2016年4月11日、”インターネットテレビ局”である「AbemaTV」が開局されました。

株式会社サイバーエージェントとテレビ朝日が共同設立した株式会社AbemaTVが運営しており、開局後約半年で1,000万ダウンロードを突破しています。

ここ2,3年での盛り上がりが著しい日本の動画市場に、「インターネットテレビ」という全く新しい切り口で戦いを挑んだ藤田氏はどのような狙いを持っているのでしょうか。

順調に成長しているAbemaTVのこれまでとこれからを、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が語りました。

登壇者紹介

藤田晋氏

DSC06809.png
株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長

岩本有平氏(モデレーター)

DSC06813.png
TechCrunch 副編集長

TV離れした若年層を取り込めたAbemaTV

岩本氏:半年で1,000万ダウンロードを達成されましたが、どういった感想をお持ちでしょう?

藤田氏:予断を許さない一方で、なんとかなるかなと楽観的でもあります。

1,000万ダウンロードに到達する期間は予想よりは遥かに早かった。長期戦になるだろうとは思っているので、腰を据えてやっていこうかなと。長期的に取り組めるよう備えようと考えています。

2017年はAbemaTVに年間200億円を投資し、7割近くの予算をコンテンツ制作にあてる予定のようです。
リリース当初は男性ユーザーが多かったものの、徐々に女性ユーザーが増えて男女比率は拮抗しはじめてきています。
男女ともに、年齢層は10代・20代の若年層が大半を占めています。

岩本氏:AbemaTVは若者を取り込めていますが、TV離れしているユーザーを捕まえているということになるでしょうか?

藤田氏:もともと狙っているのがTVを見なくなった層だから、狙い通りですよね。

TVを見なくなったんですが、じゃあ何をしているのかといえば、スマートフォンを覗き込んでいる。そちらに踏み込んでいくべきだなと。

一方で、AbemaTVをTVデバイスに移すととても快適なんですよね。TVは数あるデバイスの1つになっていくんだなと。

なぜ「テレビ」だったのか

岩本氏:動画事業をやるにあたり、huluやNetflixのような定額の月額課金サービスや、動画の配信プラットフォームではなく、なぜTVだったのでしょうか?

藤田氏:動画をやるとなった当初は、TVだとは決めていなかったんですよね。

決定打になったのは、1つはiTunesが伸び悩んだということです。

好きな音楽を好きな時に聴ける仕組みはとても良かった。でも、好きなもの以外を見つけるのは難しいんですよね。

そしてAWAを始めた時、勝手に音楽をオススメしてもらえる方が、受け身の方が楽なんだということを実感しました。

数ある映像が並んでいても、自分で選んで自分で再生するのは結構億劫なんですよね。それなりに時間かかるし、自分で意志もってアクセスしなきゃいけない。

岩本氏:受け身サービス利用する動機付けはどう設計された?暇だったら立ち上げようと言う感覚はなにをきっかけに起こるんでしょうか?

藤田氏:まさしく暇だったらAbemaTVをひらいてもらうのが目標なんですけど。

例えば、1チャンネルにニュースをもってきたのは、フレッシュな情報を出していると打ち出したかったからだし。

開けたらすぐ始まるとか、登録いらないとか簡単にしたのも、癖で開いてもらえるようにしたかった。コミュニティサービスには勝てるとは思ってないけど、その次にあけてもらえるようになりたいなと。

10年前、堀江さんがフジテレビを買う、三木谷さんがTBSを買うという話があった。当時はテレビ側からの圧倒的な反発があったからうまくいかなかったという印象でした。

それから10年立って、テレビとネットの関係性はどう変わった?受け入れられるような状態にはなった?

特に、この数ヶ月、いや、3ヶ月で状況は大きく変わっています。NHKがNetflixと提携したというニュースもありましたよね。テレビ局も対応を迫られている。

堀江さんが日本放送の株価を買った当時、理論的には通信と放送は融合するっていうのはあったんですが、実感値がなかった。スマホすらなかったですから。

コンテンツは独占してこそ価値があるものをネットに出すのをありえないし、テレビにほかのものを映すのもありえない。

2年前、Netflixが上陸するというのは結構大きかったですね。そこでいよいよ対応を迫られたというのはあります。それがAbemaTVが生まれるきっかけになりました。

Netflixが上陸し、AppleTVやChromeキャストも来る。テレビはどうしていくのかというのを審議会員を務めていたテレビ朝日に提案しましたね。結果的に相手側の立場に立った考えがこのような提携につながった。

岩本氏:以前755(サイバーエージェントグループの7gogoが2014年にリリースしたコミュニケーションアプリ)の取材の時に、中途半端に既存のメディア業界には関わらないようにしているとおっしゃっていましたが、今一気にアクセルを踏みましたね。

藤田氏:創業以来、インターネットという業種で、ほぼ20代の若者だけで進めてきました。

新しいことを新しい人たちとやるのは楽なんです。ところが既存産業や既得権益が絡んできた途端に、ものすごくめんどくさくなる。

新しい人がそこにはいっていくのは労力的に重すぎるので、精神衛生的にも新しいところで働いた方がいいからなるべくかかわらないようにしてきた。
でもこの規模になると、素通りできないですよね(笑)

餅は餅屋。テレビはテレビ局に、ネットはIT企業に

岩本氏:自社でコンテンツ作ろうと思われたことはなかったんでしょうか?

藤田氏:自社でもコンテンツ作る方法もあるのかなって思ったこともあるんですけど、それは間違いでした。

大前提として、テレビ局にコンテンツが集まっているんですよね。主要な映像コンテンツはテレビ局に集まっている。映像制作のクオリティの高さもある。

民放5局で戦ってきた結果、異常なクオリティに仕上がってしまった。

岩本氏:テレビ局と組むことを踏まえた観点から、競合となり得るところは出てくるでしょうか?

藤田氏:本当は、よちよち歩きの今の状態で競合は出てきてほしくないですけどね(笑)

来期200億投資すると赤字幅が200億で、本当はもっと投資します。テレビ朝日が全面的に協力してくれてるのは奇跡的なことで。

このように、テレビ局の全面協力を得て、なおかつ大幅な投資ができるというところはあまりないんじゃないでしょうか。

岩本氏:既存のテレビ局が自分たちでネットに進出することは?

藤田氏:テレビに進出する時にテレビ局が必要なように、ネットに進出するときはネット企業が必須だと思うんですよ。

あのレベルのサービスを作れる企業は限られます。ここまで考えると、参入はそう簡単ではないかなと。

黒字化の時期や金額は「絶対言わない」

岩本氏:いつぐらいに黒字化される予定でしょう・・・?

藤田氏:それだけは絶対言わないです(笑)。

経営者の方、この罠にはまっちゃいけないですよ(笑)言った瞬間、公約になります。

無理に黒字化させようとすると事業がおかしくなりますから。

藤田氏はどのインタビューに対しても、AbemaTVの収益化については言及しない姿勢を貫いています。
広告枠(CM)の販売は行っていますが、現段階では本腰を入れることはなさそうです。

とはいえ、動画広告市場は急速に成長しており、2017年の国内動画市場規模は640億円にのぼると見られており、4年前の5倍近い数値です。

参考:
動画広告市場の盛り上がり | video-ad.net :http://www.video-ad.net/market.html

テレビ離れし始めた若年層の獲得に成功しているAbemaTVは、若年層向けの広告枠として高い価値を提供できるでしょう。
Web上の一般的な動画広告とは根本的に構造が異なるAbemaTVの広告が今後どれだけ伸びていくのか注目です。

岩本氏:では、直近どういうことをやっていくのでしょう?次のステップを教えてください。

藤田氏:直近はFireTVやApple TVへの対応ですね。

それらのサービスは想像以上に素晴らしいので、一緒に普及させるつもりでマーケティングを強化していきます。

来年からはバックグラウンド再生できるようになるし、縦画面でも開けるようになります。