年ありません。300年もないかもしれない。この変化を人体や感情は理解できていないんです。

それまでの49万年以上を過ごしてきた人間をどういう風に満足させるのかというのに、僕らの仕事や喜びの鍵があるんじゃないかと思いますね。

まとめ

「メディアを作る」というと、新聞や雑誌、Webメディアのような存在を思い浮かべるかもしれません。
ですが、本来メディア(media)とは「媒体」を指す言葉です。情報と情報、人間と人間をつなぐ存在もメディアとなります。
「ななつ星」も「生活のたのしみ展」も、人やものをつなぐメディアとして機能してきました。乗客が集まるダイニングカーやモンベルの出店など、その媒体だからできるつなぎ方をしてきたのがこの2つのメディアの共通点でしょう。

このようなメディアを作り出すには、糸井氏の言う「手間をかけること」が鍵となりそうです。