コロナ禍をきっかけに、顧客接点・販売チャネルとしてこれまで以上にオンラインが重要視されるようになりました。「ECでの売上獲得に力を入れよう」と販売戦略をシフトした企業も多いでしょう。

しかし、オンラインでの売上拡大を目標に掲げる中で、顧客単価アップの課題を抱えるマーケターも少なくありません。

そこで注目すべきは、「あわせ買い」を促進することで顧客単価アップに寄与するクロスセル戦略です。ある化粧品ECで細かなデータ分析に取り組んだ結果、クロスセル率が1.9倍にアップした事例があります。この記事ではデータを味方につけてKPIを改善させる方法を解説します。

目次

  1. ECで押さえるべきKPI
  2. クロスセル戦略とは
  3. アップセルとの違い
  4. クロスセル戦略のメリット
  5. クロスセル戦略、どう実行すればいい?
  6. 知っておくと役立つフレームワーク「LWP分析」
  7. 手間をかけず簡単にデータを味方につける方法
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ECで押さえるべきKPI

KPI(重要業績評価指標)を正しく設定し、その達成状況を追うことで、目標に向かって成果を出せているかを可視化できるようになります。ここでは、ECで押さえるべきKPIの一例をご紹介します。

1.CPA

CPA(Cost Per Aquisition)の略語で、購入を1件獲得するために要した費用のことです。

2.CPO

CPO(Cost Per Order)の略語で、定期購入を1件獲得するために要した費用を指します。

3.ROAS

ROAS(Return On Advertising Spend)の略語で、広告の費用対効果の高さを把握するための指標です。広告がきちんと売上に寄与しているかどうかの判断材料になります。計算式は以下の通りです。

(ROAS)=(広告経由で発生した費用)÷(広告費)

4.初回購入から定期引上率

初回購入したユーザーのうち、1回目の購入から90日以内に定期購入申し込みに移行したユーザーの割合を示す指標です。

5.初回購入から2回目購入率

初回購入したユーザーのうち、90日以内に2回目の購入をしたユーザーの割合を示す指標です。これは「F2転換率」と呼ばれることもあります。Fは「フリークエンシー(Frequency=頻度)」の頭文字で、 商品の購入頻度を表します。

6.定期継続率

定期購入をしたユーザーのうち、定期購入開始日から90日後も契約を継続しているユーザーの割合を示す指標です。

7.クロスセル率

初回購入をしたユーザーのうち、180日以内に定期購入で2商品以上を申し込んだユーザーの割合を示す指標です。

クロスセル戦略とは

前述したKPIのうち、この記事では「クロスセル」にフォーカスして解説していきます。クロスセルとは、顧客が当初望んでいた商品とは別のものを勧めて「あわせ買い」につなげる販売手法を指します。

クロスセルの身近な例を見てみましょう。

小売店頭

コンビニのレジ周辺に、小さなチョコレート菓子や和菓子、ライターなどが置いてある場合があります。これはまさに「クロスセル戦略」に当てはまります。

例えばお弁当や飲み物などを選んで支払いのためにレジ台へ向かうと、そこで偶然目についた小さなお菓子を思わず「あわせ買い」した経験を持つ人は多いのではないでしょうか。あるいはタバコを買い求め、「ついでにライターも買っておこう」というケースも考えられます。

このように「あわせ買い」を促進することで、顧客単価アップを図っているのです。

ファストフード

ファストフード店でハンバーガーやドリンクを注文した際、レジで店員から「プラス100円でサラダも一緒にいかがですか?」などと声を掛けられる場面があります。これも「あわせ買い」を促すクロスセル戦略の一種です。

EC

ECで商品を見ている時、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」「あわせておすすめ」など、関連する他商品のレコメンドが出ることがあります。これもまさに「あわせ買い」を促し、顧客単価アップにつなげるクロスセル戦略です。

アップセルとの違い

販売戦略に関して、「アップセル」という言葉もあります。これは「クロスセル」とは似て非なるものです。

アップセルとは、顧客が当初望んだ商品と関連した、さらにグレードの高い商品を勧めて、売上アップを図る販売戦略です。例えば、ファストフード店でドリンクやポテトをLサイズに変更することを勧めるセールストークが「アップセル戦略」に当てはまります。

クロスセル戦略のメリット

ここからは、企業や店舗がクロスセル戦略に取り組むメリット3点を解説します。

顧客単価上昇

まず、顧客単価が上がります。小売店やファストフード、ECの例で述べたとおり「あわせ買い」の発生によるものです。

顧客からの印象や認知度が向上

顧客から企業・店舗に対する印象や好意度が向上する点もメリットです。「あわせ買い」のレコメンド内容が趣味嗜好にフィットするものであれば、「この企業は自分のことを分かってくれる」と好意度醸成につながります。

また、好意度をSNSや、EC内のレビュー欄へ書き込んでくれた場合には、他のユーザーに向けたポジティブな口コミとなり、企業・店舗の認知度向上も見込むことができます。

リピートにつながりやすい

好意度がアップすれば、また別の機会にリピート来店してくれることも期待できます。購入継続により、LTV向上も期待できるでしょう。

クロスセル戦略、どう実行すればいい?

前項で、顧客に向けた「あわせ買い」のレコメンドを最適化することで、売上アップが期待できると述べました。「レコメンドの最適化」とは、具体的にどう考えていけばよいのでしょうか。

施策を立案するうえで、着目すべきは「顧客の過去の行動データ」です。ツールを導入しデータを味方につけることで、クロスセル率が1.9倍改善したという、見事な成果を収めた事例を紹介します。

データを根拠としたレコメンド施策で、クロスセル率が1.9倍に!

【業種】
化粧品ECで、ターゲットは20代〜30代女性。自然派スキンケア・コスメ商品を好む人向けのブランドで、平均購入単価2,500円、ECの総会員数は8〜10万人。

【課題】
化粧品業界の中でも比較的単価の低い商品を扱っていたため、顧客1人当たりの単価アップを重視していた。ところが、クロスセル率は化粧品EC業界の平均値「11%」を下回る「7%前後」だった。KPI改善のため、分析・施策を実行したいが、分析の粒度が粗く、改善につながるヒントを引き出せずにいた。

KPI改善のために突き止めたい項目】

  • クロスセル率の低い商品はどれか?
  • その商品を初回購入したユーザーは?
  • クロスセル率の低い年代は?
  • レコメンドを出すのにベストなタイミングは?

上記のような、今まで追えていなかった細かい課題を突き止め、改善点を抽出し、データを根拠にした施策実行につなげたい。

【解決策】
データ整理・加工を容易にするツールを新たに導入。データベース言語が分かるエンジニアの手を借りずとも、マーケター自身がドラッグ&ドロップ操作だけで迅速にに過去の販売データを扱えるようにする。

【ツール導入で明らかになったこと】

  • ファンデーション購入者のクロスセル率が低い
  • ファンデーション購入ユーザーは、初回購入から28日経過すると、クロスセル率が大きく落ちる
  • ファンデーション購入ユーザーは、洗顔フォームを購入する傾向が強い

【データから読み解いた仮説】
ファンデーション購入者に対して28日以内に、直近1 ヶ月以内でよく売れている洗顔フォームをレコメンドすれば、『クロスセル率』を向上できる。

【投入した施策】
仮説に基づいてレコメンドメールやクーポンを配信。

【結果】

  • クロスセル率が7%→13%に改善。
  • 1人当たりのLTVが31,000円→45,000円にアップ。
     

知っておくと役立つフレームワーク「LWP分析」

ツール導入以外にも、クロスセル戦略に取り組む上で知っておくと役立つフレームワーク「LWP分析」を紹介します。

image1.png

L=「List(顧客リスト)」:対象顧客をリストアップする

W=「What(行動内容)」:顧客の過去の行動から、今後のポテンシャルはどうかフラグ付けをする

P=「Pace(受注頻度)」:接触・受注頻度はどれぐらいのペースかフラグ付けをする

顧客のフラグ付けをしたら、次のようなマトリックス上にマッピングしてみましょう。

image2.png

このマトリックスは「縦軸=過去の実績の高低」「横軸=拡大余地(ポテンシャル)の高低」を表しており、A・B・C・Dに、以下のような顧客を当てはめていきます。

A=実績が高く、拡大余地も高い顧客
B=実績は低いが、拡大余地は高い顧客。つまり、開拓先候補。
C=実績は高いが、拡大余地は見込めない顧客。つまり、現状維持。
D=実績・拡大余地とも低い顧客。つまり、開拓余地が見込めない。

まずは「A」に当てはまる顧客からアプローチし、次は「B」へのアプローチを展開していくことが有効です。このようにフレームワークに当てはめて考えることで、優先的にアプローチすべき顧客が明らかになり、より的確な販促施策を打ち出すことができます。

手間をかけず簡単にデータを味方につける方法

施策投入の際には「以前にECサイト上でこんな販促キャンペーンを行って成功したから、また実行してみよう」といった曖昧な根拠では、時間・労力の無駄になってしまいがちです。顧客に必要なアプローチを的確に行うことが、確実に反響を得るためのポイントと言えるでしょう。

そのためにはこの記事で紹介したように、過去の顧客データを大いに味方につけ、できる限り精緻な仮説を立てることが重要です。

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