2017年8月7日、マーケティングコンサルティングサービスを提供してきたネットイヤーグループ・トライバルメディアハウス合同のイベント、メディアラウンドテーブルが開催されました。

今回のイベントは3部構成で行われ、その最後を飾ったのが、果てなき技術競争・価格競争から抜け出すために必要な”熱狂ブランドマーケティング(=熱狂的にブランドを愛するユーザーを増やしていくこと)”をテーマに行われた、ソーシャルメディアマーケティングの分野で活躍する株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長の池田紀行氏による講演でした。

本記事では、何故、熱狂ブランドマーケティングが今求められているのかについて、池田氏の講演内容をお届けします。
  

講演者プロフィール

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株式会社トライバルメディアハウス
代表取締役社長 池田紀行 氏
1973年横浜生まれ。ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手クライアントのソーシャルメディアマーケティングや熱狂ブランド戦略を支援する。
日本マーケティング協会マーケティングマスターコース、宣伝会議講師。2017年4月より社会情報大学院大学客員教授に就任。年間70本以上のセミナー・講演を行っている。

  

今後のマーケティングでポストコミュニケーションが重要な理由

マーケティングでは、認知・興味・比較検討・購入という4つの段階で顧客の行動を考え、コミュニケーションを図ります。

この時、商品やサービスを購入してもらう前のコミュニケーションを「プリコミュニケーション」、その後のコミュニケーションのことを「ポストコミュニケーション」と言います。

市場が拡大期にあった時代のマーケティングでは、プリコミュニケーション、つまり購入するまでのマーケティングが重要視されていました。その理由はシンプルで、市場が拡大していくうちは顧客が増加していくので、新規顧客さえ獲得できれば売上の実績が作れたためです。

また、世界規模で市場が成熟していく中で、新規顧客は増加しなくなり、リピート購入が売上の6~8割を占めるようになりました。確かに、新商品購入を促したり、トライアルプランの申し込みを促したりと、いかに買ってもらうかというマーケティングは重要です。

ですが、売上の大半がリピーターによる購入に移り変わっている以上、商品を買ってもらうことはマーケティングのゴールではなく、スタートとして考えることは必然的です。そのため、ポストコミュニケーションは後のマーケティングにおいて企業が需要視すべき視点といえるでしょう。
  

成熟した市場で選ばれる3つの商品とは

では、このような成熟した市場では、現在どのような商品が選ばれているのでしょうか。
池田氏は「一番いい商品=最高の商品」「一番安い商品=最安の商品」「一番愛されている商品=最愛の商品」の3つしか選ばれていないと指摘しています。
  

1.最高の商品

メーカーの多くは、商品開発や技術開発をとおして、どこにも負けない最高の商品を作り、顧客を感動させたいと思っています。

ただ、現在では後進国のブラジルですら、ドラッグストアには商品が溢れかえっています。顧客がこのような商品棚の前に来た時に感じるのは「どの商品を買ってもほとんど変わらない」という感情です。商品の差別化の要素は失われ、どれも同じ商品に見えてしまう「コモディティ化」が起こっています。

では、なぜそのような感情を抱いてしまうのでしょうか。

それには、メーカーの技術や提供できる商品の品質が顧客のニーズを超える「オーバーシュート」を理解する必要があります。

戦後70年、市場は拡大の一途をたどってきました。
そのような市場では、顧客のニーズは時間軸に合わせて少しずつ上がっていきます。そのため、高まっていく顧客のニーズに少しでも近づく技術を開発した商品が買ってもらえました。一番洗浄力が強いとか、一番燃費がいいとか、一番耐久性が高いという商品が売れる時代です。

ですが、多くのマーケティング学者は、現在、ほとんどの国でメーカーの持っている技術は顧客のニーズを追い越してしまっているオーバーシュートを超えた状態にあると指摘しています。その結果、「どの商品を買っても変わらない。それなら安い商品を買いたい」というユーザーが増え、価格競争になっています。

例えば、家電量販店では、DVDプレーヤーも、液晶テレビもたった2.8年で当初の販売価格の半額にまで値下げされます。技術に対して価値があるのが、たった2.8年しかないのです。また。1970年代、ヒットした商品のうち60%は5年以上売れ続けていました。そのため、基礎研究や応用研究、プロトタイプの作成といったマーケティングコストを投資しても、5年以上売れる商品によって利益を回収できました。しかし、今ではほとんどの商品は発売されてもすぐに売れなくなってしまっています。

そのため、新商品を出し続け、商品棚に新商品が陳列され続けなければ、他社の製品が並んでしまう。他社の製品が並べば、自社の商品が入り込む隙はなくなり、生産数が減少していくことで工場の稼働率が落ちていくといった悪循環です。

そこで、他社に奪われていないニーズを探そうと市場の中での、ポジショニングマップを作成する企業もいるでしょう。ですが、今現在の市場ではほとんど他社に奪われていない市場はありません。

コトラーやポーター、ドラッカーが作った戦略理論は市場全体が拡大していくのを前提としたものです。そのため、ポジショニングマップのような戦略は生き残りの戦略としては利用できますが、市場の中を勝ち抜いていくには足りないでしょう。
  

2.最安の商品

メーカーの持っている技術が顧客のニーズを越え、ユーザーにとって「どの商品もほとんど変わらない」という状態になった現代では、最高の商品の価値は低くなります。

では、似たような商品の中で最も安い商品を提供する場合はどうでしょうか。

商品を一度安くすると、ブランド価値は低くなり、利益は下がります。それではなく、一回割引価格で購入した顧客は定価の商品を購入しません。

そのため、プレゼントキャンペーンや割引価格での販売を行って一時的に売上をあげても、それが終了してしまえば反転して売上は下がります。こうしたキャンペーンの時にしか商品を買ってくれないお客さんは、本当にいいお客さんなのか、企業は考えなくてはいけないでしょう。
  

3.最愛の商品

最高の商品や、最安の商品が売れないなら、最愛の商品を目指していきたいものです。

では、愛されている商品とは、どのような商品を指すのでしょうか。それを調べるのに株式会社トライバルメディアハウスでは、2つの指標を利用しています。

1つが「自社の商品を友人同僚に勧めたいですか。0から10までの10段階で答えてください」というシンプルな質問を問いかけるNPS(ネットプロモータースコア)です。
もう1つが、株式会社トライバルメディアハウス独自の指標である「熱狂度」です。

【熱狂度のレベル】
1. 商品を他に切り替えるのが面倒だから、仕方なく使っている(小売店であれば、最も家に近いから来店している)
2. 商品に対してそこそこ満足しており、特段不満がないからずっと買い続けている
3. 商品が好きだから使っている
4. 商品に愛着を感じている・使っていると幸せを感じる
5. 商品にはまっている・すっかり夢中である・ゾッコンである

この場合、2までが合理的な利益であり、3からは感情面での利益を感じている顧客です。

熱狂度とNPSを掛け合わせて考えることで、ブランドがどの程度顧客から愛されているのか把握するだけでなく、数年後の売上を予測することができます。

例えば、熱狂度もNPSも低い場合、商品を使って幸せを感じる・夢中だ・はまっているという顧客はほとんどおらず、人に推奨したいという熱狂的な推奨者もいないという状態です。ではこの時、競合他社が熱狂度もNPSも高い顧客を多く抱えていたらどうでしょうか。

そのような競合他社に対して勝つためには、キャンペーンを打ち、短期的な売上をあげるしかありません。ですが、熱狂度もNPSも高い顧客の熱はすぐに下がることはないでしょう。そのため、長期的な視点でみれば熱狂度もNPSも高い顧客が多い方が永続的に売上を伸ばしていけるのです。
  

企業が永続的に売上を上げ続けるために知っておきたい「良い売上」「悪い売上」

「全体の2割の要素が、全体の8割の数値を作る」というパレートの法則をご存知の方は多いでしょう。

例えば、上位13%の顧客が打ち上げの67%を占めているモデルを考えてみましょう。上位から外れた顧客は特売の時にしか買わない顧客と言えます。メーカーが数十億、数百億の販売促進予算を組んで割引やプレゼントキャンペーンを行っても、こういった顧客が使い潰してしまうだけです。

世の中には「良い売上」と「悪い売上」の二つしかありません。

キャンペーンや割引を理由にして得た売上は悪い売上です。一方で、好きだから・夢中だから・ゾッコンだからという理由で得た売上は良い売上でしょう。

では、こうした「良い売上」を上げていくにはどうしたら良いのでしょうか。

「今年、どの程度売上がでたのか」という短期的な視点では悪い売上ばかりを追い求めてしまい、良い売上を得るためのマーケティング戦略は取れません。

実際、池田氏が今まで話を聞いてきた企業のうち、中長期的な利益を得ている企業の方からは例外なく「売上は後から付いてきました。その代わり、3年以上は我慢しています」という言葉がでてくるそうです。

そうした中長期的な視点を持つためには、経営そのものから変えていく必要があるでしょう。社員自体が商品に対して熱狂的な愛をもち、会社全体に熱狂的な愛が溢れることで、熱狂的な顧客が増えていくという企業のあり方がこれからの時代には求められているのかもしれません。
  

まとめ

以上となります。皆様、いかがでしたでしょうか。
講演内容は、多くの企業のマーケティング支援に関わってきた池田紀行氏が感じてきたメーカーの実情が伝わる内容でした。

メーカーの場合、新しい顧客をつかむための技術競争や価格競争に陥りがちです。特に成熟が進む国内市場で成長していくためには、そういった視点から抜け出して、現在の顧客を魅了する仕組み作りに目を向ける必要があるでしょう。

最後に、池田氏は「マーケティングに愛を取り戻したい」という言葉で締めくくりました。
こういったユーザーへの真摯な姿勢が、これからのマーケティングおいて求められるものなのかもしれません。