Google出身者に聞く“圧倒的な成果を上げる”チーム作りの方法
マネージャーは、チームで成果を出すために組織作りやメンバーとのコミュニケーションなど様々な役割を担います。また、時には現場の業務を一部兼任することもあり、効率的に業務を進めていく必要があります。
とはいえ、組織は個人の能力だけではなく環境に影響されることもあるため、思うようなマネジメントが行えず課題に感じている方もいるのではないでしょうか。
今回は、Googleで人材育成・組織開発に携わったピョートル・フェリークス・グジバチ 氏にferret 創刊編集長 飯髙悠太が、組織に生じやすい問題や組織開発のポイントをうかがいました。
ピョートル氏が登壇したイベント記事も公開中
「無駄な作業は、自分の選択肢を減らす」Google出身者3人が語る「生産性」の本質
ピョートル・フェリークス・グジバチ 氏プロフィール
ピョートル・フェリークス・グジバチ
ポーランド生まれ。
プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティスト。
2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Googleに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年独立して現職。 プロノイア社では、国内外の様々な企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティング・研修を行なう。モティファイは、社員とメンターが双方で使うユニークな人材育成プログラムや、働きやすい企業の環境づくりを支援する人事ソフトベンチャー。
『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』著者。
組織が抱えるコミュニケーションとマネジメントの課題
ピョートル 氏が感じた日本企業の3つの問題点
飯髙:
日本の企業には、"大企業病" という言葉や "上司の顔色をうかがう” 仕事の仕方など、組織を作る上での問題点が度々注目を集めます。ピョートルさんは様々な国でキャリアを積まれていますが、日本で働いていて「ここが問題だな」と感じたことはありますか?
ピョートル 氏:
そうですね。僕が気になっている日本の組織の問題は、「コミュニケーション不足」「マネジメントスキル不足」「役割が不明確」という点ですね。
特にコミュニケーションにおいては、そもそも情報が共有されないことが多いんですよね。「何をやっているんだろう」とか「次の資料はどういう内容なのか」とか。
それを知るために必要以上に会議を行う必要があります。
Googleであれば、クラウドを使って資料を共有しているので、メンバーが個々に確認するだけで済みます。スニペットという制度があって、毎週金曜日までに「達成したこと」をチーム毎に1つのファイルにまとめるんです。すると、全チームのスニペットが翌週に全社にシェアされているんですよね。
どこのチームが何をやって、どれくらい良い仕事かを社員であれば知ることができる。「隣のチームも頑張ってるんだな」と考えるようになるんです。でも、やっぱり日本の組織の中には、隣のチームが何をやっているのか知らない事があります。
ビジネスモデルから組織のコミュニケーションを考える
飯髙:
組織が大きいほど全社的に何を行っているのか知るのは難しいですよね。でも、現実的に日本企業でGoogleのような制度を取り入れようと思うと難しい場合もあると思うんです。
ピョートル 氏:
日本の大企業は「縦割り」で運営されていることが多いですよね。人事は「人事制度」のみを考えて、IT系の部署は「システム」のみを考える。部門ごとにミッションを切りわけるために“つながり”が無いんですよね。よく考えれば、人事は組織開発をする上で最も大切な役割なのに……。
まずはゴールを設定し、結果を得るためには何をすれば良いのかを考えてビジネスモデルを立てるんです。そのビジネスモデルの中で、どういったコミュニケーションが必要なのか、どんな働き方をすべきか、アウトプットに必要なツールの導入など、総合的に考えることが大切です。
日本でももちろん良い組織作りをしている企業があるんですよ。例えば、株式会社メルカリは非常に良い組織だと感じます。社風から人事制度、細かなルールまでゼロから戦略的に自分達の仕組み作りを行っているんです。
彼らが実践している考え方に「問題を人のせいにしない」というものがあります。問題が起きたら全てさらけ出す。そして、もう1度同じ問題を起こさないように仕組みで解決するんです。
企業の中には、問題が明るみになることを恐れて隠してしまう場合がありますよね。組織の内部で問題が大きくなるとチームメンバーの前で説教してしまう。心理的安全性が無くて、自分が何か過ちを犯してしまったら黙って隠すしか無い社風とも言えます。
飯髙:
確かに、日本の企業特有かもしれませんね。例えば、そういった問題が役員の場に上がってくると、「ここのメンバーまで伝えれば良いよね」と、全社に対して伝えることをしない会社もありますね。
ピョートル 氏:
そうですね。すでに大きな組織になってしまった会社で働いている方って大変だと思うんです。特に管理職であれば板挟み状態になりますよね。隣のチームとの関係性や縦割りの組織文化もあるので、建設的に何かをやろうとしても、どこかしらで挫いてしまうことがあるかもしれません。
Googleの組織開発の肝「OKR」とは
飯髙:
ピョートルさんは、以前Google社で活躍されていましたよね。グローバル企業ということもあり、様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まるのではないでしょうか。Googleの組織作りには、何か特徴があるのでしょうか?
ピョートル 氏:
Googleで特徴的なのは、OKR(Objectives and Key Results)という評価システムですね。
これは、「大きい目標に対してどのような結果を出すのか」というプロセスを明確にする評価システムです。チームと個人それぞれのOKRを立てて、必ず7割以上達成しなければなりません。
毎週、OKRの達成度合いを1対1でマネージャーとメンバーが話し合うんです。ちなみに、OKRっていうのはトップダウンではなく、トップダウンとボトムアップの中間なんです。
マネージャーが大きいミッションをトップダウンで下ろしますが、それを達成するために何をするべきかのドラフトをメンバー自身に作って貰いすり合わせる。上司と部下の間で密なコミュニケーションが取れるようになるんです。
2人が考えるマネージャーの仕事の任せ方
「インパクト」と「成長」で仕事を任せ、メンバーの自己効力感を高める
飯髙:
マネージャーはメンバーとコミュニケーションをとるほか、メンバーを成長させる役割を担いますよね。どういった判断基準で業務をメンバーに振りわけてますか?
ピョートル 氏:
判断基準。僕の場合、わかりやすく言えば「インパクト」と「成長」を見て判断します。できるだけ、メンバー本人にとって大きなインパクトを出せること。そして、"今持っているスキルの中で最大のインパクトは何か" を考えてストレッチゴールを設定するんです。
あとは、成長機会も大きく与えるようにしています。渡す仕事を増やす中で、メンバーの自己効力感も高まっていくんですね。
失敗は大歓迎。失敗から何が学べるかメンバー自身に考えて貰って次に同じ失敗をしなければ大丈夫。それを繰り返していくうちに、より大きなプロジェクトを任せられるようになります。
「経過成長」と「機会成長」。2つの成長でメンバーを引き上げる
飯髙:
インパクトと成長なんですね。弊社の考えでもあるんですけど、成長には2つポイントがあると考えていて、1つ目が「経過成長」、2つ目が「機会成長」です。
通常の業務で量をこなすことによって経過的に成長させる方法と、先ほどピョートルさんがおっしゃっていたように、機会にインパクトを持たせて成長させる方法です。
経過成長の途中段階で、機会を与えることで1段大きく引き上げるイメージです。例えば、役職を付けたり、プロジェクトのサブリーダーとしてアサインしてみたり。
ピョートル 氏:
大きな役割を任せるのは良いですよね。僕の会社では、一般的な日系企業よりも大きな決定権力をメンバーに渡しているんです。
メンバーの能力もよくわかりますし、リスク管理能力も身に着きます。もちろん、大きなプロジェクトを任せる時は僕が事前に準備をしてから渡すので、それほど危なくない状況で裁量を与えるようにしています。
飯髙:
僕もほとんど同じですね。大きなプロジェクトを任せる時は、裏で常にリスクを考えています。もちろん、プロジェクト自体は本人にコントロールしてもらいます。
上手くいっていないことがあれば、その回答をきちんと備えておくといった感じです。機会を与えているので、頑張ってやってもらいますけど、最終的なジャッジを僕が下すこともありますね。
チャットやSNSを使ったコミュニケーションを有効活用するには
飯髙:
コミュニケーションというお話でいうと、ビジネス向けチャットツールを使ったり、メッセンジャーアプリでやり取りをすることが珍しくないですよね。ピョートルさんは、こういったツールに関してどう思われますか?
ピョートル 氏:
何をどのようなタイミングでやり取りするかによって、使うツールが変わると思うんですけど、LINEやFacebook、WeChat、Googleのハングアウト、Gmailなど使いわけを行っています。
業務に使うファイルのやり取りは、基本的にGoogle Appsを使ってクラウド上で行っています。
例えば、アイデアを考えるんだったら、チャットじゃなくて、Googleドキュメントで共同作業を行った方が効率的ですよね。同じドキュメントに同時進行で書き込みできるので、アイデアを取りまとめる手間も掛かりませんから。
単なるコミュニケーションであればチャットで全然問題ないと思います。ただ、大切な話とか感情が動き出す可能性のある話であれば直接話し合う方がいいし、直接が無理だったらハングアウトやSkypeが良いですね。
相手が悪い反応をする可能性があれば、できるだけテキストではなく口頭かビデオ、音声を使って話した方が円滑にコミュニケーションが取れます。
飯髙:
確かに使いわけるのは当たり前になってますよね。うちの会社も基本的にGoogle Appsを使っていて、メールもGmailです。ただ、Slack、Facebookメッセンジャーなども併用しています。個人的にメールはあまり好きではないんですよね(笑)
メーラーを開いて探しに行くというのが手間に感じてしまうんです。もちろん一切使わないわけではないですが、ちょっとした連絡であればSlackやFacebookメッセンジャーなどで利用することが多いです。
ツールが増えると面倒なので減らしたいなと思いますけどね。でも、なかなか難しいですよね。
ピョートル 氏:
色々なツールを使うと、どのツールに情報が入っているのかとか、セキュリティ面も考えなければならないので確認するものが増えるほど面倒に感じますよね。
ツールを使うことで何を達成したいのかを考えて使うと良いかもしれませんね。例えば、会議のスケジュールをセッティングしたい場合、メンバーに口頭やチャットツールで空き時間を聞いて調整するのではなく、カレンダーを共有して各々が空いているスケジュールに会議を入れていった方が効率化します。
確認しなくても、カレンダーを見れば空いているスケジュールがわかりますから。
飯髙:
僕も普段からカレンダーを共有していて、調整に手間を掛けないようにしています。
ツールを使ったコミュニケーションについて、口頭と比べてクローズドなやり取りになると思うのですが、その辺りについてマネジメントする立場としてどう思いますか?
ちなみに、僕としては考えてもキリが無いので普段からメンバーを見るようにしています。そこまでメンバーを細かく管理しようとは考えてないんですよね。
ピョートル 氏:
そうですね。一部では特定のSNSやWebサービスの利用を制限している企業もありますが、今の世の中では制限することで生産性が下がる場合もありますし。性善説で組織開発を考えれば、ある程度社員同士の自由があったほうが良いと思うんですよね。
その自由が、社内で規定されたツールを使うことで制限されるのであれば、LINEやFacebookメッセンジャーで思っていることをやり取りしたり、相談することも問題ないはずです。禁止してもやってる人いるでしょうし(笑)
「自分の仕事を無くす」マネージャーが行うべき仕事とは
服装や食事をルーチン化し、重要な仕事にフォーカスする
飯髙:
マネジメントを行う立場として日々どのように自身のタスクに取り組んでいるのかをうかがいたいです。無駄な仕事を行わないように気を付けていることや、ルーチンワークに対する考え方などありますか?
ピョートル 氏:
「自分の仕事を無くす」ことを意識しています。
例えば、同じタスクが繰り返されると、それは自動化のチャンス。それはプライベートでも同じです。例えば皆さん、仕事はルーチン化しているけれど、一方でプライベートでは服を気分に合わせて選んだり、様々な趣味を楽しみますよね。だからこそ、仕事のルーチン化がつまらなく感じてしまう。
でも、僕は真逆なんです。仕事はできるだけカオスな状態を作って、新しい学びとか新しい取り組みを始めるようにする。そして服装などはあまり選ばないようにしています。僕はいつも黒いシャツを着るようにしているんです。朝起きてキャビネットを開ければ全て黒いシャツ。
お客様との会食も、プライベートで常連のお店に誘うようにしています。店を選ぶ手間もなくなるし、メニューをみて悩む必要もないですからね。それで削減できた時間を使って、複雑な話ができるような心の余裕を作ったり、準備するんです。
飯髙:
そうなんですね。Appleのスティーブ・ジョブズもいつもタートルネックを着ていたというのに近いですね。
僕は凄く面倒くさがりな性格なので、大きな目標を達成するために何で小さなことをやらなければならないんだろうと考えてしまいます。なので、毎日やっているタスクはエンジニアに頼んで自動化してもらったりする時もありますね。
食事に関してもピョートルさんと近いです。行きつけのランチのお店や飲み屋が幾つかあって、基本的にはそこにしか行きません。朝ご飯も食べるのは好きなんですけれど、毎朝プロテインって決めているんですよ。朝に余計なことで悩む時間を削減できますね。
「時間管理」よりも「エネルギー管理」が重要
ピョートル 氏:
僕は個人的に、生産性を高めるために「時間管理」というよりも「エネルギー管理」をしているんです。例えば、書籍を執筆しようと考えた時、半日スケジュールを押さえるとします。
しかし、スケジュールを押さえたのに何か落ち着かないとか眠いとかそんな日もありますよね。
そんな時は、「じゃあもういいや」と、明日やる業務を行うこともあれば、昼寝をすることもあります。元気が戻ったら集中すれば良いんです。
日本のビジネスパーソンの悪い癖として、「スケジュールを設定したら絶対守らなければならない」っていう思い込みがあります。リスケしたら迷惑だというように。
でも、相手にとってはリスケして予定が空いたことで、落ち着いて他の作業ができるかもしれないし、新しい人に出会う機会を作っているかもしれませんよ。
スケジュールは1度決めたことを絶対行うよりも、その時自分にとってインパクトの大きいことだと感じたら、リスケしてでも選択したほうが良いですね。
飯髙:
僕も、結構社内のメンバーとのやり取りに限って言えばリスケしちゃいますね(笑)
体調が悪い時など、込み入った話ができなくなると予定をずらしてもらうんです。
ピョートル 氏:
リスケができる環境って大切ですよね。Googleは「心理的安全性」に力を入れているのですが、まさにそういう話がメンバー間でできるようにするためでもあるんです。「頭が働かないから少し寝てくるね」と相手に伝えればわかりやすいですからね。
飯髙:
確かに、そう言い合える環境ってわかりやすいし良いですね。本日はありがとうございました。
まとめ
ピョートル 氏は、組織開発が上手くいかない要因として「コミュニケーション」や「メンバーのマネジメント」を挙げています。
日常的にコミュニケーションを取る機会が無いからこそ「情報共有」が都度必要になり、無駄な会議体が増えます。結果的に、組織としての成果も遠ざかってしまう可能性が考えられます。
Googleの「OKR」という評価制度やクラウドを使った取り組みはコミュニケーション不足解決のヒントとなるのではないでしょうか。
また、ピョートル 氏、飯髙に共通しているのは、マネジメントは単なる管理ではないということです。メンバーへ成長機会を与え、自己効力感を持たせることがマネジメントにおいて大切と言えるでしょう。
Photo by Ryutaro Kataoka
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