近年、チャリティーイベントなど社会貢献と結び付いた活動を行う企業が増えてきました。SNSなど顧客との接点も増えている中で、企業が単独で行うというよりも、顧客と一緒に活動する例も多く見られます。自社でも、何かしらの社会貢献活動を行っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、全く利益を求めない中での活動の維持や拡大は、難しいところがあります。業務や人材資源の関係で、なかなか注力できていない企業も少なくありません。

そのような場合に、ぜひ検討していただきたいのがコーズ・マーケティングです。コーズ・マーケティングとは、自社の商品の購入や利用をとおして、社会貢献活動につながることを顧客に訴求するマーケティング手法です。

今回は、コーズ・マーケティングの概念と注意すべき点を解説し、実際の事例をご紹介します。

参考:
コーズマーケティング(Cause Marketing)|Sustainable Japan(辞書ページ)
  

コーズ・マーケティングとは

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コーズ・マーケティングとは、自社の商品やサービスの購入をとおして、環境保護などの社会貢献活動につながることを顧客に訴求するマーケティング手法のことです。

例えば、「この商品の売上の10%をNPO法人に寄付します」といった活動を指します。顧客もその商品を購入することで社会に貢献したという気持ちを抱き、寄付先も資源を得ることができ、自社も売上増加やイメージ向上につながるという「三方良し」の状況がつくれます。

ただ、目的や行動を誤ってしまうと、「利益目的の見せかけの社会貢献」だと、逆にイメージの低下にもつながりかねません。

ちなみに、コーズ・マーケティングの「Cause(コーズ)」とは「信念・大義」などを意味し、「Cause Related Marketing(コーズ・リレーティッド・マーケティング」と呼ばれることもあります。企業のCSR活動の一環として行われることもありますが、意味合いは異なるので注意しましょう。

● CSRとは
CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」という意味を持ちます。企業は利益を出すだけでなく、企業活動を通して社会に積極的に貢献する責任があるという考え方に基づく活動のことです。

CSR活動の代表的な例として、環境保護活動や寄付活動が挙げられます。一見、コーズ・マーケティングでの活動と似ていますが、趣旨が違います。CSR活動は企業が利益を求めず、自主的に実施するのに対し、コーズ・マーケティングはあくまでマーケティング施策の一環として、商品の売上や認知度の向上も目的としています。

参考
CSRとは〜企業の社会的責任の意味とページの作り方を解説|ferret
  

コーズ・マーケティングの発端

コーズ・マーケティングの概念が世界に広がったのは、1983年、アメリカン・エキスプレスによる「自由の女神修復プロジェクト」からであると言われています。

「自由の女神修復プロジェクト」では、自由の女神像の修復基金として、カードの発行もしくは1回の利用ごとに、アメリカン・エキスプレスが1セントを寄付するというプロジェクトです。このプロジェクトは話題を集め、170万ドルの寄付につながりました。それだけではなく、プロジェクトの期間中、アメリカン・エキスプレスはカードの利用が約30%増加したといいます。

このように、社会課題に貢献しながら企業利益も向上させるのが、コーズ・マーケティングの目的です。

参考:
社会貢献|アメリカン・エキスプレス
コーズ・ブランディングの時代|読売ADリポートojo
  

コーズ・マーケティングの目的

社会貢献

前述のとおり、コーズ・マーケティングの施策は社会貢献につながります。企業の利益を生み出しながら社会に貢献でき、顧客にも価値提供できるという、まさに「三方良し」の状況をつくりあげることができるのです。
  

企業イメージの向上

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画像引用元:「社会意識に関する世論調査」の概要|内閣府大臣官房政府広報室

社会貢献に関して肯定的な考えを持っている人は多くいます。

内閣府の世論調査によると、65%以上の個人が、「何か社会のために役立ちたい」と考えています。企業として社会貢献に取り組むことで、顧客から見たイメージも向上する可能性が高まるといえるでしょう。
  

購買意欲の向上

https://ferret.akamaized.net/images/5a362076fafbd835f10001d6/original.png?1513496693
画像引用元:全国1万人の社会的消費に関する意識調査|株式会社インテージリサーチ

株式会社インテージリサーチの意識調査によると、社会的消費(社会に配慮した消費)に関する商品に対して、45%の人が「購入意欲に影響される」と答えています。商品の付加価値として、社会貢献につながることは魅力のひとつになると考えられるでしょう。また、世界的にも社会貢献に結び付く商品の購入意欲は増加しています。

https://ferret.akamaized.net/images/5a362076781b873d170001e0/original.png?1513496693
画像引用元:DOING WELL BY DOING GOOD|Nielsen

上図は、ニールセンが「社会貢献に励んでいる企業の製品やサービスに対して、より多い金額を支払ってもよい」という設問に対する消費者の回答を、世界の地域別にまとめたものです。その国も、年々肯定的にとらえる人が増えていることがわかります。社会貢献に取り組む企業の商品を選択して購入することで、消費者自身も社会貢献に参加できている気持ちを抱けることが、コーズ・マーケティングの特徴の1つといえるでしょう。
  

インナーブランディング

インナーブランディングとは、企業が自社の社員に対し、企業ブランドへの価値や理念を理解してもらうことで、イメージを向上してもらう活動のことです。社会貢献に取り組む企業だと認知されて企業イメージが向上すると、社員も誇りをもって働ける要素の1つになり得ます。
  

どういうビジネスシーンで必要となるのか

コーズ・マーケティングは、CSR活動と企業利益の増加、企業イメージの向上を同時に行いたい時に必要となります。

CSR活動は利益を求めない活動であるため、財政的に余裕がないとなかなか取り組みづらいものでもあります。しかし、商品の利益と結び付けて行うことで、顧客と協同で社会貢献活動を行うことができます。もしくは、元々CSR活動を行っていたものの、さらに拡大させたい場合などにも有効でしょう。
  

コーズ・マーケティングの事例

1L for 10L キャンペーン

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キリン株式会社は、ミネラルウォーターの「ボルヴィック」で「1L for 10L」キャンペーンを実施しました。2007~2016年までの10年間、ユニセフとの協同プログラムです。

ボルヴィックを1リットル購入すると、ユニセフをとおしてアフリカのマリ共和国に10リットルの水が提供されるというキャンペーンです。キリン株式会社は特設ページを設置し、毎年支援活動報告を行いました。

寄付だけではなく、その活動のレポートや結果を共有することで、顧客の信頼も得ることができた例だといえるでしょう。

参考:
1L for 10L|キリン株式会社
  

携帯利用料金の3%を寄付

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ソフトバンクグループは、ソフトバンクの携帯の利用料金の3%を非営利団体に寄付できるプログラムを行っています。

10の非営利団体を寄付先と定めており、顧客はどの団体に寄付するか、活動内容をチェックして選べます。その後、対象機種を新規か機種変更で契約することで、一定額の6,000円と、毎月の利用料金の3%を2年間寄付します。

利用顧客への負担はなく、普段通りに携帯を利用しながら社会貢献に参加できるプログラムとなっています。

参考:
チャリティモバイル|ソフトバンクグループ株式会社
  

日本の美しい景観に1円の寄付

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アサヒビールは、2009年から「美しい日本に乾杯!〜うまい!を明日へ!プロジェクト〜」を実施しています。スーパードライの対象商品1本につき1円が、日本の自然、環境、文化財の保護活動に活用されています。

毎年特設ページで寄付総額を報告しており、2014年には1億7,489万2,200円の寄付を行っています。また「美しい日本に乾杯!」というキャッチコピーのもと、美しい日本を撮影したフォトコンテストも行っています。

コーズ・マーケティングに紐付け、フォトコンテストなど顧客参加型のコンテンツで、顧客のエンゲージメントを高めている事例です。

参考:
美しい日本に乾杯!〜うまい!を明日へ!プロジェクト〜|アサヒビール株式会社
(2020年9月2日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)
  

コーズ・マーケティング施策で注意したい 「グリーンウォッシュ」とは?

コーズ・マーケティング施策を実施する上で気を付けたいのが、「グリーンウォッシュ」です。

グリーンウォッシュは、「Green(環境)」と「whitewash(ごまかし)」を組み合わせた造語で、見せかけの環境配慮という意味です。顧客へアピールするために、環境へ配慮しているように見せかけることを指します。

たとえ企業にそのつもりがなくても、顧客に「社会貢献を利用している」と思われてしまうとイメージが低下してしまうため、注意が必要です。特に、これまでCSR活動などの社会貢献事業を行っていなかった企業が突然打ち出し始めたり、商品そのものが環境に配慮していない成分を使っていたりすることが発覚した場合に起こりやすいようです。

利益ありきのコーズ・マーケティングではなく、社会貢献への目的を明確化し、ブレない施策を実施することが重要です。
  

まとめ

コーズ・マーケティングを活用し、企業と顧客で活動することで、より大きな規模で社会貢献を実現できます。近年は企業と顧客の距離も縮んでいるため、一体感をもった活動で顧客のエンゲージメントが高まることも考えられます。

一方、利益ありきの施策は、逆に顧客の反感を買ってしまう場合もあります。コーズ・マーケティングを実施する際には、その活動をとおして何に貢献したいのかが明確となった計画が不可欠です。

自社で何かしらのCSR活動は行っているものの形骸化している、より顧客と一体感をもったPR活動がしたいと考えている方は、ぜひ導入してみてはいかがでしょうか。