イノベーションを起こすために必要なこととは?-Fintech Venture Meetup 2015-
9月29日、Samurai Incubate Inc.主催の「Fintech Venture Meetup 2015」が開催されました。
第二部のパネルディスカッションでは、日本国内で大きな注目を集めるfintechの主要プレイヤーが一同に会し、fintech市場の今後の展望について議論が交わされました。
登壇者
パネリスト
freee株式会社 代表取締役 佐々木 大輔氏
全自動のクラウド会計ソフト「freee (フリー)」を運営する freee 株式会社代表取締役。 東京、下町生まれ。一橋大卒。専攻は今はやりのデータサイエンスだった。博報堂、CLSAキャピタルパートナーズ、ALBERT、Google を経て、freee株式会社を創業。
クラウドクレジット株式会社 代表取締役 杉山 智行氏
愛媛育ち。2005年東京大学法学部卒業後大和証券SMBCに入社し、金利、為替の自己勘定取引チーム等。2008年ロイズTSB銀行東京支店に入行し、銀行では資金部長を務め、同時に運用子会社の日本における代表および運用責任者を兼任。 2013年1月にクラウドクレジット株式会社を設立し、2014年6月から投資型クラウドファンディング・サービス「Crowdcredit」を運営。
マネックスグループ株式会社 執行役員 新事業企画室長、マネックスベンチャーズ株式会社 取締役 高岡 美緒氏
大阪生まれ。英国ケンブリッジ大学自然科学部物理学科卒業。ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券(現モルガンスタンレーMUFG証券)などを経て2009年にマネックスグループに入社。同社のほぼすべての国内外買収案件や戦略投資を執行。現在はマネックスベンチャーズのCVC運営及びマネックスグループの新規事業立ち上げを担当。
BASE株式会社 創業者 代表取締役 鶴岡 裕太氏
1989年生まれ、大分県出身。
大学在学中にクラウドファンディングのcampfireを運営するハイパーインターネッツ社でエンジニアのインターンを経験後、paperboy&co.(現:GMOペパボ株式会社)創業者の家入一真と複数のサービスを立ち上げ、バックエンドのプログラミングやディレクションを行う。
2012年12月にBASE株式会社を創業、国内最大級の無料ネットショップ開設サービス「BASE(ベイス)」、オンライン決済サービス「PAY.JP(ペイ ドット ジェーピー)」を運営。
株式会社ZUU 代表取締役 冨田 和成氏
大学在学中にソーシャルマーケティングにて起業。2006年に一橋大学を卒業後、野村證券株式会社に入社。支店営業にて同年代のトップセールスや会社史上最年少記録を樹立し、最年少で本社の超富裕層向けプライベートバンク部門に異動。その後海外経験を経て、本店ウェルスマネジメント部で金融資産10億円以上の企業オーナー等へののコンサルティングを担当。2013年3月に野村證券を退職し、株式会社ZUU代表取締役に就任。現在は日経マネーなど複数のメディアにて連載を持つなど、本業とシナジーのある分野において金融専門家としての活動も行っている。
ファシリテーター
株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー 林俊助氏
東京大学経済学部金融学科を経て、ドリームインキュベータ(DI)に参加。
DIでは、金融/通信/環境エネルギー/商社/医療/消費財などの多岐にわたる分野に対する、成長戦略及び中期経営計画策定、海外展開戦略構築、新規事業開発などに従事。
近年は、ベンチャーキャピタル事業にも注力しており、国内外の金融/デジタルメディア/環境エネルギーなどの分野における投資判断、戦略策定、実行支援にも従事。
中国上海市出身。
フィンテックVCとフィンテックスタートアップの関係について
フィンテックVCの投資判断基準は?
林氏:国内には多数のVC(ベンチャーキャピタル)があると思うのですが、その中でも金融に特化してやられているマネックスベンチャーズの高岡さんに、分野が多岐にわたっている金融業界の中でもどの分野に注目して、どのようなスタートアップに投資されているのかをお聞かせいただければと思います。
高岡氏:
マネックスベンチャーズは1年半前から活動していると申し上げたんですが、実はほそぼそと10年前からやっています。その時から遡ると投資先は8社あります。
まずライフネット生命はインキュベーションから投資していて、お陰様で無事上場しておられます。
2社目はユーザベースという、SPEEDAという、BtoBで会社情報を提供するツールや、NewsPicksというキュレーションアプリを提供している会社です。
あとはマネーフォワードさんやBtoBで生鮮食品のECを手がけている会社さんもですね。fintechに関係ないんじゃないかと言われそうなんですが、最近、ECと金融の境目がだんだんわからなくなってきているところもありまして、BtoBのECがどのように成長しているのか賭けてみたいなということで投資しています。
あとはクラウドクレジットさんや、アメリカのShift PaymentsというVISAカードを使ってビットコインで支払いができる会社さんだったり、MFSという住宅ローンのオンライン借り換えサービスを展開している会社と、Orbという、プライベートブロックチェーンのプラットフォームを提供している会社さんの8社に投資をしてます。
林氏:今お聞きしているとかなり幅広い領域に投資されてると思うのですが、投資判断するうえで何を重視されているか、どういった点が魅力的に見えるんでしょうか?
高岡氏:
リターン目的もあるんですが、マネックスグループが創業当時から掲げている「未来の金融を作る」に基いていて、投資先も、未来の金融を作ってくれる仲間ということを前提にしています。
投資する基準は3つです。
1つ目はファウンダーチームです。
例えばイノベーターがいて、CEOを支える優等生っぽいCOOがいて、人を巻き込む力があるひとがいて、とか。どんなチームになっているかを重視しています。
2つ目はヴィジョンですね。明確で共感できるヴィジョンを持っているか。
3つ目はアジャイル力です。ピボット力とでも言えますでしょうか。お客様によりそうことを第一にしていること。
お客様が求めているものを見極めてアジャイルに、成功するまでトライし続ける力があるかどうかですね。
国内VCと海外VCの違い
林氏:スタートアップ側としては、VCに対してどのような支援を期待されているのか、またどういうVCが好ましいのでしょうか?
特にfintechだと、海外では金融特化のVCとかかなりあると思うのですが、国内VCと海外VCの違いってどうでしょう?
直近、DCMさんらから大型資金調達をされているfreeeの佐々木さん、いかかでしょう?
佐々木氏:
僕らもシリコンバレーやシンガポール等のVC数社から50億以上の資金調達をしてますが、特化型ファンドで国内と海外のVCで一番違うなと感じるのは、アメリカのVCって投資の対象が明確に決まってるんですよね。
将来的にマーケットを作っていきそうなところには投資したいという、僕たちと話す前に彼らの戦略のなかで決まっているケースが凄く多いんですよね。
だから話をした時は既に事業はOKで、このチームはどうなんだとか、どういうヴィジョンを持っているんだというところをすごく聞かれます。
国内のVCさんの場合、「それって本当に日本で広まるんですか」とか「これから先、中小企業のおじいちゃんおばあちゃんに本当に喜ばれるんですが」というところから説明していかなきゃいけない。
最近はいろんなVCさんが増えてきて環境は変わってきているとは思いますが、一般的な傾向としては1つあるかなと思います。
もう1つは圧倒的に大きい投資を実現できるということですよね。
直近で35億調達したんですが、その際にいろんな投資家を見ました。
それでびっくりするのが「35億?小さいね。うちは50億以上しかやんないんだよ」というところがゴロゴロいるんですよね。
そういうところと「10億以上の資金調達ってなかなか見ないよね」というマーケット環境とはやはり全然違うなと。
資金調達のサイズの面でも、国内と海外では全然違うなと思いますね。
事業創造に協力してくれるエンジェルを見つけるのも1つの選択肢
林氏:直近、Fenoxさんから大型資金調達されているZUUの富田さんはいかがでしょうか?
冨田氏:
現在6億弱ぐらい調達してるんですが、今回初めてVCを入れました。
それまでは1億数千万調達してましたが、全てエンジェルの方々に出して頂いてます。
個人的にはエンジェルを巻き込むことをすすめる派です。
佐々木さんみたいに35億集めるのはエンジェルだけじゃ無理かなと思うんですが、数億前半なら十分可能だと思いますね。
やはり、同じ船に乗ってもらえるという感覚が強いのはエンジェルの方で、しかもそういうレベルの方々が本気で関わってくれるっていうのはやはりエンジェルだからかなと。
私も前職で投資家の方々を多数見てきましたが、自分の生金を投資されている方たちは本気度が違うんですよね。
本気で関わって、この事業が成功したら、リターンはそのまま自分に戻ってくるわけですから凄く真剣になって頂けます。
そういうレベルの人たちが真剣に関わってくれるのは嬉しいですよね。
例えば夏野さん(夏野 剛氏)のような方が、月に何回もミーティングして頂けますし、一緒にプロダクト考えて頂けますし、デザインのすごく細かいところまで関わってくれたりいろんな人を紹介してくれて、すごくありがたいんですよね。
外からのアドバイザーを巻き込めるのは大きいです。
そのなかで今回なぜ海外VCと組んだかというと、fintechって、世界で本気で勝負できる分野なのかなと思っているからです。
ZUUは、アメリカでも東南アジアでも本気で勝負をしようとしていて、その時に、Fenoxがアメリカにも東南アジアにも強かったので凄くシナジーが強いと思いました。
海外VCがどうかというより事業シナジーがあるなって思ったのが一番大きかったです。もちろん他にもFenoxの良い点はたくさんありますが、そういったシナジーは大きな点です。
国内VCならではのネットワークを活用した支援を行えるように
林氏:国内VCとして、海外に打って出ようとしているfintechスタートアップをどのように支援されているのでしょう?特に、海外VCにはできないような支援てどういうものがあるのかを高岡さん、お願いします。
高岡氏:
まず海外のVCと国内のVCの違いで思ったことを申し上げると、海外ってVCの市場が出来上がっているんですよね。
なのでその中にいる人の層が厚いということと、イグジットのマーケットも出来上がっているんですよね。
あとは、皆さんIPOするまでの期間を長引かせているというか、アメリカのPEファンドとかがVCに参入してきて、シリーズごとの資金供給者がすごく出てきているので、次どうなるのかが見えやすい、リターンが描きやすいという市場があり、そういった意味でいうと日本はそこまでいってないなと感じました。
で、マネックスがどのように海外支援しているかということですが、我々は海外のfintechVCであったり、シリコンバレーのVC、しかも金融に特化していないVCさんだったりとか、少しずつ投資させていただいてます。
これはストラテジックな目的でして、なるべく幅広く色々見ていきたいということです。
そういうインフラを投資先にも共有できればと思ってます。
また、MITメディアラボの会員であったり、うちのCTOがメディアラボの研究員でもあったりして、将来的には、MITメディアラボさんのような研究機関と共同でできるようにして、投資先との橋渡しもできればかなと思っています。
林氏:海外とのネットワークでいうと、国内VCって今一歩劣るというか、海外VCと組んでいないと厳しいんでしょうか。
高岡氏:
ステージによっても違うと思うんですが、逆にお聞きしたかったのですが、コミュニケーションコストってどう思いますか?
日本の市場って特徴的じゃないですか。
そういうところをすぐに理解してもらえるものなんでしょうか。
佐々木氏:
色々作っておいてあるのでそんなに(コストは)かからないですね。
必要とあれば、役員会も英語で行うのでそこには気になる部分はあまりないですね。
fintechの可能性ついて
fintechの事業機会は無限
林氏:fintechの事業機会、成長機会っていうところで、今日本で足りてない領域ってどういうところでしょう?
佐々木氏
事業機会はなんでもあるんじゃないかなと思います。
あまり日本人が得意じゃなかった領域なのかなと。
どういうことかというと、日本て都市伝説的に「そういうことやるとどこどこの団体から反発されるから辞めたほうがいいんじゃない」って言われるんですよ。
実は政府側も意見がほしいけど、誰も言わない。だから彼らも困ってるんですよね。
イメージでダメだと思ってることが結構あるんですよね。
最近ハッとしたことがあって。僕中学は男子校だったんですが、共学にしますと公約掲げて生徒会長になったんです。
実際に生徒会長になってやってみたところ、これは難しいと思って自分で辞任したんですね。
そういう話を最近したら、「そもそも共学にできないボトルネックってなんだったんでしょう」と聞かれた時に気づいたんですね。
確かにその時は僕そこまで考えてなかったと。
例えば、校則の条文にこう書いてあるからダメだったのかとか、意思決定プロセスのなかで誰がボトルネックになるからダメだとか、そこまで分析せずにできないと判断してしまった。
fintechスタートアップに求められるのは、ボトルネックまでたどりつくことですね。
そこまでいけばイノベーションってどんどん生まれるんじゃないかなと思います。
銀行も国も巻き込んで、世の中の仕組みを変えていく
林氏:今、日本ではクラウドレンディングの市場ってまだ小さいと思うんですが、どうやって成長を加速していけばいいのか、クラウドクレジット杉山さんお願いします。
杉山氏:
アメリカや中国に比べるとまだ日本市場は小さいですよね。
イギリスなんかは日本と違って調達ギャップを抱えているので、本格的にソーシャルレンディングを育てていかないと中長期的に経済がまわらなくなるのが分かりやすいので、銀行とソーシャルレンディングを社会でお金をまわす二本の柱として国をあげてサポートするということを表明しています。
日本の場合、政府の借金が多いということがよく言われますが、じゃあそれをどうしようという解決策を提案する人には1人も会ったことがないんですね。
でも解決策はあると思っていて、日本国内に貸付先がないのであれば世界中にどんどんお金を貸していって、そういう資金で成長した国に日本の国債を半分くらい買ってもらえば、借金がなくなることはないけど消化は十分可能なんじゃないかなと。
これは僕の妄想ではなくて、実際イギリスもアメリカも国としてそういったバランスシートを作ってどんどん成長しているので、日本も国をあげて、銀行とソーシャルレンディングを利用して世界にお金を流していけると面白くなるんじゃないかなと思います。
林氏:日本では、成長市場であるクラウドレンディング市場に対して、決済市場は既にかなり大きいですよね。国内、海外含めプレイヤーが多い中で、なかなか事業機会を見つけていくのって大変かなと思うのですが、そのなかでどのように戦っていくのか。鶴岡さんいかがでしょうか?
鶴岡氏:
決済や金融ってすごく難しいですよね。僕ですら、用語とかよくわからないです。
ただ1つだけ確かなのは、あらゆるものがインターネットに移っていくということです。
現状においてキングである企業が、新しい時代でもキングであり続けることはほぼ無いと思っていて。
そういう時代がいつか来るといった意味ではインターネットの未来は明るいなと思います。
fintechに最適な人物像
林氏:では最後に、fintech市場への参入を考えている方へ皆様から一言お願いします。
冨田氏:
私も証券の業界で働いているなかで問題を感じた人間です。
今fintechのイノベーションって部分部分で起こり始めてるんんですよね。
最終的にはAppleとAmazonとFacebookとGoogleによる中央決戦が起こったたようなことが起こるんじゃかなと思ってます。
何が言いたいかというと、金融の一番コアな部分のトランザクション、までどんどん広がっていくんじゃないかと。
例えば、日本でいうとリテールの金融商品の手数料ってどれぐらい落ちると思います?
保険と不動産と証券と銀行合わせると、個人の話ですが20兆円以上の手数料が発生しているめちゃくちゃでかいマーケットなんですよね。
そういったマーケットて、チャンスめちゃくちゃあるよねっていうことです。
金融業界のなかでお客様を見て、こういう構造だから変わらなかったんだということを体験した方にぜひfintechの世界飛び込んで来て欲しいと思います。
そういう仲間が増えていくと、構造的に変わっていくのかなと思います。
高岡氏:
約1年前のミートアップにも参加させていただいて、当社社長の松本が言ってたんですが、金融ってわかりにくそうというイメージがあるからこそ、参入障壁が大きい、からライバルがそんなにいません。
しかし、富田さんが仰ったように市場は巨大です。
これが、今後いろんなかたちでディスラプトされていって、業界構造が変わっていきます。
起業コストも下がってきており、金融機関はこぞってイノベーティブな人材を欲しているのです。よって今って失敗してもそんなにコストが大きくないから、今は入る時期としてはとても良いんじゃないかなと思います。
なので、何か面白い事業アイデアがあればぜひお声かけください。
林氏:うちもVCやってるので、面白い事業アイデアがあればぜひお聞かせください(笑)。
まとめ
クラウドファンディングや手数料無料の決済サービスなど金融業界のありかたを変えてしまうサービスが次々と生まれている国内fintech市場。
今年に入り更に注目度が高まっていますが、海外では既に成熟した市場になりつつあるようです。
なぜ日本と海外ではここまでにfintech事情は異なるのでしょうか。
考えられる原因の1つとして、佐々木氏が述べられたような「都市伝説」が影響している可能性があります。
金融業界は複雑で、様々な既得権益が絡んでいるようなイメージがあるため、問題がたくさんあると感じつつ、そのようなイメージに支配されて、行動を起こす前から諦めている方が多いのかもしれません。
今回登壇されたのは、既存の価値観にとらわれずに新しいサービスを創造した方々、彼らの成長を支援するVCの方々でした。
日本だけでなく、世界の金融市場に向けて大きなチャレンジをしようとしている国内fintechベンチャーの動向は今後も目が離せません。
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