MAツールやアドテクノロジーの普及により、企業は効率的にユーザーへアプローチできる時代です。一方で、情報が大量に溢れている時代でもあるため、その情報の中からユーザーに自社を選んでもらうことは難しいと言えます。

そこで重要になるのが「エンゲージメント」です。自社のファンになってもらい、情報が溢れる中で如何に指名してもらえるかが今後の課題となるでしょう。

今回は、マーケティングソリューションを提供するマルケトが主催した「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」から、株式会社トラストバンク(以下、トラストバンク)、VAIO株式会社(以下、VAIO)、富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)3社が考える”エンゲージメントの重要性をテーマ”にしたディスカッションの様子をお届けします。

登壇者 プロフィール

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Forbes JAPAN
副編集長
九法 崇雄 氏
※ファシリテーター

株式会社トラストバンク
経営戦略企画グループ
グループリーダー
武内 一矢 氏

VAIO株式会社
執行役員
花里 隆志 氏

富士フイルム株式会社
e戦略推進室 室長
板橋 祐一 氏

引用:
SPEAKERS | THE MARKETING NATION SUMMIT 2017

異なる3社が行った、新規ユーザーを惹きつけるための方法とは?

「ふるさとチョイス」先行者としての知名度からマスメディアを活用

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九法氏:
現代ではマーケティング、プロモーション、SNSなど様々な領域で「エンゲージメント」が重要なキーワードになっています。そこで、3社の方々に企業と企業、企業と人、人と人という結び付きという視点からお話をうかがいたいと考えています。

トラストバンクの武内さんにうかがいたいのですが、「ふるさと納税」のプラットフォームを運営されていますよね?「ふるさと納税」にユーザーを導くためにどのようなアプローチをされていますでしょうか?

武内氏:
マスメディアの力が大きかったです。弊社が運営している「ふるさとチョイス」はふるさと納税のサービスの中でも先行しており、マスメディアに取り上げられる機会がありました。

ふるさと納税という良い制度があるにもかかわらず、自治体様の中には、ITスキルに自信がなく、なかなか始められないという方々もいらっしゃいました。例えば、弊社の社長の逸話なのですが、ホームページに画像を載せたいという時に「FAXでいいですか?」と言われたことがあるそうです。

こういう現状があったので、ライバル企業もなかなか出てこなかったんです。その中で、最初はビジネスというよりも、現場の相談役として無償で相談に乗ることにしました。そこで、自治体様とのリレーションシップを築くことができ、契約数が増加したことで結果として明確な先行者になることができました。そうした背景があり、ふるさと納税がメディアで取り上げられる際に、「ふるさとチョイス」を取り上げていただくことになりました。

本当に求められているのかをヒアリングしたソニー独立後のVAIO

九法氏:
自治体様との信頼関係を築き、結果としてマスマーケティングが有効になったわけですね。

続いて、VAIOの花里さんにうかがいたいのですが、VAIOはもともとコンシューマー向けのPCでしたが、2014年にソニー株式会社(以下、ソニー)から独立された際、法人向けに切り替えられましたよね。新しい市場を切り開く上で、どのような取り組みをされたんですか?

花里氏:
ソニー時代のVAIOは、約8〜9割がコンシューマー向けでしたが、独立して法人向けに切り替えた時に勝算があったんです。

幸いなことにVAIOというブランドを認知してくれている方が多くいらっしゃいます。コンシューマーは個人ですが、社内のPCの選定者やIT系部署の方々など企業の中にもたくさん認知してくださる方がいらっしゃるわけです。

そのお客様方に訪問させていただき、色々な意見をうかがうというベタな取り組みを行いました。そのために法人向けの営業チームを作り、技術面でのサポートチームも立ち上げました。

PCというのはコモディティ化された製品ですが、企業で利用する上で不満を持ってらっしゃる方も結構いらっしゃるんです。例えば、現在ではプロジェクターに出力する際、HDMI端子が世界的な標準です。しかし、日本国内ではVGA端子が利用されるシーンが多々あります。そうした話をヒアリングして、商品に反映しました。結果、現在では7割以上のお客様が法人様です。ソニー時代とは逆転しました。

子育て中のお母様でも写真集が作れる「フォトブック」を開発した富士フイルム

九法氏:
ユーザーとコミュニケーションしていくことがキーとなりますね。次に、富士フイルムの板橋さんにうかがいたいのですが、富士フイルムでは「フォトブック」を提供されていますよね。今まで個人向けの写真集が市場に無かったわけですが、新たな市場でどのようにユーザーを獲得したのでしょうか?

板橋氏:
フォトブックは、10年ほど前に雑誌のような印刷に近い技術で始めたのですが、当時日本の市場になかったことからマス広告が効いたんですね。しかし、2~3年するとすぐに伸び悩みました。

そこでお客様への調査を行いました。子育て中のお母様がターゲットとしての大きな存在でした。そうした方々にお話を聞くと、20~30年と写真を大切に保存しておきたいそうなのです。つまり雑誌のような(薄い紙の)質感ではニーズを満たせなかった。そこで、写真専門店で現像した写真のようなしっかりとした材質の紙を開発し、フォトブック専用の製本の方法を開発しました。

また、現代はスマートフォンの時代です。アナログの時代と異なり、年間で何千枚と写真を撮るのが当たり前ですよね。子育て中の忙しいお母様たちに写真集を作るには、写真が膨大すぎるんです。そういうお客様のために、好みに合わせて自動で写真を選定してくれる編集ソフトを作りました。そこで再び市場が伸び始めたのです。

ユーザーをファンにするためには何が必要か?

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お子様の成長段階に応じてメールマーケティングを実施した富士フイルム

九法氏
3社に共通するのは、ユーザーの話をしっかりと聞き、商品に反映させるという点でした。続いて2つ目のテーマに移りたいと思います。

商品を1度だけ購入するユーザーはたくさんいると思うのですが、熱心なファンに育て上げるためには、どうアプローチしたら良いのでしょうか。

板橋さん、フォトブックは作るタイミングがわからず、継続するのが難しい印象があります。次につなげるためにどういったアプローチをされましたか?

板橋氏:
株式会社ベネッセコーポレーション様の「こどもちゃれんじ」という教材でコラボさせていただきました。お子様の1歳、2歳、3歳と誕生日ごとにフォトブックが作れますというキャンペーンです。毎年ではなく、毎月行ったんです。お子様の成長は早いですから、1歳と1歳1ヵ月では変化が大きいんですよね。

そこで、「ハイハイしているお子様の写真の撮り方」「歩き始めの撮り方」のようにお子様の誕生日の日にちに合わせてメールをお送りしていました。

九法氏:
そうなんですね。ただ、頻繁にメールが届くことをよく思わないユーザーもいるのではないでしょうか?そういったユーザーに向けて対策はされましたか?

板橋氏:
コンテンツの中身にこだわりました。宣伝のようなメールではやはりよく思っていただけないと思うので、お子様と写真というテーマで役に立つコンテンツを提供することを心がけました。また、頻繁にテストを繰り返し、最も反応のよいメールは何かを調査していました。

既存のVAIOファンのためにファンミーティングを開催

九法氏:
ありがとうございます。次に、花里さんにうかがいたいのですが、7割の法人向けのお客様がいる一方で、3割が個人のお客様ですよね。この3割の個人に対して、ファンで居続けてもらうための取り組みはありますか?

花里氏:
個人だけではなく、法人も個人の集合体だと思っていますので、全てのお客様に対して所有したくなるデザインとか、性能にこだわりました。また、従来のソニー時代からのお客様とのエンゲージメントを高めるために、ファンミーティングを開催しました。

ソニー独立後に初めて行ったイベントでは、「VAIOが戻ってきてくれた」と涙を流してくれたお客様もいらっしゃいました。直接コミュニケーションを取ることが大切だと感じ、定期的に行っています。

返礼品のモノとしての良さではなく、地域としての良さを伝えることが大切

九法氏:
次に武内さんにうかがいたいのですが、「ふるさと納税」はコストパフォーマンス重視で都度選ばれる方も多いと思います。その中で、リピーター獲得に成功した自治体様の取り組みの特徴などありますか?

武内氏:
おっしゃるとおり、ふるさと納税の寄付者の方々には、製品のコストパフォーマンスや単体の魅力で選ばれる方が多いです。ところがリピーター獲得に成功している自治体様は、「点」ではなく「面」での取り組みをされています。

モノがいいから寄付するのは点ですが、モノが良くてもリピートにはつながりません。そこで、地域の背景とか「面」を伝えているんです。例えば、高知県の四万十町様はウナギを返礼品としています。ウナギはもちろんモノとしての良さですが、そこに「四万十川の環境が綺麗だから美味しいウナギになる」と地域の話を添えられています。

また、ふるさと納税の本質は「寄付」なので、その寄付を「綺麗な四万十川を守るための環境保全」に利用し伝えています。仮にウナギが好きでなくとも、四万十川が好き、高知県が好き、自然が好きと派生していくんです。自治体としてのリピートが大切だなと感じました。

情報が溢れる時代。どのようにしてユーザーに情報を届けるのか?

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デジタルとリアルを活用した多面的なアプローチを実施

九法氏:
続いて、大量の情報が飛び交う中で、如何にしてユーザーに刺さる情報を届けるのかという点についてうかがいたいです。デジタルコミュニケーションが当たり前な時代、メールを開封してもらえないこともあるでしょう。

そこで、武内さんにうかがいたいのですが、ふるさとチョイスをユーザーにリーチするための工夫などありますでしょうか?

武内氏:
まだまだ改善の段階ではありますが、メールマーケティングやMAツールを活用しながらOne to Oneのコミュニケーションを促進させることが大切だと考えています。

また、ホームページだとそもそも申し込み方がわからないという方に向けて、「ふるさとチョイスCafé」というリアル店舗も運営しています。ふるさと納税についての質問を受けたり、直接申し込んだりできる取り組みです。カタログと電話で申し込める取り組みも行っており、ユーザーに合わせたリアルのコミュニケーションを大切にしています。

ユーザーにとって役に立つ情報をオウンドメディアで発信

九法氏:
デジタルだけでなくリアルも大切にされているんですね。次に花里さんにうかがいたいのですが、VAIOではオウンドメディアを運営されていますよね?オウンドメディア運営は難しいと思いますが、どんな施策をされていますか?

花里氏:
働き方革命をテーマにした「Work x IT」というオウンドメディアを運営しています。IT系のお客様が最も関心を寄せてくれるテーマが働き方革命なんです。

VAIOとしては、ソニーから独立して自分たちで会社を立ち上げましたから、我々も働き革命をしてきたわけです。そこで実践したことを発信することでお客様の役に立てればなと思ったのがきっかけです。

関心の高い情報を提供し、そこでVAIOに興味を持ってもらう。そういった方々に商品情報をお届けしたり、今後リードとしてスコアリングしたデータをセールスにつなげていくことをするかもしれません。今はまだ準備段階です。

既存のアプローチ以外のデジタル時代の方法を模索

九法氏:
板橋さんにもうかがいたいのですが、「フジカラーの年賀状」のTVCMを2016年に止められたそうですね。止めたことで何か変化はありましたか?

板橋氏:
TVCMは「年賀状の季節をお伝えする」こと、「この機会に写真年賀状を作ってみませんか?」ということ、2つのメッセージが目的でした。前者はほかに企業様にお任せするとして、後者のメッセージには別のアプローチ方法があると考えて、TVCMは止めました。デジタルの時代、テレビ以外の方法もたくさんあるため、全体のビジネスとして影響はでませんでした。

まとめ

このイベントに登壇した3社に共通するのは、ユーザーとの関わりを非常に大切にしていることでした。如何にユーザーとのエンゲージメントを生み出すかに注力しています。

その方法は、ターゲットイメージを明確にアプローチしたり、リアル店舗やファンミーティングで直接接点を持つなど様々です。デジタルツールの台頭により簡単に大量のユーザーにアプローチできるようになりましたが、それらを活用しつつも、自社の商材のファンになってもらうための施策が重要と言えるでしょう。