スマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスの急速な成熟化に伴い、様々な位置情報サービスが急速に立ち上がりつつあります。

これら位置情報サービスには、GPSなどの地理空間情報(緯度経度)をベースにしたもの、Beaconを使用したもの、あるいはWi-Fi等の電波を使用したものなど様々な形態があります。

とはいえ、ユーザーの位置を特定したり、動線や経路を分析することで、どんなことがわかり、またビジネスとしてどのようなことが期待されているのでしょうか。

今回は、位置情報サービス全体の現在の状況と位置情報を利用した顕著なサービスについて包括的に考えてみます。

位置情報関連産業の市場規模

米国のロケーション広告市場

2017年に発表されたBIA/Kelseyのリサーチによると、米国のLBM (Location Based Marketing = ロケーション広告)市場は、 2016年度時点で、120億ドル(約1.35兆円)だったものが、2021年には、320億ドル(約3.6兆円)になると予測されており、年間平均成長率は21%となっています。

この320億ドルという規模は、全体のモバイル広告市場(720億ドル)の45%にも及んでおり、2016年度には、全体の38%でしたので、その伸長ぶりは著しいものがあると考えられます。

参考:
ロケーションマーケティング・位置情報広告市場規模 – GroundTruth Japan

国内位置情報関連産業の市場規模

一方、国内の位置情報関連産業全体の市場規模は、2012年の時点で約20兆円でしたが、2020年には約62兆円まで拡大する見込みで、中でも販売促進関連(プロモーション、O2O等の)は10.3兆円の規模になるとされています。

参考:
総務省|「G空間×ICT推進会議」報告書の公表

国内のロケーション広告市場

また国内の広告市場規模ですが、ネット広告全体の中で7割を占めるモバイル広告は、2018年は10,417億円と前年比123%の成長が見込まれます。広告全体のモバイルへのシフトが急速に進み、約1兆円規模の市場となります。

この数字に、BIA/Kelseyのリサーチペーパーにある米国市場のロケーション広告比率、年間成長率を適用した場合、2020年には全てのロケーション広告市場(サーチやソーシャルを含む)が約4,439億円と予測できます。また、サーチやソーシャルなどを除いた日本のロケーションディスプレイ広告市場規模は、826億円に到達すると考えられるでしょう。

参考:
2018年ネット広告媒体費は前年比117.9%の見通し、モバイル広告は1兆円規模に-電通グループ3社が共同で調査- | Exchangewire Japan

位置情報を用いたサービスの成長

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様々な手段でジオフェンシング(位置情報の取得)を行う例(39Geoplaの事例)

位置情報に関する関心が高まり、相次いでサービスが登場している背景には、位置情報取得の手段が急速に多様化し、屋外屋内を問わずユーザーの位置を特定する手段が高精度になってきているという背景があります。

アプリにおける位置情報の活用

すでにアプリにおいてGoogleMapなどのデジタルマップを取り込んだサービスが広範囲に取り込まれているのは周知の通りですが、これら位置情報取得手段の多様化・高精度化に伴って、新しいサービスの提供や広告配信の手段が目まぐるしく発展してきました。

例えば交通機関関連のアプリでは、単なる乗り換えや交通情報を提供するのみならず、ユーザーのいる地域に対応した適切な情報を、適切な場所で、適切なタイミングで提供するようになってきています。

Uberは、大都市でユーザーを巡って常に他のアプリと戦いを繰り広げていますが、アプリから得られる位置情報データは、こういったアプリが顧客獲得のために割引クーポンを提供する場合に、ターゲットとなるユーザーの位置を正確に特定するのに役立ちます。どれだけ早くユーザーの位置を正確に把握するかで、この勝負が決まるのです。

位置情報の世界を一変させた「ポケモンGO」

ゲームアプリでは、いわゆる「位置ゲー」と呼ばれる多くのアプリがありますが、「ポケモンGO」については、もはや解説するまでもないでしょう。

空前の大ヒットにより世界の位置情報ゲームだけではなく、位置情報サービス全体への見方すら一変させたほどの効果がありました。2018年5月の時点で累計ダウンロード数は8億に達しています。アップデートのたびにユーザーが戻ってくる傾向も顕著であり2016年9月の発売から2年を経ましたが、まだまだ勢いを失っていません。

開発元のNiantic社は「ポケモンGO」に先行して「Ingress(イングレス)」という位置情報ゲームを開発して、世界中のユーザーが登録した特定ポイントの位置情報データを「ポケモンGO」に応用しました。

開発者たちは、ゲームのキャラクターと現実世界を統一するために、位置情報技術を用いて独自の方法で実装しました。中心となった技術はもちろんGPS(グローバル・ポジショニング・システム)です。

地球を周回する24機の衛星と連動させたこのシステムは、スマホ内の受信機を使うことでプレーヤーの場所を正確に示しています。受信機は、プレーヤーの一番近くにいる衛星からの信号を拾い、その衛星と比較して、場所を計算しています。これによって、プレーヤーは捕まえられるポケモンが、自分の近くにいるかどうか、知ることができます。

リアルタイムでユーザーがどこいるか知ることができるこの技術に、「Ingress」で蓄えた世界中のあらゆる町や都市の地理データベースの解析データを集め、さらに世界中の歴史的建造物のデータベースが構築されました。

そしてポケモンがあたかも目の前に存在するかのように見せる拡張現実(AR技術)。これらを組み合わせたことが、「ポケモンGO」の強力な魅力に繋がっています。

アプリに位置情報サービスを提供する企業とペルソナ

アプリにおける位置情報機能の実装は、各アプリで独自に開発していたものが中心でしたが、ここ数年、アプリ事業者に対して位置情報サービスやプラットフォームを提供する企業も増えてきています。

電通が米国の位置情報マーケティングの大手GroundTruth社と提携したほか、株式会社サイバーエージェントのAirTrack、株式会社ブログウォッチャーのProfilePassport、Cinarra Systems Japan 株式会社のREAL PEOPLE/REAL SIGHT、インターメディアプランニング株式会社の39Geoplaなどのサービスがあります。

これらの企業は、アプリに対してSDKを提供することで、アプリに位置情報に関連する機能を提供したり、アプリユーザーの位置情報ログを収集してマーケティング分析や位置情報連動広告を配信したりするサービスを提供しています。

アプリの利用者をプロファイリングするには、これまでアプリ内で個人の属性をマイページに登録してもらうことが中心でした。

しかし、個人情報に属するデータを登録することに拒絶反応を持つユーザーも多いことから、こうしたプロセスを経ずに、これら位置情報サービス提供企業は、ユーザーの位置情報を匿名で収集し、そのプロファイルを分析することで、個人を特定せずにユーザーのペルソナを推定できるようになっています。

例えば、新規のスーパーマーケットやショッピングモール、コンビニの出店に当たって、出店候補地の住民がどのような生活移動を行なっているか、どの範囲のエリアをどのように回遊しているかがわかれば、非常に有意義な事前検討資料になります。アプリを用いて位置情報を計測する背景には、こうしたニーズも大きいと考えられます。

参考:
電通、世界最高レベルの位置情報マーケティング会社「GroundTruth社」と資本業務提携 - ニュースリリース一覧 - ニュース - 電通

まとめ:位置情報サービスの進化は今後も続く

今回見て来た広告配信やマーケティング分析、ゲーム以外にも、防災時のナビゲーションや高齢者・子供の見守りサービス、ポイントサービス、クーポン配信、観光地ナビゲーション、屋内位置測位、盗難防止など多岐にわたるサービスなどが生まれて来ています。

2018年は「位置情報元年」とも言われるほど、多彩なサービスが一気に立ち上がって来ています。広告配信・分析系のサービスもここ数年で格段に成長して来ました。個人情報に対するナーバスな扱いが求められる中で、匿名の位置情報によってユーザーの動向を捉えるロケーションサービスの進化は、今後も続くことが予想されます。

静止衛星「みちびき」の打ち上げにより、GPSの精度も今後は格段に良くなっていくでしょう。こうした背景の中で本連載では位置情報マーケティングとサービスの多様な側面について、次回以降伝えていきたいと思います。