サービスを通して顧客に対してどのような体験を提供できるかは企業にとっても重要な観点です。このような顧客がサービスから感じる体験を「カスタマー・エクスペリエンス(CX)」と呼び、欧米をはじめ日本企業においても注目されている考え方の1つです。

東京オリンピックの開催に伴い「おもてなし」という言葉が多く利用されるようになった現代では、優れた顧客体験を提供するためには丁寧な接客こそが重要だと考えている方もいるかもしれません。
ですが、「おもてなし」の精神だけで、顧客に最高の体験を感じてもらえるのでしょうか。

今回はSalesforce World Tour Tokyo 2017より、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長 井阪 隆一 氏をはじめとする日本有数の企業トップが考える”企業と顧客の関係性”についての対談の様子をお届けします。

登壇者紹介

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井阪 隆一 氏
株式会社セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長。1957年10月生まれ。80年セブン―イレブン・ジャパン入社。商品畑を歩み2002年同社取締役、2006年同社取締役常務、2009年同社代表取締役社長兼セブン&アイ・ホールディングス取締役、2016年5月より現職。
引用:[セブン&アイ次期社長、井阪氏の “矜持”|日経ビジネスオンライン] (http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/041900317/)

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石黒 不二代 氏
ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役 兼 CEO。ブラザー工業、スワロフスキージャパンを経て、米スタンフォード大学ビジネススクールに留学。MBAを取得後は、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業し、日本の大手企業と米国のベンチャー企業の技術移転に従事する。ネットイヤーグループ創業に参画し、2000年から現職。
引用:石黒不二代|アカデミーヒルズ

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庄司 哲也 氏
NTTコミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長。1977年東大経済学部卒、日本電信電話公社(現NTT)入社。NTT西日本取締役、NTT取締役、NTTコミュニケーションズ副社長を経て、2015年6月から現職。
引用: NTTコミュニケーションズ社長・庄司哲也さん ドイツ赴任中、市場激変 迅速対応の重要性知る|毎日新聞

「実はお客様のことを全く知らない状態で商売をしている」井阪氏が語る小売業の顧客情報活用における課題

司会:
株式会社セブン&アイ・ホールディングスは日本最大手の小売業として展開してきたと思います。そのような中、現在小売業におけるテクノロジーの中で最も影響力が大きいものは何ですか?

井阪氏:
ユーザーがモバイル端末を使って買い物をする時代で、リアルの店舗を運営する我々の業界にとっては常に努力していかなければと覚悟しております。その中で、我々にとっての課題としては2つあると思っています。
1つは店頭において、デジタルソリューションをいかに育てていくか。実際、我々はデジタルの端末を利用して、お客様に接客する実験にも2年前から着手しています。また、接触せずにタグを読み込みするシステム「RFID」を使って、店舗に商品が届いた段階で検品作業を完了させるというシステムも導入しようとしています。
もう1つは、お客様のお買い物データをどのように使っていくかです。
現在、リアルの店舗を構えることでお客様と対面では接しているものの、実はお客様のことを全く知らない状態で商売をしております。そのため、来春からお客様とつながるツールとして、アプリを提供します。
お客様から情報をいただき、その情報から役に立つ商品開発・店舗開発を行っていこうと思っています。

司会:
実際、どのように大量のデータを利用していくんですか?

井阪氏:
現在でもデータを利用はしているんですが、まだ十分ではありません。そこは現在会場にお越しの企業含め、他の企業と連携を取りながら取り組んでいきたいと思っています。

参考:
[RFIDとは?|DENSOWAVE] (https://www.denso-wave.com/ja/adcd/fundamental/rfid/)

eコマースとリアル店舗のアライアンスはアリ?ナシ?

司会:
Amazonがナチュラルフード専門「ホール・フーズ」を買収したというニュースがありました。このようなeコマースとリアルの店舗の連携についてどのように思われますか。また、セブン&アイ・ホールディングスで戦略として考えているものはありますか?

井阪氏:
戦略としては良いと思います。AmazonEffect(Amazonによる効果)という言葉が日本でも言われるようになりましたが、Amazonに対して同じレベルの商品・サービスを提供できないのが現状です。そのため、企業が連携して対応しようという動きが起こったのもAmazonEffectの1つだと思います。

私共もアスクルとの連携を組むことになりました。今日の晩御飯のメニュー提案を動画でみながら、ネットスーパーで購入するというサービスです。
ネットスーパーの課題の1つとしてネットの在庫と店舗の在庫を一元的に管理しているため、商品の振り分けが難しい点があります。これをアスクルの物流機能と統合させることで、ネットスーパー独自の在庫をもち、展開できるようになります。
また、セブンイレブンでは店舗の配送サービスにおいて西濃運輸さんとアライアンスをスタートさせています。

AIや認証システムを流通でどのように活用していくのかといった専門的な部分も、アライアンスを組むことで新しい顧客サービスを実現できると感じていますね。

石黒氏:
今のお話は「買うまでにどうするか」だけでなく、「買ったあとでどこで受け取りたいか」といった購入体験すべての設計に関わってくることですね。Amazonはネットから始まったのですが、セブン&アイ・ホールディングスではリアルの店舗から始まっているのが特徴かなと思います。

庄司氏:
アメリカは面積が広大なため、すべての地域に流通が行き届いていないという現状があります。Amazonの始まりも、書籍を行き届かせたいというサービスから始まっています。そこから、書籍の販売データを取得したうえで他の商品にも展開できると感じたのでより幅を広げました。その点では「不便だから欲しい」のと、流通が行き届いた日本での展開は違うのかなと感じますね。

これからのデジタル世界で特に大切なコンセプトは「顧客体験」

司会:
ネットイヤーは今後、顧客を理解するために、また企業の成長を支えていくために、どのようなサポートを行っていこうと考えていますか。

石黒氏:
お客様である企業を成長させるためには、企業の先にいる顧客の体験を最高にすることがまず大切だと思っています。
カスタマー・エクスペリエンスつまり「顧客体験」という考え方を欧米の企業のトップはとても重要視しています。私も「顧客体験を作る会社になるんだ」という考え方が、これからのデジタル世界で特に大切なコンセプトになると思っています。

伊坂社長から「自分たちはお客様のことを知らない」という謙虚な言葉がありましたが、実際にお客様の方が先に進んでしまっているんですね。
例えば、スマートフォンを利用されているお客様だと「好きなブランドの情報の好きな商品の情報が通知で送られてきたらいいのに」と思ってるんです。ただ、好きな商品の情報をお知らせするためには、企業自身が「その方がどんな方であるか」という情報を持っていないとできません。また、そのためのシステムがないとできない。
このような顧客体験を考え、実現することが企業にとってのミッションになると私は思っています。

我々からのアプローチとしては、典型的なお客様を「ペルソナ」として設計することに取り組んでいます。
それは「30代男性」といった単純な話ではなく、「女性で30代、子供がいない夫婦で、共働きで…」といったより深いイメージ像を組み立てています。その人たちが1日をどのように過ごしていて、スーパーにきた時に何を考えて、何を買うのかと言った点まで考えます。
その際には購買情報のようなデータをCRMのとして利用する必要がありますよね?
私たちとしてはお客様のためにデータを集め、ペルソナとして設定した典型的なお客様のイメージに合わせて、カスタマージャーニーを描くのをお手伝いしていきたいなと思っています。

「おもてなし」は個別での最適化に過ぎない 日本に本当に必要なデザイン設計とは

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司会:
カスタマー・エクスペリエンスという言葉が欧米で流行っているというお話でしたが、アメリカ人の言う「ユーザーエクスペリアンス」と日本での「カスタマー・エクスペリエンス」という言葉では捉え方が異なっているかと思います。

例えば、日本では「おもてなし」という言葉がありますが、システム全体を理解してないとどんなに気配りをしても、顧客のニーズに対応できないのではないでしょうか。実際、私自身が成田空港を利用した際もとても丁寧に対応していただきましたが、顧客体験としては到底満足できるものではありませんでした。
日本では、システム全体の情報を把握してない場合が多いと思うのですが、いかがでしょうか。

石黒氏:
確かにそうですね。日本のサービスがすごくいいなと感じることとしては、旅館やデパートで大変丁寧に接してくれる。でも、それは個別での最適化に過ぎません。現在の企業においては、そこに焦点が置かれてしまっていると思います。

欧米では「顧客体験を最高にする」ということに重きが置かれています。例えば、先ほどの成田空港の例をあげると、成田空港という事業自体が商品です。優れた商品に仕上げ、販売するためのマーケティングを考えなくてはいけません。ですが、商品を販売するための全体設計がまだ不足している。
それは企業が部署ごとの縦割りになってしまっていることが影響しています。
本当はカスタマーからマーケティング、商品開発まであらゆる部署が顧客1人に向き合わなくてはいけません。
「リアルの購買情報もオンラインの動きも全ての情報がデータセンターに集約されていて、その情報がいつでも取得できる」という状態が、現状の日本企業には欠けているのだと思います。

ただ日本の方の気質は非常に細かくて勤勉なので、一度データを取り始めたら一生懸命向き合うでしょう。
QA活動のように品質を向上させるために、1人1人の顧客のことを考えて最適なシステムやサービスを考えるようになるかと。
そうすれば、日本でも優れたカスタマー・エクスペリエンスが実現できると思っています。

司会:
データは共有されていることだけでなく、そこから関係者がどのように頭を働かせるかが重要です。日本はものづくりの世界においてデザインが優れていると言われていますが、eコマースのようなオンラインにおいてもそのようなデザイン感覚は反映されているんでしょうか。

石黒氏:
反映されないのが現状です。日本人にとってのデザインの感覚ってあくまでアートであり絵なんです。デザインを機能的な設計として捉え、全体を考える発想が抜けていると思っています。例えば、Webでのデザインの場合、アーティスティックなコンテンツを出すことだけでなく、何万ページとあるWebの構造をいかにわかりやすく設計するかが重要となります。

ショッピングモールやオフィスビルでは、ユーザー導線を考え、全体の利益を最大化する建築設計が必要です。これはお店1つ1つの商品の力ではできないことですよね。
建築の世界ではこのような設計ができていても、マーケティングではまだ多くの日本の企業ができていないと感じています。

しかし、データが共有できる環境づくりができるようになれば、データをあらかじめシナリオ設計に組みこみ、行ったことに対してユーザーがどのように動くかといった検証するということが可能となります。結果として、ユーザー1人1人が望んでいたことが見えてくる。
このようにサービス全体の顧客体験を設計するという段階まで行くのが理想ですね。

まとめ

小売店における国内最大手「セブン&アイ・ホールディングス」は、リアルの店舗とネットスーパーでの流通販売経路を統合することで、どの販売チャネルからでも同じ商品を同じ価格で購入できる「オムニチャネル戦略」をとってきました。

オムニチャネル戦略の根底には、サービス全体で顧客の体験を設計するデザイン思考が流れています。

顧客体験を最高のものにするためのサービスをデザインするためには、前提として購買情報や顧客情報の収集及び分析が必要となります。正確かつ膨大なデータを取得することができるWebは、その点でも今後重要なツールとなっていくでしょう。

参考:
[セブン&アイ・ホールディングスのオムニチャネル戦略 |イトーヨーカ堂とセブン&アイ・ホールディングス] (http://www.itoyokado.co.jp/company/job/pharmacist/about/omnichannel.html)