メンバーの旗振り役としての「言葉」

「ビジョンクリエイティブを掲げるPOOL inc.では、コンシューマー向けではなくチームメンバーが共通理解を持つために、旗振り役の言葉を立てることはよくあります」と宮内氏。その言葉を指針とすることで、メンバーから多様なアイデアが出た際も判断がブレない。広告では必ず達成しなければならない目的があるので、あえて言葉で枠組みを作ることで「なぜやるのか。それによってクライアントは顧客からどういう存在になれるのか」という視点を持ったまま自由に発想を振り切れる。

「たとえばサントリーオールドの『恋は、遠い日の花火ではない。』というキャンペーンでいえば、ビジョンとなる言葉は『remind』です。僕は"ワンダーワード"と呼んでいるのですが、英単語一語くらいでみんながわくわくドキドキする"言葉の種"を見つけるのがまず最初の仕事です」と川見氏。

当初のアイデアとしては、革のプレゼントボックスをイメージした「GIVER(与える人)」というキーワードも検討していたが、二人にPOOL inc.プロデューサーの内島氏も交えた会話の中で、イメージを限定しすぎず、現代性とつなげられる「SHARER」を導き出した。

宮内氏によると「うまく肉付けができる言葉と、そうでない言葉」があるという。「SHARE」はみんなが語り合いたくなるテーマで、尽きることなく話せる。「限定しすぎずに、発想を広げられる」言葉だ。逆に発想の足かせになってしまうような言葉を軸にしてしまえば、革のベルトや財布というようにいかにも「革」っぽいアイデアの集合になってしまう。

言葉によって軸が決まると、関連する様々な要素が自然と定まってくる。「たとえば会場はWeWorkしかないだろうと。シェアオフィスということはもちろんですが、そこに集まる人はシェアエコノミーやエコロジーを大切にする人が多い」そういう人たちからコンセプチュアルな共感を得ることで、『WHOSE LEATHER』の活動に巻き込んでいく。

広告発想が切り拓く、プロダクトの新たな可能性

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「一昔前は伝えるための手段も媒体も限られていましたが、今は目的達成の方法が増えてきており、まず何を選択するかから突き詰めて考える必要があります」と宮内氏。広告主の感度も上がってきており、常に提案に発見が必要になってきている。「でも、どんなにメディアが変わろうと『1コピー=1ビジュアル』でアイデアを研ぎ澄ませる、という下地を共有しているのは広告クリエイターの変わらぬ強み」だという。

WHOSE LEATHER_SHARER

WHOSE LEATHER_SHARER

姫路の老舗革メーカーの「株式会社 山陽」と、クリエイティブエージェンシー「POOL inc.」による『WHOSE LEATHER』は、革の新しい可能性を切り拓く共同プロジェクト。2018年に続き二回目の展示会開催となった今回は「SHARE」という言葉をキーに、建築家やクラフト職人、アートディレクターなど様々な領域で活躍するクリエイターが「革」という素材を「使い手」の発想で捉えなおした作品が集結しました。