「サブスクリプションモデル」という言葉をご存知ですか?
サブスクリプションモデルとは、商品やサービスにおける支払い形態の1つです。
利用回数ではなく、利用期間に応じて支払いが発生します。

この形態は、Adobeのソフトウェアなど、デジタルのコンテンツから注目され始めました。ですが近年ではそうした枠を超えて、飲食業などのリアルな業界においてもサブスクリプション化に力を入れている企業が増えています。

そうした中で、顧客との接点づくりで用いられるのが、フリーミアムモデル。無料で一部機能を提供することで、ハードルを下げ、その後より高度な機能を持つ有料プランへと移行してもらう戦略です。

ですが、このモデルには難しさもあります。実際にサービスを提供している企業の担当者の中には、以下のような悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。

「中々有料会員へ移行してもらえない...」
「移行したものの、解約率が高く、安定した収益が見込めない...」

こうした問題の解決策はどこか?そこを考えるうえで大事なヒントをくれる事例として、コミュニケーションツールの「Slack」があります。

今回はSlackの事例を通して、サブスクリプションモデルにおける継続的な顧客獲得の可能性を考えます。

無料から有料への移行を促す、フリーミアムモデル戦略

顧客との継続的な関係づくりが収益化の鍵になるサブスクリプションモデルですが、前提として、まず利用してもらうことを考えなければなりません。よって、入り口のハードルを下げることが非常に重要なのです。

そのため、サブスクリプションモデルでは、フリーミアム(基本無料)の戦略が用いられることがしばしばあります。まず無料で使ってもらい、製品・サービスの魅力を知ってもらった上で、有料版へと移行してもらう戦略です。

有料への安定した移行を促すために大切なこと

フリーミアム戦略において難しい点が、有料への移行のタイミングです。無料段階でどこまでの機能を提供するのかを、丁寧に設計することが鍵になるといえます。

*有料への安定した移行を促すためには、無料段階で、ユーザーにとって必要不可欠なツールになることが非常に大切です。*すると、機能の制限を迎えた時に、「使えないと困る!」「今よりもっと便利な機能を使いたい!」となり、有料へのスムーズな移行が期待できます。

無料段階でのユーザーファースト設計の重要性

では、無料段階で必要不可欠なツールになるためには、何が重要になってくるでしょうか?その1つが、ユーザーファーストの設計へのこだわりです。

ユーザーの利便性を追求することによって、サービスのファン獲得につながっていき、結果的に収益につながります。
この点において参考になるのが、ビジネスコミュニケーションツールの「Slack」です。

2017年9月時点で、全世界のデイリーアクティブユーザー数は600万人を突破し、そのうち200万人が有料版を利用していると発表されました。
2017年11月には日本語版の提供も開始され、存在感を日に日に高めているSlack。その事例から、フリーミアムモデルにおける収益化の方法を考察していきます。

参考:
Slack Passes 6 Million Daily Users And Opens Up Channels To Multi-Company Use

無料機能においてストレスを感じさせないこと

Slackはもともと、Slack Technologiesの前身であるゲーム開発会社「Tiny Speck」内での活用を目的としたチャットツールでした。

これまでの事業の経験から、エンジニア間のコミュニケーションを円滑にするためのツールとして開発が始まります。

実際に、某IT系企業のエンジニア数名にお話を伺ったところ、

  • 連携アプリ数が豊富で、他のサービスとの連携がしやすい
  • 余計なものが入っていないシンプルなUI
  • コードの貼り付けがしやすい

など、利便性や使いやすさなどを追求した、それまでのチャットツールにはない点を聞くことができました。これらがエンジニアを始めとして、多くのユーザーに支持されている理由でしょう。

こうした支持の背景には、ユーザーの使いやすさにこだわった施策がありました。
例えば、サービスのリリース前に、招待制のプレビュー版を発表しています。ユーザーと対話しながらかなり丁寧に機能を改善していったのです。

こうした姿勢は現在も健在で、チャット欄でのフィードバック機能を通して、使い勝手に関する意見やバグをスムーズに報告できるようになっています。

このように、ユーザーの意見を大きく反映したサービス開発によって、特定領域におけるコアなファンの獲得に成功しました。

参考:
[DAU300万人超「Slack」のマーケティングを支える「戦略」と「NPSツール」とは | SELECK] (https://seleck.cc/815)

課金ポイント。より広い領域へのグロース

Slackが無料と有料で異なる部分として、メッセージやストレージなどの上限があります。例えば、無料版におけるメッセージ数の上限は10,000件です。これは小規模のチームや、短期間のプロジェクトに関しては問題なく利用出来るでしょう。

しかし、企業全体として使うとなるとあっという間に制限に達してしまいます。ここが、Slackの課金ポイントの1つです。

株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)のSlack導入事例によって、より理解を深めることが出来ます。

DeNAにおいて、Slackの導入はボトムアップで進んでいきました。エンジニアから、徐々に企業全体へと広がっていったのです。

当初、エンジニアのうちの数人がSlackの存在を知り、利用し始めたと言います。その使いやすさから、他のチームにも勧めるようになり、導入が進んでいきました。

ビジネスコミュニケーションツールの重要性が高まってくると、効率化のために一元的なツールを導入することが大切になります。
その際に、エンジニアチームと他の部署との間で、コミュニケーションに溝が生じてしまう課題がありました。そうした背景もあり、企業全体としての導入がボトムアップで進んだのでした。

Slackのユーザーが、1つの小規模チームから、企業全体へと広がっていく際に課金ポイントが設定されていたことが分かります。こうした広がりを可能にしたのは、前述した、ユーザーファーストの開発によるコアなファンの獲得があってこそといえるでしょう。

参考:
株式会社ディー・エヌ・エー | カスタマーストーリー | Slack

有料移行後のサポート

当初は小規模チームでの活用が主だったSlackですが、より活用の規模が広がってくると、そこへの配慮も忘れませんでした。
例えば、Web上で「Slack活用ガイド」を公式に提供しており、業務の各フローや、部署などのシチュエーションごとに、具体的な使用方法までを提案しています。

これによって、具体的にSlackでどのように業務が効率化するのか、具体的な活用方法がハッキリ理解できるようになっています。
こうした丁寧なサポートによって、有料会員に移行してユーザーのニーズが広がったあとも、高い満足度によって継続的な利用につながっているのです。

まとめ

サブスクリプションモデルは、いかに長くサービスを利用し続けてもらうかが収益性に直結します。

その中の戦略の1つがフリーミアム戦略でした。基本機能を無料で提供したうえで、高度な機能に対して課金要素を設けます。

今回はフリーミアムにおける戦略を考える1つのヒントとして、Slackの事例をご紹介しました。ポイントは、徹底したユーザーファーストの姿勢で、小さなコミュニティを囲い込んだことといえるでしょう。

細かなヒアリングや改善を繰り返したことで、エンジニア層で確かなファンを獲得。これが有料化を成功させるための鍵になりました。

ビジネスコミュニケーションアプリの普及に伴い、企業全体でやり取りできる一元的なツールを取り入れたいニーズがあったこと。

その際にアーリーアダプターであるエンジニアを囲っていたことで、企業全体としての導入に結びつきました。
もちろん有料移行後のサポートもしっかりと行わなければ、継続利用につながらず収益に結びつきません。

フリーミアムモデルにおける無料と有料の違いは、単なる機能の違いに終始するものではない。Slackの事例は、そのようなメッセージを含んでいるとも考えられます。
最終的に有料に移行してほしいターゲットを逆算し、ユーザーの広がりを上手く利用すること。これは、フリーミアムモデルを成功させるための1つのヒントになるのではないでしょうか。