コンテクストマーケティングを成功させるためには?

前述したような、顧客1人ひとりに合わせたマーケティングはこれからのスタンダードになっていくと考えられます。では、これを実現させるには、どのようなポイントに注意することが求められるのでしょうか。

消費者のシナリオを意識する

1つが、消費者のシナリオを意識することです。
原水氏はイベントの中で、オーストラリアの企業「バニングス・ウェアハウス(以下 バニングス)」の例を紹介しながら、その重要性について述べました。

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バニングスのECサイト
引用元:D.I.Y. Basics and Skills | Bunnings Warehouse

バニングスは、日本で言うホームセンターをチェーン展開する企業です。家具の修理やガーデニングなど、DIYで用いる商品を販売しています。バニングスのECサイトの特長について、原水氏は次のように語ります。

「ECサイトと聞くと、Webサイト上で商品を検索して買うだけ、というイメージを持たれると思います。ですが、このバニングスのサイトは、そういった視点では全くありません。

簡単に言うと、*商品ではなく、ソリューションを紹介しているのです。*例えば、ドリルが欲しいというお客様がいたとします。こうしたお客様に対して、一般的なECサイトは、ドリルの検索結果を表示するだけでした。

ですが、実はお客様自身は“穴を開けたい”だけかもしれません。その場合、使用頻度などの細かな条件などによっては、ドリル以外の方法でも良い、むしろドリル以外の商品の方がマッチする場合も現実的にはあるわけですね。

そうなってくると、シチュエーションに合わせた商品の提供が重要になってきます」(原水氏)

顧客視点で見れば、商品の購入に至るまでには、1人ひとりの背景があります。そうした部分に着目し、本質的な問題解決を目指すことが大切になってくるでしょう。

「こうしたシナリオ重視のマーケティングにおいては、*店員さんの持っているノウハウがコンテンツになります。*今までリアル店舗で行っていたようなレコメンドを、Webサイト上で行っていくイメージです。

例えば、木の剪定をするための道具が欲しいというお客様が、お店に来店します。すると店員さんは『どういった木を剪定されるんですか?』『どれぐらいの頻度で使用されますか?』といった情報をヒアリングし、それを踏まえて、自身の知見をもとに、商品を提案するわけです。そうすることで、お客様が安心して商品を購入できます。

バニングスは、こういった一連の体験をWebサイト上で実施しているのです」(原水氏)

バニングスのECサイトでは、家の庭やキッチン、リビングルームなど、悩みを持っている部分に合わせて、修繕の方法など、具体的なソリューションが動画で紹介されています。その上で商品をレコメンドしている形です。

「動画に登場するのは、バニングスの店員さんです。実際に部屋を改修しながら、そのノウハウをコンテンツとして提供しています。発信を続けながらそれに対する反応を取り入れることで、自社サイトに良質なコンテンツが増えていきます。

これらの情報をもとに、より最適化されたコンテンツを顧客に届けることができます。これは、Webサイトの改善という部分ももちろんありますが、考え方をお客様視点にした、エクスペリエンスの改善といえます。」(原水氏)

膨大な情報を分析するための仕組みづくり

優れたエクスペリエンスを生み出すためには、膨大な顧客データを様々な接点、側面において分析し、顧客1人ひとりに最適化したコンテンツやサービスを提供することが求められます。

そのためには、PDCAサイクルを素早く回すことができる仕組み作りが大切です。
原水氏は、そのシステムをどう作り、効率化していくのかについて語りました。

クラウド上でのシステム構築

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Webサイトの個人情報をどう扱うのか、という問題は、多くの企業担当者の方が抱えていることと思います。会社のポリシーの問題もあり、クラウド活用に踏み切れないという声も聞きました。

ですが実際、ローカルにサーバーを置いて運用するよりも、クラウド上でしっかりと設計した方が、個人情報を守りながら、運用をしっかり行っていくことが可能です。

例えば、多くの場合、新しいサービスやソリューションがクラウドでは提供され続けています。苦労して作ったシステムを、比較的容易につねに最新の環境で運用保守することができるのです。

また、クラウドのデータセンターだと、USB経由でのデータ流出など、物理的なデータ漏えいがありません。しっかりと設計して頂くことで、運用を楽に、安心して行いながら、コストも抑えることができるのです。」(原水氏)

業務支援としてのAIの活用

複雑で膨大なデータを分析し最適化することは、人間の力だけでは限界があることも事実です。そこで、AIの活用が重要になります。

「Amazonで商品を閲覧しているときに、『この商品を買った人はこんな商品も買っています』という表示をご覧になったことがあると思われます。

あの表示は購買データに基づく関連性だけでなく、色々なパラメータを利用したレコメンデーションになっています。

そういった仕組みを作ろうと思うと中々大変ですが、機械学習の仕組みと、アクセスデータや顧客データなどを組み合わせることによって、精度の高いレコメンドエンジンを作ることが可能になります。

『AIが仕事を奪う』という表現がよく用いられますが、AIは一部業務の自動化や支援をしてくれるものとして、日頃の仕事をサポートするために使ってもらうのが良いでしょう」(原水氏)

AIがすべての業務を自動化してくれるわけではありません。それを理解したうえで、AIを活用した方が効率化できる部分と、人のノウハウやスキルが必要になる部分を理解し、活用することが重要であると、原水氏は語ります。

「翻訳においても、AIが活用できます。AIを活用した機械翻訳は、英語からフランス語やイタリア語という翻訳で高い精度を発揮します。文脈や文章構造の類似点が多いことなどが理由です。

一方で、機械学習では再現できない部分があるのも事実です。
日本語から英語への翻訳は、まだあまり精度が高くありません。直訳的な表現になってしまいます。

とはいえ、機械翻訳の発展により、Webサイトの多言語化のうえでのコスト削減が見込めるようになりました。

それぞれの解決できる範囲を理解したうえで、AIと人間が行う業務を適切に判断して使い分けていくことが重要です」(原水氏)

マーケティングツールの適切な統合

複雑化する業務を効率化するうえでは、様々なマーケティングツールを使い分けることも重要です。

原水氏は、「Marketing Technology Landscape Supergraphic」を引用しつつ、以下のように述べました。

「色々なマーケティングツールが登場しているのは、皆さんご存知だと思います。2011年から2017年の間で、そうしたマーケティングテクノロジーに関する企業は(世界中で)150社から5,000社へと増加しました。

良いツールがたくさん登場している中で、何を選んで、自社として統合していくのかを考えることが大切になってきています。

とはいえ、たくさんのツールを導入しすぎると、仕組みが複雑化しすぎることも考慮しなければなりません。2年後3年後、新しいサービスが登場した時に、また違うものを入れるのか。その時に変えなければいけないことは何か、などの問題が出てきます。

そうなってくると、PDCAサイクルが回らず、エクスペリエンスの改善が目的のはずが、業務の改善へ時間を取られてしまうため注意が必要です」(原水氏)

参考:
Marketing Technology Landscape Supergraphic (2018): Martech 5000 (actually 6,829)