海外では、ソーシャルメディアを通じて読者とコミュニケーションをとり、「ソーシャルエンゲージメントの達人」と呼ばれる「ソーシャルエディター」という職種が生まれています。

国内でも、Facebookの月間アクティブユーザー数は2,800万人、Twitterの月間アクティブユーザー数は4,000万人、LINEの月間アクティブユーザー数は7,000万人など、人々と交流していく上でソーシャルメディアを活用することは欠かせません。

ソーシャルメディアで情報発信する上で必要になるのが「コンテンツ」。どうコンテンツを作ってマーケティングを行い、ソーシャルメディア上でエンゲージメントを高めていくのかが企業にとって重要なテーマとなっています。

今回、ライター、エディター、ソーシャルエディターとして活動した後、コンテンツマーケティングに従事した山崎礼さんのこれまでの活動に触れながら、コンテンツを通じて情報発信する上での大事な視点について紹介していきます。

  

山崎礼さんプロフィール

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Amazon Japan エディター。WIREDでライター、Medium Japanではエディターとして参加。転職後、AKQAでソーシャルエディターとしてNIKE担当。Workdayでコンテンツマーケティングに従事後、現職。
  

ソーシャルエディターによる「コンテンツ作り」とは?

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山崎さんは、テクノロジーメディア「WIRED」の日本版でライターとして活動する傍ら、コンテンツプラットフォーム「Medium Japan」のエディターとしてプラットフォームの拡大に尽力されていました。

「日本人は自分で書くよりも読む方を好むのか、残念なことに初期のMedium Japanでも同様で書き手はそれ程多くいませんでした。しかし、Mediumは書き手のためのプラットフォームであるため、書き手にとって居心地の良い"場"、すなわち"エンゲージメント"の高まるプラットフォームとは何かを意識してコンテンツ作りを繰り返しました(山崎さん)」

コンテンツ作りを繰り返し行っていく中で、山崎さんが気付いたのが「物語」の大切さでした。

「人は"人の物語"に心動かされます。1つひとつの記事の数字を眺めるうちにそのことに気付かされます。例えば、あるスタートアップのファウンダーのストーリーでも、経営のトピックだけではなく、ヒューマンストーリーを交えた記事の反応がいい。View数だけではなくエンゲージメントも数字として意識するうちに、徐々にユーザーの皆さんが自分自身のストーリーやTipsを投稿するようになりました(山崎さん)」

山崎さんは、1つひとつの記事の数字を分析し、人々が共感し、自分も投稿したくなるストーリーとは何か仮説を立てて、それに該当するUS記事をローカライズし、Medium Japanの日本における拡大を模索したそうです。

その後、山崎さんはクリエイティブエージェンシーのAKQAでソーシャルエディターとしてNIKEを担当し、新製品のソーシャルポスト、アナリティクスの業務を担当します。

「ソーシャルエディターの仕事は、文章を書く仕事が40%。残りの60%はツールを使った投稿のセッティングと、数の分析です。投稿ごとのクリック数や購買率を見て、投稿によって数字に違いが出ていることに対して仮説を立て、検証を重ねていきました(山崎さん)」

HR Tech企業Workdayからコンテンツマーケティングのポジションのオファーを受けて移籍したのも、数字からコンテンツ作成をする面白さに惹かれたからだそうです。

山崎さんはコンテンツマーケターの仕事について、ブログ記事やFacebookポスト等を通じて、従来の広告ではリーチできなかった潜在層に企業の信念やミッションを伝えて、ファンを増やすのがミッション」と語ります。
  

カスタマーをファンに変える仕事

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ソーシャルエディターとして活動するにあたり、ソーシャルメディアに投稿するテキストをどう作成していたのでしょうか。山崎さんは「言葉のプライオリティーが大事なんです」と語ります。

「ソーシャルポストを作成する際、私は一番伝えたい単語をできるだけ前に持ってくるようにしています。始めたばかりの頃は、ストーリーを作ろうとするあまり、時に言葉が後ろに押されてしまった。それでは、ユーザーに届けたいはずの大切な言葉の力が弱まってしまいます。一番大切な言葉は何かを考え、その言葉のイメージを大切にする。そして、そこからどう文章を続けるのかが我々の腕の見せ所です(山崎さん)」

では、大事な言葉はどう選ぶのか。そのためには、プロダクトや会社自体への理解を深めること、そしてプロダクトや会社のファンへの理解を深めることが重要だと山崎さんは説明します。

会社の「中の人」として外部に向けて伝えていくのと、「外の人」として関わるのでは当然軸が変化します。

「ライターの仕事をしていた時は、自分の目線で書いていました。メディアの立ち位置を理解した上で客観的な立場で書くわけです。一方、企業の中でエディターとして活動する場合、その企業に誰よりも強い関心を持って惹かれなければいい仕事はできません。ほぼ一心同体になるようなつもりでいましたね(山崎さん)」

企業に寄り添い、その企業への理解を深めた上で、カスタマーにも寄り添うわけです。

「ソーシャルエディターは、カスタマーが何を知りたいのかを推測しなければなりません。それを教わった出来事があります。ある日、AKQAで"スニーカーヘッズ"と呼ばれるスニーカーのコアファンユーザーの取材に行った時のことです。そこで、熱心に商品への思い入れや、ストーリーを語るファンとふれあう機会がありました。自分のスニーカーへの情熱と愛を滔々と語る様子を直接目の当たりにしたことで初めて、コアなファンの感覚を知ることができ、自分もファンになることができたのです(山崎さん)」

熱心なファンの気持ちに寄り添うこと、情報を調べる際に企業や商品の良いところを着目し、ファンになるつもりで見ていくこと。そうすることで、ファンの視点を獲得していきます。

エモーショナルな側面を大事にする一方で、数字的に物事を見ていくことももちろん必要です。限られたコアなファンだけではなく、より多くのファンの動向を知るためには数字をチェックしなければなりません。

「企業に入って数字を追いかけ始めると、数字しか見えなくなってしまいます。誰のために発信しているのか、というファンの人たちの顔を忘れないことが大切なんです」−−そう山崎さんは語ります。
  

市場を牽引 "ソートリーダーシップ(Thought Leadership)"という考え方

「Workdayで、コンテンツマーケティングをしていた時は、"ソートリーダーシップ(Thought Leadership)"に基づいて、会社のミッションや先進性を発信し、潜在的なユーザーに広めていきました(山崎さん)」

山崎さんが語るソートリーダーシップとは、特定のセグメントや分野において将来を先取りしたテーマやソリューションを示して、オピニオンリーダーとして業界を牽引していく活動のことを指します。

市場の伸びが鈍化しているケースや、新たな市場を切り開く必要がある場合に、このソートリーダーシップを戦略として採用するケースがあります。米国の企業ではこの考え方でコンテンツマーケティングを行うところが少なくないようです。

「Workdayでは、CEO、CFO、COOなど、経営に関わる"C-suite"と呼ばれる人々に向けて情報を発信していきました。それ以外の人たちには、プロダクトの最終的な購入権限がない場合が多いからです。ターゲットをきっちりと絞って、そこに刺さるコンテンツをつくる。ただ、ターゲットと言っても流石にC-suiteなので、その人達を説得するためにはコンテンツも作り込まなければないりません。そのため、コンテンツを作る際の文体や執筆ルールなどのガイドラインや海外のカウンターパートとのディスカッションももちろんありました(山崎さん)」

市場そのものを牽引するような情報発信を行い、潜在的なユーザーにリーチさせる、ターゲットを絞り、そこに届くようにコンテンツのガイドラインを作成する。コンテンツマーケティングを行う上でのヒントとなりそうです。
  

試行錯誤しながら止めないこと

山崎さんはこれまでの経験を振り返って、ソーシャルエディターやコンテンツマーケターにとって大切な考え方を次のように語ってくれました。

「人や企業に届くコンテンツの作りかたに正解やルールはない、だから試行錯誤しながら、地道な繰り返しを続けることが大事。自分で確かめていくしかありません(山崎さん)」

インハウスエディターもそうですが、ソーシャルエディターやコンテンツマーケターも、まだまだ実践者が少なく、情報が蓄積されていない領域です。そこで成果を出していくために必要なのは、山崎さんが言うとおり、試行錯誤しながら、継続することなのかもしれません。

山崎さんの経験が、1人のプレイヤーとして企業の情報発信に携わる人にとってのヒントになれば幸いです。

参考:
いきなり編集長に任命されたらどうする?メディア運営者が持つべきマインドセットを「LITALICO発達ナビ」編集長に聞く|ferret