前半では、新日本プロレスがTwitterを始めたきっかけや、KPIについてお話を伺いました。
広報宣伝部の一番の使命は、会場をお客様で満員にし、大会を盛り上げることとのこと。数値目標を掲げてPDCAを回していくことも大切ですが、ひた向きに情報を発信しファンを楽しませる努力や試行錯誤、工夫を見ることができました。後編では、新日本プロレスがさらなる飛躍を実現すべく掲げている海外戦略や、SNSが生み出した相乗効果についてお聞きしました。

個性豊かなレスラーたちを引き立てるのが公式Twitterの役目

ferret:新日本プロレスにはたくさんのレスラーがいますが、ほとんどの方がSNSを使ってるというのはすごいですね!

真下さん:やっぱり、親会社がブシロードになったタイミングで、木谷オーナーから直接、選手にお願いされたのが大きかったと思います。いろんなスポーツ企業の方にお話を聞くと、最近は炎上を恐れたり、どういう内容を発信していいのか迷う選手も多いようで、リスクを感じてあまり推奨していない企業も多いようです。ただ、新日本プロレスの選手の場合は、そもそも自己プロデュースが基本ですので、ツイートも非常にバラエティに富んでいる。あらかじめ選手一人ひとりのキャラクターが立っていますから、僕らは選手の皆さんの個性豊かな世界をアピールできれば十分なんです。

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いろんな企業のSNS担当の方は、一つのニュースや投稿をおもしろくしようと頑張られているのかもしれません。新日本プロレスは、選手の皆さんが十分おもしろいのでオフィシャルのTwitterは特別おもしろくしようと思ってないんですよね。
 
ferret:レスラーたちの個性やおもしろさをファンはとても楽しめると思います。一方で、先ほど他のスポーツの企業が炎上を恐れてTwitterを推奨していないとおっしゃっていましたが、新日本プロレスでは、炎上に対して何か対策はされているんでしょうか?
 
真下さん:過去には、我々も炎上したこともありましたので……。そういった事故を防ぐために選手の皆さんにはSNS講習会を開いています。同じく、新人選手がSNSを始めるときは、プロ野球のコンサルティングなどプロスポーツに関わっている弁護士の方を招いて、「そもそもSNSってどういうものか?」「こういう発信には気を付けましょう」という講習を受けてもらったり、講習会ができない場合はマネージャーさんからポイントを説明してもらったりしてますね。

でも、あまり規制を厳しくしてしまうと、選手の個性が消えてしまうので、難しいところではあります。あえて選手本人たちに任せている部分も大きいんです。

場外戦勃発!Twitter上からリング上での戦いへと発展

ferret:プロレスって言葉で戦う側面みたいなのもあると思うんですが、試合への伏線としてレスラーがSNSを活用して実際に試合が実現したことってあるんですか?

真下さん:一つの例としては、2018年の年末に、NEVER無差別級というベルトの王者だった後藤洋央紀選手が、試合後にいきなり飯伏幸太選手を挑戦者に指名したことがあったんです。ところが、指名された側の飯伏選手は「本当にやりたいですか?」「これに関しては…却下します」とTwitterで挑戦を拒否してしまった。これを見た後藤選手は「却下されちまったか。でも、俺は諦めん!」みたいなかたちでTwitterを使って返信していく。ここから1~2週間、SNS上で王者がラブコールを送り続け、挑戦者候補は却下を繰り返すという前代未聞の展開になっていくんです。
 
最終的には、リング上で後藤選手が飯伏選手と向かい合って「諦めた、もういいよ」と断念するんですが、ここでツンデレ気質のある飯伏選手が「いやいや! やりましょうよ」と心変わりして、対戦が実現することになった。ただ、ここに至るまでTwitter上での伏線がたっぷりあったので、会場でももの凄く盛り上がりました。
 
これは新日本プロレスでも初めてのケースです。選手主導のSNS発信でも、こんな流れが自然と生まれることもあるので、ファンの方がよりTwitterを熱心に追いかけてくれるようになったと思います。オフィシャルのアカウントでも後藤選手と飯伏選手のツイートを丁寧にフォローしたりして、2人のやりとりを見逃した人にもオフィシャルを見れば追いつけるようにしていました。

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お祭りムードをつくり、とにかく盛り上げる

ferretInstagramはこれからどのような運用を目指していますか?

真下さん:そこはまだ模索中ですね。Instagramは当初はつくっただけで放置していたのですが、急激にフォロワーが増えてきたこともあって、慌ててコンサルティングを受けて勉強したりして(苦笑)。そこから効果的と言われる方法も実践し始めてはいますけど、まだまだ活用できていない部分が多いです。ただ、Instagramはリンクが張りづらかったりするので、情報の拡散には不向きな面もある。そういう意味では、情報量の多い新日本プロレスは本当にTwitterとの相性が良すぎるんですね。

2019年の1月4日に行われた新日本プロレスの東京ドーム大会(通称イッテン・ヨン)のハッシュタグが、当日のTwitterの世界トレンドで1位になりました。これは有料動画サービスの新日本プロレスワールドで、全世界の方がリアルタイム生中継を観られる環境ができたことが非常に大きいです。こうした生中継の盛り上がりを煽るには、Twitterは非常に効果的です。他のスポーツ業界の方もやられていると思うんですが、写真を使った試合速報や、試合動画の切り出し、ファンの方の感想、選手による試合の感想などがタイムラインに上がってくるので、どんどんリツイートする。ただ、試合中は結果のネタバレには極力気をつけています。

こうした投稿を行うようになったのは、以前アメリカでの研修でWWE(World Wrestling Entertainment:アメリカのプロレス団体)さんへ観戦へ行かせてもらったときに、SNSをどうやって運用しているかをリアルタイムで観戦しながらチェックして参考にしたのが大きかったです。今では日本でも普通になりましたが、当時は「試合中にここまでたくさん情報を出していいんだ?」という驚きがありましたね。
 
ビッグマッチの当日は各部署の情報を出していくのとは別に、試合中はTwitterでお祭りムードをつくっていくように心がけています。

今後の目標はSNSの海外展開!海外フォロワーをもっと増やしたい

ferret:今後、新日本プロレスのSNSが目指すものは何ですか? 興行なので、チケットを毎回完売させることだったり会場を満員にすることだったりすると思うんですけど、その他に何かありますか?

真下さん:会社としては、ブランディングだったり、ライセンスビジネスにも注力しています。SNSで言うとWWEさんは世界最大のプロレス団体ですけど、新日本プロレスは世界で2番目の団体とも言われています。WWEさんのTwitterのフォロワーは約1,000万以上いる。規模や言語の違いもありますけど、新日本プロレスのフォロワーは約38万、海外向けの英語の公式Twitterを合わせても40~50万近く。WWEさんを見るとまだいけるんじゃないかなという気もします。

最近は海外大会がかなり増えていますし、海外向けのTwitterアカウントのフォロワーを伸ばしてくことにも注力しています。今年4月にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで大会を行って大成功に終わっていますし、8月末にはロンドンでもビッグマッチを行います。さらに海外のフォロワーを増やしていきたいですね。

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▲マディソン・スクエア・ガーデン大会より

そもそもプロレスは“肉体言語”で闘いを表現しているジャンルですので、試合だけ見ていただいても伝わりやすい部分があります。ただ、英語圏がメインのWWEさんは全世界にフォロワーがいますし、各国の言語にも対応している。我々のメインはもちろん日本語なのですが、最近は新日本プロレスワールドでも英語の実況中継を頻繁に行っていますし、英語サイトで英語のインタビュー記事を出したり、海外の方にもより深く新日本プロレスの世界を理解してもらえるようにアプローチしています。

ferret:先ほど海外のフォロワーを増やしたいとおっしゃっていましたが、会社自体が海外戦略に向けて力を入れ始めているんですね。

真下さん:そうですね。2年前くらいにアメリカのスーパースター、クリス・ジェリコ選手が新日本プロレスに参戦したんですが、ジェリコ選手はTwitterのフォロワーを350万くらい抱えています。実は、参戦するタイミングで、ジェリコ選手がTwitterとInstagramのフォロワーに、新日本プロレスワールドの入会の仕方を英語でレクチャーしてくれたのですが、これで一気に海外の会員数が増えました。

今年の夏もWWEの現役トップ選手だったジョン・モクスリー選手(元ディーン・アンブローズ)が参戦したんですが、彼のバックステージのコメント動画は、YouTubeで2日で約100万回以上再生されました(現在の再生数は350万以上)、これは通常配信しているコメント動画の10倍以上の再生数でした。こういった現象を見ても海外のマーケットは大きいと思いますし、まだまだ伸びしろはあるんだなと実感しています。

ferret:新日本プロレスは一時期、人気が低迷していましたが、回復にはSNSが一役買ったと感じられますか?

真下さん:SNSもそうなんですが、この10年ぐらいで会社主導のもと、情報を発信できるようになったのはかなり大きかったと思います。長らく日本のプロレス界は、プロレス雑誌やスポーツ紙が報道をリードしてきた時代があったんですが、プロレス人気が落ちた時期にはプロレス雑誌の廃刊が相次いだり、一部のスポーツ紙にはプロレスを取り上げていただけなくなった。
 
ちょうどその頃、新日本プロレスは親会社がユークスになった時期でした。当時も観客動員は厳しかったんですが、会社内にWebサイトやパンフレットを編集する部署や、映像を制作できる部署をつくったりといろいろな先行投資をしていただいたんです。結果的にこの時期にコンテンツを自社内でつくれる環境や人材を整えていたので、のちにSNSやYouTubeができたタイミングで、自社からの内容の濃い情報発信にすぐ対応することができた。そこが追い風になった部分はあったかもしれません。

あと、棚橋弘至選手や真壁刀義選手のツイートを見ても、昔はあそこまで選手のプライベートが頻繁に公開されることはありませんでした。選手のアカウントをフォローしていると、今日はこんなものを食べて、こんなところに行って、こんな人に会って……という選手たちの日常が気軽に楽しめる。SNSの登場でファンの方と選手との距離がより近くなったのも大きかったと思います。
  
SNSによって新日本プロレスに興味を持った方が、情報を得やすくなって、より深く好きになっていただきやすい環境ができたのは大きかったかもしれないですね。

さらなる発展に注目!SNSは大きな可能性を秘めている

人気低迷から見事に返り咲いた、新日本プロレス。英語版SNSやWebサイトにも注力し始め、今後は世界中でファン獲得を狙っていくことを目標にしているとのことでした。

また、SNSの普及により選手の意外な一面を楽しめたり、リング外でのプロレスが勃発するなど相乗効果が生まれさらなる盛り上がりも見せています。今後どのように進展していくのか、目が離せません。

プロフィール

新日本プロレスリング株式会社 真下 義之さん
広報宣伝部 グローバル&デジタルメディアセクション課長
1971年11月13日、群馬県生まれ。現代美術アーティスト・村上隆のアシスタント(有限会社カイカイキキ)を経て、05年から『kamipro』編集部でプロレス&格闘技雑誌の編集に携わる。2009年9月より新日本プロレスリング株式会社に入社。パンフレット制作などを経て、現在は広報宣伝部でWebサイトやSNS、スマートフォンサイトを担当するグローバル&デジタルメディアセクションに在籍中。

新日本プロレスのSNS運用の前編はこちら

インタビュー前編:KPIは会場をお客様で埋め尽くすこと。新日本プロレスのSNS運用が目指すもの

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私ごとで恐縮だが、1年ほど前に体調を崩して自宅療養をしていたとき、YouTubeで新日本プロレスの公式チャネルで動画を見る機会があった。7分ほどの動画であっただろうか。その短い動画を見て、私は完全にプロレスの虜になってしまった。繰り出される美しい技、レスラー一人ひとりの個性など、その魅力は語りつくせないほどだ。プロレスに完全に魅せられた私は、こう思うようになった。「なんとかプロレスと仕事を結びつけたい……。」「なんとかferret読者にプロレスの魅力を伝えたい……。」本インタビューはそんな想いから実現した企画である。