上司が抱く部下への悩みとして「自分で判断できない」「自立していない」というのが圧倒的に多いのではないでしょうか。

かつて、NHK教育(Eテレ)でオンエアされていた「めざせ!会社の星」という番組で「激突!上司・部下」と題して、上司と部下のそれぞれの言い分や対立を扱っているおもしろい企画がありました。

その中で、上司が抱く部下への悩みとして、自分で考えない、意見を持たない、工夫しない、総じて「課題解決意欲がない」というのがトップに挙がっていたことを記憶しています。(逆に部下の上司への悩みとしては、責任転嫁がひどい、言うことがコロコロ変わる、などがありました)

その放送は2009年6月だったと記憶していますので、すでに10年近く前の話ですがおそらく上司の悩みは現在も変わっていないのではないでしょうか。

今回は、ディズニーランドやプロサッカーチームの事例をもとに、社員が自立するためにどんなアシストが必要かについてお話ししたいと思います。

仕事を任せたのに「なぜ相談しなかったのか」と聞いてませんか?

さて、日常の風景を振り返ってみましょう。

「自分で判断しなさい」「自立しなさい」と言う一方で、実際にメンバーが自分の判断で行動したら「何で勝手にやったんだ」「なぜ事前に相談しなかったんだ」と言いたくなることはありませんか。

メンバーとしては、「せっかく自分で判断したのに……」と自信を失ってしまうことでしょう。そんなことが繰り返されていては、おそらくさらに10年先にも同じ悩みを抱えたままだと思います。

そもそもチーム内に、メンバーが自分で判断するための「指針」「判断基準」は設けられているのでしょうか。

もしも明確な指針・判断基準がないならば、個人的な価値観や好みで判断する以外に方法はありません。それで怒られたら、メンバーとしても納得がいかないでしょう。

指針・判断基準とはチームとして大事にしている価値観を示したものなので、その指針が示されていなければ個人の好みや価値観による判断に頼らざるを得ません。

会社として(もしくは上司として)、明確な指針を示すことができればメンバーの判断や自立を大きくアシストすることができます。

ディズニーランドが掲げる“4つの行動指針”から学ぶ「判断基準」

行動指針は現場レベルの判断基準になる

ディズニーランドやディズニーシーのキャストには、明確な4つの行動指針があることが知られています。

運営母体である株式会社オリエンタルランドのホームページに掲載されている4つの行動指針(同社では「行動規準」と表記)がこちらです。

「 Safety(安全)」
「Courtesy(礼儀正しさ)」
「Show(ショー)」
「Efficiency(効率)」

引用:行動規準「The Four Keys~4つの鍵~」 | 安全・安心の確保(テーマパークの安全) | 誠実なマネジメント | 5つの大事にしたいこと | CSR情報 | 株式会社オリエンタルランド

上記4つがそのまま優先順位となっていて、キャストが様々な状況下で現場レベルの判断を求められる時の判断の拠り所となっているわけです。

2013年6月にオンエアされたミスターサンデーというテレビ番組では、ディズニーリゾートの4つの行動指針と人材育成に関して、事例を挙げて紹介していました。

キャストは地面にこぼれている飲み物を拭くとき、手を使わずに足を使って拭くそうです。足で拭くなんて行儀が悪い、と思われそうですが、この判断にはきちんと理由があるのです。ディズニーリゾートを訪れるお客様の中には、どこにどんな施設があるのか、地図を見ながら歩く人も少なくありません。

そんな中、もしもキャストがこぼれた飲み物を膝をついて手で拭いていたら、お客様は足元にキャストがいることに気づかず、つまずいて転倒してしまうかもしれない、という理由です。

行動指針があるから“自由”に判断が生まれる

つまり「足で拭く」という作業は、優先順位最上位である「お客様の安全」を第一に考え、4つの行動指針に則って判断したキャストの行動だったのです。

もしも「礼儀正しさ」が最優先であるならば、キャストは別の判断をしたことでしょう。個人的な価値観や好みで行動を選択したのではなく、行動指針として「安全」が「礼儀正しさ」を上回っているからこそ、周囲を見渡しアンテナを張りながら地面を足で拭く、という判断ができるわけです。

また、テーブルにこぼれた飲み物と地面にこぼれた飲み物であれば、どちらを先に処理するのでしょうか。お客様が食事や休憩で利用するテーブルを先に、と思ってしまいそうですが、先ほどと同様に転倒の危険性がある地面を先に処理するそうです。

ほかにも、地面に水でミッキーマウスの絵を描くキャストの行動は、優先順位3番目のショーを意識して、お客様を楽しませようという考えで始まったようです。組織としての指針・判断基準をしっかり示し、そのうえで社員の自由な判断が生まれる、この番組を観て驚いたことを覚えています。

サッカーチームにおける「判断基準」の力

選手が優先順位を意識できるチームは強い

スポーツにも同じような事例はあります。一見、ピッチに立つ22人の選手がカオスのように動きまわるサッカーでも、監督が「指針・判断基準=コンセプト」を示し、選手が優先順位を意識しながらプレーできるチームは強いのです。

サッカーは11人でプレーします。ボール保持者には(自分以外に味方が10人いるので)最大で10か所のパスコースがあることになります。それに加えて、ドリブルやシュートという選択もありますから山ほどの選択肢を持っていることになります。

そんななかで、ボール保持者の個人的な好みでプレー選択できるとしたら、次にどんなプレーが起こるのか、チームメイトですら想像がつかず振り回されてしまいます。予測して動く連係プレーなど到底できません。

「自由」と「野放し」は違う

そもそも「自由」と「野放し」は違います。

良い監督は、必ずチームにコンセプトを植え付け、プレーを選択する際の判断基準と優先順位を示します。明確なコンセプトを示し、その範囲内でメンバーの自由な判断が保障されているのです。

それがあるからこそ、「うちのチームでは、こういう状況のときにバックパスはないはずだ。きっとここにパスが出るはずだ」と味方が感じ取ることができ、一手、二手先を予測した動き出しが可能となるのです。観客を魅了する連係プレーやスピード感あふれる試合は、一定の規律の元で展開されているのです。

指揮官のコンセプトを意識した中で11人の意図的な戦術行動があり、両チームの意図と意図とのぶつかり合いがサッカーの醍醐味となっているわけです。

2008年、2012年のヨーロッパ選手権、2010年ワールドカップを制したスペイン代表は、美しいパスサッカーで世界中の人々を魅了し一世を風靡したのは記憶に新しいところです。当時のスペイン代表デル・ボスケ監督も、「秩序なくして才能は意味をなさない」と述べていますし、「自由を生かすための枠組み」が必要である、とも言っています(JFAテクニカルニュースより)。

細かく縛るような基準では指示・命令と同じで選手の実力発揮に制限がかかってしまいますが、チームにとって普遍的な指針・基準を示すことで、初めてメンバーの自由な判断が生きてくるのです。

まとめ

皆さんの会社にも、ミッション、ビジョン、バリューなど、社員の行動・判断のよりどころとなるものがあるはずです(過去の7回目の記事を参照)。

参考:
サンフレッチェ広島を5年で3度のJリーグ王者に導いた森保前監督が自然体で実践していたこととは?|ferret [フェレット]

お飾りになってしまってはいませんか。実はメンバーを自立させるために非常に有効なツールとなります。

冒頭にも書きましたが、

「自分で判断しなさい」
「自立しなさい」

と言いつつも、実際にメンバーが自分の判断で行動したら「何で勝手にやったんだ」「なぜ事前に一言相談しなかったんだ」と言いたくなるかもしれません。

そんな矛盾を解消するためにも、リーダーの皆さんはご自身のフィロソフィーを整理し、可視化・明文化させ、部署内の指針・判断基準を作成してみるのはいかがでしょうか。

そして、その範囲内でメンバーの自由を保障すると活気ある職場になり、クリエイティブな仕事ができるはずです。