近年、顧客の購買履歴などのデータを活用したマーケティング施策が取り入れられるようになっています。マーケティング担当者であれば、自社の顧客情報を何らかのかたちで活かしながら施策を講じている方も少なくないでしょう。

しかし、データは目的と用途を明確にしていないと、有効活用することは困難です。大量のデータは手元にあるものの、どのような基準で分析し、実際に活用すればいいか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

顧客の個人情報や購買履歴などのデータを分析し、顧客に適した情報やサービスを提供するマーケティング手法を、「データベースマーケティング」といいます。

データベースマーケティングを上手く取り入れることで、顧客のニーズを的確に把握し、効率よくアプローチすることができます。

今回は、データベースマーケティングの基本概念と事例を解説します。

データベースマーケティングとは

データベースマーケティングとは、顧客の個人情報や購買履歴などのデータを収集・蓄積・分析・活用することでニーズを把握し、ターゲットとなる顧客にアプローチするマーケティング手法のことです。

新しい顧客を獲得するのではなく、過去に自社サービスを利用したことのある、既存顧客の継続的な管理と単価の増加が主な目的です。

データベースとは

様々なデータをコンピューター上で一元的に整理し、活用できる状態で保管しているものを「データベース」といいます。

データベースには、顧客の年齢や性別、住所などの個人情報を含めた「顧客属性データ」と、購買履歴や購買金額などを集めた「購買データ」の2種類に分けられます。

江戸時代から存在していた?

データベースマーケティングの手法は、実は江戸時代から活用されていました。

代表的なものとして、富山の薬売りが挙げられます。
薬売りは、顧客の家に薬箱を常備させ、定期的に巡回します。
使用した分の薬代のみ請求し、欠品状態や顧客の要望に応じて配薬します。薬売りは、持病などの顧客の特徴や流行病を把握し、状況に応じて配薬を提案していました。

顧客を取り巻く情報を分析することでニーズを分析し、サービスの提供につなげていた手法は、データベースマーケティングの前身ともいえるでしょう。

参考:
「おきぐすり」の歴史|一般社団法人全国配置薬協会

CRMとの違い

データベースマーケティングに似た手法に「CRM」があります。

CRMとは、「Customer Relationship Management」の略で、顧客との関係を管理するマネジメント手法のことです。顧客満足度の向上が目的です。

CRMは顧客情報や購買履歴をもとに、顧客1人ひとりに対してのアプローチを考えていく手法です。一方データベースマーケティングは、CRMで蓄積したデータをもとに、適したマーケティング手法を見つけるところに違いがあります。

例えば、「Aさんは夏前になるとダイエット商品を多く購入するようになる」というデータを元に、Aさんに向けて夏前にダイエット商品を提案することがCRMです。

そういったデータを蓄積した結果、「20代前半の女性は6月にダイエット商品の購入率と購入金額が増加する」と分析し、販売促進活動に繋げることがデータベースマーケティングであると理解すると分かりやすいでしょう。

参考:
顧客管理システムCRMとは|CRMの基本情報とオススメツール14選|ferret

データベースマーケティングのメリット

【1】受注可能性が高まる

データベースマーケティングでは、主に自社の既存情報をデータベースします。もともと自社を利用していたり、興味を持っていたりする顧客であるため、段階に応じてアプローチすることで受注の可能性が高まります。

また、顧客のニーズ発生を的確にとらえることができれば、取りこぼしを防ぎ、機会損失を回避することも可能です。

【2】効率のいい販売促進活動が行える

データベースを管理・運用することで、これまで人手で行っていたデータ管理やアプローチの工数を削減することができます。また、データを蓄積すればするほど精度が上がるため、適切な行動をとれるようになることで効率の良い販売促進活動が行えます。

【3】顧客との関係性強化

顧客情報は、それぞれの営業担当の感覚に頼っていることも多く、属人的になりがちです。しかしデータで一元管理することで、社内の誰もが同じ粒度で情報を共有することができます。

常に同じクオリティで顧客にアプローチすることで、きめ細やかなサポートが可能となり、顧客との関係性強化に繋がります。

データベースマーケティングの注意点

【1】データ活用の目的と用途の明確化

ただ闇雲にデータを収集しただけでは、使いこなすことはできません。データの収集・分析を行う前に、その目的と用途を明確にする必要があります。

例えば、短期的な売上増加を狙うのであれば、現在ニーズが顕在化している顧客のデータから、直近または前年同月の購買活動を分析することが考えられます。逆に長期的な売上増加を狙うのであれば、直近ニーズの有無に関わらず、顧客の行動履歴に基いて情報提供などを行うことが考えられます。

【2】CRMとの使い分け

前述したとおり、CRMと正しく使い分けをすることで、効果的にデータベースマーケティングを行うことができます。

CRMで全ての顧客のデータを管理し、長期的なアプローチを継続していきます。その中で目的に応じてデータを取捨選択し、用途に応じた活用をしていくことが重要です。

事例

顧客の求めるタイミングに適したアプローチ施策

横浜銀行は、顧客に必要とされるタイミングで適切にアプローチできる仕組みづくりのために、「ブランディングの推進」と「データベースの活用」の2つの取り組みを進めています。

金融業界は、顧客への強いプロモーションやダイレクトメールなどが好まれない傾向があります。顧客のタイミングを把握した上でのアプローチに加え、顧客自身が第一想起してくれるようなブランディングの構築が重要です。

そこで横浜銀行は、店舗デザインやパンフレットの統一、コーポレート・アイデンティティの創出を行いました。コーポレート・アイデンティティとは、企業の文化や独自性をデザインやメッセージを使うことで統一し、社会と共有することで存在価値を高めていく企業戦略のひとつです。

また、地方銀行でビッグデータを共同活用する「共同MCIFセンター」の運用を通して、約2,000万人の顧客データ分析に基づいたマーケティング施策にも取り組んでいます。

参考:
横浜銀行が歩んできたマーケティング10年間の挑戦--最新技術で顧客志向へ|CNET JAPAN

スシロー

株式会社あきんどスシローが運営するスシローは、北海道から九州まで店舗を展開している回転寿司チェーン店です。

スシローでは全てのすし皿にICタグを取り付け、寿司の鮮度や売上状況を管理しています。いつどの寿司が注文されたのか、どのくらい廃棄されたのかなど、毎年10億件以上のデータを蓄積しています。

これまでは現場の店長の勘と経験に頼る部分もありましたが、今はQlikViewというシステムを導入し、優秀な店長のノウハウを全店に共有することができています。

参考:
ビッグデータの高速分析で、隠れていた課題や問題点を可視化。回転寿司業界のNo.1を支える迅速な経営判断と店舗オペレーションを実現|株式会社アシスト

ヤクルト

飲料メーカーである株式会社ヤクルト本社では、データの可視化と分析を行うSpotfireというツールを利用することで、オランダでの売上を15〜20%伸ばしています。

ヤクルトはアジア地域では各家庭や職場への配達、西欧ではスーパーマーケットの店頭販売を行っています。これまではデータが分散しており、属人的になっていたものを、Spotfireを利用して全て一元管理を始めています。

1スペースあたりの商品の回転率や、競合商品の売上比較などを出力することで客観的なデータをもとに戦略を立て、売上の増加に貢献しました。

参考:
ヤクルトの売り上げを大幅に伸ばしたデータアナリティクスの秘密|ITmediaエンタープライズ

まとめ

データベースマーケティングは、顧客の状況やニーズを的確に把握することができるため、根拠に基づいた戦略を立てることができます。また、顧客の求めるものに対してアプローチできることは、関係の強化にも繋がります。

しかし、ただ闇雲にデータを集めればいいものでもありません。目的と用途によってデータを取捨選択し、適した形でマーケティング施策に活かしていく必要があります。サービスのターゲットや目指すべき指標を明確にして取り組むことで、効率良くアプローチを行うことができるでしょう。

何となくデータを集めてはいたものの、活用できていない状況であれば、一度整理してみてはいかがでしょうか。