2016年から中国で提唱されていた小売の新たな概念である「ニュー・リテール」を反映した取り組みが日本でも注目されるようになってきています。

前回の記事 でもお伝えしたとおり、「ニュー・リテール」はOMO(Online Merged Offline)とも言われており、実店舗とWebを単に繋ぐのではなく、「統合」するという概念です。

最近注目を浴びているこの「ニュー・リテール」の概念、日本でも既に取り組んでいる企業もありますが、単純に中国のスキームや技術を取り入れただけでは日本での成功は難しいと思われます。

中国での成功事例から考えられるポイントは、「店舗在庫」「物流」「決済」の3点です。
今回はその中でも特に、「店舗在庫」についてお伝えします。

日本と中国の絶対的な違い

中国で注目されている「ニュー・リテール」の概念をビジネスに落とし込むために、まずは日本と中国におけるマーケットの違いをご説明します。

中国の方が人口が圧倒的に多いのは言わずもがなですが、それよりも認識しておくべきなのは「リープフロッグ(Leapfrog)」という現象が起こっているということです。

昨今の越境ビジネスではよく耳にする言葉なのでご存知の方も多いかもしれません。Leapfrogは「馬跳び」という意味です。これは既存の情報技術の観点からは普及が遅れた発展途上国の方が、新しい情報技術が普及する際、法律・教育的な、つまり社会的な障壁がないために、情報技術の普及が早まるというものです。

つまり、馬は先進国を指しており、馬跳びをしているのが中国のような成長している国を指しています。

人生初のITデバイスはスマートフォン

前述の「Leapfrog」は具体的には使用デバイスに紐づく形で起こっています。
簡単にいえば、中国は固定電話や、テレビ・パソコンが普及するよりも前に、スマートフォンが普及したのです。ここが日本のマーケットとの絶対的な違いです。人生で初めて持つITデバイスがスマートフォンである、ということにより中国のビジネスは一気にスマートフォンネイティブで拡大しているのです。

ニュー・リテールの鍵になるのは店舗とWebの在庫統一

さて、話を今回のテーマである「店舗在庫」に戻しましょう。

前回の記事で紹介したアリババのニュー・リテールスーパー「盒馬鲜生(ファーマーションシェン)」、さらにアリババの競合である騰訊(テンセント)が買収した永辉超市においても、基本的にWebとリアルの在庫は統一して管理されています。つまり、消費者は店舗とWebで購買体験がちぐはぐになることがないのです。

一方で、日本の小売企業では店舗とWebの在庫管理が統一されている事例はあまり耳にしません。消費者は欲しいと思った商品をWeb上で購入しようと思っても在庫がない、もしくはWeb上で欲しいと思った商品を見に来店したとしても、在庫がないということが発生します。

なぜ、中国ではWebとリアルの在庫の統一管理が可能なのでしょうか。

まさにこれが、前述した「Leapfrog」現象なのです。日本はスマートフォンデバイスが発達する前に固定電話・テレビ・家庭用パソコンが普及し、それに合わせて店舗の形態も変化をしてきました。つまり、スマートフォンデバイスによる常時接続型の体験創出型のものは少なく、家庭でインターネットを見て購入する。もしくは来店して購入するというチャネル分断型の体験創出をしてきたと言えます。

一方で、中国では先ほどもお伝えしたようにスマートフォンデバイスが固定電話・テレビなどを超えて普及したため、ビジネス自体がスマートフォンを中心し常時接続型の体験を創出する全体で設計されているのです。

これは、中国企業間での力関係からも読み取ることができます。
通常、日本ではおおよそのスーパーや小売企業がリアルの店舗を持ち、規模拡大のためにECを開始するという流れなのに対して、中国の「ニュー・リテール」戦略を実現する小売店舗はあくまでインターネット企業(アリババ、騰訊)が主導で実行しているのです。

リアルからWebへ。ではなく、Webからリアルへ。という流れが「ニュー・リテール戦略」そのものを可能にしていると言えます。

店舗ありきの設計の変更を

今回はニュー・リテールを概念を実現していくにあたり重要なポイントの一つである店舗在庫についてお伝えしました。この概念を実現していくにはそもそもの実店舗ありきでの店舗設計を改める必要があります。

実際、ドンキホーテのように実店舗発でニュー・リテールに近いものを実現し得るような可能性もありますが、これもゼロベースでユーザーニーズを捉え直したからこそ の発想だと考えるのが妥当でしょう。

日本企業における「ニュー・リテール」戦略はまだ黎明期です。

ユーザー体験を向上させるためにはどのような在庫管理が適切であり、バックヤードはどのようなものが効率的なのか、といった議論を社内、およびニュー・リテール戦略を実行している企業もしくはニュー・リテールプラットフォームを運営しているような企業との議論を重ねて日本のマーケットにとって合理的な形で実践・改善を続けていく他はないでしょう。