企業と顧客のコミュニケーションは、これまでは実店舗での接客や、問い合わせの電話やメールといった手法に限られていました。しかし今では、サービスを検討する前の段階においても、見込み顧客と気軽にコミュニケーションをとることができます。

FacebookやTwitterなどのSNSや、企業ホームページの交流コンテンツで積極的に情報発信し、顧客と直接交流している担当者も少なくないでしょう。

匿名性が高いほど、人は気兼ねせず意見を表明できます。サービスや企業に対する率直な評価を受けることは、改善につなげることができるため大きなメリットとなります。一方、気軽に誹謗・中傷を書き込まれたり、コミュニティコンテンツ内の顧客同士で論争になったりといったトラブルが起こってしまうこともあります。

今回は、インターネット上で起こりうる対人関係のトラブルについて、法的な側面から解説します。万が一のときに備えて、しっかり知識を身につけておきたい内容です。

インターネット上での誹謗・中傷

近年、インターネット上で誹謗・中傷されるトラブルが増えています。
MMD研究所は、「小・中・高校生の頃にネット上で自分自身や友人・知人の誹謗・中傷を見た経験」について、各年代ごとに調査しています。

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引用:
自分自身や友人・知人がネット上で誹謗・中傷されているのを見たことがある10代は30.7%|MMD研究所

その結果、「聞いたことはあるが見たことはない」まで含めると、年代が低くなるごとに割合が上がっていることが分かります。30代の12.3%に対し、10代は45.7%と、33.4%増加しています。直接的・間接的に誹謗・中傷に関するトラブルを経験する機会が増えていることを示しています。

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引用:
インターネット利用における「炎上」の認知度は95.6%|MMD研究所

自分自身がインターネット利用においてトラブルや困った経験があるかという問いには、37.9%の人が「ある」と答えています。その内訳を見てみると、パスワードを忘れてしまったといった日常的なトラブルに加え、やはり「インターネット上で誹謗中傷を受けた」トラブルも見られます。

同じく個人情報に関するトラブルである「個人情報が流出した」を加えると、25%です。トラブルを経験した4人に1人が、個人の権利に抵触する問題を経験しています。決して珍しい割合ではありません。

こうした問題は、前述した通り法的責任を問われる場合があります。実際に自分自身が被害者・加害者になってしまった場合、どのような法令が関わってくるのか解説します。

名誉毀損罪

名誉毀損とは、*「相手の事実を不特定多数に向けて公開することで、社会的評価を下げること」*です。名誉毀損が認められた場合、刑法と民法に問われます。

【刑法】
第三十四章 名誉に対する罪
第二百三十条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

刑法では、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処されます。懲役と禁錮の違いは労役義務の有無で、懲役に労役義務が科せられます。

【民法】
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第七百二十三条
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

民法では、慰謝料や、下げてしまった社会的評価を回復するための措置が発生する場合があります。

書き込み例

「〇〇は仕事ができなくて会社をクビになった」
「〇〇は浮気で離婚している」
「〇〇は犯罪者だ」

事実が「真実」だとしても罪に問われる

公開した事実が真実であるかどうかは関係ありません。事実の信憑性ではなく、その公開によって社会的評価が下がってしまったことが問題視されるからです。

ただ、「情報の公開=社会的評価の低下」になるかどうかは、客観的に判断されます。例えば、「〇〇さんが苦手」と書かれただけの場合では、名誉毀損と判断することは難しいといえます。

名誉毀損罪にならない場合

以下の条件に全て当てはまる場合は、名誉毀損罪には問われません。

・公共の利害に関する事実にかかわるものであること
・公開の目的のほとんどが公益を図るものあること
・真実であると証明されるか、真実であると信しるに相当する理由があること

例えば、公益を守るために政治家の不正を告発した場合などは、罪には問われません。

侮辱罪

侮辱罪とは、具体的な事実ではなくても、抽象的な言葉で相手をはずかしめることです。

第二百三十一条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

客観的・具体的な事実を公開した場合は名誉毀損罪、抽象的な事実を公開した場合は侮辱罪だと捉えると分かりやすいでしょう。

書き込み例

「〇〇はバカだ」
「〇〇は浮気者だ」
「〇〇は凶悪だ」

信用毀損・業務妨害

相手の名誉を毀損した場合、信用毀損・業務妨害に問われる場合もあります。
信用毀損・業務妨害は、相手の社会的評価を下げることで、経済面での評価も下げてしまった場合に問われます。

例えば、相手の経営しているお店について悪い情報を流した結果、売上が落ちてしまった場合などです。

信用毀損・業務妨害には「偽計業務妨害罪」「威力業務妨害罪」がありますが、インターネット上での妨害には「偽計業務妨害罪」が当てはまります。

第三十五章 信用及び業務に対する罪
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

偽計業務妨害罪とは、虚偽の情報や計略で相手の信用を失わせ営業活動を妨害することです。

書き込み例

「仕事をクビになった男の店だから手際も悪いし料理も不味い」
「〇〇は浮気性だから、客に対しても不誠実だ」
「〇〇は客を騙すから信用してはいけない」

プライバシー侵害

相手が生活する上で秘密にされるべき情報を公開することはプライバシー侵害にあたります。プライバシーの権利は、憲法13条で定められています。

第十三条 
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

プライバシーの範囲は、以下の全てを満たすものです。

・私生活上の事実または私生活上の事実のように受け取られるおそれがある
・一般人が公開したくない
・一般の人々にまだ知られていない

氏名や住所といった情報は「個人情報保護法」の範囲内であるため、トラブルの内容によっては重なる部分も出てきます。

書き込み例

・相手の年収や健康診断の結果を公開する
・相手が参加していた政治活動を公開する

まとめ

自分なりに良かれと思って発信した内容でも、気付かないうちに誰かを傷つけてしまい、トラブルになる可能性もあります。これが企業としての発信であった場合、責任は発信源の個人の範囲内では済みません。

インターネット上で特定の個人への誹謗・中傷、個人情報を漏えいすることは、法的責任を問われます。顧客からの誹謗・中傷や顧客間のトラブルだけでなく、自社として日々発信している内容にも、十分に注意を払って確認するようにしましょう。