近年、利用期間に対してお金を支払う「サブスクリプションモデル」のサービスが多く見られるようになりました。

当初はAdobeのソフトウェアや、Spotifyの音楽ストリーミングサービスなど、IT関連の業界で主に採用されていました。しかし現在は業界の枠組みを越えてこのモデルを採用する企業も増えてきています。

今回は、なぜサブスクリプションモデルが広く受け入れられつつあるのか、そして実際に導入する際の注意点や、事業の事例をご紹介します。

サブスクリプションモデルとは?

サブスクリプションモデルとは、「月額○○円で利用し放題」のように、物やサービスの購入回数によらない支払い形態を指します。

サブスクリプション型のサービスの先駆けとして挙げられるのが、アドビシステムズの「Creative Cloud」です。2012年4月にサブスクリプション型の提供を開始。それまでの箱売りによるソフトの販売から、大規模な転換を図りました。

この戦略は功を奏し、ソフト買い替えの必要が無いことの利便性や、高い初期投資額というハードルを取り払い、手軽に利用できるようになったことがユーザーに支持されます。その後サービスの課金が収入のメインとなりました。

こうしたサブスクリプションのサービスは、当初はソフトウェアなどのデジタルコンテンツにおいて用いられた方式でした。ですが、やがてリアルにおいても普及が進んでいくことになります。

幅広い業界で用いられる理由は?

なぜ今、サブスクリプションモデルは幅広い業界で用いられているのでしょうか。
その背景としては、消費者の重視する価値が、モノの所有から、体験へと移り変わってきたことが挙げられます。

2000年代後半の経済不況を通じて、消費者は初期投資のリスクをより意識するようになりました。そのため、購入に際して初期投資の大きい「所有」に対してあまり魅力を感じなくなったのです。

また、スマートフォンの普及を通じて、生活の中でインターネットが占める存在感は極めて大きなものになりました。そして、必要な物を必要な時だけ利用できる環境が整い、物の所有の必要性が相対的に下がっていくことになります。

当初はソフトウェアや音楽などのデジタルコンテンツ分野で見られ始めたサブスクリプションモデルでしたが、そのメリットが広く受け入れられ始めると、分野の垣根を越えて実施が検討されるようになりました。

もはやこのビジネスモデルは、限られた領域のみの話ではなくなりました。あらゆる領域で、サブスクリプション化が進み始めているのです。

リアル店舗での導入事例

実際に、サブスクリプションサービスを導入したリアル店舗の事例を見てみましょう。
それが、*野郎ラーメンの始めた「1日一杯野郎ラーメン生活」*です。看板商品である「豚骨野郎」「汁無し野郎」「味噌野郎」の3種を、1日一杯月額8,600円(税抜)の定額で提供する、サブスクリプション型のサービスの提供を開始しました。

「豚骨野郎」の場合、12杯食べれば元が取れる計算になっています。熱烈なファンが多い「二郎インスパイア系ラーメン」の同店には、毎日通う顧客もいます。こうした顧客にとっては、通常であれば20,000円以上かかることになるため、かなりお得です。しかし当然、その分の店側の利益は減るという問題もあります。

なぜそうしたデメリットもある上で、サブスクリプションサービスの開始に踏み切ったのか?その背景には、顧客の新規獲得の難しさや、関係性継続の重要性があると言えるでしょう。

数多あるラーメン店の中から顧客に自店を選んでもらうことは簡単ではありません。そして、継続的に利用してもらうことも非常に難しいことです。

このサービスは常連客に対する還元のための施策として開始されました。結果的に常連客の継続的な利用を促したほか、メディアにも紹介され、新規顧客の獲得につながったほか、結果として、前年度から売上が上がったとしています。

商品やサービスの品質と価格が均質化し、たくさんの競合が存在している今、飲食業界においても新たな道を模索することが必要とされているのではないでしょうか。

参考:
『野郎ラーメン』が月額定額制で食べ放題。飲食店に広がる「サブスクリプションモデル」 | Foodist Media

導入の効果を最大化するために

ここからは、業界の垣根を越えて、これからサブスクリプション型のサービスを導入するうえでは、どのような要素が大切になってくるかを考えます。

サブスクリプション型ならではのメリットが明確であること

導入に際して、サブスクリプションモデルとして提供することによるメリットが明確であることが求められます。従来のモデルから転換する際に、魅力的なポイントを提示できるかどうかが重要です。

先程の野郎ラーメンの場合は、「月額定額制で食べ放題」という明確な訴求ポイントがありました。
サブスクリプションへ転換することによって、顧客を始めとした関係者にどういうメリットがあるのかを考えることがまず大切です。

買って終わりではない、継続的な関係性

従来のプロダクトの販売モデルと比べ、サブスクリプションモデルは顧客と長期的な関係性を築くことが非常に重要になります。顧客のサービス利用状況を詳しく把握したうえで、それぞれに合わせ最適なサービスを提供することが求められるのです。

例えば、株式会社スタートトゥデイが運営するファッションECサイト「ZOZOTOWN」の「おまかせ定期便」というサブスクリプション型サービスがあります。

申し込み時にコーディネートのテイストや、色や柄、サイズ感や予算などの様々な質問へ回答してもらうことで、それぞれのユーザーに合わせた商品を定期的に配送するというものです。

サービスの利用に際してかかる料金は送料のみで、届いた商品の中から欲しい商品のみを選んで購入できます。気に入らなかった商品は無料で返品が可能です。

また、2017年末に発表された採寸ボディースーツ「ZOZOSUIT」の計測データを利用することによって、ファッションECが抱えるサイズ感などの課題にも対応。「オシャレが苦手」というユーザーのニーズに答え、SNSで反響を呼んでいます。

サブスクリプション型のサービスにおいては、継続して利用してもらい、ライフタイムバリュー(顧客との契約開始から契約終了までの期間でもたらす利益)を向上させることによって収益を生み出します。したがって、それぞれのニーズを丁寧に拾うことが大切なのです。

参考:
【おまかせ定期便】あなたに一番似合う洋服を定期的にお届け - ZOZOTOWN

[【ZOZOSUIT】服が人に合わせる時代へ - ZOZOTOWN] (http://zozo.jp/zozosuit/)

プランを複数用意して、ハードルを下げる

自社のサブスクリプションサービスを提供するうえで、そもそもサービスの利用を開始してもらえなければ話になりません。つまり、入り口の設計が大切です。

定額制音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、こうした点で非常に参考になるでしょう。
同サービスは、ユーザーの状況に応じて、複数のプランを提供しています。

登録されている楽曲が自由に聴ける「Spotify Premium」が有料プランとして存在しますが、無料のトライアル期間を設けることで、ユーザーはまず機能を体感できます。

また、トライアル終了後も、広告付きのシャッフル再生機能のみは無料で利用出来るなど、ライトな音楽ユーザーに対応しています。

他にも、学生のために割安の「学生プラン」や、家族全員でプレミアム機能の利用が可能になる「ファミリープラン」を提供しています。顧客の生活環境に応じて、柔軟なプラン変更が出来る体験は、サブスクリプションサービスにおいて大切な部分です。

これによって、様々な状況の顧客に対して、利用開始、継続のハードルを下げることに成功しています。

“解約率”に着目すること

サブスクリプション型サービスの最適化を図るうえで、特に追うべき重要な指標があります。それが*”解約率”*です。

「THE SUBSCRIPTION ECONOMY INDEX 」によれば、サブスクリプションサービスの解約率は平均で20%から30%の間であり、この解約率を下げることが非常に重要であるとされています。

売り切りではないビジネスモデルであるため、一定の期間内で解約されてしまうと、収入が顧客獲得のコストを下回り、顧客単位での赤字につながることが理由の1つです。

そして何よりも、解約率の上昇は、ユーザーのサービスに対する不満の現れでもあるため、この解約率を特に重要な指標として追っていき、測定していくことが非常に重要になります。

参考:
THE SUBSCRIPTION ECONOMY INDEX 3RD EDITION NOVEMBER 2017

まとめ

モノの購入、所有からサービスの利用へ移行する流れは、デジタルのみならずリアルな部分でも一般的になりつつあります。今後ますますこうした流れは加速するでしょう。

だからといって、安易にサブスクリプション型へと移行すれば成功するというものでもありません。ユーザーに継続して利用し続けてもらうことが収益を上げる重要なポイントであるため、解約率が上がらないよう、ユーザーの細かな状況やニーズに合わせたサービスの設計が必要になります。

移行することによって、ユーザーの満足度は上がるのかどうか。導入後、安定的にユーザーと向き合える体制が整っているのかを考えた上で、サービス展開を検討する必要があるでしょう。