ITの分野では集中と分散のサイクルを繰り返しながら、技術をより精緻にアップデートしていくのが主流です。「エッジコンピューティング」とは、クラウドに機能を持たせて管理を楽にしよう、という現代の流れ(集中)から、各デバイスに処理機能を持たせよう(分散)という流れや考え方そのものを指します。「エッジコンピューティングが示す概念」や「どのような変化をもたらすのか」を詳しく見ていきましょう。

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングとは、普段から触れているパソコンやスマホのようなICT(Information and Communication Technology)機器やセンサーなどに処理機能を持たせよう、という考え方です。

「スマホとかパソコンにも処理機能はあるんじゃないの?」「すでに叶えられているんじゃない?」と思われた方も少なくないでしょう。たしかに現状でも、パソコンやスマートフォンにはデバイス自体にある程度の処理機能が搭載されています。そういう意味では、10年前にiPhone3Gが発売された時点で、日本は広くエッジコンピューティングが実現していたと解釈できるでしょう。

しかし、IT技術の進歩に伴って、日常で扱うデータの種類や数は大幅に増加しています。容量の大きな映像データや画像データなどが分かりやすい例です。デバイスだけで処理できるものではないため、デバイスからクラウドへデータを転送する際にタイムラグが生じたり、データの質が低下するといった懸念点も存在します。したがって、非構造データなども含めると、デバイスが持つ処理機能で充分な処理ができていたとは断言できないと考えられているのです。

これらをクリアするために、改めて注目が集まっているのが「エッジコンピューティング」という概念です。現代では、デバイスの処理機能を高めて「クラウド依存」を軽減し、信頼性やリアルタイムでのデータ転送を可能にしよう、という志向が高まっています。

エッジコンピューティングの普及によるメリット

一般的には以下のようなメリットがあると言われています。

・リアルタイムなデータの伝送が可能
・データの渋滞を防ぎ、バグやトラブルの回避
・通信コストの削減
・セキュリティの安定
・事業継続計画(BCP)への貢献

それぞれ詳しく見ていきましょう。

リアルタイムなデータの伝送が可能

エッジコンピューティングによってデバイスにデータ処理機能が備わることで、クラウドへ転送しやすい形にデータを変換してから送付可能になります。つまりデータの送受信にかかる負荷が減少するのです。

その結果、リアルタイムなデータの伝送ができ、現時点では完全に実現できていない「コネクテッドカー」や「自動運転」が実現可能になります。また、その過程で車に搭載するデバイスの能力が底上げされるため、デバイスの小型化や低コスト化にも繋がります。

データの渋滞を防ぐことでクラウドのトラブル回避

現在では大量のデータをクラウドへ送信し、処理もクラウドに任せている状態なので、アプリやサービスの利用者が増えることで、サーバーにトラブルが生じるケースも散見されます。

しかし、エッジコンピューティングが普及することで伝送するデータ量が減少し、これまでクラウドが行っていた処理をデバイス側で負担できるので、クラウドに高負荷をかけずに処理可能になります。つまりは、クラウドに生じる障害のリスクを減少させられるのです。

通信コストの削減

デバイスに処理機能を持たせることで、都度クラウドとデータのやり取りを行わずともデバイス側で処理が行えるようになります。つまり、伝送するデータ量が減少し、通信コストが削減されます。

セキュリティの安定

クラウドとデバイスの間で頻繁にデータの送受信が行われている状態では、セキュリティ面でも懸念が残ります。

企業の機密情報や個人情報が保存されているデバイスやクラウドは強固なセキュリティで守られていますが、データの送受信が行われるとどうしてもセキュリティの脆弱性が高まります。その点、エッジコンピューティングが普及すれば、クラウドとデータを送受信する回数が減り、デバイス側でデータを匿名加工して送付可能なため、セキュリティレベルが高く保たれるのです。

事業継続計画(BCP)への貢献

重要なデータをクラウド上に集めて、サービスを展開している企業も少なくありませんが、仮にクラウドが障害で落ちてしまった場合、必要なデータが取り出せないのでそのサービスは機能しなくなってしまいます。もちろん、バックアップは存在しますが、復旧までには時間がかかるのでユーザーの不満が生じることは避けられません。

エッジコンピューティングによってサービス上の重要データを取り扱えるようになれば、トラブルが生じた場合でも問題なくサービスを継続していけます。すなわち事業の持続可能性とともに、事業継続計画(BCP)を高めることにも繋がるのです。