こんにちは。マーケティングコンサルタントであり株式会社マルケトの顧問をしている小川共和です。

オンライン学習サービスSchooで配信されたオンライン授業「BtoCマーケターのためのカスタマージャーニーの作り方」第1回の内容について紹介します。

マーケティングの施策実行のための設計図である「マーケティングオートメーション(MA)」において、「自動」実行可能なカスタマージャーニーが描けるようになるのが本講座のゴールです。

最初に少し自己紹介をしておくと、私は大学を出てからずっと電通に在籍をしていました。電通といえば、テレビやビッグイベントが際立つのですが、最後の5年間は電通イーマーケティングワン(現・電通デジタル)というデジタルマーケティングソリューションだけをやっている会社の専務をしていました。

そこでWebマーケティングCRM・コミュニティ・リードジェネレーション・リードナーチャリングといった、伝統的な「マスマーケティング」とはまったく異なる新しいマーケティングに出会い、とても面白いなと感じ現在に至ります。

One to Oneマーケティングとは

最初に、One to Oneのマーケティングとは一体何なのかというところからお話します。

消費者はそもそも十人十色。人によって欲しいもの、欲しい情報は違って当たり前です。

マーケティングを勉強して最初に習うことの1つが市場細分化、セグメンテーションというものですが、この市場細分化をとことんやれば、最後は個人(「個客」)になります。

「個客」を理解・識別して、「皆一様に」ではなく、彼・彼女「が」欲しい情報を提供すること。すなわち、相手によって施策を打ち分けるということです。

これは、今まではできなかったことです。テレビCMは老若男女皆同じものを見てしまいますよね。30代主婦とか若者といった大括りでしか捉えようがなかったんです。

これがOne to Oneになると、どうでしょうか。

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資料:株式会社マルケト(スライド Page 16 一人一人によって施策を打ち分けるとは)

「相手が何に興味を持っているか」、「相手が弊社とどういう関係にあるか」を見極めて、”違うコンテンツを、違う手法で、違うタイミングで打つ”というのが、One to Oneで対応するということです。

エンゲージメント・マーケティングとは

今度はエンゲージメントマーケティングについて見ていきましょう。エンゲージメントとは、絆や関係という意味であり、一人のお客様と関係を継続していくことエンゲージメントマーケティングです。

ここで重要なのは、同じ人間でも「今」欲しい情報は変化していくということです。個客の「今」の情報・ニーズを察知するためには、「個客」の行動を常時把握し、「今」欲しい情報を推測しタイミングを逃さず、「今」喜んでもらえる情報のみ提供していく必要があるのです。

そこで、One to Oneやエンゲージメントマーケティングを突き詰めると、最高の御用聞きのような姿になるのではないかと思っています。個客の気持ちの変化に合わせて、それぞれのフェーズで適切な打ち手を打つことで、少しでも多くの人をコンバージョンに導いていくことがエンゲージメント対応であると言えるでしょう。

そうは言っても、One to Oneかつエンゲージメント対応をするのは、容易なことではありません。10人や20人ならまだしも、10万人、100万人、それ以上となれば、人間のマーケターが手動で全ての対応をするのは不可能です。

そこでITシステムであるマーケティングオートメーションの力を借りようということになるわけです。

マーケティングオートメーションの強みとは?

マーケティングオートメーションというと、よく誤解されるのですが、マーケティングを自動実行するという「概念」や「考え方」ではありません。マーケティングオートメーションは、あくまでも「実行」するためのツールです。

この、マーケティングオートメーションが威力を発揮するのは、One to Oneやエンゲージメントマーケティングといった特定のマーケティングです。ブランディングは得意ではありませんし、短期勝負のキャンペーンも不得意です。

一方で、マーケティングオートメーションはどういった強みを持っているのでしょうか。

それは、長期戦のマーケティングです。一人ひとりと継続的に対話をしてお客様になってもらう、ロイヤル顧客になってもらう、ファンになってもらうといったシーンで威力を発揮します。

具体的には、以下の6つのマーケティングが挙げられます。

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資料:株式会社マルケト(スライドPage 26 マーケティングオートメーションが得意なのは)

なぜ長期戦のマーケティングが得意なのかというと、自動的にシステムで判別して、人間のマーケターだけでは手が回らない、長期かつ継続的なコミュニケーションを実行できるからです。

カスタマージャーニーとTPCM

いよいよカスタマージャーニーのお話に入っていきましょう。私がやっているカスタマージャーニーの目的は、ただ1つ。

「One to Oneかつエンゲージメントマーケティングの設計図を作る」ということだけです。それはマーケティングオートメーションで自動実行するための設計図であり、”打ち手”の実行計画書になります。

一般的なカスタマージャーニーでは、問題点や課題を発見することが目的になっていることが多いと思います。

しかし、私がやっているのは実際にどんな打ち手を・どのタイミングで・どう打っていくのかという実行プランに寄ったものなので、一般的なカスタマージャーニーとは目的が大きく異なります。

その根底にあるのが、電通流のメソッドである「TPCM」というものです。マーケティング・コミュニケーションとは、「TPCM」を決めることであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

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資料:株式会社マルケト(スライドPage 28 設計の根底にあるのは電通TPCM)

「T」はターゲット、「P」はパーセプション、「C」はコンテンツ、「M」はミーンズのことであり、コンテンツとミーンズの組み合わせによって、ターゲットが抱いている現在のパーセプションから、理想のパーセプションへと変化させることマーケティング・コミュニケーションであるということを示しています。

パーセプションをもう少し詳しく説明します。

パーセプションとは企業や商品に対するイメージや評価のことを指し、"I think 〜" とか「I feel 〜」の「〜」にあたるところのことです。消費者の心理を表す用語ですね。

例えば、ある商品Aが売れていない理由として、「Aは品質は良いけれど使い勝手は悪い」というお客様のパーセプションにあるとします。

「Aは品質も使い勝手も良い」というパーセプションに変化させることができれば、Aを買うという行動につながってくるだろうと考えていくわけです。

最終的な「買う/買わない」や「契約する/しない」というのは、あくまでも結果論であって、実際の行動を操作するのは、パーセプションという心理の変化(=パーセプションチェンジ)であるということなんですね。

この「TPCM」を使って、パーセプションチェンジを連続して行っていくのがカスタマージャーニーです。概念的にはこれで完成なのですが、マーケティングオートメーションで自動実行するところまでを狙っているためこのままでは完成しません。パーセプションの変化を自動判定するための遷移指標を入れる必要があります。

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資料:株式会社マルケト(スライドPage 35 遷移指標の策定)

では、遷移指標になり得る行動データには、どんなものがあるでしょうか。以下に例を挙げておきます。

・購買データ…契約獲得・継続・LTV
・ログデータ…サイト閲覧の程度・内容
・反応データ…広告やメールへの反応
・特定行動データ…見積請求・無料体験応募
・エンゲージデータ…SNSでの参加行動
・位置情報データ…リアル来訪来店

例えば、健康食品Fの初回購入までのカスタマージャーニーを書いてみると、次のようになります。

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資料:株式会社マルケト(スライドPage 37 遷移指標の策定)

上の白い四角がパーセプション、赤色がコンテンツ、緑色がミーンズ、そして紺色が遷移指標を示しています。まずパーセプションと遷移指標を決めたら、次にミーンズとコンテンツを設定していく。これが私の言うカスタマージャーニーです。

まとめ:エンゲージメント・マーケティングを実現できる時代に

最後に、アメリカのマーケティングの大家であり、パーセプションチェンジを最初に提唱したドン・シュルツ教授が3年前にマルケトが開催したセミナーに登壇いただいた時の言葉を紹介しましょう。

「One to Oneマーケティング。1人ひとりとの何年何十年にも渡るエンゲージメントマーケティングなんて、概念でしかなかった。それがマーケティングオートメーションにより初めて現実的に実行可能なものになった!」

引用:ドン・シュルツ教授 Marketo Summit Japan2015 より

私はこの言葉が非常に印象に残っており、私自身もそう思っています。今まで人類ができなかったマーケティングができるようになったのです。だからこそマーケティングは面白い。

次回はカスタマージャーニーの書き方について、それぞれの手順とどうすれば良いのかを解説していきます。