世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。

しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。
  
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ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+ 秘伝のレシピ

ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。

第6回目は、株式会社スペースマーケット(以下、スペースマーケット)の代表取締役社長 重松大輔 氏にお話をうかがいました。

読者の皆さんに、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
  

目次

1. 序文 - スペースマーケットのビジネスモデル -
2. 秘伝レシピ1:話題作りを積極的に仕掛けよ
3. 秘伝レシピ2:B2B向けにサービス提供をする時は、成功事例を作りまくれ
4. 秘伝レシピ3:マーケットプレースモデルでは、ユーザーレビューの仕組みにこだわれ
5. 秘伝レシピ4:お互いの強みを補完できる共同創業者を見付けよ
6. まとめ

  
Uber、Airbnbなど、ビジネス業界を賑わせているスタートアップがいくつか存在します。そのいずれも時価総額は数兆円を超え、勢いが止まることはありません。
※Uberはファウンダー兼CEOの方が更迭され、現在足踏み状態ではありますが、時価総額の試算は5兆円を超えています

それ以外にも、Upwork(世界最大のクラウドソーシング)、Doordash(オンデマンドのレストランデリバリー)、Instacart(オンデマンドのグロッサリーショッピング)など、数多くのユニコーン企業(時価総額が10億ドルを超える企業)が登場しています。

これらの企業は、シェアリングエコノミーと言われる新しいパラダイムのビジネスモデルを土台にして、サプライ側とデマンド側を結び付けるプラットフォームを提供しています。その波は日本にも押し寄せており、連載第4回目に登場いただいたクラウドワークス も、労働力・スキルのマーケットプレースを提供しており、広義のシェアリングエコノミーモデルがベースになっています。

今回、お話をうかがったスペースマーケットは、場所のマーケットプレースです。街の会議室、お寺、野球場、無人島まで、様々な用途で使える場所を提供しています。

サービスローンチから3年ほどで、10,000件以上の物件を貸し借りするまでスケールしたスペースマーケット。海外のマーケット(アメリカ、UK、シンガポール、ドイツ)に比べて保守的と言われる日本市場で、新しいシェアリングエコノミービジネスを如何に浸透させたのか、その秘訣を社長の重松さんにうかがいました。

  
重松 大輔 氏 プロフィール
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株式会社スペースマーケット 代表取締役
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。主に企画、プロモーション等を担当。2006年、当時10数名の株式会社フォトクリエイトに参画。
一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。ゼロから立ち上げたウエディング事業は現在、全国で年間約3万組の結婚披露宴で導入されるサービスまでに成長。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月、シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。

  
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
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日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。

  

田所(インタビュアー):
本日はありがとうございます。創業されて4年ほどですが、なぜスペースマーケットのようなビジネスを始められたのでしょうか。

重松氏(スペースマーケット 代表取締役社長 重松大輔 氏):
起業しようと思って様々なアイデアを100個くらい考えました。ケータイリングの注文サービスとか、ウエディングのキュレーションのメディアとか、スポーツチームの管理なども検討しました。韓国で人気のある高級産後院の運営も考えました。

田所:
先にサービスが展開しているアメリカや韓国のような国から持って来るタイムマシンモデルを検討していた形ですか。

重松氏:
タイムマシン(モデル)の発想は基本にありました。ですが、私自信が全然Webに強くないんですよ(笑)。ただ、営業や人前で話すことは得意なので、営業×リアル×ITの要素が必要なところを狙っていきました。

田所:
色々と検討される中で、スペース(場所)をマーケットプレース場で、サプライ側とデマンド側を結び付けるというモデルに注目したきっかけは何だったのでしょうか。

重松氏:
前職のフォトクリエイトでイベント写真を取り扱っていました。会場やイベントの主催者とお付き合いすることが多かったんです。イベントの主催者は"場所探しで困っている"という状況を認識しておりました。

田所:
その領域で需要があるにもかかわらず、供給側が整っていないという課題を認識されていたんですね。

重松氏:
特に平日の結婚式場の稼働を何とかしてほしい、という声がありました。僕自身もデマンドサイドとして、会社の採用等で会場を借りた経験がありましたし、土日に自社のセミナールームをほかの方に貸すサプライサイドも経験しました。こうした経験から"デマンドとサプライを結び付けるのはビジネスになる"という実感はありました。
  

秘伝のレシピ1:話題作りを積極的に仕掛けよ

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田所:
スペースマーケットは、創業当初から多くのメディアに取り上げられています。2015年には人気のテレビ番組”ガイアの夜明け”などで特集が組まれていました。

重松氏:
話題作りは大事だと思います。サービスを一般公開した時は、通常取り扱う一軒家のようなスペースに加え、アメリカの球場が入っていました。大きな話題になりました。

田所:
ガイアの夜明けでは、無人島を借りれることがフィーチャーされていました。

重松氏:
メディアが取り上げてくれるには、話題を提供する必要があると思っています。お寺、映画館、結婚式場、古民家、お化け屋敷、野球場などを借りられるようにしたのも、そういった観点からでした。

田所:
話題として取り上げられると "盛り上がっている感"、いわゆる盛況感を演出できますね。

重松氏:
正直言うと、最初の半年くらいは、月に数十件みたいなトランザクションボリュームでした。しかし、メディアを効果的に活用して、とにかく話題をバンバン世の中に発信していきました。もちろん意図的に、です。
  

秘伝のレシピ2:B2B向けにサービス提供をする時は、成功事例を作りまくれ

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田所:
話題作り以外に、会社創業期に意識されていたポイントはありますでしょうか。

重松氏:
成功事例を作ることですね。色々な事例を作りまくりました。古民などユニークな場所家でオフサイトミーティングをしている事例として、ヤフー、リクルート、Googleやテック系の企業に活用いただきました。

田所:
メジャーな企業を取り込んで事例化していったわけですね。

重松氏:
実をいうと、最初は無理言ってお願いして使ってもらったりしていました(笑)。でも、実際に使ってみると良さを実感してもらえたようで、しかもそれがメディアで取り上げられるようになりました。このオフサイトミーティングのスタイルが最新トレンドだと書いてもらいました。

田所:
エンドユーザーも実際使ってみて良さを実感されたということですね。

重松氏:
実際に、街の会議室を借りるより、古民家を借りたほうがコストパフォーマンスもかなり高いんです。そのうえ特別な体験ができたと、いいフィードバックをいただきました。

田所:
お得な体験を通じて、顧客が定着していったということでしょうか。

重松氏:
そのとおりです。今では、オフサイトミーティング、ビジネスセミナー、個人セミナーで活用するユーザーが定着しています。

田所:
ちなみに、ビジネス利用以外の成功事例はありますか?

重松氏:
多いのがコスプレイヤーの人たちのオフ会や撮影会です。 コスプレイヤー界隈ではスペースマーケットは、めちゃくちゃ有名です。コスプレイヤーはすごく場所に飢えています。スペースマーケットが登場するまではお金払って高い撮影スタジオしかなかったんです。スペースマーケットが登場して、スペースマーケットの古民家とかそういうとこでゲリラ的に撮影するっていう文化が生まれたようです。

田所:
シーズナリティー(季節利用)という面ではいかがでしょうか。

重松氏:
2014年のハロウィンは1つの山でしたね。 ハロウィンの時期でグッと伸びて、忘年会シーズンでまたグッと伸びました。
  

秘伝のレシピ3:マーケットプレースモデルでは、ユーザーレビューの仕組みにこだわれ

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田所:
ビジネスをスケールさせるために、話題作り、事例作りという点でこだわっているポイントはありますか。

重松氏:
ユーザーのレビューの仕組みにすごくこだわってます。 場所の活用が終わった後に感想・レビューを書くのが当たり前みたいなUXを実装しました。

田所:
ユーザーがレビューを書くためのインセンティブはどうされてますか。

重松氏:
シンプルにいうと、"レビューを書くのが当たり前だよね" みたいな UXを演出しました。このUXを作り上げるには、様々な仕掛けやコツが凝縮されています。かなり磨き込んで、現在は半数ほどの利用者にレビューを書いていただいており、そのレビューの蓄積が物件の信頼性を高めています。一見すると怪しそうな一戸建ての部屋誰が借りる時には、”部屋のオーナーであるホストの人が良い人です”というレビューがあるとエンドユーザーは安心して、予約いただけます。

田所:
レビューでは"利用者が読んで価値のある情報を掲載する"という点にこだわっていた感じでしょうか。

重松氏:
例えば、近くに3件スーパーがあるとします。その中の1つのスーパーのホームページ内のコメント欄に「このスーパーの惣菜が美味しいです」という書き込みがあったとします。そうしたら、やはりほかの2店舗よりも興味が増しますし、人の心理を考えると"実際に美味しいのか"気になってしまう方が多いはずです。

まさに発想はそこです。それと同様のことが物件でもいえるはずだと考え、レビューが付いたほうが利用者を定着させる可能性が高いことが見えてきました。なので、1回レビューが付くと稼働率が上がることが現状までにもわかってますし、その点を物凄く重視しています。

田所:
ほかにこだわっているKPIなどはありますでしょうか。

重松氏:
レビューの書き込みに加え、意識しているのがスペースに対する”お気に入り”数です。これが増えていくと稼働率が上がりますし、あるスペースは800以上の”お気に入り”登録がされて効果が上がっています。

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秘伝のレシピ4:お互いの強みを補完できる共同創業者を見付けよ

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田所:
重松さん自身は、色々な事業を経験され実績を積んでから30代後半で起業されました。ほかのメンバーの方はどのような経歴なのでしょうか。

重松氏:
共同創業者の鈴木が元ヤフーで、「ネタりか」を作ったことでも名前が知られています。エンジニアでありながら、デザインに対するこだわりがすごく強いんです。僕とは全く違う強みですね。

田所:
お互いの強みを補完できる経営陣の構築は意識されたんですか?

重松氏:
かなり意識して違う人と組まないとダメです。共同創業チームの強みがそれぞれまったく別なので、良かったです。

田所:
スタートアップは最初の10人が運命を決定すると言われています。

重松氏:
最初の10人は超大事です。前職で自分は作用も担当していたので、それは実体験としてあります。メンバーは前職のフォトクリエイトでアルバイトで採用した人、前職でつながりがあった人など、昔から知っている人を採用しています。ユニークなチーム構成にすることは心がけています。

田所:
ユニークなメンバーを回していく組織運営のコツはどこでしょうか。

重松氏:
ナレッジをどんどん共有することですね。Slackとか、Facebookのワークプレイスなどを使って僕自身も投稿しまくってます。メンバーからも、ちょっと気になったこととか、ニュースとか世の中の変化などを投稿されています。こういうスペースがある、こういうイベントがあるみたいな情報も投稿し合って蓄積しています。

田所:
なるほど、本日はどうもありがとうございました。

  

まとめ

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重松さんは、別のメディアのインタビューで、”我々は大人のスタートアップです”ということを仰っていました。経営陣の顔ぶれを見ると、それぞれが違った業界で培った強みを持ち寄って、お互いに補完しているチームを作っている印象が強くあります。

共同創業チームの話になった時に、経営陣同士の緊張感が大事だ、と重松さんが、おっしゃっていました。僕自身も年間を通じて数百社のスタートアップと会いますが、上手くいかないスタートアップを見ていると、似たような人で固まりチームを作ってしまう傾向があると思います。

スタートアップに求められるものは、技術力だけではなく、営業力、戦略構築力、デザイン力、人材採用力など多岐に渡ります。ブレーススルーするスタートアップを作り上げるには、各個別要素を高いレベルで保持しつつも、ユニークなビジネスモデル / プロダクトを打ち出して行く必要があります。

スペースマーケットには、多彩な人材を引き付ける求心力があるとインタビューを通じて感じました。これから、市場がますます拡大して行くシェアリングエコノミー業界で、国内プレーヤーとしては先頭を走っているスペースマーケットに、ますます注目です。

  

企業プロフィール

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https://spacemarket.com/
  
株式会社スペースマーケット
会議室から球場まで簡単に貸し借りできる「スペースマーケット」を運営。 2014年4月のリリース以来、イベントスペース、会議室から平日の結婚式場やオフシーズンの球場まで国内外の10,000を超える空きスペースを取り扱い、簡単に貸し借りできるサービスを提供している。

これまでに「映画館で誕生日会」「お寺で開発合宿」「飛行機の格納庫で社員総会」など、様々なスペースでユニークな企画が多数生まれており、スペースマーケットを使うことでしか得られないユーザー体験を創っている。また、2016年7月より、民泊事業も開始し、時間貸し利用と宿泊利用の両方を行える国内唯一のプラットフォームとなっている