SNSマーケティングのトレンドに「インフルエンサーマーケティング」という手法があります。

インフルエンサーとは、影響を意味する「influence」が語源となっており、SNSやブログを通して多くのユーザーに影響をあたえる人物のことを指します。その影響力を活用し、商品のプロモーションを行うことを「インフルエンサーマーケティング」といいます。

SNSが普及した近年、インフルエンサーの影響力は絶大で、有効なプロモーション施策の1つとして認知されています。とはいえ、単にSNSのフォロワー数が多いという基準だけでインフルエンサーを選定し、依頼しても効果が出ない場合がほとんどです。

インフルエンサーマーケティングを成功させるためには、どのような判断基準を持てばいいのでしょうか。

一般ユーザーや人気インスタグラマーを活用した写真販売サービスを提供する「スナップマート」の代表である江藤美帆氏に「SNSマーケティングにおけるインフルエンサーの本質」について、ferret 創刊編集長 飯髙悠太が伺いました。

スナップマートの事例についてお訊きした前編はこちら
「一般人」が撮影した「普通」の写真でクリック率340%アップ!?スナップマート代表 えとみほ氏が語るインスタ時代の写真の価値|ferret

自然発生的に体感したインフルエンサーの効果

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飯髙:
スナップマートはユーザー投稿型のサービスなので、いかにアクティブユーザーを増やすかが重要ですよね。アクティブユーザーを獲得するために、やはりインフルエンサーマーケティングもやられたんでしょうか。

江藤氏:
そうですね。スナップマートってほとんど広告出稿したことがなくて、基本的にはオーガニックとプッシュ通知がメインなのですが、1度だけインフルエンサーを活用して広告を出したことがあります。

インフルエンサーというか、スナップマートのユーザーでインスタグラムでも人気のある方に謝礼をお支払いして「このアプリを使っています」という感じでスナップマートを紹介してもらったんです。その時のCPIは130円くらいでした。

その他に、こちらから依頼したわけではないのですが、ユーザーの中に新しいウェブサービスITに関する感度の高い方がいらっしゃって、「スナップマートで写真が売れました」と自発的にSNSでシェアしてくださる方がけっこういらっしゃいます。お名前は伏せますが、ある若い女性に人気の作家さんがTwitterに投稿してくださったときは一瞬で1,000人以上新規ユーザーが増えました。

基本的にあまりお金を払って広告出稿することはなく、自然発生的にシェア口コミで拡散しており、インフルエンサーの効果を感じました。

飯髙:
その影響力は大きいですね。たしかに、著名な方々の中には、日本各地にファンを持つ方がいらっしゃいます。その各地のファンたちがハブとなって、売れている気がします。

江藤氏:
そう思います。一方で、Twitterとかをみているとフォロワーが何万人といるにもかかわらず、毎回いいねが数えるほどしかしかついていないアカウントもあります。たまたまじゃなくて、ずっとそうなんですよね。

フォロワーが多いのに何の反応もないのは、ひょっとしてフォロワーの増やし方がよくないんじゃないかな?という気はしています。たとえば、いろんな人をどんどんフォローしていって相互フォローを獲得していく方法がありますよね。あれは個人的には、あんまり意味ないんじゃないかと思ってるんです。本当にその人に興味があってフォローしてるわけじゃないから、たぶんあんまり投稿を見てないでしょうし。

エンゲージメント率の高いフォロワーの増やし方のポイントは「長文投稿」

飯髙:
たしかに、あれで良いのはフォロワーの母数が欲しい人だけです。ところで、江藤さんは「エンゲージメント率の高いフォロワーの増やし方」についてnoteで言及されていましたよね。

江藤氏:
そうですね。Twitterは1ツイートあたり140文字までですが、ギリギリまで書いて投稿することでエンゲージメント率とフォロワー数が上昇しました。1ツイートあたりの情報量を増やすだけで、言ってることはそれまでとあんまり変わってないんですけど、反応がぜんぜん違いました。

また、数ヶ月前にTwitterのアルゴリズムが変わったと言われていますが、リツイートをたくさんされると、その投稿がフォロワーの「ハイライト」に表示されるようになりました。

一時期、友達から「えとみほさんがタイムラインにいっぱいい居ますよ。いつ寝ているんですか?」と言われたことがあります。(笑)その友達のTwitterを見せてもらうと、たしかに私の投稿がたくさんハイライトに表示されていてびっくりしました。

飯髙:
ハイライトはリツイート以外にも「メンション」や「いいね」の数も影響しているイメージがあります。でも、実際この方法に再現性を持たせられるのでしょうか。例えば、「えとみほさんが発信するからリツイートされる」可能性があるのかなと思いまして。

江藤氏:
友人なども試しているのですが、実際にエンゲージメント率など上昇していると聞いています。1ヶ月くらい経って実施していた方からフィードバックもいただきましたが、ほとんどの方が大なり小なり変化があったとおっしゃっていました。

長文を投稿するのは大変だと思われるかもしれませんが、なにもひねった名文を書く必要はないんです。ただいつも2ツイートに分けているものを1つにまとめるとか、それだけでもぜんぜん違います。

断片的なツイートは「いいな」と思ってもそのツイートだけでは意味が通じなかったりするので、リツイートしづらいんだと思います。

参考:
ツイッターのフォロワーを3ヶ月で3,000人ほど増やした方法|えとみほ|note

「フォロワーの数」は無意味?インフルエンサーの価値は「専門性」にシフトしている

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飯髙:
先ほどの話にもありましたが、インフルエンサーのブームで「フォロワー数の多さ」に注目が集まることがありますよね。でも、実際に効果は見込めないと。そこで、企業がインフルエンサーを活用する場合、どういう基準で依頼したら良いのでしょうか?

江藤氏:
この前、“自撮り女子”として有名なりょかちさん(@ryokachii)が、とある記事で言及していたのですが、「数万人フォロワーがいるから数万リーチ」というフォロワー数だけのバラマキ型のインフルエンサーは今後廃れていくんだろうなと感じています。

たとえば、自分のSNSのタイムラインに同じような商品が大量に流れきたときに、少し前なら「流行ってるのかな?」と思う人が多かったと思うのですが、最近のSNS慣れしている子たちは「ステマかな?」と思っちゃうんですよね。そうなると憧れの気持ちもわかなくなりますし、お金を出してまで欲しいと思わなくなります。

今後についてですが、インフルエンサーは読モ系から専門性を持った人たちにシフトしていくんじゃないかなと思っています。専門性というと大げさですけど、要は「このジャンルだったらこの人だ」と周りの人が認識しているような人ですね。

飯髙:
「専門家」であれば、フォロワーの母数自体はあまり影響しないのでしょうか?

江藤氏:
一定数は必要ですが、多ければ良いというわけではないと思います。

私がいままでインフルエンサーを活用した肌感覚だと、5,000人〜30,000人くらいのフォロワー数の方が一番コストパフォーマンスが良いと感じています。そのくらいの“ほどよく親近感のあるインフルエンサー”が一番影響力があるんじゃないかと。

SNSマーケティングの本質は「熱心なファン」と「強力なコミュニティ」

飯髙:
学校でクラスの人気者を押さえるイメージですかね?僕も体感として似たような経験がありました。本を買うとき、皆が知っているような著名人の言及ツイートを見ても「いいね」を押すだけ。でも、友人のモリジュンヤさん(@JUNYAmori)にオススメされたら買っちゃうんですよね。結局リアルな繋がりを持っている人が重要なのかなと思います。これがSNSマーケティングの本質なのかなと思います。

僕の知り合いにフリーの編集ライターをやっている佐藤友美さん(@SATOYUMI_0225)という方がいるのですが、去年7万冊くらい書籍を売っているんですね。

『女の運命は髪で変わる』という本を出版されたとき、美容室の人に紹介したんです。そこで美容師さんはお客さんにオススメして、拡散するように売れました。美容室って小さくても強力なコミュニティを持っていますよね。

江藤氏:
そういう波及の仕方が最高ですね。親和性や嗜好の近いと思う人、信頼できる人がする「オススメ」は強力ですね。影響範囲は狭くとも、リアルの繋がりの強いコミュニテイにリーチするのは非常に大切だと思います。

飯髙:
熱心なファンや強力なコミュニティーに対して、企業が依頼を行いたい場合、どういった場所から切り開いていけば良いと思いますか?

江藤氏:
1人でもいいので、まず最初にコミュニティの中にいる人と信頼関係を築くことだと思います。たとえばスナップマートの場合は、サービスをリリースする前に、きれいな写真をアップされているインスタグラマーさんに写真を提供して欲しいとお願いして、サービスローンチ前に1万枚以上の写真を集めたんですけども、そのときに活躍してくれたのが、弊社に今年新卒で入社した川北(@moron_non)なんです。

彼女は学生時代からインスタグラマーとして活動しているんですが、当時「こういうサービスを作るので協力してくれませんか?」とインスタのDMで声をかけたら、うちのビジョンにすごく共感してくれて。それで、インターンとして周りのインスタグラマーさんたちに声をかけてくれたんです。

私1人で声をかけて回っても「怪しい人だな」と思われてスルーされていた可能性が高いと思うんですけど、コミュニティの中の人と信頼関係が築けたおかげで、そこからはみなさんに快く協力していただけました。

実はスナップマートがローンチしたときは1日に1万人以上の登録があったんですが、広告費がほとんどかけられない中でもそういうラッキーなスタートが切れたのは、このときに協力してくださったインフルエンサーさんたちのおかげです。

昨今、インフルエンサーというとお金でしか動かないようなイメージを持たれていますが、決してそんなことはないと思います。その商品やサービスのコンセプトや「なぜあなたにPRを頼みたいのか」といった理由を丁寧に説明することが大事じゃないかと。

飯髙:
信頼関係を築くことが大切なんですね。一方で、インフルエンサーのリーチ数で広告が販売されていることもありますが、「リーチ数しか見ていない」状態になってしまう流れは、良くないなと感じています。

江藤氏:
そうですね。リーチ数だけでなく、フォロワーの内容をしっかり見た方が良いと思います。たとえば、インスタグラムの場合、外国人フォロワーが圧倒的に多いアカウントがありますよね。

日本でしか営業していない企業が、そういったインフルエンサーにプロモーションを頼んでも反応が得られないのは明らかです。インスタグラムの場合はシェアの機能がないのでフォロワーの数が重要にはなってくるのですが、それよりもまず「誰に情報を届けたいのか」をしっかり考えるべきですね。

飯髙:
コミュニティに行くのが良いと思うんですけど、いまだに「リーチ数」だけに惑わされてしまう企業も居るじゃないですか。これは根深い問題ですよね。

江藤氏:
私もリーチ数ばかりを気にする風潮についてはなんとかしたいなと思っています。noteなどでSNSマーケティングについて言及したりしているのは、微力ながらそれが啓蒙になればいいなと。「とにかくリーチ数を」といわれても「それは本質と違いますよ」ということは伝えていきたいですね。

まとめ

Webマーケティングには、オウンドメディアや動画広告など、めまぐるしくトレンドが移り変わっています。その中でも近年注目を集めているのがSNSマーケティングの1つである「インフルエンサーマーケティング」です。

単にインフルエンサーを活用すれば「リーチ数」が見込めるという風潮が存在し、これが「SNSで効果がでない」原因になっています。

実は、SNSマーケティングの本質は、いかにリーチを稼げるかではなく、専門性の高い人物に対する信頼や、その人から分岐した強力なコミュニティなど、リアルな繋がりにあることがわかりました。

どんなに知名度の高い有名人よりも、身近で信頼できる人物が今後インフルエンサーマーケティングを行う上でのキーポイントになるでしょう。