「ファンベース」は安定的な売り上げのための“中長期的施策”

satonao-3.jpg

飯髙:
今日はよろしくお願いします。2008年にさとなおさんの著書『明日の広告』を読んだときは、本当に衝撃的でした。それ以来、さとなおさんの発信されるメッセージをずっと拝見してきたので、今日は光栄です。

佐藤 氏:
ありがとうございます。よろしくお願いします。

飯髙:
さとなおさんが近年提唱されている「ファンベース」についてお伺いできればと思います。

「企業の成長のためにも、ファンベースを取り入れよう」という言葉をよく聞くのですが、実際にそれがどんな活動や施策を指すのかをイメージできないユーザーが多いと感じています。

まずは、さとなおさんが、“マスではなくファンを重視する理由”からお伺いできますでしょうか?

佐藤 氏:
最初にお断りしておくと、僕自身はマスベースによる、つまりマスメディアを使ってマス(大衆)にリーチしようとするキャンペーンを全く否定していません。

ただ、圧倒的に情報が届きにくくなった現在、認知や話題化のためのキャンペーンはなかなか効かない時代になっています。ちょっと話題になってバズっても、数時間から数日ですぐに忘れ去られてしまう。マスのキャンペーンだけでは届かない層が増えてきた時代に、中長期的なスパンで商品への共感や愛着を形成していく施策がファンベースだと考えています。

ファンベースを定義するなら、ファンを大切にし、ファンをベース(土台・支持母体)にして中長期的に売上や価値を上げていく考え方。ファン自身が長くその商品を使い続けてくれることと、そのファンが周りの人にすすめてくれることで新規の顧客にリーチすること。この2つによって、中長期的に安定した売り上げをあげる施策です。

パレートの法則(2:8の法則)で言われるように、多くの商品において2割の上位顧客が8割の売り上げを支えています。その2割のファンきちんとキープする施策(ファンベース)で売り上げの安定とアップを図りつつ、認知や話題化キャンペーンを組み合わせて新規顧客も開拓していくといった、相乗効果を起こす感じをイメージしてもらうのがいいと思います。

「ファンベース」は中小企業において、特に効果的

飯髙:
企業の規模感によって、ファンベース施策と、キャンペーン施策、それぞれの重要度は変わりますか?

佐藤 氏:
よりファンベースが重要になるのは、中小企業のほうでしょうね。とくに、宣伝広告費に多くの予算をかけられない中小企業は、マスメディアを使用したキャンペーンを頻繁かつ継続的にやっていくのは現実的ではない。そう考えると、ファンベースが施策の中心になる。というか、ファンベースが唯一の方法になるといっても良いくらいかもしれません。

また、イノベーターやアーリーアダプターなど、感性の鋭い人たちに使ってもらいたい商品の場合もファンベースが重要になります。大量の情報に触れている彼らに、マスベースのキャンペーンで企業に都合のいいことを一方的に伝えても、ほとんどスルーされてしまいます。唯一届くのは、価値観の近い友人からの口コミくらい。だから、イノベーターやアーリーアダプターを狙う場合も、ファンベースが重要になってくるでしょう。

飯髙:
僕も日頃から、インフルエンサーマーケティングはもう届かないなと。友人などの強い絆をもった人からの口コミだけが伝わっていくと考えています。

佐藤 氏:
その通りだと思います。

ただし、インターネットの情報にあまり触れてない地方の人たちには、まだテレビなどのマスメディアやタレントなどのインフルエンサーの影響力はあります。芸能人がテレビで推薦した商品も、地方では購買率が上がります。

でも、都会に住むイノベーターやアーリーアダプターたちは、飯髙さんがおっしゃったように、インフルエンサーが宣伝したからといってものを買ったりしない。単に声が大きなだけのインフルエンサーの言葉より、自分と価値観の近い人や信頼できる人の口コミを信頼するのです。

ファンベースに取り組む前に、まずは「ファンの声」を傾聴する

satonao-5.jpg

飯髙:
実際に、ファンベースの施策を行う場合、企業は何からスタートするべきですか。

佐藤 氏:
まだ誰も知らない新商品の場合をのぞいて、すでに商品が購買されているのであれば、必ずファンがいるはずです。まずは、そのファンたちの話をちゃんと聞くこと。「傾聴」が大事です。今、その商品を支持してくれているファンたちが、何に共感してくれているのか、それを徹底して聞きだすことですね。

なぜ「傾聴」が重要かというと、ファンが商品のどの部分に共感してくれているのかは、意外と企業側から見えていないことが多いからです。

たとえば、いま僕が使っているAppleのMacBook Airを例にしてみましょう。例えば、企業側は充電の持ちや液晶の美しさなどのスペックが評価されていると考えているとします。でも、僕たちAppleのファンは、無駄を削ぎ落としたプロダクトのシンプルさ、そして、Macを選んで使っている“自分の審美眼”に価値を見出しているかもしれない。

そういったズレをなくすために、ファンの声を聞くことが非常に重要になってくるわけです。

飯髙:
自社の商品と相性のいい顧客を見つけるためにも、ファンミーティングが必要ということですね。

佐藤 氏:
相性がいい顧客というのは、つまりその会社やブランドが提供している価値を支持している人ですよね。だから、その人たちがどんな人かを知らなくてはいけないのだけれど、それはちゃんと会ってみて丁寧に話を聞かないとわからない。

たとえば、ビールで言えば、キリンもアサヒもサッポロもサントリーも、目隠しをして本当に味がわかるかというと、ファンでも難しいでしょう。でも、なんとなくサッポロが好きで買ってしまうとか、いつもサントリーを選ぶとかいう人はいます。その購買の理由が一体何なのかは、ちゃんと傾聴しないとわからないものなのです。

親友や友人が好きだったという価値かもしれないし、何かの記憶と結びついているかもしれない。それを「味でしょ」というのは、企業側の勝手な幻想なんですよね。

そのズレに気づかないまま、企業本位で考えた商品の価値を発信し続けると、大切なファンを失ってしまいます。

ファンミーティングのメンバーは厳選する

飯髙:
そういったファンの声を傾聴するためには、具体的にはどんな取り組みをすればいいのでしょうか?

佐藤 氏:
僕はまず、ファンミーティングをしましょうと提案しています。ファンがこの商品のどこを愛していて、どこに強く共感しているかを、ファン同士で話し合ってもらう会です。

「いや、マーケティング担当がちゃんとグループインタビューをしているよ。それとファンミーティングは何が違うの?」という人もいるのですが、グループインタビューとファンミーティングは根本的な違いがあります。

実は、ファンの中には、自分がその商品のどこを気に入っているかが自分でもわかっていない人が多いのです。そういう人に対して、企業のマーケティング担当が質問を重ねても、なかなか核心にたどり着かないケースが多い。でも、熱狂的なファン同士が話すと、お互いに触発しあって「ここが好き!」というポイントをどんどん発見しあうんですよね。

飯髙:
なるほど。ファン同士の接触が大事なんですね。ミーティングのメンバーは、どのような基準で選ぶべきでしょうか? 

佐藤 氏:
先ほどお話したように、ファンは、単にその商品の顧客というだけではなく、その商品に共感や愛着を持ってくれている人です。だから、ネット上の公募などでファンを集めるだけでは不十分。本当のファンではない、共感や愛着のない人が集まってしまう可能性があります。

それを防ぐためには、アンケート項目を多くしてふるいにかけたり、普段SNS商品について熱いメッセージを出している人を選ぶするなどして、熱量の高いファンを集める必要があります。

細かい話ですが、交通費や謝礼を出さないほうが、本当の意味でのファンが集まりやすくなります。予算がまったくないなら、社内の社員の中にも商品を偏愛するファンがいるので、その人たちを集めてもいいです。その商品をよく使ってくれる家族や友人でもいいでしょう。

ファンの声をもとに「共感」「愛着」「信頼」を形成する

飯髙:
そして、そこでヒアリングできた「ファンが商品に感じている価値」をもとに、企業側の発信をしていくというわけですね。

佐藤 氏:
そうですね。その価値を高めて支持を強くしていく必要があります。シンプルに言うと3つ方向があって、ひとつは「その価値自体をアップさせること」です。これは「共感」を強くする必要があります。ふたつめは「その価値を、他に代えがたいものにすること」。

他社でもその価値は提供できるわけなので、他社の商品じゃなく、この商品でないとダメだという「愛着」を作る必要があります。最後は「その価値の提供元、つまり企業の評価や評判を上げること」。そのためには日頃からの「信頼」が必要です。つまり、共感、愛着、信頼の3つを強くしていくことが重要だということです。

飯髙:
共感、愛着、信頼の3つ。企業側は、それぞれを、どのように形成していけばいいでしょうか。

佐藤 氏:
「共感」は「そう、そこが好きなんだ」という想いですよね。それを強くしていく。そのためにはとにかく傾聴し、共感ポイントを知ることが第一歩です。そのうえで、その共感ポイントを伸ばしていくと、共感は自然と強くなっていきます。

「愛着」はその商品の背景にあるストーリーに宿ることが多いですね。中小企業であれば、新しい会社が多いはず。それならば、どのような志で起業したのかを語るのもいいでしょう。数多くの商品がある中で、そういった想いを語ってくれなければ、我々はすぐに浮気してしまいます。僕は「愛着」を強くしたいなら「プレゼントをもらったとき」を思い出すと良いとよく伝えています。

例えば、すごく普通の「マグカップ」があるとして、本当に普通なんで、長く使っているからって愛着が起こったりはしないことが多いです。でも、 “大事な友人にプレゼントしてもらったもの”であれば、愛着がわきますよね。それを選ぶために友人が使ってくれた時間や考えてくれた想いなどを想像すると、その普通のマグカップが他に代えがたいものになります。それが愛着です。

この「愛着」を、企業側でつくるとしたら、やはり商品開発においてどのような苦労をしたか、どんな人に届けたいと思って作ったのかなどのストーリーを知ってもらう努力が必要です。それを知ることによって、他とは違う「愛着」のある商品になるわけです。

最後の「信頼」は、提供元に対する信頼です。罪を犯したり、ズルをするような企業の商品を我々は使いたいと思いません。だから、企業がホワイトであるとか、コンプライアンスにのっとっているとか、開発力があるとか、そういった信頼の説明もしてほしい。とくに高額なものやブランド品と言われる商品を買う場合は、この信頼が重要ですよね。

これらの話はすべて「文脈を作っていく」ということに集約されます。誰のために、何のために、どんな思いで……。この文脈を発信していくことでファンの共感、愛着、信頼を得ていくことになります。