「ユーザーの笑顔を増やすためにUXを徹底的にこだわり抜く」株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 天沼氏にインタビュー
世の中には、多数の会社が存在しており、多くのビジネスモデルプロダクトが存在しています。
しかし、ビジネスモデルとプロダクトの秀逸性だけでは、Product-market-fit(人が欲しがるものを作ること)を達成し、ビジネスをブレークスルー(現状ある障壁を壊して大きく前進すること)することはできません。
ブレークスルーを達成するには、起業家は秘伝のレシピを発見し、ビジネスに組み込んでいく必要があります。本連載では、様々な起業家が持つ秘伝レシピ(Secret Recipe)に焦点を当て解読していきます。
第7回目は、株式会社エアークローゼット(以下、エアークローゼット)の代表取締役社長である天沼 聰 氏にお話をうかがいました。
読者の皆さんに、自分のビジネスをブレークスルーするためヒントを見付けていただければ幸喜です。今の業務で壁にぶつかっていると感じている方、もう一歩さらなる成長を遂げたいと考えている方に、ぜひともオススメです。
目次
1. 序文 - エアークローゼットのビジネスモデル -
2. 秘伝レシピ1:プロダクトを出す前にユーザーヒアリングを徹底的に行え
3. 秘伝レシピ2:カスタマーが体験する最初から最後までのUXにとことんこだわれ
4. 秘伝レシピ3:企業とコラボする時はトップ同士がビジョンを共感し、コミットを引き出せ
5. まとめ
エアークローゼットの代表取締役社長 兼 CEOの天沼 さんは、2015年にローンチした時に、非常にユニークなビジネスモデル(下記スライド参照)で話題になりました。それから2年が経過し、アッという間に数万人のユーザーを抱える人気サービスになりました。
驚くべきことが、(価格の変更などはありましたが)最初に設計したビジネスモデルから大きな変更はしていないという点です。
通常、スタートアップでは、サービスをローンチした後に、顧客フィードバックをベースにPivotと呼ばれる事業転換するところが少なくありません。どのように、サービスを設計し、展開し、拡大を遂げてきたのか、その秘伝のレシピを聞いてみました。
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
ロンドン大学卒業後、帰国。アビームコンサルティングにてIT・戦略コンサルタントを約10年にわたり経験し、その後、楽天に移籍。UI/UXに特化したWebのグローバルマネジャーを務める。2014年7月、エアークローゼットを創業。
田所 雅之 プロフィール(インタビュアー)
日本とシリコンバレーで合わせて、5社の起業実績のあるシリアルアントレプレナー。スタートアップを経営しながら、シリコンバレー本社のFenox Venture Capitalのベンチャーパートナーとして、日本及び東南アジア地域の投資を担当。現在は、数社のスタートアップのアドバイザーとボードメンバーも兼任している。起業家の教育にも熱心で"startup science”というスライドの著者でもある。
田所(インタビュアー):
本日は貴重なお時間をありがとうございます。天沼さんの(エアークローゼットを)起業された経緯について教えていただけますでしょうか。
天沼氏(株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰 氏):
楽天で働く前は、アビームコンサルティングで働いていました。そのメンバー2人と「(いつか)起業をしたいね」と話していました。前の職場は楽天だったのですが、そのメンバーと「そろそろ起業しよう」ということになり、起業を決意しました。
田所:
具体的に「このアイデアをやろう」というのがあったのでしょうか。
天沼氏:
具体的なアイデアというのはありませんでした。ただ、私は"あることを始めたら思いっきり完全燃焼するタイプ"なので、起業をしてから一気にアイデアを考えようとしていました。
田所:
その結果、エアークローゼットというアイデアに辿り着いたわけですね。
天沼氏:
アイデアをたくさん出して、事業計画書を書いては捨て、書いては捨て……というのを繰り返しました。そしてたどり着いた形です。
田所:
「アイデアを練る」上で軸みたいなのはあったのでしょうか。
天沼氏:
自分たちの事業がどうしたら1番笑顔を作れるか、というのを見ていました。
田所:
揺るぎないビジョンをベースにビジネスモデルや戦略を考えたのですね。
天沼氏:
「自分たちの事業がどうしたら1番笑顔を作れるか」という軸は今でも大切にしていることです。エアークロゼットの原点はこの考え方、概念を中心に成り立っています。
秘伝のレシピ1:プロダクトを出す前にユーザーヒアリングを徹底的に行え
田所:
プロダクトを世に出す前に、天沼さんはどのような準備をされたんですか。
天沼氏:
200~300人のユーザーになる得る方々を対象にしてヒアリングを実施しました。その時は予算もなかったので、なるべくお金をかけないように自分たちでヒアリングを行ってました。とにかくアクティブに動いて、足で稼ぐ!という形でした。
田所:
実際にヒアリングを行うに当たって、どのような点をポイントに据えていたのでしょうか。
天沼氏:
我々は当時から、「今のエアークローゼットのモデルで事業そのものはやる」と決めていました。なので、直接ユーザーにはヒアリングを行う際、サービスそのものについてダイレクトに話を聞いてました。
田所:
具体的にいうと、どのような点について聞いてたのでしょうか。
天沼氏:
価格帯だったり、使用頻度であったり、直接お客様になりえる方々から率直な意見をもらうことで、サービス自体のブラッシュアップを図っていきました。非常に参考になるものばかりでした。
田所:
リーンスタートアップだとプロダクトをローンチしてから、ビジネスモデルをピボットするというのがよくあるパターンですが、天沼さんが取られたやり方は相反していますね。
天沼氏:
アイデアを考えて「このサービスでいく!」と決めた時から、サービス自体のモデルというのは決めてました。それは今でも変わっていません。ちなみに、注意していたのは、ピボットする余裕を残して、エッジがないプロダクトになるのは避けようという点です。
田所:
それでいて、土台にあるのが「実際にお客様になるユーザーの笑顔を増やす」という価値ということですよね。
天沼氏:
仰るとおりです。カスタマーに対する提供価値は絶対に変えたくないですね。それが変わってしまうと、ピボットというより、全てが変わってしまいます。我々の目的はレンタルすることが目的ではなく、レンタルはあくまでも手段でしかありません。ライフスタイルの中に日々ファッションとの出会いが生まれていくというのを提供したい、という大きな目的を掲げています。
田所:
常にアイデア、サービスの中心にはユーザーの姿があるのですね。
天沼氏:
未来を描く上で、おそらく1番フィットするのがレンタルという形態だろうと考え、手掛けています。
秘伝のレシピ2:カスタマーが体験する最初から最後までのUXにとことんこだわれ
田所:
御社のメンバーで印象的なのがChief Stylist Officerというポジションです。
天沼氏:
エアークローゼットは月額課金制なので、カスタマーとの接点が、長いのが特徴です。
田所:
具体的にいうと、どういうことでしょうか。
天沼氏:
服が届いた後も含め、実際に利用するお客様全体のエクスペリエンスを高めることに注力しています。実をいうと、最初はUXを研究するために、周りの友人・知人に相談して体験してもらっていた時期もありました(笑)。でも、実際に使ってみると良さを理解していただけて、しかもそれがメディアで取り上げられるようになり、急激に成長することができました。このオフサイトミーティングのスタイルが最新トレンドだと書いてもらいました。
「オフサイトミーティング」とは、直訳すると“現場を離れた場所で(off-site)”行われる会議という意味です。企業の重要な課題や案件を検討するにあたり、よりオープンで活発な議論を促すために、あえて社外に場所を移し、日常の喧騒から離れた特別な環境で集中的にミーティングを実施することを指します。
田所:
エアークローゼットが包括的なUXを高めるために注力しているKPIというのは何でしょうか。
天沼氏:
現在の重要なKPIは、月額会員数とリテンション(定着率)ですね。実際、どれくらいが継続して利用してくださっているのかと、定着率の部分がコアになっています。
田所:
UXの話でいうと、エアークローゼットはユーザーが箱を開ける所のUXもとてもこだわっていると聞きました。
天沼氏:
まず、ボックスを売っているお店に行って、全種類のボックスを買ってみました。どうしたら1番お客様がお洋服と対面し向き合った時にワクワクするのかというのを考えて箱を設計しました。
田所:
面白いところにこだわっていますね。
天沼氏:
箱についてリサーチしていく中で、色々な点をチェックしていきました。横に引き出すパターンや箱を両手で開けたパターン……などです。仮に両手で開けたとすると、お客様が洋服と、面とむかう姿勢になる、というように実際にお客様が箱を開けたときに笑顔になることをイメージしながら箱選び(この空間を作るの)に注力しました。
田所:
家について手に取る所のUXまでこだわったんですね。
天沼氏:
もちろん、箱のデザインにもこだわりましたよ。ボックスは返送するまで自宅の部屋の片隅に置かれているので、目に入りますよね。なので、部屋の装飾としても違和感がないようなデザインにしました。
田所:
本当に細部までこだわりぬいて、ユーザー目線で物事を考えているのが伝わってきます。
天沼氏:
全体的なUXでいうと、商品が届いた時がゴールではなく、届いてからの体験が重要だと考えています。部屋に置いてもらうためには箱の底が汚れていてはダメですし、シュリンクという形でビニールで閉じてお届けしています。これも何回かテストしてたどり着きました。実際に郵送して、最初自分たちで伝票を貼って郵送していたのですが、ものすごい汚い状態で手元に届いたことがあったんです。「この汚い箱が家にあったら全体に嫌だよね」ということでシュリンクという方法にたどり着きました。
秘伝のレシピ3:企業とコラボする時はトップ同士がビジョンを共感し、コミットを引き出せ
田所:
現在、大手企業や他のスタートアップも含め、多くの企業とコラボレーションや業務提携をされているのが印象的です。大手企業とコラボレーションする際のコツやポイントについてはいかがでしょうか。
天沼氏:
まずは、責任者を明確にすることです。それはコラボレーションや業務提携する双方間で責任者を決めるということです。我々はまだ小さいので、私自身がフロントに立って、直接コミュニケーションさせていただいています。
例えば、エイブルさん(とのコラボレーション)は、我々の中で、とても良い成功事例だと思っております。私が、エイブルの平田社長と直接何度かコラボレーションを決める前にお会いさせていただきました。最終的に各社が作って行きたい未来が同じ価値観で描けるならば、一緒にやったほうがお客様に良い価値を提案できる、というすり合わせができました。
田所:
お互いの企業間でビジョンを明確にしたのですね。
天沼氏:
トップ同士が共感して、"あるべきゴールの姿"が共有できたのがすごく大きかったです。
田所:
ちなみに、"あるべきゴールの姿"を描くには、どうされているのでしょうか。
天沼氏:
エイブルさんとの話では、我々は働く女性やママなど、いわゆる忙しい女性のライフスタイルを応援する取り組みをやろうというゴールを決定しました。その1つの方法がファッションレンタルのリアルショップ展開でした。
田所:
あるべきゴールが明確ですね。
天沼氏:
エイブルさんの言葉をそのままお借りすると、”賃貸女子のライフスタイルを応援する”というのが目的なんですよ。我々は”働く女性・ママのライフスタイルを応援する”のがミッションの1つなので、とても共感できました。
田所:
衣食住の衣がエアークローゼットで、 住がエイブルという感じなのですね。
天沼氏:
お互いの顧客接点を持ち寄って、カバーできる範囲を広げて、顧客に価値提供をすると言うことになったので、このコラボは成功したと思います。
田所:
なるほど、お話ありがとうございました。
まとめ
私が好きな言葉に「Content is King, UX is Queen」という言葉があります。当然、プロダクトやサービスの質は、クリティカルなものに違いありません。ただし、顧客がそのサービス、プロダクトとの接点全体で体感するUXがコンテンツと同じくらい重要ということで、天沼さんと話していいて「ユーザーの笑顔を増やすためにUXをとことんこだわり抜く」執着心のようなものを感じました。
そのこだわりが、20代〜30代の働く女性という、品質に対して、最もこだわりをもつユーザーの心を掴んで話さないサービスを、作れているのだろうと実感しました。
天沼さんは、起業するまで、特にファッション業界での経験はなかったと仰っていましたが、それでもここまでのレベルのプロダクトを作れるのは、2014年に起業された時から徹底的にユーザー視点に立ち、プロダクトを磨き込んできた成果だと言えます。
今年から来年にかけて、男性向けや海外展開も見据えているらしく、今後の動向がますます注目されます。
企業プロフィール
株式会社エアークローゼット
月額制でプロのスタイリストによるコーディネートが何度でも手元に届く!女性向けの新感覚オンラインファッションレンタルサービス。「服を選ぶ時間がない」、そんな忙しい女性の悩みを解消するのは、エアクロ。服との出会いを最大限楽しめる新しいインターネットサービスです。
- コンサルティング
- ビジネスはより高度化し専門的になっています。そこで、事業者のみならず専門家を呼び、彼らからアドバイスを受けながら、日々の活動を確認したり、長期の戦略を考えたりします。その諸々のアドバイスをする行為自体をコンサルティングといい、それを行う人をコンサルタントと言います。特別な資格は必要ありませんが、実績が問われる業種です。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- KPI
- KPIとは、目標に対して施策がどの程度達成されているか、を定量的に表す指標のことをKPI(重要業績評価指標)といいます。
- KPI
- KPIとは、目標に対して施策がどの程度達成されているか、を定量的に表す指標のことをKPI(重要業績評価指標)といいます。
- リテンション
- リテンション(retention)とは、既存顧客の維持、または既存顧客を維持しつつ継続的に利益確保していく活動のことを言います。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- UX
- UXとは、ユーザーエクスペリエンス(User Experience)の略で、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味します。似たような言葉に、UI(ユーザーインターフェイス、User Interface)がありますが、こちらはユーザーと製品・サービスの接触面を指した言葉です。
- リンク
- リンクとは、インターネット上では、あるページの中に記された、他のページの所在を表す情報のことを「ハイパーリンク」と呼び、これを略した言葉です。リンクのある場所をクリックすると、他のページにジャンプするようになっています。
- オンライン
- オンラインとは、通信回線などを使ってネットワークやコンピューターに接続されている状態のことをいいます。対義語は「オフライン」(offline)です。 現在では、オンラインゲームやオンラインショップなどで、インターネットなどのネットワークに接続され、遠隔からサービスや情報などを利用できる状態のことを言う場合が多いです。
- インターネット
- インターネットとは、通信プロトコル(規約、手順)TCP/IPを用いて、全世界のネットワークを相互につなぎ、世界中の無数のコンピュータが接続した巨大なコンピュータネットワークです。インターネットの起源は、米国防総省が始めた分散型コンピュータネットワークの研究プロジェクトARPAnetです。現在、インターネット上で様々なサービスが利用できます。
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