メディアを運営している企業では、記事制作を担当する編集と、記事広告を提案するセールスで役割分担されていることが多いでしょう。

メディアに関わる人間として同じ方を向いているはずなのに、商品を販売したいセールス側と、メディアの価値を上げたい編集側の考えがズレていると感じたことはないでしょうか。クライアントの要望に答えながらメディアの資産になる記事広告を作るために、編集とセールスはどのようにコミュニケーションをとっていくべきなのでしょう。

6月4日に株式会社インクワイア主催で「良き 『記事広告』のために大切な編集とセールスの関係」が開催されました。記事広告の制作において、セールス側と編集側に共通する課題やそれに対する解決策、記事広告の可能性をより高めていくために必要なマインドセットについて語られたイベントの様子をレポートします。

登壇者紹介

長谷川賢人(はせがわけんと)

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業。2009年に新卒で紙の専門商社へ入社後、2012年に編集者/ライターへ異業種転職。㈱メディアジーンにて「ライフハッカー[日本版]」副編集長、㈱クラシコムにて「北欧、暮らしの道具店」編集スタッフを経験した後、2016年9月よりフリーランスへ転向。ウェブメディアの記事広告は執筆・編集多数。媒体はライフハッカー[日本版]、北欧、暮らしの道具店、WIRED.jp、ROOMIE、まぐまぐニュース!、ハフィントンポスト日本版、アニメイトタイムズ、KAI-YOU.net、SAKETIMESなど。

清水直哉(しみずなおや)株式会社TABIPPO 代表取締役

東京学芸大学に在学中に世界一周のひとり旅へ。帰国後、旅で出会った同世代の仲間と一緒にTABIPPOを立ち上げる。卒業後は、株式会社オプトに入社して、ソーシャルメディア関連事業の立ち上げや、当時の最年少マネージャーを経験。2014年4月にTABIPPOを法人化して起業を果たす。TABIPPOでは「旅で世界を、もっと素敵に」を理念として、旅を広めるために多角的に事業を展開。トラベルライターが旅の情報を発信するWEBメディア・TABIPPO.NETは月間480万PVを超えた。また「旅するように働き、生きる」を指針として、新しい時代の働き方や組織作りにも挑戦中。

飯髙悠太(いいたか ゆうた)株式会社ベーシック執行役員 / ferret Founding Editor

広告代理店、制作会社、スタートアップを経験。複数のWebサービスやWebメディアの立ち上げに関わる。また、企業のWebマーケティングやSNSプロモーションをはじめ、50社以上のコンサルティングを経験。2014年の4月にWebマーケティングのノウハウが学べるメディア「ferret」の立ち上げにあたり参画し、同年の9月にリリースし、現在は業界No1メディアに成長。月間450万PV、38万人の会員を誇る。(2018年4月現在)
2018年2月にコンサルティング事業部を立ち上げ、東証1部上場企業を含め10社のコンサルティングを実施中。

ファシリテーター

モリジュンヤ 株式会社インクワイア 代表取締役

1987年生まれ、横浜国立大学卒。2010年より「greenz.jp」編集部にて編集を担当。独立後、「THE BRIDGE」「マチノコト」等のメディアブランドの立ち上げに携わり、テクノロジー、ビジネス領域を中心に執筆活動を行う。15年、編集デザインファーム「inquire」を創業。17年、社会をアップデートするクリエイティブポータル「UNLEASH」を創刊。エンパワメントやウェルビーイングの実現のため、メディアやプロジェクト、組織の編集に取り組む。株式会社アイデンティティ共同創業、NPO法人soar副代表、NPO法人マチノコト理事。

引用元:
良き 「記事広告」のために大切な編集とセールスの関係ーーfuture inquiry #記事広告ナイト | Peatix

編集側が記事広告の商品理解を高めるべき

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(左から)長谷川賢人 氏、清水直哉 氏、飯髙悠太

モリ 氏:
記事広告をどのように売って、どのように継続して受注するかは、事業サイドとして大切なことですよね。記事広告のセールスをやってきた清水さんと飯髙さんはどのように商品設計をしているのですか?

清水 氏:
僕たちは「旅する文化を創る」ためにメディアをやっています。会社の売上の3割は記事広告なので、もちろん商品設計はとても大切です。広告を出稿してもらうときには、僕らにしかできないことや他のメディアとの違い、つまりアイデンティティやユニークさを考えながら商品設計をしています。

モリ 氏:
自分たちならではの価値を考えて、そこと連動させながら商品を作っているということですね。ferretではどうですか?

飯髙:
事業サイド側からの話ですが、ferretではメディアコミュニティの枠を提供しているという前提で商品設計をしています。ferretはマーケティングに関心がある人たち向けのメディアです。記事広告ってそのコミュニティの枠を提供しているんですよね。商品設計として、コミュニティ自体に価値があるのだからそれに見合う金額で販売すべきです。
そのコミュニティにあった商品を相応しい金額で提供することを大事にしています。

モリ 氏:
編集・ライター視点では、記事広告の商品設計についてどのように捉えていますか?

長谷川 氏:
編集も商品理解を高めるのは大事だと思うんですよね。以前、イベントで会った人に自分から記事広告を売り込んだことがあったんです。メディアの編集者であれば、自社の媒体資料は当然頭に入っているわけです。発注する上で相手が求める情報を把握して、その場で次のアポを取り付けました。

モリ 氏:
編集側がそれだけ情報を把握できていると、記事広告の受注から制作もスムーズに進みそうですよね。代理店が間に入るなど、関係者が増えたときには情報の受け渡しに苦労しそうですよね。

長谷川 氏:
クライアントとの間に代理店を挟んでいると、セールス、編集、ライターと制作側へ情報が降りてくる速度がどんどん遅くなりますよね。そもそも、代理店とセールスはクライアントのことを考えていて、編集はメディア・読者のことを考えていることが多いから、「誰を向いているか」が違うんです。先ほどの話でいうと、代理店やセールス側の人数が多いんですから、ズレていくのは当たり前です。

モリ 氏:
セールスの目標もありつつ、編集サイドから「うちのメディアはこれが強い」ってセールスや代理店に伝えていくようにコミュニケーションができるとズレが解消されるかもしれない?

長谷川 氏:
「自分たちが何者か」「どんなビジョンを持っており、強みは何か」と言えるのは大事ですよね。一例として、僕が勤めていたメディアジーンでは媒体説明会を定期的に開いて、広告代理店を招き、メディアについて知ってもらう機会を設けていました。

記事広告の効果はどうやって測定する?

モリ 氏:
記事広告の目標設定や効果測定はどのようにしていますか?

飯髙:
そもそも前提として、記事を読んですぐに物を買うってほぼないですよね。100記事読んで2〜3個ものを買ったらいい方です。なので記事広告を評価するときに、基本的にひとつのコンテンツで直接コンバージョンはありえないと思っています。

例えば、Web接客ツールの記事広告を読んだとしてよいと思ったら、まず記事を離脱してGoogleなりで検索して調べますよね。その後上司と話し合って、1週間後に資料請求する。この場合、多くの企業は最後の資料請求につながった部分だけ評価しています。けれどもきっかけは記事広告です。そこを評価できれば記事広告の価値はグッと上がります。なので、ビュースルーコンバージョンの計測は大事ですね。

あと、記事広告をビューだけで評価するのも違うと思います。マーケティング視点でいうと、記事広告は滞在時間や読了率で測った方がよい。記事広告を読んだ結果、読者の行動を変えることが重要なのだから、しっかり読まれていることを評価するべきなんです。

モリ 氏:
最終的なコンバージョンにつながったかどうか、読者のエンゲージメントなどを測れるといいってことですね。

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長谷川 氏:
以前、ギズモード・ジャパンとライフハッカー[日本版]で、同じ商材を紹介してビュースルーコンバージョンを計測したことがありました。そうしたら、ギズモードの読者は読んだ瞬間にコンバージョンをするユーザーが多く、ライフハッカーは、1週間を過ぎたあたりでも数値が変わらなかったんです。

これってつまり、読者層の違いなんですよね。ギズモードの読者はギズモードを信頼しているから即コンバージョン。ライフハッカーの読者は比較検討層が多い。ビュースルーコンバージョンを計測することで、客質の違いが可視化できたのが興味深かったです。こういう計測をすると、自分たちの強みが見えますよね。

記事広告でただPVを稼ぐという概念が入ってくると、このあたりの測定であるとか評価がおかしくなりがちです。自社メディアとして、評価をどうするかが大事だと思いますね。セールスとしても「過去にこんな事例があり、読者からこんな反応が起きた」という話で仕掛けていけるようになるといいですね。

ブランドリフトの測り方

モリ 氏:
ブランドに対する理解向上や購入意向を上げる「ブランドリフト」も指標として重要かと思いますが、この測り方はどうしていますか?

飯髙:
ユーザーアンケートが1番わかりやすいと思います。ブランドリフトって態度変容なので、わかりづらいじゃないですか。商品が欲しくなっても態度変容だし、好意を持っているのも態度変容です。最終的にはユーザーアンケートが一番わかりやすいと思いますね。

長谷川 氏:
先ほど話したビュースルーコンバージョンで測る方法もありますよね。

飯髙:
はい。でもそれだと物を買うところまでいかないと計測できません。買う場所が実店舗かもしれない。ビュースルーコンバージョンよりも手前を測るならユーザーアンケートが適切です。

長谷川 氏:
設定値をどこにするかが大事なんでしょうね。たとえば、電車の待ち時間に記事広告を読んで、そのあと商品をコンビニで購入したときに、メディアが貢献したといえるはずです。ここがもっと計測できれば記事広告の価値は高まっていきますよね。セールス側も売りやすくなるし、記事広告単価もあげられると思います。

清水 氏:
以前、旅行会社さんの記事広告をやったときに、実店舗に300人ぐらい集まったことがありました。いいコンテンツを作れば人は動くはずです。ただ計測できない部分もあるので、仮説を立ててやっていかなければいけません。

ステークホルダーの関係性を変えていくべき

大事なのは共通のメディアポリシーを持つこと

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モリ 氏:
セールス側と編集側でコミュニケーションがうまくいかないって話、意外と多いですよね。みなさんは、クライアントとセールス、セールスとライターなど、どうやってコミュニケーションをとっていますか。

清水 氏:
よくあるのが、クライアントとセールスが記事広告の目的を擦り合わせて編集部に依頼したら、出来上がったものが当初の目的と全然違うということです。記事広告の目的ってクライアントによって様々ですよね。なので、そこは絶対にクライアントとセールス、ライター3者がコミュニケーションを直接する必要があります。「PVが取れていればいい」「面白ければいい」って話ではありませんから。間に入れば入るほど、摩擦が起きやすいのは事実です。できるだけ間に何も入れずコミュニケーションが直接取れればベストだと思いますね。

飯髙:
難しい問題ですよね。ライター側からすると、自分たちにとってよいコンテンツを制作したい。でもそれって、「よいメディア」が言語化できていないのであれば言い訳でしかないと思うんです。それがメディアポリシーとしてはっきりと言語化できていればいいんですけどね。

営業側からすると、商品を売らなきゃいけない。メディアには合わないかもしれなくても、利益を上げるためには取らなきゃいけない。一番よいのは「共通のメディアポリシー」を持っていて、取りに行きたいもの、書きたいものが取れる状況です。でも実際はいがみ合っているのが現実ではありますね。

モリ 氏:
セールスとライターが共通のメディアポリシーを持っていて、クライアントも含めてその世界観を理解してコミュニケーションができればいいですよね。

飯髙:
これってセールスからライティングまでひとりでやっていると起きないんですよ。でも役割が縦割りになると起きる。組織で運用するからには共通のポリシーを作った上でやるべきなんです。

長期的に関わると関係性が変わっていく

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飯髙:
記事広告の単発売りは厳しいなって気持ちもありますね。ferretはドメインの配下にタイアップメディアを持っていて、1年のスパンで長期的な案件もやっています、その方がお互い本気になれるんですよ。単発の記事広告だと1発では効果が出ないって言い逃れができますから。長期だとそれはできない。だからお互い本気になれるんです。

モリ 氏:
継続した記事広告の方が、クライアントとメディアが同じ目標に向かっていけるような感じですね。

飯髙:
クライアントはやっぱり記事広告にコンバージョンを求めていますよね。でも1本だとコンバージョンは厳しいのが現実です。コンテンツのアーカイブ数が増えた方が絶対にコンバージョンは増えるし、ストーリーを作っていけるんですよ。

清水 氏:
TABIPPOでもできるだけ単発での提案はしないようにしていますね。ただし、中長期的なマーケティングプランの提案の中で「まずはここからテストでやってみましょう」と、単発の記事広告からスタートするケースはあります。それが提案できるのも強みかな。

記事広告だからできること

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モリ氏:
メディアにとって、記事広告も通常記事もひとつのコンテンツですよね。この2つの違いってどこにあると思いますか?

長谷川 氏:
メディアジーンで教わった「記事広告は通常の3倍おもしろくする」という気持ちでやっています。Webメディアの通常記事は、制作費をあまりかけられないで作るのが一般的でしょう。でも、記事広告の場合、制作費があるんだからそれを使っておもしろくしていかなければいけない。記事広告をおもしろく作れる編集者やライターってすごく価値があるはずなんですよ。そういう人がいないと、メディアって続かなくなっちゃうわけですから。

清水 氏:
記事広告って、なぜかライターや編集からするとネガティブなイメージを持たれることがありますよね。このイメージを変えないと単価が上がっていきません。クライアントもセールスもライターも、記事広告は通常記事よりもおもしろいってみんなで思えればいいですね。

まとめ

記事広告の制作過程で、クライアント・セールス・ライターの見解に相違がある場合、共通のメディアポリシーを持っているかを確認してみましょう。

記事広告の効果は、直接のコンバージョンやPV数だけではありません。その記事によって読者の気持ちにどのような変化をもたらすのかまで考えて3者間でコミュニケーションを取っていくべきでしょう。

また、記事広告は短期的には効果が測りにくいマーケティング戦略です。記事広告を依頼する企業側も、メディアと一緒になって長期的にコンテンツを育てていく姿勢が必要です。

Photo by 小山和之
会場:Pinterest JP