1997年にオンラインのDVDレンタルサービスを提供開始したNetflixは、今ではテレビシリーズの制作まで手掛けており、会員数は全世界で1億6700万人、再生時間は1日平均1億4000万時間を超えると言われています。

インターネットはインフラ整備のコストがテレビよりもかなり安く、ネット配信メディアの伸びしろには多くの企業が期待しています。そのなかでも、テレビではできない企画を多く打ち出すNetflixの注目度は頭ひとつ抜けているのです。

そこで、常に新しい挑戦を続けているNetflixの戦略について解説します。

クリエイターと作るオリジナルアニメ

Netflixで過去1年間に視聴された日本発アニメの総視聴時間は、世界全体で約2倍に増えました。こうした盛り上がりを受け、2020年2月にNetflixは日本のトップクリエイター6名と契約を結び、日本発のオリジナルアニメを強化していく方針です。

パートナーシップを結んだクリエイターはCLAMP、樹林伸氏、太田垣康男氏、乙一氏、冲方丁氏、ヤマザキマリ氏。自身が担当する企画の脚本やキャラクターデザインなどを行い、Netflixオリジナルアニメーション作品を制作していくようです。

従来のアニメーションとの決定的な違いは、製作委員会不在のため制限が少なく、圧倒的に自由なことです。製作委員会方式だと、リスクヘッジができる一方で多くの人の意見が入り表現が制限されます。監督の意見が通らないこともあり、アニメの個性が薄れる結果に繋がりやすいのです。

新興ネットサービスは既存の枠組みやしきたりに縛られず、自由に活動しやすいのが魅力。お伺いを立てる人や組織が多いほど、コンテンツは凡庸になりインパクトが薄れていきます。ユーザーにとって価値あるコンテンツを制作することは、新規顧客の獲得やファン化に貢献します。顧客を育てられるコンテンツマーケティングの一環として、クリエイティブにおいては、なるべく介在するヒトやモノを減らしてコンテンツの個性を保つのも大事でしょう。
参考:Netflixはアニメ業界の救世主になれるか。|BUSINESS INSIDER

全世界同時配信

Netflixにとって全世界同時配信はもはや当たり前です。一気に盛り上がりをもたらすことができる全世界同時配信ですが、その裏側にあるのは通信技術の改善。ネットにおける動画視聴で、ユーザーにとって最もストレスを感じるのが読み込み時間です。途切れ途切れの動画視聴はストレスフルで、ユーザーの満足度を著しく下げます。そこでNetflixは何度となくエンコード技術を進化させ、動画配信がスムーズにできるようにしました。

特筆すべきは、約200か国、約25言語のあらゆる国と言語に対応しているところです。対応させるには、各言語のニュアンスを崩さないように慎重に翻訳し、ビジュアルの邪魔をしない字幕の長さに調整する必要があります。さらに吹き替えを強化し、字幕を嫌う英語圏の人々にも受け入れられやすくしているのです。

字幕や吹き替えに膨大な労力を投じ、並々ならぬ努力をしたうえで、全世界同時配信を叶えているNetflix。これだけの時間とコストを支払ってでも全世界同時配信をする理由は、多くの人々が同じ時間に視聴することで、SNSで感想をシェアするなど、他者とコンテンツを共有しやすくなるからです。SNSで盛り上がれば、口コミ効果を発揮してほかのユーザーが見に来るなどの流入が期待できます。
参考:ネットフリックス、世界同時配信の裏側|日経ビジネス

多言語・多国籍化

アメリカでの「こんまりブーム」を引き起こしたのはNetflixです。ベストセラー「人生がときめく片付けの魔法」の著者である“こんまり”こと近藤麻理恵さんは、いまやアメリカでも大人気。その火付け役となったのが、実際に家を片付けるリアリティショー「KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~」です。Netflixで世界的なヒット番組となりました。

番組では、こんまりさんの振る舞いをとことん「日本女性らしく」演出しています。実際には日本で大ベストセラーを出版し、海外進出して大活躍しているパワフルな女性ですが、そうした要素は排除されていて、日本語を交えた会話も多くみられます。

その理由は「多言語・多国籍化」。全世界配信を前提としているNetflixは、ハリウッド仕様の番組に偏らず、それぞれの国の文化や特徴が感じられる番組を制作し、多種多様なコンテンツを提供することで全世界に通用する媒体に進化していきます。多言語・多国籍化は、世界市場の制覇を目指すNetflixのマーケティング戦略なのです。
参考:Netflixは「脱コモディティ」で世界市場を制覇する|WIRED

多種多様なコンテンツの幅

Netflixはテレビ同様のハイクオリティな番組を生み出すのではなく、テレビでは作れない、ニッチを攻めることで差別化を図っています。Netflixは膨大な制作予算を持っていますが、テレビ同様の作り方では独自の強みを発揮できません。予算をニッチなコンテンツ作りに充て、コンテンツの幅を広げているのです。

従来のテレビ番組にはそぐわない暴力性などを持つコンテンツもありますが、いずれも独特の感性があり、一部のユーザーに深く刺さるコンテンツです。内容はコメディからSMなど多種多様で、多様化が進む現代ユーザーを広く集めるマーケティング手法だと言えるでしょう。こうしてユーザーを多く囲い込んでから王道のコンテンツを作れば、爆発的ヒットにも繋がりやすくなります。つまり、多方向へのニッチ展開は「大ヒットへの布石」としても活用できると言えるでしょう。
参考: コメディからSMまで、ネットフリックスはあらゆるニッチで世界を埋め尽くす|WIRED

柔軟な制作スタイル

Netflixは吉本興業ともタッグを組み、オリジナルのお笑い番組も多く制作しています。タッグを組むことは、「たった1回の食事で決まった」とのこと。日本国内に動画配信のインフラがあまり見られないことから、NetflixやAmazonと手を組んだという吉本興業。

デジタルコンテンツ配信の先駆けとなったのは、Netflixで配信した『火花』。テレビ局からも多数のオファーを受けていたものの、吉本興業側ではほとんど内容をコントロールできず、制作はテレビ局に丸投げになることがネックになり、映像化が実現していませんでした。テレビとは異なる柔軟な制作体制が、人気コンテンツを取り込む決め手になりました。

マーケティングにおいて課題となるポジショニング。Netflixのように競合他社が立てない場所を見つけることは、戦略を立てるうえで重要なのかもしれません。
参考吉本はなぜNetflix、Amazonと組んだのか|BUSINESS INSIDER

自由なコンテンツ制作×大量生産が成功の決め手

Netflixは「テレビ」という巨大既存メディアの枠組みから外れ、自由なコンテンツ制作を確立しながら、全世界のあらゆる人々に刺さるコンテンツを大量生産することで多くのユーザーを獲得しました。膨大な時間とコストがかかってはいますが、ひとつひとつの戦略は一般企業にも活かせる部分があります。Netflixの成功事例から、自社のマーケティング戦略に活かしてみてはいかがでしょうか。

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