オウンドメディアやブログ、SNSの運用など、情報発信に力を入れている企業は多いでしょう。これらのコンテンツは、企業の認知拡大や購買行動の促進などに効果的です。

ただし闇雲に情報を発信するだけでは、届けたい人に情報が届かず、企業側の自己満足に終わってしまうこともあります。それでは、ユーザーに情報を伝えて、その心を動かすには、どのようなメディアの運営方針が必要なのでしょうか。

今回は、Webメディア「70seeds」を運営している株式会社am.の代表取締役 岡山史興氏に「読者に伝わるメディアの作り方」をテーマに、編集方針や記事の見せ方の工夫をお伺いしました。

岡山 史興氏プロフィール

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株式会社am.代表取締役 CEO / Webメディア『70seeds』 編集長。1984年長崎県生まれ。NPOの立ち上げや、愛・地球博にて市民プロジェクトリーダーを務めるなど、 学生時代から社会課題と生活者をつなぐコミュニケーション領域で活躍。

戦略PRコンサルティング会社のGM職を経て、2014年にPR支援のStory Design house株式会社を共同創業。その後、事業創出支援に重点を置く株式会社am.を2017年に設立。スタートアップ企業のブランド戦略立案から、大企業や地域を対象とした新規事業開発なども手掛ける。

NHK、朝日新聞、読売新聞などメディア掲載多数。

2回のリニューアルを経て、より未来志向のメディアへ

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ferret:
岡山さんの運営するWebメディア「70seeds」では、7月に大きなリニューアルを実施しましたよね。メディアをリニューアルするにあたり、どのような経緯があったのか教えてください。

岡山 氏:
「70seeds」は、戦後70年を迎えた2015年に立ち上げたメディアです。僕はもともと長崎にルーツがあり、NPOなどで「戦争」や「平和」というテーマをどうしたらもっと身近にできるかについて取り組んできました。

その中で、「戦後70年の”知らなかった”と出会う」をテーマに、事業で培ってきたPRやマーケティングのスキルを使って、戦争や平和をより身近な切り口として届けていくメディアを作ろうと「70seeds」を立ち上げたのが最初です。

戦後70年という区切りもあって、様々なメディアで「70seeds」について取り上げていただき、多くの方からの反響もあったので、これで終わらせるにはもったいないと考えました。そこで「戦後70年を踏まえて、次の未来を作る人たちを応援していく、より未来志向のメディア」を作ろうと、1回目のリニューアルを実施しました。

しかし、似たような志向性の新しいメディアがどんどん立ち上がっている中、「僕らがこれをやる意味はあるのか」ということについて見えなくなっていくこともありました。

そこで2018年の7月に「次の70年に何を残すか」という問いかけをコンセプトにした2回目のリニューアルを実施したんです。

ferret:
メディアのコンセプトは立ち上げ当初からリニューアルを重ねるごとに変化しているのですね。

岡山 氏:
そうですね。ただ今回のリニューアルでは、原点回帰したなって気もあります。これまでは戦後70年の変化で生まれてきたことに焦点を当てるメディアだったんですけど、それが次の70年って視点になったときに、世の中の変化をつくるメディアになったというか……。本当の意味での未来志向になれたかなと思っています。

背景には、今のメディアの在り方ってどうしてもインスタントになりがちだなという思いがあって。例えば、「インフルエンサーと呼ばれる人たちを取材して、手っ取り早くPVの獲得やSNSの拡散を得よう」みたいな話がたくさんありますよね。

でも僕らはそうではなくて、目の前の数年よりも「次の70年」という時間軸で見たときに、「これが10年〜20年後には世の中で当たり前になっているといいよね」みたいな社会の地殻変動をつくっていくような人たちを応援していくメディアにしようという考えで運営しています。

読者に「自分ゴト化」してもらうための編集方針

ferret:
コンセプトの変化とともに、コンテンツ制作や見せ方においても変えていった部分はあったのでしょうか?

岡山 氏:
ありますね。これは編集方針をイラスト化したものなんですけど……。

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(岡山 氏がiPadで描いた70seedsの編集方針)

岡山 氏:
70seedsの編集方針にはまず、「ミクロな動機×マクロな課題」というのがあります。
「社会の新しい当たり前をつくっていく」という話って、マクロな課題に寄りがちなんです。でも、例えば「テレビで社会課題の話題を取り上げても縁遠すぎて視聴率が獲れない」って話、よくありますよね。とはいえ社会課題を取り上げている人には、これを始めたミクロな動機、その人がやっている個人的な理由があるはずなんです。結局このミクロな動機が、読者が課題を自分ゴト化するために重要なことなのではないのかなって。

ふたつ目の「読者は自分ともう1人」というのは、ライターが良いと思うだけではなく、「もうひとり、こんな人に読んでほしい」という人物のイメージを立てて、その人がちゃんと読んでくれるかという客観的な視点も入れて書くということです。

もうひとつは「入り口は広く、出口は狭く」。難しいことや世の中にとって正論になるような話って、どうしても入り口が狭くなりがちと言いますか…いわゆる「意識が高い人」しか読まなくなっちゃうような。でもそうじゃなくて、入口はちゃんと広く取る。そういうことに関心があんまりなかったり、関心はあるけど踏み出してこなかったりという人たちをどう引っ張り込んでくるかっていうのがすごく大事なので。

そのために動画を作ったり、記事の表現を変化させていったりしています。興味を持ってもらうために入り口は広く、ただし中身は徹底的に丁寧にして出口は狭く、ということを重要視しています。

記事の見せ方は「テレビ」を意識

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ferret:
70seedsは、記事トップに画像が固定されていて記事を読み進めていくと固定画像が変化していく、という一風変わった記事の見せ方をしていますよね。これにはどのような狙いがあるのでしょうか?

岡山 氏:
端的に言うと、テレビを意識しています。日本人にとって一番身近なメディアは、やっぱりテレビなんですよ。若い世代はテレビを見ないとも言われていますが、それでもテレビのフォーマットに親しんだ人たちが作り出す、テレビ的なコンテンツを楽しんでいますよね。

ferret:
確かにそうですね。

岡山 氏:
70seedsの記事でもテレビ的な部分を意識して、上の画像とテロップが切り替わることで、サーっとスクロールして読み進めていってもなんとなく話を飲み込めるようにしているんですよ。

やっぱり視覚的に刺激を与えながら、最後まで読んでもらうために飽きない工夫をしていく必要があるなと思います。

最近インタビュー記事でよく見かける、インタビュアーとインタビュイーの顔アイコンを出して吹き出し風にする見せ方も、その手法のひとつですよね。
それに加えて、スマホ最適化にも取り組んでいます。例えばインタビュー記事の見せ方。インタビュアーとインタビュイーのセリフを左右に振って表示させているのですが、文字の配置や文字数をLINEやメッセンジャーと同じにしているんですね。

スマホに合わせ過ぎて、パソコンでは見づらいって話もあるんですが……。今は読者さんの8割がスマホなので、ひとまずスマホに合わせていこうと実験しています。

流れるように読める文章とは?

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ferret:
テレビ的な見せ方をするために、他に工夫していることはあるのでしょうか?

岡山 氏:
じつは文章の書き方にもテレビ的な工夫を試しているんですよ。最近執筆しているnoteやダイヤモンドオンラインでの寄稿記事で実践していることなのですが……。

参考:
個の時代に消費されない「ドア型人材」という生き方|岡山史興|note

例えば、中見出し。普通はまず頭に中見出しがあって、ワンセクション終わったら次の中見出しがあって、また文章が始まるって流れになっていると思います。

ただ僕がテレビ的にしようと思っているのが、この中見出しを1個を文章の中に組み込んじゃうというやり方です。例えばテレビだと、「何とかの続きはCMのあと」みたいな形でCMに入って、CMが終わればそのまま続きが始まっていきます。

あの役割が記事だと中見出しだと思っていて、文章の続きをそのまま中見出しにも組み込んで、インパクトをつけていくような感じです。

そうすると、流れるように文章を読めるんですよね。ただし、流れるように読ませるために、中見出し自体を外してしまうのは違います。やっぱり区切りは必要なので。でも区切りはあるけれども自然に話が入ってくる、というのを最近はnoteで試していますね。

「シェアされる記事」と「読まれる記事」は違う

ferret:
SEOを意識すると、見出しにはキーワードを積極的に組み込んで話を区切っていくようなことが多いと思いますが、それとは異なる考え方ですよね。

「テレビ的な文章を書く」という発想はどこから生まれてきたのでしょうか?

岡山 氏:
僕はこれまで、あるニュースアプリをはじめ、様々なテクノロジー企業の立ち上げやグロースに関わってきたのですが、その時の経験を元に、自分のコンテンツに落とし込んだらどうなるのだろう?と思い、色々試行錯誤しながらやってきた完成形が今の形です。

結局これらが何につながるかって言うと、「シェアしてもらいやすさ」なんです。シェアされる記事と読まれる記事って全然違うんですよ。PVを集めるだけだったら、SEOタイトルワークで十分かもしれません。でもそれが「人の心を動かすか」と言われると、やはりそうじゃないことが多いです。人の心を動かせたかどうかで言えば、「シェアされたかどうか」の方が大切な指標なのではと思います。

「どうしたらシェアされるのか」を考えた時に、中身を読まれないシェアは意味がない。まずはタイトルやディスクリプションなどの入り口があって、その次にコンテンツの品質があります。入り口だけ良くても読まれないし、中身だけ良くてもたどり着かない。入口のハードルを下げつつ、中身はしっかりとしたものでなければいけません。

そのための手段として、動画コンテンツを使って入り口を広げたり、テレビ的な見せ方・書き方をして中身を読んでもらう工夫をしていますね。

読者の心を動かすための編集方針

今回は、岡山 氏に70seedsの編集方針や見せ方の工夫についてお話を伺いました。

スマートフォンやSNSの普及により、現代人が触れる情報量は爆発的に増えています。その中で、ユーザーに情報を見つけてもらい、自分ゴトとして受け取ってもらうには、「情報の伝え方」がとても重要です。

70seedsのコンテンツの「書き方」と、テレビのようなコンテンツの「見せ方」を工夫していく方法は、メディア運営の参考になるのではないでしょうか。

後編では、70seedsの動画コンテンツ「17seconds」やサイトデザインについて、より詳しくお伺いします。

後編はこちら

17秒で伝わる動画を作るには?70seeds 岡山氏が語る、3秒で離脱されない動画制作

17秒で伝わる動画を作るには?70seeds 岡山氏が語る、3秒で離脱されない動画制作

Webメディア「70seeds」を運営している株式会社am. 代表取締役 岡山史興氏に訊く「読者に伝わるメディアの作り方」。今回は、離脱率が低いという17秒の動画コンテンツ「70seeds」やサイトリニューアルで新たに加わった機能などについて語っていただきます。ユーザーに伝える手段のひとつである動画制作についてや、読者に「もっと読みたい」と思ってもらえるようなメディアづくりについて詳しく聞いていきましょう。