アパレル業界や小売業界が苦戦する中で、「ニューリテール」への注目が高まっています。ニューリテールという概念にはオフラインとオンラインを繋げるO2Oなどが含まれます。

実際にニューリテールやO2Oの実務はどのように実践されているのでしょうか。

今回はオフラインの購買行動を変革しようとするニューリテールプラットフォーム「FACY」を展開しているスタイラー社 マーケティングチームマネージャー 埴岡 瞬 氏にビジネスをどのように進め、成長させているのかを伺いました。

埴岡 瞬氏プロフィール

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神戸大学を卒業後、コンサルティング企業にて複数のWebメディアの集客・収益化に携わる。その後、理念・VISIONに共感し、2017年11月からスタイラーに参画。主にWEBマーケティングの設計〜実行までを統括しながら、オウンドメディアの分析、メディアプロダクトの開発など幅広く従事している。

ニューリテールプラットフォームとしてのFACY

ferret:
FACYはO2O事業に取り組まれる中で急成長しているという印象があります。
でも最近スタイラーさんの事業は、「ニューリテールプラットフォーム」と呼ばれていますよね。実際はどのような事業をされているのでしょうか?

埴岡 氏:
弊社が提供するFACYはユーザーのファッションやコーディネートに関する質問に対して、ショップ店員がアドバイスや自分たちの商品をおすすめしてくれるサービスです。

O2O事業と呼ばれますが、最近では「ニューリテールプラットフォーム」として打ち出しています。ニューリテールとO2Oは同じものだと捉えられることもありますが、実は少し異なります。

O2Oはオンラインからオフライン、またはその逆にオフラインからオンラインに顧客を誘導するものです。しかし弊社では、ニューリテールを「オンライン、オフライン関係なく、ユーザーのニーズを元に提案し、サービスを提供する」という概念としています。

ユーザーが「こういうものが欲しい」と思った時に最適な提案が示せるものです。日本ではまだあまり実現されてないのですが、海外では特に中国で盛んです。

例えば中国では、QRコードを読み取り、「どういうものが欲しいですか?」という質問があった場合に具体的なイメージを伝えると、それに対して提案がされるというサービスが普及しています。

日本ではすでにECが普及しているため、ユーザーの利便性はある程度の水準で保たれています。しかし、商品の価値自体を多角的に伝えるという意味での利便性は、まだ満足できていません。

こういった問題を解決するために、弊社は「FACY」をニューリテールプラットフォームとして提供しています。

クライアントサクセスから見えてきた成長

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ferret:
FACYはユーザーと店舗側とのコミュニケーションがあって成立するサービスですよね。そのためにはユーザーからの質問数や店舗側からの返信が担保されないとサービスとしても成立しません。それはどのように増やしていったのでしょうか。

埴岡 氏:
サービス開始当初の課題は「店舗側にサービスをどれほど利用してもらえるか」でした。当初は弊社セールスが店舗にマニュアルを渡して、「あとは使いながらやってみてください」と店舗側をフォローできていませんでした。店舗側とのコミュニケーションの量が圧倒的に足りていなかったのです。

契約数は増えていくのに全くアクティブになっていかない。そこに課題を見出し、クライアントサクセスに取り組み始めたのがちょうど1年ほど前です。

店舗の運営者にFACYを使ってみて不便であったことや、今困っていることなどを細かくヒアリングする中でまた順調に成長していきました。

そうして契約している店舗数に対して、実際にアクティブになっている店舗が担保できるようになっていったんです。

コマースとメディアの両輪

ferret:
FACYには1日10本ほど、月間で300本もの記事コンテンツが掲載されています。大手ニュースサイトに使われることも多いですよね。コンテンツはどのように制作されているのでしょうか。

埴岡 氏:
今だとFACYプラットフォーム上でのユーザーニーズをコンテンツ化するのに加えて、出したコンテンツがある分野に偏らないようにコントロールしています。
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通常の記事コンテンツはサイト上にカテゴリーがありますよね。ですが、ただカテゴリーごとの分析だと次のコンテンツをつくるための仮説が作りづらい。弊社では記事コンテンツごとに「アイテム別」というユニークな区切りにしています。

例えば、スカート。ファッションの商品情報紹介カテゴリーがヒットしたとして、その中でどのアイテムがヒットしたのか、という話しを毎週キーワード別に出しているんです。そこからヒットしやすそうな企画から出しています。

ferret:
コマース的なPDCAを回しながら、そこでいいものだけを上げていって記事化しているのですね。つまり、コマースとメディアの両輪が必要ということですね。

オフラインでのコンバージョンをあげる仕組み

ferret:
サービス利用者のオフラインでのコンバージョンが高いと聞いているのですが、その仕組みはどのようにされているのでしょうか?

埴岡 氏:
コンバージョンまでは正直数値ベースでは把握していないのですが、あるお店では送客数が1.5倍から2倍くらいになった、というデータはあります。FACYの記事では絶対にどこで買えるかを記載しています。

ユーザーからすると商品情報を見て、買いたかったり、実際に見てみたいと思ったりした場合に、そこの住所に行けばいいだけです。導線がシンプルなので、送客率が高くなっているのだと予想しています。

ferret:
足を運ばせるきっかけづくりというのは、そもそも日本のデジタル界隈ではあまりなかったと思います。その辺りは最初からきっかけづくりを狙った事業だったのでしょうか。

埴岡 氏:
そうですね。ニューリテールプラットフォームを作りたいという狙いがあった上で、最初は店舗に送客するというのが至上命題でした。

ferret:
ただ、最近ではプラットフォームに決済機能もつけられていますよね。

埴岡 氏:
1年前は決済機能はなく、O2Oの送客機能だけでした。

「FACYで買えなかったから店舗行く」というユーザーが「FACYで買えるから買う」となっているので、FACY上での購入に流れているようです。

ferret:
店舗側手数料の20%は、他社と比べると約半分。とても安いですよね。それは送客が十分できているからそのパーセンテージでも上手く行けるだろう、ということでしょうか。

埴岡 氏:
そうです。あとは、僕らが目指しているビジョンとして「FACY上での売上高が目標金額に到達しないと退店ですよ」ということはしません。これが他社サービスとの大きな違いです。

これをするとお金を持っている企業しか表に出ないので、ユーザーメリットになりにくい。最後は価格競争になります。どこがどれだけセールやるか、という話にしかなりません。

そう考えたときに、我々は「地方の売り上げ規模が小さい個店さんと繋がりたい」という想いから、20%に設定しています。40%にすると個店さんが潰れてしまうので……。

ferret:
ただ、FACYを見ると1万円以上の商品が多く、安価なものは出さない印象があります。そこに理由はありますか?
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埴岡 氏:
これは弊社代表の小関がAmazonから出て立ち上げたときの思想とも繋がりますが、うちはコモディティは売らないと決めています。その結果として、単価が他の3倍くらいになっています。AmazonやZOZOはコモディティを販売しているため、単価を落とすとコモディティ戦争になるからです。

FACYで取り扱っている商品は、ある程度の財布の余裕というところは必要になってくると思います。ただ「いい商品だから購入した」というのではなく、「お気に入りのお店やスタッフが勧めてくれるから購入した」というストーリーになっていくと、ユーザーのLTVが上がってくると考えています。

データを公開してショップスタッフの再定義に繋げたい

ferret:
今後はどのように仕掛けていく予定でしょうか?

埴岡 氏:
今FACYのメディアではFACYのサービスや使われ方や、どのようなコンテンツが中心になっているかといったことはあえてアピールしていません。それは記事コンテンツから入ってきたユーザーに、シームレスに商品情報に到達して欲しいからです。

これまでただO2Oサービスというと「コンテンツとコマースが融合している状態」と捉えられがちでした。でもニューリテールでは、購買文化や体験フロー自体を再構築する必要があると考えています。そのために、サービスの使い方を伝えていかなければいけません。今後は「FACYの使い方」というのを積極的に出していきます。

将来的には、「服が欲しい」となったとき、まず店舗に行く前にFACYに投稿してもらう、その中でユーザーが店舗に行くかFACYで買うか、というのを選べるような状態をつくっていきたいです。

最近は店舗側から、スタッフの評価制度に使いたいというブランドが増えてきています。お店での接客以外でも「FACY上でどれくらい接客して、そこでどれくらい買われたか」というのを評価のひとつとしたいとも言われ始めています

例えば「セレクトショップの店員さんがFACY上で接客したデータが、本社のマーケティングデータとして使われる」ということになれば、ショップスタッフさんの成果にも繋がっていくでしょう。

なのでそこを今後強化して、「どれくらい接客して喜ばれているか」「売上だけではなく、どういう接客をしてどういう評価をされたか」というところが確認できるようにするとか、そういう仕組みも入れていきたいと思っています。

まとめ:ニューリテールで変わる購買・市場環境

ニューリテールプラットフォームを展開するスタイラー社は、ユーザーのニーズを捉え、それにあった提案をしていくという従来のアパレル産業にはなかった分野で成長しています。

その中には、「ただ企業の成長と共に業界全体を変えていきたい」という思いが、企業の代表だけでなく社員にも浸透し、私たちの購買行動をより豊かに変えようと取り組んでいます。

今後どのような市場環境になり、私たちの生活が変わっていくかに注目です。