人間味を許容することで優しくなれる

ferret:
誤字脱字はない方がもちろんいいですが、誤字脱字があることによって人間味が出るというお話が前編でありましたよね。また、作業をする編集者にも限界があります。

松尾氏:
おっしゃる通りです。確かに誤字脱字はなくすことは良いことですが、あえて残すのも人間味があります。「誤字脱字はあるけど、それより伝えたい想いのほうが強かったんだろうな」と感じてもらえるならば、寬容になってもらえるかもしれない。

その視点が全くないと、怖くて何も書けないじゃないですか。相手にそれを期待する。だから自分もそうありたいと思う。

ferret:
松尾さんが監修されたワインのメディアも書き手を立たせていますよね。読者がその人とコミュニケーションを取るような仕組みになっている。やはりその方がコミュニケーションが取りやすいということなんですか。

松尾氏:
そうです。

ferret:
コミュニケーションという言葉と、先ほど話していた「分かりやすさ」という言葉を掛け合わせれば、あのワインのメディアは、まさにたくさんの人とコミュニケーションをとろうとしているように感じます。

松尾氏:
はい、まさにそうなんです。弊社が理想とするコンテンツは、たくさんの人が「これは読みやすい」「これは分かりやすい」と感じるコンテンツです。それはつまり、先ほど言われたように、たくさんの人と良好なコミュニケーションをとれるコンテンツでもあります。

10万人が来ていることを実感すべき

ウェブライダー社松尾茂起氏

ferret:
今多くの企業がオウンドメディアを立ち上げていますが、うまく行っていないところもあるかと思います。松尾さんの経験から運営を円滑に進めるための方法などありますでしょうか。

松尾氏:
メディアをうまく成功させるポイントとしては、「なぜそのメディアをやるのか」ということを明確にすることです。「何となく」ページビューを稼いで、「何となく」来た人に対して広告を出して、「何となく」コンバージョンさせる。「何となく」が多ければ多いほど失敗しますね。その「何となく」をなくしておくことが重要です。

ただ、一番問題なのはメディアの運営者に、多くの人が見に来てくれているという「実感がないこと」ではないでしょうか。

私がメディア運営についてアドバイスする際によくすることのひとつに、大勢の観客が集まっているコンサートの写真をクライアントに見せることがあります。

その写真に10万人の観客が集まっているとします。10万人ってすごい人数ですよね。すると、主催者側の立場では、10万人の観客が何も買わず、帰ってしまうのもったいないとなる。では、この人たちにどうすればいいでしょうか。「会場でTシャツ販売します」とか「次のライブに来てもらうためにチラシを配る」とかという発想をもてば、オウンドメディアで発信する情報が自ずと変わっていきます。

またこの観客が帰っていったときに皆「今日のコンサートよかったよね」と口コミしてもらうためには、読後感がよくないといけません。

ウェブライダー社松尾茂起氏

メディアを運営している人は多くの人が見に来ているという実感が分かっていない人が多い。Webの弱みは、ユーザーの顔が想像しにくいことです。一人ひとりの訪問がただの数字に見えてしまう。

10万人って、超人気アーティストのコンサートを毎日しているようなものです。
なので、例えば「その人たちが仮に1日1,000円払ったらいくらになるんだ」みたいな考えもできますよね。

ferret:
良い記事だったらまた読んでくれますし。コンサートに通うファンのように、熱烈な読者になってくれる可能性もありますね。

松尾氏:
僕は記事を曲や音楽によく例えるんですが、5分読んでもらうということは5分の曲を丸々聞いてもらうことと同じなのです。「では、曲ってどんなふうにつくられているかを考えると、最初にサビがあって、AメロBメロがあって、途中にゲストミュージシャンが来たとかで構成されます。イメージしにくいものをイメージしやすくすると、考えがクリアになって、成果物が全く違ってくることがあるんですね。

記事をなんのために書いて、どうしたいのかをしっかり考えられると読者と良いコミュニケーションがとれ、わかりやすい文章にも繋がっていくと思います。