「誰でもプロトタイプを作れるようになる」“デザイン思考”の本質

間違っていてもプロトタイプを作ろう

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ferret:
櫻田さんの著書『図で考える。シンプルになる。』では、デザイナーではなく、ビジネスパーソン向けの“図解”をテーマにされていますが、具体的にどういったイメージで手掛けられたのでしょうか?

櫻田 氏:
書籍には一切書いていないのですが、裏テーマとして「デザイン思考」があります。巷では、「デザイン思考が必要だ」「イノベーションのキッカケになる」「企業はデザイナーにポストを付けるべき」といった論調がありますが、そこまで浸透していないんじゃないかなと。なぜかというと、「デザイン」は“見た目”という文脈に感じる人が多いからではないかと思っています。

仮に「見た目」だけではないと言ったとしても、なかなか体感できないから理解も難しい。どうしても、デザインは見た目に寄ってしまうんですよね。ただ、「図解する」と言われれば、「思考のプロセスとしてのデザイン」として受け入れやすいと思ったんです。デザイン思考にピンと来ない人のヒントになればと思って手掛けました。

ferret:
たしかに、デザインと聞くと「グラフィックのスキル」のようなイメージをしてしまいますね。

櫻田 氏:
そうなんです。専門職の人とか感度の高い人に向いてしまう傾向がありますよね。でも、デザイン思考にはデザイナー以外の人にとっても様々なメリットがあるんです。

例えば、プロトタイプを作れること。図で表すことで、事前に間違いにも気付くことができるし、アイデアも途中で加えることができる。専門知識が無くても、紙とペンで図解すれば誰でもプロトタイプが作れるんです。

書籍では「桃太郎」のストーリーを図解するという項目があるのですが、初めて図解する人は全ての要素を図で表す傾向があるんですよね。全部乗せの幕の内弁当みたいな。実際は、1つコンセプトを立てて、シンプルに表現することができます。

シンプルに図解することで、仮に間違っていたとしても「これを加えよう」というようにアイデアが膨らむはずなんです。「考えを貫いた物を作る」っていう経験をしてもらうことを重視していて、間違っていてもまずプロトタイプを作ることが大切だと思っています。
  

デザイン思考を実践するための "7つ道具" とは

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ferret:
図解を行うにあたり、櫻田さんは「7つ道具」として7種類の形式を提唱されていますよね。図解にはさらに多様な形式がありそうですが、7つに限定した理由はなんですか?

櫻田 氏
実は、「ビジュアルシンキング」を始めた当初、12種類あったんです。その次に8種類に絞り、現在では7種類に落ち着きました。

「ドーナッツ型」と「ピラミッド型」の図のように同じ意味合いを持つ図は使い勝手を考えてピラミッド型を残したり。あと、「チャート型」はもともと(思考のプロセスが)一方通行だったのですが、ビジネスは“対価交換”で成り立っていることから「交換の図」になりました。

「ツリー型」は、当初、1つのテーマから原因を掘り下げる“ロジックツリー”と呼ばれる図を指していました。これを現在の「7つ道具」では「深掘りの図」としています。

また、複数の要素をグループ化し、最後は1つのテーマにまとめるという方法もあります。これを現在「ツリーの図」と呼んでいます。それぞれの見た目は似ていますが、思考プロセスは異なるため「深掘りの図」と「ツリーの図」にわけています。

この「ツリーの図」は、ロジックツリーと異なり感性が必要になります。ワークショップを開催すると、「ツリーの図」は意外と悩む人が多いんですよね。

ferret:
確かに、複数の要素を1つにまとめるのは難しいですね。

櫻田 氏:
当初「ツリーの図」は、親しみやすいかなと思ってワークショップで使用していました。

しかし、参加者はロジックツリーのような従来の方法とは異なることがわかると一様にザワザワし始めたんです。「1個にまとめるって何ですかね?」と。

構造化されたものを抽象化することが苦手という人は多いイメージがあります。実は、グループごとの共通項を見付ける“メタ認知”という意味で、構造を理解し、抽象化することは非常に大切なんです。非構造的なものを混ぜることで新しいアイデアが生まれることもありますから。

社会、ビジネスが複雑化しているため、あり得ない要素を混ぜていく必要があるし、複雑なものを感覚的に捉えることも大切です。そういった思考を鍛えるために有効だと考えています。