2018年は「バーチャルYouTuber(VTuber)元年」と言われるほど、多くのバーチャルYouTuberが登場しています。サントリーの「燦鳥 ノム」などを筆頭に、企業でもPR活動にバーチャルYouTuberを起用する例も出てきています。

そのような中、茨城県では、公式アナウンサーとしてバーチャルYouTuber「茨 ひより」を採用して、「自治体初のバーチャルYouTuber」として話題になりました。

自治体のPRにおいて、バーチャルYouTuberを活用するとどのような効果が期待できるのでしょうか。

今回は、茨城県 営業戦略部プロモーション戦略チーム 制作・発信担当グループリーダー 谷越 敦子 氏と、制作に携わる株式会社オプト ビデオコンテンツ部 小林 立典 氏に茨城県のバーチャルYouTuber活用について話を伺いました。

プロフィール

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(左から)
谷越 敦子 氏

1970年生まれ。大学卒業後、1995年4月に茨城県庁へ入庁。現在、茨城県営業戦略部プロモーション戦略チームに在籍。広報誌をはじめ、ラジオ、新聞、ホームページ、Twitter、動画サイト「いばキラTV」など、各種媒体を活用した茨城県の情報発信を担う「制作・発信グループ」のリーダーとして、グループ全体のとりまとめを担当。

小林 立典 氏

WEBマーケティング/映像ディレクター 1983年埼玉県生まれ。新卒としてオプトへ入社してから今に至る。総合代理店への出向もあり、WEBだけでない立体的なプロモーションなどの経験も積む。現在は映像制作ディレクターとして、企画立案、撮影現場監督、制作ディレクションなど映像に関わる全ての業務に携わる。特にVR領域に関して強い関心を持っており、Vtuberに関しても幅広い知見がある。茨城県公認Vtuber「茨ひより」に関しても、企画・制作からプロジェクト全体の管理を茨城県と共に進めている。

「魅力度最下位の県」から脱却するために

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ferret:
茨城県公式のバーチャルYouTuber誕生に驚いた方は多いかと思います。「茨ひより」が誕生した経緯を教えてください。

谷越 氏:
茨ひより誕生の経緯としては、「いばキラTV」でもっと魅力的なコンテンツを制作したいという思いからきています。

茨城県は全国で唯一民間のテレビ局がない県です。そこで2012年10月にインターネットの動画サイト「いばキラTV」を立ち上げて、動画で地域情報や茨城県の魅力を発信する事業を行ってきました。いばキラTVは10代~20代の若年層の視聴者が多く、行政には珍しい「若者に広く情報が届くコンテンツ」となっています。

いばキラTVは、開局5年半で投稿動画が1万本以上、視聴回数が累計4,700万回以上となり、チャンネル登録者数は80,000人(2018年8月時点)を超えています。動画本数・視聴回数・チャンネル登録者数に関して、都道府県が運営する動画サイトとしては日本一に成長しました(茨城県調べ)。

しかし一方で、民間会社が発表する魅力度ランキングでは、最下位という不名誉な記録が続いています。いばキラTVでも、もっとインパクトがあって、より多くの人に見てもらえる、本来の魅力が伝わりやすい動画を作成する必要があると考えていました。そこでバーチャルYouTuberの話が立ち上がったのです。

小林 氏:
ちょうど2018年になって、バーチャルYouTuberが盛り上がりを見せてきた時期っていうのもありまして……。まだ自治体や行政関連でそのようなキャラクターを作っていなかったので話題性もあるのではと考えました。いばキラTVのファン層とも相性が良いというのもあり、企画が進んでいったような感じです。

県庁は「お堅い」組織ではない?

ferret:
外から「県庁」という組織を見た時に、いわゆる「お堅いイメージ」があるのですが、県庁の施策としてバーチャルYouTuberを始める時に、県庁内から反対の声は上がりましたか?

谷越 氏:
意外なことかもしれませんが、理解を得るのに苦労したという事はまったくなかったです。2017年12月に策定した「政策ビジョン」では「新しい茨城づくり」を掲げ、挑戦する方向性が示されています。また県庁では、2018年4月に大きな組織改編がありまして、県のプロモーション活動を一体的、戦略的に行う「営業戦略部プロモーション戦略チーム」という新しい組織ができました。

そのような組織的な背景もありまして、新しいことに取り組みやすい環境にありました。

ferret:
バーチャルYouTuberに関しても理解を得やすい環境だったんですね。
みなさんバーチャルYouTuberには詳しかったのですか?

谷越 氏:
実は私は知りませんでした…(笑)
まずは訪日促進アンバサダーにも任命されている、有名バーチャルYouTuberのキズナアイさんで勉強しました。

ですが、もともといばキラTVを扱ってましたので、私もそうですが、上司であるチームリーダー、部長も含め抵抗はなかったです(笑)。また、2017年に就任した大井川 和彦 知事の前職が株式会社ドワンゴということもあり、インターネットを活用した情報発信はお手の物と言いますか…とても詳しいのです。動画の制作はすごく自由にやらせてもらっているので、自由になりすぎないように気をつけなければいけないかもしれませんね(笑)

バーチャルYouTuberにより6,000万円以上の広告効果が

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ferret:
茨ひよりさんが発表されてから、どのような反響がありましたか?

谷越 氏:
6月にキャラクターのイメージを動画で公開してTwitterで名前を公募、2週間で2,002件も応募をいただきまして……。正直びっくりしました。

8月に名前の公表や3D動画の公開をした時も新聞やインターネットにたくさん取り上げていただき、広告換算額で言いますと、6,000万円以上の効果が得られています(2018年8月10日時点)。自己紹介動画の再生回数も2万2,000回、Twitterフォロワーも5,000人を超え(2018年8月末現在)、多くの皆様に届いているなという実感があります。

ferret:
制作をしている小林さんからみて、いばキラTVのほかの動画と茨ひよりの動画との反響の違いは感じていますか?

小林 氏:
茨ひよりの方が、他の動画よりも圧倒的にコメントが多いというのはありますね。単純な「応援します」だけではなく、「県のここに住んでいるから、こういうところを紹介してほしい」といった具体的なコメントを多くいただきます。このコメントがユーザーと会話するきっかけになるので、コミュニケーションが他の動画よりも活発に行われるのは茨ひより動画の特徴だと感じています。

それと、茨ひより動画は再生回数の落ち方が緩やかなのも大きな特徴です。他の動画はアップロードした直後にたくさん再生されて、そのあとのペースはすぐに落ち込んでしまいます。しかし、茨ひよりの場合、再生ペースがあまり落ちずに伸びていく傾向にありますね。

ユーザーと一緒に作り上げるのはバーチャルYouTuberならでは

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ferret:
茨城県にはすでに「ハッスル黄門」や「みとちゃん」のような有名なご当地キャラクターがいますよね。県のPRキャラクターという枠で、これらのキャラクターと茨 ひよりさんの役割はどう違うのでしょうか。

谷越 氏:
ご当地キャラクターは小さなお子さんやファミリー層を中心に人気があります。その地域を象徴した見た目のインパクトや親しみやすさがあって、そこに居るだけで華やいだり盛り上がったりできるので、リアルイベントとの相性が良いと考えています。一方で、バーチャルYouTuberは、10代〜20代の、ご当地キャラクターのファンとは別の層に人気のあるコンテンツです。そこで住み分けはできるのかなと考えています。

また茨ひよりには、「いばキラTVのアナウンサー」ということで、茨城県の魅力を自らの言葉で発信していく役割もあります。これもバーチャルならではですが、動画やTwitterで発信をすると、視聴者やフォロワーのみなさんから色々なご意見をリアルタイムでいただけるんですね。いただいたご意見を反映していくことで、茨ひよりがまた成長していきます。

小林 氏:
ねば〜る君は別ですが、基本的にはご当地キャラクターは言葉を発さないことが多いですよね。その場にいて和む・盛り上がるという効果があったり、キャラクターグッズを作ったりはできますが、情報を発信したりコミュニケーションをとったりするのは難しい場合が多いです。谷越さんも話していますが、ユーザーとコミュニケーションを取りながらキャラクターを作り上げていくというのは、バーチャルYouTuberならではです

「(キャラクターを)一緒に作り上げていくと、今後のことも気になる」というが人間の心理としてありますよね。「一緒に作って、一緒に育てて、一緒に応援していきましょう」というのをバーチャルYouTuber制作の中でやっていければと思っています。

茨ひよりを通じて、茨城県をもっと身近な存在に

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ferret:
今後の茨ひよりさんの活動について教えてください。どのような形で地域活性化に活用していくのでしょうか?

小林 氏:
今後も動画の配信は継続していく予定です。また、動画の流入経路としてTwitterが多いので、Twitterの更新頻度をあげていきたいと思います。

また、ユーザーにとっては、「自分がコメントした時に返事がもらえた」という体験が嬉しいものです。なのでそこは、コミュニケーションをとる機会をもっと増やしていければとも思っていますね。

新しいことでいうと、リアルイベントへの出演も増やしていきたいです。まず第一弾として、つくば市で行われます、国内初のe-sports国体プレ大会のアシスタントMCとして大役を担います。これを皮切りにリアルイベントでの露出も広げていきたいと考えています。リアルイベントの司会やMCなどを茨ひよりにやってもらって認知度を高めながらイベントを盛り上げる。またその記事がインターネットに掲載されれば、イベント情報も茨ひよりの情報もより拡散されます。そうやってよい循環が作っていけたらなと考えています。

あとはライブ配信。リアルタイムでユーザーとコミュニケーションがとれる生放送などもやっていけたらなと思っています。県の職員とのコミュニケーションって、普段は役所にいって手続きをする時にしかとらないと思うんですよ。

そのような「距離が遠い」「お堅い」イメージを感じさせないように、ユーザーから親近感を持ってもらえるようなキャラクターにしていければなと。

谷越 氏:
そうですね。茨ひよりも県の職員として、みんなに愛され、ユーザーと一緒に茨城県をより盛り上げていければと思います。

まとめ:コミュニケーション手段としてのバーチャルYouTuber

自治体としては初となるバーチャルYouTuberの活用について話を伺いました。

普段だと「自分とは遠い存在」に感じる自治体とTwitterやYouTubeなどを通じて直接コミュニケーションがとれるのは、まさにバーチャルYouTuberならではと言えるでしょう。

茨城県のバーチャルYouTuber活用はまだまだ始まったばかりです。今後、リアルイベントやライブ配信などで活躍の場がどのように広がっていくのかに注目です。