PCとインターネットは私たちの生活を大きく変えましたが、マーケティングの世界においても例外ではなく、すでに「インターネットリサーチ」抜きに現在のマーケティングを考えることはできません。費用も数十万円からと非常にリーズナブルに実施できるため、多くの企業が新たなプロジェクトの立ち上げや、商材・サービスの開発の際に活用しています。

さらに、インターネットリサーチを取り巻く環境はスマートフォンの急速な普及によって、様々な問題が生まれるとともに、従来では不可能だったデータの取得もできるようになっています。

そこで今回は、スマートフォンがインターネットリサーチへもたらした影響について、株式会社インテージの長崎貴裕が解説します。

◆Profile
長崎 貴裕(ながさき・たかひろ)

株式会社インテージ 執行役員 開発本部長
株式会社インテージホールディングス R&Dセンター長
株式会社IXT(イクスト) 代表取締役社長 

  
参考:
インターネットリサーチの変遷 ~ インターネットが大衆化し始めた1990年代後半からスマートフォンが普及した現在まで ~|ferret

【最新版】2016年のスマホ普及率を男女・地域・年代別に大公開!まさにスマホオンリー時代!マーケティングがこれからどう変わるべきか予想してみた。
  

ネット調査の主流はPCからスマホへ ~ "幸せな10年"の終焉 ~

7178_002.jpg

技術革新によりマーケティングリサーチの手法は大きく様変わりしています。さらに直近数年間に目を向けると、インターネット利用デバイスの主流がPCからスマートフォン、タブレットへと急速にシフトしています。これによりインターネットリサーチは、再び大きな転換期を迎えています。

7178_001.png

[引用元:スマートフォンの世代別普及状況|総務省「通信利用動向調査の結果」より](http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/160722_1.pdf):blank
  

スマートフォンの利用割合は高齢者を除く、全ての年齢層において増加傾向にあります(図表)。

このようにデバイスが分散・多様化することはインターネットリサーチにおいて新たな問題を発生させており、私たちが「幸せな10年」と呼んでいた状況はとうとう終焉を迎えてしまいました。

スマートフォンがインターネットリサーチにもたらした影響はたくさんありますが、その中でも厄介なのが、画面インターフェースがPCとは大きく異なる点です。スマートフォンの画面はPCに比べて見える範囲が狭いため、スクロール操作が多く必要となり、さらに文字入力にも時間がかかります。入力時のこうしたストレスによって、同じ調査を行っても、PCとスマートフォンでは回答に大きな差が出ることが明らかになっています。
  

デバイスによる回答の差をなくす試みが必要に

7178_004.jpg

モニターによる同一の回答をPCとスマートフォンで比較したところ、例えば、同じ数の設問でもスマートフォンでは回答を途中で中止するケースが2倍近くに上りました。また、複数回答を得るマトリクス形式の設問に対しては、スマートフォンの方が選択される項目数が少ないという結果でした。このほかにも、設問や選択肢の見落としやいい加減な回答の増加などによる、データ精度の低下も予想されます。

こうした状況は、インターネットリサーチにも少なからず弊害をもたらすと考えられます。例えば、ブランドの定例調査では、項目選択や回答の数が減ることで、調査対象のブランドが実際以上にダウントレンドとなっているという誤った結果が出ることなどが懸念されます。

とはいえ、我々としてもただ手をこまねいているわけではなく、PC、スマートフォン、タブレットなど、端末ごとの回答の差をできるだけ小さくするように調査票の作り方を変えるなど、 “マルチデバイス”に対応した研究を日々続けています。

●インターネットリサーチにおけるスマートフォンとPCの差

・スマートフォンの画面はPCより小さい → 1画面で見える範囲が狭い、小さい
・スマートフォン入力はキーボードを使わない → 文字入力はPCより時間がかかる可能性
・画像や動画を呈示する設問 → PCより呈示物が小さく見える
・マトリクス形式の設問 → PCよりスクロールが多く必要
・自由回答、純粋想起など → PCより入力に時間がかかる
(インテージ調べ)

  

スマホによる調査手法の広がり……人の行動は全てわかる?

7178_003.jpg

前述のような問題がある一方で、スマートフォンはリサーチ分野にたくさんの可能性をもたらしています。

周知のようにスマートフォンには写真や位置情報などといった、生活者の行動ログを取りやすい機能を備えています。こうした特徴を活かすことで、モニターの行動や購入履歴などを細かく収集することができるようになっています。

さらにリサーチする際、スマートフォンを利用することは従来のアンケートとは全く異なるデータの収集を可能にしています。例えば、通常のアンケートで行った商品の購入リサーチでは、モニターが過去に買ったことを“覚えている”商品だけが対象となります。一方これに対して、スマートフォンの記録は本人の記憶に依存しない正確な行動ログです。こうした、従来では不可能だった生活者のデータを集めることも可能となっているのです。

現在、スマートフォンに限らず、測定の技術はかつてないレベルに至っています。顔認識などのセンシング技術もどんどん進化しており、今後生活者の行動は全てわかるようになるといっても過言ではないでしょう。
  

生活者の行動はわかっても頭の中がわかるわけではない

7178_006.jpg

ただ、こういう話をすると、アンケートがリサーチ手法としてダメになったという印象を持たれるかもしれませんが、それは全く違うことを強調しておきます。

前述のように、現在は様々な行動に関するログ・データが取得できるようになっていますが、アンケートでなければわからないことは、まだまだたくさんあります。ログでわかるのは基本的に“生活者の行動”だけで、頭の中までがわかるわけではありません。肝心なことは、結局は本人に直接訊くしかなく、アンケートはその重要な手段なのです。

事実、これだけ多様な調査手法が出てきている中でも、いまだにアンケート調査の需要は減っていません。今後もこのリサーチ手法は消えることはないと考えています。
  

まとめ

先ほど述べた商品購入の例で言うと、“買った”ことを覚えている商品と、覚えていない商品を比べると、当然ながら記憶に残っている商品の方が、モニターが次も購入する率は高いといえます。つまり、同じ「買った」という回答でも、意味が全く異なるのです。

アンケートをどう見るか。

これはこれで1個の研究テーマになるくらいの深い話です。同じ回答でも複数の意味がある、ということを考えずに、ただ数字だけで何かを判断するのは難しいかもしれません。リサーチの手法はいろいろありますが、データを読み解く力がなければ、何を調査しても出てくるのはただの数字にすぎません。これはインターネットリサーチを行う上での大前提と言えるでしょう。

本記事で学んだスマートフォンによりユーザーの生活に変化が生じてきたこと。それによって我々が取得するデータにまで変化が生じてきていることをご説明しました。それを踏まえた上で、今後は新たなデータの収集方法や、その活用方法についても情報を提供していきます。