選定基準として「何をしたいか」という目的がまずは重要

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渡邊 氏:
現在ヒューマンキャピタルテクノロジーで販売している「Geppo」には、誕生秘話があります。

2013年頃、サイバーエージェントの売上と組織規模が急拡大していく最中の経営会議で、社員のコンディションを把握できるツールを導入したいという話があがりました。それで当時の担当がたくさんのツールを検討したんですが、機能が「too much」だったんです。

例えば、営業の管理システムを導入したいと思って、複数のサービスベンダーに問い合わせをします。その時に、本来想定していなかった機能、「あれもできるこれもできる、カレンダー機能もあるし、チャットの機能もある」と色々提案されると、「いいな」と思っちゃうんですよ。でも、実際に機能が盛りだくさんのツールを導入したところで、やっぱり使いこなせない。

新しいツールを実践的に導入するためのポイントは「Geppo」に限らず、極力シンプルであること、求めている機能がきちんと網羅されていること。それでいて、必要十分で、目的とのブレがあまりないことだと気付きました。

向坂 氏:
実際に導入する際は、どのような手順を踏んで考えていけばいいのでしょうか?

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渡邊 氏:
まとめると、新しいテクノロジーやツールを導入する際のポイントは3つあるかなと思っています。

まず最初に「何をしたいか」という目的が重要で、目的を実現するために制度・人事戦略を組み立てるところから始めます。その上で、テクノロジーが後に来るのではなく、それを実現するための組織づくりが必要になります。

正直、この順番が逆になっていることが結構多い印象がありますね。新しいテクノロジーが出ると、どうしても「何ができるだろう」という思考が先行してしまって、目標や目的を合わせにいってしまう傾向があります。

そのために、できる限り、この順番、目的と制度を作り、目的を実現させるために必要な組織をつくることが求められます。その組織の中で働いている人たちが、より効率的に目的を実現するための方法論としてツールを選ぶ、というところが、非常に重要なポイントではないでしょうか。
  

新しいツールを社内に浸透させていくために大切なポイント

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渡邊 氏:
サイバーエージェントはいくつかの内製ツールと外注ツールを上手く活用しているとのことですが、生々しい話、障害はなかったですか?

向坂 氏:
はい、裏話はたくさんあります(笑)

当時の上司から聞いている話なんですけれども、2013年、4年前に「Geppo」を始めたとき、事業部長や事業部人事からの反発、社員からの反発の2つがでてきました。

まず、事業部長や事業部人事からすると、「Geppo」の仕組み自体が事業部を飛び越え、本社のよくわからない新しいチームが勝手に社員を異動させるように捉えられていました。要するに「勝手なことをするな」という反発があったみたいなんです。

一方、社員側でも「何か人事からアンケートきたけど、これって誰が見てるの?」とか「ここに書いて何か意味があるんだっけ」というような、反発まではいかなくとも、似たような疑問がたくさん出てきました。

渡邊 氏:
なるほど。それってどのように克服したのですか?

向坂 氏:
まず全社の事業責任者や事業サイドに対しては、「全社のためにやるものであって、決してどこかの事業部だけが人を吸い取られるとか、そういうものではない」ということを、丁寧に説明しました。

そして、「今はこの事業が重要だから人をもらうけど、逆に人員ニーズがあったらいつでも言ってください。で、そこにはいい人を紹介しますよ」と、時間をかけて関係性を作っていきました。

渡邊 氏:
一方で、社員たちへの説明はどうされたんですか?

向坂 氏:
はい、「Geppoに書くと、何かいいことがあるんだ」というのを、とにかく感じてもらうことに力を入れていました。

単純なところで言うと「書いてくれた声にちゃんとレスをする」ことを徹底。「今月達成しました」などのポジティブなコメントにも「応援していますよ」というレスをきちんと丁寧に行いました。

あとは、定期的に社内報で「Geppo」そのものじゃなくて、運用して読んでいるキャリアエージェント自身がメッセージを発信していくコンテンツをやってますね。

渡邊 氏:
その後、何か変化ってありましたか?

向坂 氏:
「Geppoって本当にちゃんと読んでて、ちゃんと返信してくれるんだ」というのが、都市伝説みたいに広がっていったんです。

渡邊 氏:
僕ら人事は、よく新しい制度の「浸透圧」みたいな話をするじゃないですか。その浸透圧を、おそらくHRテクノロジーの導入でも高めなければいけないと考えています。

サイバーエージェントの場合は、経営側と従業員側に向けて、人間関係的なところで解決を、地道に、泥臭く進めていきました。

向坂 氏:
できるだけテクノロジー色を出さない、あくまで「その先には人事や人がいるというところ」も前面に出していました。

渡邊 氏:
なるほど、それもポイントの1つですよね。

例えば、AIとかの話になると「奪われる職業はなんだろうか」という風に、どうしてもテクノロジーを敵対視してしまいます。こういう感覚って、日本人特有なのかどうなのかわからないですけど、珍しくはない光景です。

そこに人の手を介入させていく、人の血を通わせていくっていうのは、組織全体に浸透圧高くHRテクノロジーを導入するために必要なんじゃないかなと思います。

向坂 氏:
実際にお客様からお聞きした話なんですが、あるとき新聞で「HRテクノロジーがすごい」といったニュースがありました。それを読んだ社長が「すごそうだから、やってみてよ」と全能論に縛られてしまっていたり、あるいはどうしても人って変化に抵抗してしまうので、従業員の負荷が高まってしまったりするとよく耳にします。

渡邊 氏:
それぞれ問題を解決していくには、やはり向坂さんがおっしゃったような、人に対する適切な説明が必要だと思っています。

あと、期待値の調整をやっていくところも重要だと思っています。ただ、いきなり大きな一歩を踏み出すのではなくて、スモールスタート、兼務からでいいのでやっていただくことが重要です。

特に、「人間っていうのは変化に対する拒絶反応をすごく起こしやすい生き物なんだけれども、お試しにはわくわくする動物である」というようなお話が最近読んだ心理学の本に書いてあって、まさにだなと思ったんですよね。

向坂 氏:
私も同感です。人事システムと言うと、どうしても全社に関わってしまう感覚があるので、大きく決定しなければという意識が働いてしまいます。でも、そうすると大きな変化になってしまうので、大きな拒絶を生んでしまう。

そのため、そうではなくて「お試しだよ」っていう形で、むしろわくわくして始めていただくのが非常に重要です。仮に、そのお試しが上手くいけばリソースも確保しようという動きになっていて、その順番が非常に重要だと思います。