「旅するマーケター」西井敏恭が、マーケティング分野で注目の人物にインタビューをする連載企画。
第1回は「旅」を中心としたビジネスを展開する株式会社TABIPPOの代表取締役、清水直哉氏にお話を伺いました。

TABIPPOの特徴は、なんと言ってもソーシャルメディアの活用です。
毎年、夏に開催している野外フェス「旅祭」の来場者約5000人、旅から学ぶ旅を学ぶをコンセプトにした「旅大学」では年間80回以上のイベントを全国で開催して、立ち上げから8カ月で3000人以上を集客。

また、旅のモノづくりブランド「PAS-POL」では、世界一周のエッセイ本、ウユニ塩湖の写真集や、絶景手帳など数々のヒット商品を生み出していますが、これら全てを「お金をかけずに」マーケティングをしています。

TABIPPO立ち上げの背景だけでなく、旅への想いやマーケティングの考えなどお聞きしました。

世界一周旅行をきっかけにTABIPPOを設立

DSC_3245.jpg

西井:清水さんとは、TABIPPOの立ち上げの時から、個人的に飲み会などで何度もお話したことはありますが、こうして仕事の話をするのはほぼ初めてですね。

清水:そうですね。西井さんにはとてもお世話になっています。

西井:清水さんは、学生時代に世界一周旅行をされたということで、共通点がありますよね。

清水:大学時代はサッカー漬けの毎日でした。サッカーばかりやっていたので、就職活動についてあまりよくわかっていなかったんです。

僕の大学(東京学芸大学)は教員になる人が多いため、就職活動をする人も少なくて、相談できる相手もあまりいませんでした。そこで、ずっと夢だった世界一周をやろうと決めたのが、大学3年生の時です。

それからは、計画的に留年するようにして、大学4年のサッカー部引退の翌日から世界一周に行きました。帰国してから、仲間と一緒に2010年の4月にTABIPPOを設立しました。

「旅っていいな」という気持ちを、みんなにも知ってもらいたいという想いがありました。

西井:学生で団体を立ち上げて、イベントなどを中心に活動していたわけですが、清水さんは一度就職をしますよね。

DSC_3285.jpg

清水:インターネット広告代理店の株式会社オプトに入社しました。

大学時代はサッカーしかやっていなかったので、スキルが何もない状態。社会人になって自分を成長させる必要があると思い、Web業界のベンチャー企業に標準を絞って就職活動をして、オプトに決めました。

西井:そこでいろいろ学んだのではないでしょうか。

清水:さまざまなことをやらせていただきましたが、失敗ばかりでしたね(笑)。
しかし、そこでWeb業界、広告マーケティングなどいろいろなことを学びました。

特に、ソーシャルメディア事業部の立ち上げを現場として経験したのは大きかったです。当時の上司にも恵まれいろいろな企業に関わることができました。

また、企業に提案し実行するだけでなく、土日はTABIPPOのことをやっていたので、そこで試してみて検証するという経験ができたのは大きかったですね。

西井:TABIPPOを立ち上げる時は、清水さんが創業メンバーに声をかけて法人化したのですか?

清水:いや、実は僕が一番最後なんです。立ち上げメンバーは僕含め3人なのですが、他の2人が先に法人化しようと動いていました。

当時の僕は部下もいたり、環境もすごくよくすぐには決断できなかったです。ただ、学生団体として立ち上げたのも僕でしたし、将来のことを考え半年かけて決断しました。

西井:そして退職して、それまで任意団体だったTABIPPOを株式会社にして、ビジネスを始めるわけですね。

清水:「旅で世界を、もっと素敵に」を理念として、旅を軸としたビジネスを展開しています。柱はイベント事業、メディア事業、マーケティング事業、プロダクト事業、キャリア事業ですね。

西井:コアメンバーの3人は、元々TABIPPOを立ち上げたメンバーですけど、今はどれくらい従業員がいるのですか?

清水:13人です。ほとんどのメンバーが世界一周旅行を経験しているのが特徴ですね。メンバーの平均渡航国数も25カ国を超えています。

旅の広がりを後押ししていきたい

DSC_3191.jpg

西井:旅行と一言でいっても、この数年で旅行の仕方も変わってきたと思うんです。

清水:僕が初めて一人旅に行くときに、親に言われたのが、「メールとかで連絡してこないでね」ということでした。

僕たちの親の世代の旅というものは、日本とのやりとりは手紙で、ガイドブックにメモをして持ち歩いて、トーマス・クックという時刻表を持って行かないと、何も情報が得られなかったんです。

でも、僕が初めて一人旅をしたときは携帯電話でメールは送れました。次の世界一周したときは、iPhone 3GSを持っていたので、Wi-Fiさえあればいくらでもネット接続ができました。Skypeもありましたね。今ならLINEとかでいくらでも無料で通話ができますよね。

西井:変な話、あと10年もすれば世界中どこでもネットが繋がるようになりますし、国という概念がネット上ではなくなりますね。

清水:値段もそうですよね。LCCが出てきて、海外に行くのに1万円や2万円で済む。ハードルは下がりましたね。

DSC_3167.jpg

西井:僕が15年前に世界一周に行ったときは情報がまったくないから、いろんな人からヤバイと言われましたよ(笑)。でもその頃は、ブログがなかったので、自分でホームページを作ったことがすごい価値になって、それを見ている人が増えて、それで本を出したりしていたので。

それに比べると情報源がたくさんあって、ネットで調べればたいていのことはわかる。宿とかも評価まで付けてくれている。どの宿でもたいていWi-Fiが繋がりますしね。スマホで調べて次の宿を決めたり。旅はしやすくなりましたよね。

清水:その分、旅している状況というのも見えやすくなりましたよね。今あいつウユニ塩湖にいるんだみたいな(笑)。いままさにウユニシーズンなので、みんなウユニ塩湖に行ってるんですよ。Facebookで1日1ウユニ塩湖みたいな(笑)。

そういうふうに旅がインターネットを通じて広がっていく後押しを、誰かがやっていかないといけないなと思っていて。

西井:Facebookがどうこうじゃなくても、情報自体の伝達スピードが上がってきていますね。

清水:Instagramもすごいですね。旅の写真がたくさんアップされていますからね。

ソーシャルメディアをナチュラルに活用している

DSC_3199.jpg

西井:求人活動などはどうやって行っているんですか?

[member_only]

清水:元々学生スタッフとして一緒に活動をしていたり、イベントの参加者だったりと、基本的には知り合いを採用していく形がメインです。もちろん、応募があって、採用するケースもあります。

これまで、求人サイトに広告を出したりしたことはありませんね。今、とある求人サイトに月数万円で出稿しようかしないかというのをしぶっています(笑)。

西井:TABIPPOは、ソーシャルメディアをうまく使っているなという印象がありますね。特にFacebookページは12万人以上が「いいね!」をしていて。ソーシャルメディアをうまく使っている企業というのは、実はそれほど多くないと思うんです。

ソーシャルメディアではものは売れないよねって言っている企業は多い。TABIPPOは、ソーシャルメディアを始め、さまざまなツールを使ってやっているっていうのが、すごくうまいと思うんです。

単純に、Facebookのファン数が増えたからよかったねというのではなく、イベントに来た人たちによって伝播されて、このイベントに行きたいと思わせているってストーリーが描けているなと。

清水:僕はコミュニティ作りが大事だと思っています。お金を使って広告を打ったりすることで、TABIPPOのファン数は増えるかもしれませんが、僕らはそれを一切やっていません。

基本的にはFacebook、Twitter、Instagramなどのソーシャルメディアで情報を発信して、それに共感してくれた人が集まってきてくれて、ひとつのコミュニティになっているという感じですね。

西井:ファン数がKPIじゃないということがわかりますよね。いくらファン数を増やしても、それで効果が出るかというとそうでもない。

その点TABIPPOは、ソーシャルメディアをうまく活用することを、すごくナチュラルにやっているなと思います。

清水:ナチュラルにやっているのは、ひとつポイントがあると思っていて。お金をかけるかけないは別として、ソーシャルメディアと向き合う向き合わないで言ったら、絶対向き合わないといけないと思うんですよ。

時代が変わって、Web上で人と人、情報が繋がるのが当たり前になって、その変化に企業のマーケティングも対応していかないといけないと思っています。

DSC_3250.jpg

西井:ソーシャルメディアもそうですし、Webもそうですね。例えば、スマートフォン対応するかしないかという話があるんですが、ポイントはそこではない。スマートフォン対応をした後に何をするかが大事なんです。

ソーシャルメディアをやらなくてどうするのということなんですよね。

清水:僕は、世の中がどう動いているのか、どうなっているのかということを経営者レベルやマーケターレベルでどれだけ理解しているのかというのが基本的には大事だと思っています。

各論ですが、TwitterやFacebookができた背景というものを理解して、それを経営者やマーケターがメンバーにきちんと伝えて、メンバーが理解する。そういう組織体になれるかどうかが重要だと思っています。

西井:そういう意味でいうと、経営者がマーケティングに敏感で常にアンテナを張っていないと、会社にそういう文化が作れませんよね。

清水:ほんとうにその通りですね。ナチュラルなところの話をすると、僕はソーシャルネイティブの第一世代なんです。

2010年頃にTwitterが出てきたときに就職活動をしていて、人と人はSNSでこうやって繋がるんだということを学生時代に経験して社会人になっています。僕より下の世代の人たちはもっとすごいじゃないですか。

僕らでいうと創業メンバー含め、TwitterやFacebookを使うというのは生活の一部なんです。旅好きメンバーが集まっているからこそ尚更です。
意図的にこうなってほしいって考えることもありますが、そこをメンバーがナチュラルにできるっていうのはすごく大きいと思っています。

西井:その辺の感覚を、大きい企業や古くからある企業が対応していくためにはどうしたらいいのかという問題があります。

仮に、清水さんが歴史のある大企業でソーシャルメディア担当になったとします。そこでソーシャルメディアを始めるために会社の許可を取らないといけない。そこで、どんな企画書を書いたって通らない気がするんですよ。よくわからないとか言って。

そこが日本の企業の問題だと思っています。

清水:絶対通らないですね(笑)。海外の企業はどうしているんですかね。

西井:やっているところはやっていますね。それは多分、ある程度権限を与えることが重要なのではと思います。

日本は、ものづくりの国だと言われることが多いじゃないですか。昔は、需要と供給のバランスでいうと、テレビが欲しいというときにテレビを生産することが大事だった。だから工場に投資して、何台生産できるかというところに注力してきたんです。こういうところの投資にはすごい慣れているんです。

でも、今はテレビは世の中にいっぱいあるから、どれを選ぶのかの権限は消費者が持っている。製品を買ってもらうためのマーケティング自体に人材や資金を投資することに慣れていないんです。

そういうところを、トップが考えを変えていかないとたいへんなのかなと思います。今さら工場に投資するのは疑問に思いますね。

旅が原体験にある人は、これからの時代の働き方、生き方にマッチする

西井:会社として、何かおもしろい制度などありますか?

清水:うちの会社は、旅するオフィスという制度があって、出社しなくてもいいルールになっていて、タイムカードも存在しません。

また、旅をするなら会社をいつでも休んでもいいという制度があります。

西井:いい会社ですね、私が転職したい(笑)。それはやっぱり「旅」を軸とした会社だからですか?

DSC_3219.jpg

清水:ベースは「旅を広める会社なのに、自分たちが旅をしてないのはどうなんだ。東京のオフィスにこもって仕事しているのはカッコ悪い」と思ってます。また、「オフィスで仕事をする意味ってなんだっけ?」っていうのを突き詰めて考えた結果なんです。

ひとつの例で言うと、ヨーロッパと仕事をするのに、こちらで何時に働いたほうがいいとか、アメリカで働くにはこちらはどのくらいの時間に動いたほうがいいというのがあるので。

そもそも、定時時間の9時から18時まで働くみたいなことでは絶対グローバルで戦えないと思っているんですよ。だから、働くのはどこでもいいということにしています。

もちろん、何も用事がなかったら会社に来てほしいですし、来たほうがいいこともたくさんありますので。
それはベースにしつつも、僕も明日から大阪に出張に行ったり、海外に仕事に行くこともあるので、自分が会社にいないことを前提にちゃんと働けるようにしています。

例えば、ちょっと集中してアイデアを出したいから、鎌倉のカフェに行って仕事をするというのもアリです。

旅行のために休んでいいというのは、有給だったり無休だったりする場合もあるんですが、「旅」をメインにした会社ですから、旅行にはどんどん行ってほしいという思いがあります。

もうひとつ、スーパーフレックスタイムのような制度を導入しています。働く時間帯は自分で選んで、早く来て早く帰ってもいいし、昼に来て遅くまでやってもいい。

西井:そういう働き方の多様性というのは今後出てくると思いますし、それを受け入れていく必要があると思います。

多様性を受け入れられる会社があればあるほど、優秀な人材が集まってくると思うんです。
優秀な人は、自分がやりたいことをやるためにどんどん独立したりしますよね。そういう人の受け皿をちゃんと作っていくというのがすごく大事なことです。

自分の会社もそういうふうにしていきたいなと思っています。一方で、他の人と触れ合っている時間が長くないと、なかなか成長できないという面もあって、まだ発展途上の人たちをどう成長させるかというのがキモだなと思っています。

清水:本当にその通りです。

会社として成果を出すというところと、一方でこういう風な働き方でやりたいというところがあります。いわゆる軍隊の会社を作って売上を出すのは簡単なんです。何時から何時までちゃんと働いてください、こういうことをやってくださいといってやらせるのは経営として簡単です。

だけど、僕が言っているのはそうじゃない。自由に働いて結果を出すというのは難しいんですが、基本的にやりたいという気持ちがあります。

なんで毎日出社しなければいけないんだろう。これだけインターネットが発達しているのに、出社することに意味があるんだろうかというのも含めて、いい悪いではなく、それに向き合って考え続けるということはすごい大事なことだと思っています。

西井:僕も外に出ていることが多いので、基本的にあまり会社にいないんです。たまに会社に行くと、社員と「久しぶりー!」という状態です(笑)。

清水:一般的な会社だと難しいかなと思います。

でも、僕たちは元々旅が好きなんで、相性はいいと思うんですよ。場所は関係ないとか多様性を受け入れるとか、全部旅なんです。

だから、僕は旅が原体験にある人は、これからの時代の働き方、生き方に合っている。旅の経験が生きるということをすごく思っています。

工夫をして働かないと休みがとれない

DSC_3337.jpg

西井:僕も世界一周をしたから、今の話はすごい共感できます。
しかし、これを一般の人に言っても全然わかってもらえないんですよね。

例えば、2週間休んで旅行しようよというと、2週間あるんだったら毎週1日ずつ休んだほうがいいという考え方もあるんですよ。そこは原体験が違ったりしますからね。

もしTABIPPOに、すごく優秀だけれども、日本から出たことがありませんという人の応募があったらどうしますか?

清水:ちょっときついかもしれないですね。それでも、旅を広めたいとか根本的なところが合っていればいいと思います。

19歳のときに採用したインターンの子は、海外には行ったことがないけれど、旅の感覚はすごいわかると言っていました。でも、その子はこの1年で3回くらい海外行ってますね。

今、インターンが一人モロッコに行っていて、デザイナーはチリにいて、元インターンがボリビアにいて、来週から一人タイ、来月からキューバにいくメンバーもいますね。
ほんとうにそういう感じなんですよ。

それ前提で働くので、みんなすごく工夫していますよ。

西井:仕事をしていると、時間の使い方がうまいとよく言われるんですけど、工夫をしないと休みがとれないんですよね。僕も年に3回くらい海外に行くのでその時間を取りたいですし。

別にそのために働いているわけではなくて、仕事も楽しいんだけど、旅行も楽しいので、その両立を目指すとどうしても工夫するしかない。

清水:世界中を旅していると、そういう国いっぱいあるじゃないですか。ほんとに夕方からビール飲んでるおっちゃんばっかりいて(笑)。

僕が最近例えで使うのが、日本とドイツの違いですね。1時間あたりの労働生産性とかドイツのほうが圧倒的に高くて、それでいて、国として経済力があって。

彼らはすごい合理的なんで、日本で同じことはできないと思うんですけど、両方のいいところを取り入れることはできると思っています。

フォトグラファー:三浦一紀