皆さんは、年に何本の映画をご覧になりますか?

映画好きの方なら、ブックマークに映画情報サイト、SNSでは映画配給会社や情報サイトのアカウントをフォロー、スマートフォンには情報サイトのアプリを入れて、新着情報の通知をオンに……など、様々な方法でアンテナを張られている事でしょう。

そんな映画ファンの心をグッと掴む上でオススメなのが、「ティザー」と呼ばれるPR手法です。

今回は、Appleやサントリー、そして映画などの事例をもとに、ティザー広告についてご紹介します。実際、この手法は映画だけではなく、様々な商品の広告にも応用されています。ぜひ一読ください。

ティザー広告って何?

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まずは「ティザー広告」についておさらいしてみましょう。

ティザー広告」とは、思わせぶりなビジュアルやキャッチコピーを予告なしに打ち出す手法です。「ティザー(teaser)」には「(糸や縄が)絡まる、悩ませる」などの意味があり、受け手に「これは何?」と思わせる目的で作られます。

映画の予告編の場合は、強い印象を与える短いカットをフラッシュ的につないだり出演者の名前だけを表示して、最後にタイトルと公開予定日(未定の場合は大まかな時期)だけを提示して終わり、というスタイルが一般的です。
  
参考:
ティザー広告|ferretマーケティング用語辞典
  

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Original Superman Movie Teaser 1978

こちらの映像は、1978年に公開された「スーパーマン」のティザーです。夕刻の雲間を飛び続ける映像に、出演俳優の名前が次々と重なり、最後には題名が提示されるだけのシンプルな映像ですが、今作の「自由に飛翔するイメージ」を強烈に印象付けると同時に、俳優たちの役どころも明かさずに謎めいて終わる見事な構成は、ティザー広告初期の名作とも言われています。

この手法は、以後新作映画PRの定番手法となり、大作映画では撮影が開始されたタイミング、あるいは広告戦略上、情報解禁となった時点に第1弾の予告編やポスターが投下されるのが常となっています。
  

映画の宣伝以外にも応用されるティザー広告

このように、一般消費者に向けて非常に強い印象を与える「ティザー広告」は、ほかの商品分野でも応用されるようになりました。

有名な例をご覧頂きましょう。

Apple社 - 初代「Macintosh」-

Apple社が初代「Macintosh」をリリースする際に公開された、有名なCMです。
  
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映像では「Macintosh」が、どのような製品であるか、具体的な性能はおろか、外観すら示されていません。しかし、ディストピアSFの古典である「1984」のイメージを引用して、当時まだ無味乾燥なイメージしかなかったパーソナルコンピュータに対抗して、自由なイメージの新たな情報機器が誕生した事をテレビの視聴者に強くアピールしたのです。
  

サントリーフーズ株式会社 - サスケ(清涼飲料)-

奇しくも同年の日本でもこのようなCMが展開されました。
  
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サントリー サスケTVCM 1984年

新しく発売された清涼飲料水のCMですが、こちらも最後に商品の映像と、意味を掴みかねるキャッチフレーズによって商品の性格が何となく理解できる以外は、謎めいた印象だけを視聴者に強く刻みつけて終わります。

残念な事に、商品は評判にはならず早々に終売となりましたが、当時の子どもや若者には強烈な印象を与えたのは事実であり、今でも「CMは憶えているが商品は飲んだことがない」と揶揄されるほどです。

セールス的には期待していた成果は得られなかったようですが、ティザー広告による周知効果の強さを証明する例の1つといえます。

その後、広告のステージはインターネットにまで広がり、当然のようにネット広告の世界にもティザー広告が登場します。ネット広告の場合、企業サイト内に広告ページを設けるだけではなく、対象商品専用のサイトを丸ごと作ってしまうケースも珍しくありません。
  

ティザー広告のターゲットと戦術

続いては、ティザー広告が採用される商品やサービスについてご説明します。
商品としては、下記のような傾向がみられます。

・スマートフォン、ノートPC、周辺デバイスのような電子ガジェット
事例【SONY「VAIO」新製品ティザー広告(2008年)】※紹介記事

・スニーカーや腕時計のような、ハイテク要素をもつファッションアイテム
事例【NIKE「AIR-JORDAN6 x SLUM DUNK」ティザー映像】※終売商品

・大人向けの高級玩具
事例【バンダイ「ネオアマゾンズ・ドライバー」ティザーサイト】※紹介記事
※ハイグレードなフィギュア、アニメやドラマの登場人物をイメージしたアイテム
  
上記のような商品に興味を持ち、購入するターゲット層ですが、下記のように分析できます。
  

1. ある程度の収入があり、趣味性の高い商品の購入にお金を使う余裕がある。

定職、あるいは定期的に転職しても安定した収入を見込める技能のある独身の中高年が、それに当てはまります。

趣味性の高い商品には当然プレミア的な価格が付帯しますから、収入や支出配分に余裕のない生活をしている層は、当然性能や品質が相応な商品を求めますが、生活に余裕があれば、「手触り」や「高性能」など、実用には必要なくとも「あれば嬉しい」要素、いわゆる付加価値への欲求が生まれます。
  

2. 若年期に、ホビー・カルチャー分野に耽溺していた

子どもの頃に観ていたアニメや特撮番組のグッズを親にねだった経験のある人は少なくないでしょう。しかし、当時は満足していたグッズでも、成長して大人の審美眼を獲得すると、どうしても子どもだましに感じられてしまいます。それ以外の趣味の分野でも、子どもの頃は「まだ早い」と、入門者向けの安価な商品をあてがわれているのが普通です。

一般的には、子どもの頃の趣味は成長と共に興味の向き方が変わったり、幼稚な感じがして離れてしまうものですが、深くはまり込んでしまった一部の人たちは人目をはばかる事無く、あるいは人目を避けてひっそりと続けていて、やがてそのまま成人となります。

そのような層の人たちが、成人して経済的にも余裕をもつようになると、「子どもの頃に欲しかったあのアイテム」への欲求を抱くようになります。

昨今は、メーカー側にも元マニアが入社し、商品開発に関わるようになってきています。作り手がクオリティにこだわって多少高価な商品になったとしても、買い手も同じ志向を持っているので、全く問題はありません。
  

3. 情報収集はネットが中心

1990年頃までは、新製品やサービスの情報は雑誌や新聞が中心でした。
※テレビは放映時間に物理的限界があるので、公益性の少ないマニアックな情報は積極的には扱わない傾向がありました

しかし、報道や情報交換の舞台が次第にネットに移るようになると、プレスリリースやリークはネット先行、新聞雑誌はその後をフォローするような体制に変化していきました。

PCやスマートフォンの扱いに抵抗のない1960年代生まれ以降の層は、SNSの発達によって互助的に作用する情報網を活用する最初の人々であり、爆発的に伝播するネット上の「うわさ」に対して非常に敏感です。
  
  

基本的な戦術

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ティザー広告の基本的な戦術は、2つあります。

1つは、情報を小出しに少しずつ提示していく事です。例えば、意味ありげなシルエットやキャッチコピー、発売予定日すらもティザーの材料となります。

人気のある作品(漫画や小説)の映画化であれば、登場人物を時間差で一人ずつ提示していくような手法もあります。原作ファンであれば、ファンだけがわかるようなキーワードを提示する事もあります。熱狂的なファンが存在する作品やメーカーの商品であれば、彼らが勝手に解説してくれる事も少なくないので、それまでは無関心だった一般層への「布教」の効能もあります。

もう1つは、小出しにしていく事で、宣伝戦略の軌道修正がしやすいという点です。SNSなどで流布される反応や感想を元に、情報の投下タイミング、告知イベントの方向性など、当初の計画に対して柔軟に修正が加えられます。

当初は男性向けでしたが、リサーチの結果で女性層にも訴求する事がわかれば、そちら向けのプロモーションも打てるといった感じです。時間をかけてじっくりと、発売前・公開前に向けて盛り上げていくのが、ティザー広告の真骨頂といえます。
  

まとめ

ティザー広告の「チラ見せ」戦略は、受け手の覗き見欲を刺激し、想像力をかき立てます。隠されれば見たくなるのは人間の本能といっても過言ではないでしょう。しかし、万能に見えたところで、これはあくまでも戦略の1つに過ぎません。上々の投下タイミングや見せ方を失敗すれば、単なる自己満足に終わってしまいます。

そして何より重要なのは、商品自体に魅力がなければ、隠しても何の意味もないという事です。満を持して世に問うならば、それ相応のクオリティや新規性が商品になければ、プロジェクト自体が空振りに終わってしまうでしょう。

ティザー広告は使う場面を選ぶ手法ではありますが、このような手法がある事を知っておけば、PR戦略の一助となると思います。