Cookieに代わる有効な情報「ゼロパーティデータ」とは

Cookieレスの話題と関係が深いものに「ゼロパーティデータ」という言葉があります。Forresterのアナリスト、Fatemeh Khatibloo氏が2018年に提唱したもので、

顧客が意図的かつ積極的に企業に共有するデータ

のことです。たとえば、個人のライフスタイルや趣味嗜好、購入意向度などがそれにあたります。

Amazonプライム・ビデオやNetflixなどで好きな映画の種類を選んだり、アパレルのECサイトでカラーやサイズ感の好みを聞かれたりした経験はないでしょうか。企業はそのデータをニーズと捉え、個人の興味・関心に寄り添った提案をしてくれるようになります。レコメンド機能はまさにそういった施策の1つです。

これまでは、Cookieを筆頭にサイトの閲覧履歴やデモグラフィックデータなど表面的な情報をさまざまな手法でかき集めてきました。他方、ゼロパーティデータは本人が積極的に情報を開示・共有するため、さらに踏み込んだ情報を収集することができます。本人が提供するため、情報の信頼度は高くなります

そうした質の高いゼロパーティデータを取得するには「コミュニティの構築が有効です。
コミュニティは、共通の関心や価値観を持つ人々が集まる場であり、ユーザーが安心して情報を共有しやすい設計になっているからです。

いま「コミュニティ」が注目される理由

企業にとって大切なお客さまと密につながり続ける手段として、最近注目を集めている「コミュニティ」についてご紹介していきます。

わたしがCCOを務める株式会社Asobicaがオンラインコミュニティプラットフォーム「coorum(コーラム)」をローンチした2019年頃は、「コミュニティ」がどんなものなのかを説明できる人はほとんどいませんでした。

昨今、消費財や食品メーカーや全国に店舗を有する飲食店、サブスクリプションでサービスを提供するBtoB企業など、コミュニティを顧客接点の中心に据える企業が勢いよく増えています

ではなぜ、いま「コミュニティ」が注目されているのか、その理由を「信頼」「経営資源」「カスタマーイン思考」の3つのキーワードでご説明していきましょう。

①信頼の構築

ひと昔まえの企業と顧客との関係は、メディア側からの一方向の発信で完結していました。一方、コミュニティの考えでは、企業と顧客が双方向に混ざり合い、顧客のためになることを顧客と一緒に共創していくことが重要になります。

企業にとって顧客と向き合うということは、短期的なものではなく、時間をかけて中長期で育んでいくものです。双方の「信頼」を構築し、顧客に安心と安全を感じてもらう場が必要なのです。企業と顧客はいわば「仲間」のような存在ともいえるでしょう。

ではなぜここまで信頼が重要な要素になったのでしょうか。
テレビCMや大量の広告などのマスマーケティングの信用度の低下が1つの理由にあります。現代は多くの情報が溢れかえり、信用できる情報が何か分かりづらくなってしまっているのです。

総務省が発表しているデータによると、選択可能情報量は10年で531倍になっています。

デジタル広告の拡大と消費者が受け取る情報量の変化
出典:消費者庁「近年の広告市場の動きについて」

あまりにも多すぎる情報のなかから自分に最適な選択肢を決定することは困難な状態です。そのため、より自分に近い存在である家族や友人、同僚などの声を信頼する傾向が強まっているのです。

2023年10月から施行されたステルスマーケティング規制(ステマ規制)でも、企業への「信頼」が求められていることが説明できます。インフルエンサーと呼ばれる方や多くのファンがいる芸能人などが、広告と気づかれないように行う宣伝行為が横行しており、しばしば炎上問題に発展していました。ヤラセやサクラと言われるものです。ディズニーの「アナと雪の女王」や飲食系の口コミアプリなどニュースでも話題になっていたのでご存知のかたも多いと思います

こうした背景から、ユーザーは本当に信頼できる情報をさらに求めるようになっています。

コミュニティは企業公認のもと安心・安全の場として運用できるため、信用度が高い施策として最適なのです。

②経営資源の最適化

当然ですが経営資源は無限ではありません。限られたリソースをミニマルに効果的に配分しなくては激しい競争に勝つことはできません。より多くの商品を何度もリピート購入してくれるような自社にとって最適なお客様を見つけ出し、そのロイヤル顧客に買い続けてもらう必要がでてきます。

有名な「パレートの法則」は

20%の要素が全体の80%を生み出している

という状態を示す経験則です。わずか20%のロイヤルカスタマーが、売り上げ全体の80%を占めているという状態になります。

実際には更に高い割合でファンが事業に多大な貢献をしているケースも多くあります。ファンマーケティングで有名な「カゴメ」は、上位2.5%の方が売上の30%以上を担っているといいますし、クラフトビールで有名な「ヤッホーブルーイング」では上位10%のファンがなんと売上の60%を担っているのです。

熱狂的なファンになればなるほど、一回あたりの購入額や購入頻度が増加する傾向にあり、新作がでるたびに購入してくれたりリピート購入してくれたりするのです。

またマーケティングの世界でよく知られている、「1:5の法則」も同様です。

新規顧客の獲得コストが、既存顧客にリピートしてもらうコストに比べて、5倍もかかる

という経験則のことです。

このように潜在的な新規顧客の開拓に躍起になるよりも、いまファンでいてくれている既存のお客様にアプローチして、リピーターになってくれることに経営資源を注力したほうが、結果的に事業の成長に繋がるといえるでしょう。

コミュニティをつくることで、こういった最適なファンが集まり、企業のそばに居続けてくれるようになるのです。

③カスタマーイン思考

人口が右肩上がりに増え、作れば売れる時代は過ぎました。現代は、個々のニーズをきめ細かく汲み取ってくれるサービスが求められるようになりました。

顧客が何を求めているのか?その真意を探るためのツールとして、アンケートやリサーチ調査などをイメージされるかもしれませんが、表面的な回答や、回答者に属性のばらつきがあることも多く、本当に知りたい顧客ニーズを的確に捉えることは難しいものです。

この課題は、コミュニティが解決の糸口になります。オンラインコミュニティでは、VOC(Voice of Customer)の収集やUGC投稿顧客同士の対話が日常的に発生し、あらゆるところにインサイトが散りばめられています。また、ユーザーヒアリングやファンミーティング(ファン同士の集い)などもコミュニティ内で呼びかけることで、すぐに熱狂的なファンやリピーター顧客が集まってくれます。

こうした企業側からの呼びかけはファンにとっては非常に嬉しいもので、自らが好きなブランドやサービスの一部になれたような気持ちになります。積極的に改善点を話し合ったり、要望のアイデアを出したりしてくれる様子は、まさに会社の企画会議にファンが一緒になって参加してくれているようなものなのです。

顧客の声を収集し、商品開発に反映させることで、顧客が求めるものが形になるのです。つまりプロダクトアウトではなく、カスタマーインのスタンスと言えるでしょう。
顧客の考えは顧客に聞け。これこそがセオリーなのです。

コミュニティでは、企業と顧客の信頼関係を強化し、限りある経営資源を最適分配し、ファンの声を拾い上げ顧客と共創することにより、ブランドを唯一無二の存在へと昇華してくれるようになります。

ファンを社外取締役として登用して話題になった「ワークマン」や熱狂的なファンがいることで知られる「ヤッホーブルーイング」などがその代名詞といえるでしょう。

次回の記事では、企業と顧客をつなぐ「コミュニティ」をさらに深掘りし、BtoCBtoBの成功事例を取り上げていきたいと思います。

企業と顧客をつなぐコミュニティ、 BtoC・BtoBの成功例

企業と顧客をつなぐコミュニティ、 BtoC・BtoBの成功例

ひとえにコミュニティと言っても、対象となる顧客群によって目的や関わり方が異なります。BtoCとBtoBのコミュニティについて、それぞれの事例とともに説明します。