マーケティングにおいて、名前の認知というのは非常に重要です。商品開発では、ネーミングにかなりの時間をかけます。製品自体がどれだけよいものでも、名前がしっくりこないとヒットにつながらないことも多々あるからです。実は、今私たちが当たり前のように手にしている商品のなかには、名前を変えてから人気が出たものも存在します。そこで、商品の改名によりヒットした商品と、その理由について考察してみました。

目次

  1. わかりやすいネーミングで親近感を獲得「お〜いお茶」
  2. インパクトのある改名で成功「鼻セレブ」
  3. インパクトを強めて認知度アップ「BOSS」」」
  4. クレームから生まれた「カレーメシ」
  5. ネーミングには「親しみやすさ」や「わかりやすさ」「インパクト」が重要」

わかりやすいネーミングで親近感を獲得「お〜いお茶」

今では缶やペットボトルの緑茶というのは当たり前の存在です。「お茶は家で飲むもの」という固定概念を覆し、アウトドアで飲むものとして世界で初めて缶飲料の緑茶を発売したのは、伊藤園。1984年のことです。当時の名前は「缶入り煎茶」でした。

しかし、売れ行きはイマイチ。駅弁などと一緒に売るという販売戦略で徐々に取扱店舗は増えていきましたが、消費者からは「読み方がわからない」「まえ茶?」「ぜん茶?」という問い合わせが殺到。

そこで、学生への意識調査を行ったところ、「煎茶」(せんちゃ)という呼び名が浸透していないことが発覚。そこで1989年に「お〜いお茶」に改名。もともと、同社の茶葉製品のテレビCMで使われていたフレーズでしたが、それをそのまま商品名にしました。

参照:お〜いお茶STORY|伊藤園

発売から4年での改名により、売り上げは6倍近い約40億円に急増しました。「お〜いお茶」のほうが、一家団欒や親しみやすさが想起されるとともに、覚えやすいというのもポイントだと思います。「缶入り煎茶買ってきて」というより「お〜いお茶買ってきて」というほうが、言いやすいですしね。わかりやすさ、親しみやすさが成功した例と言えます。

参照:改名で売り上げ40億円の「お~いお茶」売れる前の名前は…|AERA dot.

インパクトのある改名で成功「鼻セレブ」

花粉症の人にとって、春先はティッシュが手放せません。しかし普通のティッシュでは、何度も鼻をかんでいると鼻が痛くなったりガサガサになったりしてしまいます。ある程度の花粉症マスターになると、「やっぱりティッシュはこれよね」と取り出すのが、ネピアの「鼻セレブ」。いわゆる保湿ティッシュです。

今でこそ、「鼻セレブ」はティッシュ界においてその地位を不動のものとしていますが、「ネピア モイスチャーティシュ」として発売された1996年当時はまだ保湿ティッシュというカテゴリー自体が認知されていなかったことに加え、パッケージが地味だったこともあり、なかなか店頭で手に取ってもらえないという状況が続いていました。

使ったことのある人ならばそのよさに気付きますが、まだSNSなどはない時代。口コミだけではなかなか売り上げは伸びません。そこでネーミングやデザインを思い切って変えることに。プロジェクトを発足し、100案以上の商品名案が出されたなかで、「鼻セレブ」という名前が採用されました。その理由は、“鼻”というインパクトのある漢字と、高級感を表す“セレブ”を用いたことが、当時の企画部長に響いたから。確かに、インパクトのある名前ですよね。

同時にパッケージも、うさぎやゴマフアザラシなどを採用。“ふわふわ”“やわらかい”といったイメージとし、2004年にリニューアル。売り上げは10倍以上に跳ね上がりました。

「鼻セレブ」成功の要因は、名前のインパクトと覚えやすさ、そしてパッケージの癒やし度です。保湿ティッシュの包み込むような優しさが、名前にもパッケージにも反映されているのが、一番のポイントだと思います。

参照:鼻セレブやカレーメシも、「改名後」にヒットした商品たち|ダイヤモンド・オンライン

インパクトを強めて認知度アップ「BOSS」

サントリーの「BOSS」(ボス)といえば、コーヒー飲料の代表格。発売は1987年。「WEST」という名前でデビューしました。しかし、売れ行きは今一歩。ほかの缶コーヒーに比べると、知名度はイマイチという状態が続きました。

そこで1992年にブランド名を刷新。「BOSS」としたことで大ヒットにつながります。その後18年続くロングセラーとなっているのはご存知の通り。

この改名の一番のポイントは、インパクトが上がったところ。トライベック・ブランド戦略研究所の「ブランド戦略通信」によると、インパクト、洗練度、親近感、購買意欲など、ポジティブな項目が軒並みアップしたとのこと。

参照:ブランドなんでもランキング 第23回:ブランド名変更のイメージ調査|トライベック・ブランド戦略研究所

たしかに、「WEST」では何の商品かわかりづらいですし、仮にコーヒー飲料だと知っていても、どんな味なのかということを想像することが困難です。一方「BOSS」は、男らしさや渋さといった面が強調され、どんなコーヒーなのかイメージが湧きやすいように感じます。

ちなみにサントリーは「BOSS」のネーミングの由来を「働く人の理想という意味が込められている」と解説。「BOSS」のコンセプトは「働く人の相棒」で、コーヒーに頂点を目指したいという意味も込められているのだとか。その想いは、一般消費者にしっかり根付いているようです。

参照:『ボス』のネーミングの由来を教えてください。|サントリーお客様センター

「カレーライスじゃない」というクレームから生まれた「カレーメシ」

お湯を注ぐだけでカレーとライス、具材を一緒に食べられる日清食品のカップカレー「カレーメシ」。こちらは、2013年に「カップカレーライス」として発売。簡単、おいしいということで、人気商品になりました。

しかし、一部の消費者から「カレーとライスが混ざった状態だからこれはカレーライスではない」といった指摘があったことから、改名を検討。従来のカレーライスとは異なる、新ジャンルのカレーであることを鑑みて「カレーメシ」というネーミングになりました。「カップカレーライス」発売から半年での改名。なかなか思い切った決断だと思います。売り上げが悪かったわけでもないですし。

参照:鼻セレブやカレーメシも、「改名後」にヒットした商品たち|ダイヤモンド・オンライン

この迅速な対応は、日清食品の掲げる行動精神にあります。「日清10則」という10か条のなかに、「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ」という言葉が。リスクを恐れず、前に進め。間違いだと気付いたら戻ればいい。そんな日清精神が半年での改名につながっているのです。

参照:ヒット商品、ネーミングの決め手 【カレーメシ】|NNRニューズレター

これまでの例と違い、売り上げが芳しくないから改名したわけではありませんが、現状の違和感を解消することで、より商品の認知度を高めた好例と言えます。

ネーミングには「親しみやすさ」や「わかりやすさ」「インパクト」が重要

いくらいい商品を作っても、名前がしっくりこないと売れません。それほど、名前といのは重要なのです。

今回の事例を見てみると、呼びやすさや親しみやすさ、わかりやすさといったことが商品のネーミングには重要であることがわかります。商品の特徴をそのまま名前にしても伝わらない。かといって、イメージだけ先行させた名前でも伝わらない。ネーミングに関しては正解はないのかもしれませんが、以上のようなことは念頭に置いておく価値はあるようです。

ネーミングに悩んだ時の参考に

ネーミングに悩んだら?活用すべき発想法・企業事例や便利なツール9選

ネーミングに悩んだら?活用すべき発想法・企業事例や便利なツール9選

会社名、店名、商品の名前にいたるまであらゆるシーンでネーミングは重要です。しかし、なかなかアイデアが浮かばないという方も多いのではないでしょうか。 今回はそんな方のために、ネーミングを決めるときに参考になる発想法・ツールを8個・有名商品のネーミング事例12個ご紹介します。

1980年~1994年の広告コピーとカルチャー

1980年~1994年の広告コピーとカルチャー

年ごとの社会イベント/カルチャー/広告コピーをまとめた年表(Excel形式)です。