世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。

しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。
  
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*ブレークスルー = ビジネスモデル+プロダクト+* **秘伝のレシピ**

ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。

第4回目は、株式会社クラウドワークス(以下、クラウドワークス)の代表取締役社長 CEO 吉田 浩一郎 氏に話をうかがいました。

読者の皆さんが、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
  

目次

1. 序文 - クラウドワークスとは -
2. 秘伝レシピ1:マーケットプレースの立ち上げ方〜自ら動いて鶏と卵のジレンマを解消せよ
3. 秘伝レシピ2:マーケットプレースの立ち上げ方〜まずはデマンドサイドにフォーカスせよ
4. 秘伝レシピ3:マーケットプレースの立ち上げ方〜まずは徹底的にUX改善に注力せよ
5. 秘伝レシピ4:マーケットプレースの立ち上げ方〜カスタマイズが必要な業務提携はするな
6. まとめ

  
スタートアップにとってマーケットプレースのビジネスモデルは非常に難易度が高く、買い手(デマンドサイド)と売り手(サプライサイド)の両方を同時に集める必要があります。
※この両者が一定数いないと成立しないためです

リソースが少ないスタートアップにとって両者を集めることは至難の技で、いわゆる”鶏が先か、卵が先か”のジレンマに直面することが珍しくありません。

今回取材させていただいたクラウドワークスが提供する"クラウドソーシング"は、発注者(デマンドサイド)とクラウドワーカー(サプライサイド)を結び付けるマーケットプレース型のビジネスで、ランサーズ株式会社や大手の株式会社パソナグループが始めた"Job-hub"など、いわゆる総合型と言われるクラウドソーシングの競合が国内に存在します。

その中で、クラウドワークスは2012年の3月にサービスを開始し、創業から3年弱(2014年12月)でマザーズに上場。「"働く"を通して人々に笑顔を」をミッションとして事業を展開。2017年7月現在、登録会員は144万人、利用企業は上場企業をはじめとして19万社にのぼり、現在も成長し続けています。

今回のインタビューでは、クラウドワークスを創業し、現在も代表取締役社長 CEOの吉田さんにマーケットプレイスを立ち上げ、ブレークスルーさせる秘伝のレシピは何か、という点について話をうかがいました。
  
吉田 浩一郎 氏 プロフィール
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パイオニア、リードエグジビションジャパンなどを経て、ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験した後に独立。事業を拡大する中で、ITを活用した時間や場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業。翌年3月に日本最大級のクラウドソーシングサービス『クラウドワークス』を開始。

  
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
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日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。

  
田所(インタビュアー):
本日はありがとうございます。最初にお伺いしたいのですが、一般的に"マーケットプレース型のモデル"というと非常に難易度が高いと言われていますが、なぜこのビジネスモデルに挑戦しようと思われたのでしょうか?

吉田氏(クラウドワークス代表取締役社長 CEO):
クラウドワークスを始める前は、1回目の起業をした会社でベトナムのアパレル事業など様々なビジネスを展開していました。その時は事業目標の数字を追っており、 あくまでもビジネスとして取り組んでいる感じでした。

田所:
ご自身がやる必然性はなかったですね。

吉田氏:
そうです。結局自分の強みを活かせないので問題にぶつかった時に答えが出せないと思ったんです。その時に自分の強みの延長線上にすごく大きな夢を描かないと、誰かの役に立つことはできないんだということに気付きました。

田所:
自分の強みが何を棚卸しされたのですね。

吉田氏:
自分の強みは、インターネット業界での経験とBtoB領域の営業マーケティングと受託をやっていた経験。その強みの中でできる事って何だろうと色々な人に聞いて回りました。その際、サイバーエージェント・ベンチャーズの田島社長に受託を個人にマッチングさせるクラウドソーシングという新しい流れがあるよ、とうかがったんです。

正直、その時の衝撃というのは相当で、ピンと閃くものがありました。というのも、アパレルの在庫を抱えていた時、自分が何をすべきかはわからない……でも、受託マッチングで何が満足度につながり、何がトラブルにつながり、トラブルになった場合はどうやって着地をさせればいいのかはこれまで経験していた部分。手に取るように全てわかるんです。まさに解決しようとする課題と自分自身の強みがフィットした感じでした。
  

秘伝のレシピ1:マーケットプレースの立ち上げ方〜自ら動いて鶏と卵のジレンマを解消せよ

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田所:
マーケットプレースは、鶏が先か卵が先かのジレンマがあります。それはどのようにして解消されたのでしょうか?

吉田氏:
クラウドワークスは顕在ニーズに対応しています。市場が確実にあるというところに挑みました。

田所:
そういう顕在化市場は競合優位性が必要ですね。

吉田氏:
「クラウドワークスの競合優位性とは何か」と考えた場合、盛況感だと思いました。

サービスが盛り上がってるシーンを見せるのは非常に重要だと考え、サービスリースの3ヵ月ぐらい前から、東京で有名なエンジニア、関西で有名なアプリ開発者などに声を掛け、30人ぐらいの顔写真を借りて掲載しました。マーケットプレイスでは、登録している人に偏りがあるより色んな方面の人たちが一同に介してる方が価値が高いと思っていました。

田所:
30名の著名な方は、1人1人、口説かれたのですか?

吉田氏:
はい、Twitterで話しかけたり、TwitterDMを送っていました。加えて、エンジニアのカンファレンスのオフ会、パーティーなどにも顔を出しました。小さなカンファレンスやミートアップに5万円以下であれば協賛したり、ケータリングの協賛をして少し喋らせてもらったりしました。

田所:
その場には吉田さん自身が行かれたのですか?

吉田氏:
全部私が行きました。エンジニアに共感してもらうために、スーツではなく、Tシャツにジーンズで。そこで口説いた30名の顔写真を使って、事前登録開始サイトをリリースした結果、事前登録数は1,300人になりました。

その1,300人のリストを持って企業を回り、上場企業、スタートアップ、オーナー企業で比較的大きな会社計30社のクライアントを集めました。その両者、1,300名と30社が揃ったタイミングで、サービスを公開しました。

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秘伝のレシピ2:マーケットプレースの立ち上げ方〜まずはデマンドサイドにフォーカスせよ

田所:
マーケットプレースはKPIの設定が難しいと言われています。ただ単に良いものを提供しているだけでは取引量は増えません。こだわってきたKPIなどはありますか?

吉田氏:
サービスリリース前に管理画面上でKPIを200個ぐらい私が設計し、その全てのKPIをずっと監視していました。200個は非常に単純なファンネル(動線)です。クライアントが会員登録をして発注する仕事を登録し、その仕事に応募がどれだけ来て、契約率が何%で、単価が幾らで、リピート率がいくつで……という指標を追っていました。

田所:
発注者側(デマンドサイド)と受注者側(サプライサイド)の両方を追っていたのですね。

吉田氏:
当時は、発注者側(デマンドサイド)だけを追うと決めていました。そもそも仕事の発注が無ければ何も始まらないからです。上場までは、ほぼ発注者側の仕事の発注しかKPIを立てませんでした。よく鶏が先か卵が先かの話では両方を追う必要があると言われていますが、私の上場までの手法はデマンドサイドに絞るというものでした。

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秘伝のレシピ3:マーケットプレースの立ち上げ方〜まずは徹底的にUX改善に注力せよ

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田所:
KPIを200個設定するのはすごいと思うのですが、その中でどのKPIに注目されたのですか?

吉田氏:
最初は、サービスのUX改善を徹底的行うことを心がけました。

田所:
注目されたKPIは顧客の獲得数ではなく、顧客の定着率やリピート率のようなKPIだったのですね。

吉田氏:
そうです。競合優位性が高い市場だったので、サービスローンチ1ヵ月目に広告を打つと、サイトの分析ができず無駄になってしまいます。オーガニックによる顧客獲得と広告による顧客獲得の切りわけもできてない、パフォーマンスがよくない場合にその原因がUXにあるのか、ユーザーの質にあるのかわからないですね。
  
田所:
なるほど。それで最初はUX改善に注力されたのですね。

吉田氏:
サービスをローンチした最初の頃は"UX改善しかしない"って決めていたんです。そして、UX改善だけを半年ぐらいやり続けた後、次の半年はSEOに注力し、その次はリスティング広告に注力……という流れでした。広告関連の施策がのすべてが完了し、PDCAを回し終えて初めて、インターネット経由による流入の全容が把握できたんです。そしてインターネットで押さえられないところも見えてきたので、リアルなマーケティングと営業を実現させるべくエンタープライズ型の営業を立ち上げました。

田所:
つまりは、段階を踏んで多くのことにチャレンジをしたわけですね。

吉田氏:
当社は、成長曲線を4段にわけて、最後のリアルなマーケティングと営業による成長の加速をする時に上場しました。インターネットによる集客とUXがある程度でき上がり、足元がしっかりしている状態でエンタープライズが乗り、さらなる成長性を生み出していくという形を作りました。

田所:
戦略的な施策の打ち出しは、最初から想定を立てていたのですか?

吉田氏:
はい。サービスリリース後ではなく最初から仮説ありきでそれを元にUXや計測するKPIを設計しないと、実際にPDCAを回すのに半年位掛かってしまうんですよね。
前職で、定量的に評価する仕組みを作らずに、クライアントのシステムとサイトを公開してしまい、結果KPIが追えずご迷惑をお掛けしてしまった経験があったので、その時の教訓を活かしました。
  

  

秘伝のレシピ4:マーケットプレースの立ち上げ方〜カスタマイズが必要な業務提携はするな

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田所:
サービス公開の初期段階で業務提携を発表されていますが、初期段階で、規模がまだ大きくないスタートアップが業務提携を成功させるポイントとは何でしょうか。

吉田氏:
プロダクトに対して、カスタマイズが発生するような事業提携というのはすべきじゃないと思います。 受託開発によるシステム構築がなぜ難しいかというと、エンドユーザーのためではなく、クライアントのためのカスタマイズになってしまうことがあるからです。ユーザーに対して100%の状態をとり続けないと意味がないと思います。カスタマイズを要する業務提携をしてしまうと、そもそもそのプロダクトのエンドユーザーに対する価値提案の優先順位が落ちてしまいます。

田所:
エンドユーザーのフィードバックを受けるのが大事ということですが、エンドユーザーからのフィードバックっていうのはどういう感じでとられていますか?

吉田氏:
サービス画面の左下に、ご意見箱というのを創業時から設置しているんです。そこでユーザーの方から驚くほどたくさんの意見を頂戴しています。創業当時は、私もサービス内の全てのマッチング、仕事やご意見箱からの問い合わせに目をとおしていて、その中の意見を実際のサービスに取り入れることもありました。
  

まとめ

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Product-market-fit(市場に対して、プロダクトが適正か)という基準はよく議論されますが、それと同じくらい大事なのがFounder-issue-fit。つまり、その事業やスタートアップで解決しようとしている課題と創業者がフィットしているかどうかです。

私自身も5社スタートアップを経験していますが、楽なことなど1つもなく、面倒臭かったり、辛かったりすることも多くあります。その中で、”課題を自分ごと”として解決していけるかが”やり抜く力”の源泉になります。

クラウドワークスは、これからクラウドワークス経済圏という構想のもと、働き方の多様化が進む社会にとって必要不可欠な仕事をマッチングさせるインフラとして拡大してくそうです。

課題のオーナーとしての課題解決に対する熱量と、様々な事業経験を経て培われた戦略性を持つクラウドワークスの吉田さん。これからの展開にますます注目です。

  

企業プロフィール

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https://crowdworks.jp/
  
株式会社クラウドワークス
<個人と企業がつながる、新しいカタチの働くプラットフォーム
「クラウドワークス(CrowdWorks)」は、インターネットを活用することで、世界中の企業と個人が直接つながり、仕事の受発注を行うことができる日本最大級の「クラウドソーシング」サービスです。