この記事は2016年9月5日に更新しました。

あなたの企業は、企業間の販売戦争を勝ち抜くための正しい戦略を取れていますか?

よくニュースなどで大手企業の戦略事例などが紹介されますが、中小企業がそのまま大手企業の事例を真似ても役立たないことが多いです。これは双方に合った戦い方が180度違うからです。そこで中小企業は、弱者の戦略である「ランチェスター戦略」を取り入れることが正しい戦略を取るためのポイントになります。
「ランチェスター戦略」は世界でもっとも広く利用されている戦略の1つで、弱者が強者に立ち向かうための戦略手法です。実際に多くの企業が実践し、競争を勝ち抜き売上を伸ばしてきました。

今回は、ランチェスター戦略の基礎と、実際のオペレーションや考え方をまとめました。ぜひあなたの実践に活かしてください。

目次

  1. ランチェスター戦略とは
    1. ランチェスターの法則とは
  2. 戦力差を算出可能にした第一法則・第二法則
    1. 第一法則は弱者の戦略
    2. 第二法則は強者のための法則
  3. マーケットシェア理論でシェアごとの戦術を理解する
    1. マーケットシェア理論の具体例
  4. ランチェスター戦略の実践
    1. 弱者の取るべき戦略
    2. 強者は総合力で勝負
  5. ランチェスターとは
    1. 最初に立ち上げたビジネスは手放している
    2. 戦略自体は古来からありました
    3. 日本で注目されはじめたのは発表から40年後
    4. 日本で注目されはじめたのは発表から40年後

ランチェスター戦略とは

ビジネスマン
ビジネスを成功させたいとき、戦略的な発想が重要なのは中小企業も同じです。そこでよく引き合いに出てくるのがランチェスター戦略です。

ランチェスター戦略は、第一次世界大戦時にイギリスのランチェスターが編み出した「ランチェスターの法則」と、第二次世界大戦時にランチェスターの法則から進化した「ランチェスター戦略方程式」をミックスした戦略で、軍事作戦のモデルです。が、しかし、軍事理論でありながらマーケティングと似ている部分があるため現在のビジネスシーンでもよく用いられています。

ランチェスターの法則とは

ランチェスターの法則とは、「戦闘力=兵力の質✕量」という法則です。戦いにおいて「戦闘力」はとても重要です。「戦闘力」を数学的に、定量的にアプローチすることをはじめて論じたのがイギリスの数学者でエンジニアでもあったランチェスターです。

ランチェスターの法則では、1位を強者、2位以下をすべて弱者と定義します。

戦力差を算出可能にした第一法則・第二法則

ランチェスターの法則には有名な2つの法則があります。

第一法則は弱者の戦略

第一法則は一騎打ちの法則とも呼ばれていて、一度に一人の相手と戦う一騎打ちをイメージしています。戦国時代の近距離戦をイメージすると分かりやすいでしょう。

  • 竹槍を持った兵士が10人いる側と20人いる側では、20人いる側の戦力が10人残り、10人いる側は全滅。
  • 竹槍を持った兵士が10人いる側と銃を持った兵士が10人いる側では、銃の武器効率が高いため竹槍側が全滅。

計算式にすると、

戦闘力=武器効率(質)× 兵力数(量)

です。

兵士の戦闘力が同じであれば、兵士の多いほうが勝つ、というものです。これは中小企業に当てはめると兵力で大手企業に勝てないことが多いため、質(兵士の戦闘力)を高めていくことが一般的にとるべき戦略といえます。

中小企業は数で負けてしまう可能性が多いため地の利を活かし、局地戦(得意分野など)に追い込み、相手の戦力を減らすことが重要です。よって中小企業では、本人のパフォーマンスが上がるのであればフレックスな勤務体系にするなど、個々の戦闘力を上げる内部施策が有効に働きます。

第二法則は強者のための法則

第二法則は集中効果の法則とも呼ばれていて、一人で複数の相手を同時攻撃する広域戦・遠距離戦をイメージしています。近代的な戦いをイメージすると分かりやすいです。

戦闘力=武器効率(質)× 兵力数の二乗(量)

同じ武器効率の銃を持った10人の軍と、5人の軍が戦った場合、戦闘力は兵力数の二乗に比例し、

  10の二乗−5の二乗=√75=8.66(小数点3位以下切り捨て)(武器効率は同じなので兵士数の2乗のみで計算)

となり、小数点以下を切り捨てると8人生き残るということになります。

大手の戦略

1対多の戦いにおいては、そもそも多数に対して破壊力を持つわけですから、わずかの差が非常に大きな戦果の差になります。

分かりやすい例を見てみましょう。ビッグ4と呼ばれるApple、Google、facebook、Amazonの4社でも、ある程度の追撃をしますが、シェアNo1を取っていこうという戦い方はほとんどせず特定分野でのNo1を死守する戦略が基本となっています(Googleならば検索など)。

よって、強者がとる戦略というのは、弱者が行って成功した戦術を真似し、それを数で圧倒し、膨大な資金によって広域に拡散(もしくは成功を買収する)させます。これは資金の有効的な投資が鍵となります。

人材の確保では、人材獲得サービスを使うことからヘッドハンティングへ。さらに人材獲得のためには企業買収など。とにかく火力(資金力)に物を言わせた攻勢と、代理店や宣伝などを利用して広域の覇権を取るような打ち手が基本です。

この法則から大企業のように兵力(資金や人員などのリソース)が優勢な場合は第二法則で戦うべきで、大企業よりも兵力が劣勢な中小企業は特定分野に特化し第一法則で局地戦を行ったほうが良いということになります。

マーケットシェア理論でシェアごとの戦術を理解する

ランチェスターの編み出した法則を応用し、市場シェアについてのある興味深い数字が算出されています。市場シェアをどれくらい取ればいいのか、という目安です。これはマーケットシェア理論と言われています。

73.9% 独占的になり地位が圧倒的な安定となる。
26.1% トップの最低条件、これを下回ると1位でも安定はない。
10.9% 市場全体に影響を及ぼせるようになり、足がかりの数値とも。
06.8% 市場への影響力を失う、撤退の目安とも。

参考:
マーケティング用語集 クープマン目標値 - J-marketing.net produced by JMR生活総合研究所

マーケットシェア理論の具体例

パソコン市場において、基本ソフトであるOSはとても大きいものです。パソコンという市場自体が成長してパソコン市場において、基本ソフトであるOSはとても大きな存在です。パソコンという市場自体が成長していくのであれば、そこで絶対的優位なシェアをとった企業は安定的成長を見込めることになります。

インターネット上でOSなどの市場シェアを調査しているNet Applicationsによると、2020年2月のOSシェアはWindowsが88.2%でトップ。次いでmacOSの9.42%、Linuxの1.82%となっています。

参考リンクWindows 10のアクティブ台数が10億台を突破。世界の7人に1人が利用

ランチェスター戦略の実践

それぞれの戦い方

弱者の基本戦略は、差別化戦略と言って強者と差別化を行い局地戦で戦うことです。
それに対して強者の戦略は、弱者が差別化が行われないようにし、弱者と同じフィールドで戦うことが有効です。これをミート戦略といいます。

弱者の取るべき戦略

弱者が局地戦を行い差別化戦略を実践するためには、実際にどういう戦略をとり、具体的にオペレーションしていけば良いのでしょうか。それは市場の理解を行うことです。

市場を理解するためには、4Pや4Cというフレームワークを用います。4Pや4Cを用いることで、自社の立ち位置、そして強みが明確に見えてくるでしょう。そこから差別化戦略へとつなげていきます。

関連記事:
4P

強者は総合力で勝負

強者(大手企業)はその規模、ブランド、資金、人材などあらゆる手段を講じて、総合戦に持ち込むことが基本です。

たとえば、ある新興ITスタートアップに対して、圧倒的ブランド力をもって新サービスを立ち上げ、既存会員に「~までに登録したらポイント10倍!」などと総攻撃します。また、代理店制度などのスキームを投下して、広域戦闘に持ち込みます。

新興ITスタートアップが、前述のような安定したトップシェアになる、もしくは市場が成長していてトップシェアの獲得が必須である、といったときにはタイミングを見て対策を講じます。

ランチェスターとは

ランチェスター
ランチェスターは、本名をフレデリック・ランチェスターといいイギリスのエンジニアです。
自動車工学や航空工学のエキスパートであり、若いときから自動車開発に取り組んでいました。

最初に立ち上げたビジネスは手放している

ビジネス戦略で有名なランチェスターも、じつは若くして立ち上げた自動車ブランドを売却した過去があります。

1900年台当初にしては、あまりも先進的で独創的なメカニズムだったために、市場であまり理解を得らませんでした。後にその会社を手放します。

その後技術コンサルタントとして、理論の分野に進んでいきます。そのとき発表された**「集中の法則」というレポート**(1914年)で、一躍脚光を浴びることになります。自ら立ち上げた会社を手放したて5年後のことでした。

戦略自体は古来からありました

世界の歴史上、多くの戦略や戦術が語り継がれてきました。日本でも、多くの経営者がスピーチのさいに、中国の孫子の兵法を引き合いに出すことも少なくありません。

しかし、ランチェスターの法則の注目すべき点は、その戦略を数字で算出可能にしたところです。エンジニア出身だったランチェスターならではのアプローチであり、普遍的に語られる理由でもあります。

日本で注目されはじめたのは発表から40年後

国内では、1955年に「オペレーションズ・リサーチの方法」という翻訳書が出版されてから注目を集めます。経営戦略に、応用できるのではとの見方から、経済学的方面で知名度を上げました。

ランチェスター戦略を構築し日本に紹介した田岡信夫氏

ランチェスター戦略を構築し日本に紹介したのは経営コンサルタントの田岡 信夫(たおか のぶお、1927年 - 1984年)氏です。1970年代前半、当時オイルショックが起こり、それまでの高度経済成長期から一転して日本は不況に陥りました。
市場縮小期に、企業はどうやって勝ち残るのか。
コンサルタントの草分けの故田岡信夫氏は、それまでのスピード勝負、体力勝負によらない、科学的・論理的な経営戦略・営業戦略が求められると考え、成熟市場で企業がいかにサバイバルするかを指導するのがランチェスター戦略を海外から持ち込んだのです。日本風に考えやすいように再構築したランチェスター戦略は、今日も大手として存続している大企業や現在日本を代表する企業に成長した当時の新興企業などに大きな実績をもたらしました。

ランチェスター戦略は日本において競争戦略・販売戦略のバイブルといわれており、経営の基本となっています。

ランチェスター戦略を理解して業界の勝者を目指す

・接近戦では戦闘力の差が大きな差になる。
・飛び道具が主体の戦闘ではわずかの差が大きな差になる。
・いずれにせよ数は重要。その差をどう埋めるかの工夫が鍵。
・圧倒的シェアを握ると安定的な地位となる。
・それぞれの戦い方をするときにも、市場との対話が重要になる。

ランチェスターは今なお私たちに多くの示唆を与えてくれます。ただ、その活用はつねに市場や競合、自分たちとの対話であり、その局面の理解が欠かせません。

ランチェスターの法則を応用して、ぜひ勝利の美酒を口にしてください。

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