Lesson1「教科書に落書きしよう!」 - 1億総作り手時代に"子どもがクリエイターになる練習ドリル" -
「情報量を多くする」上で押さえておきたい2つのポイント
"勝負"と考えた場合、戦争でも何でも「情報が多い方が勝つ」という原理があります。
戦国時代の武将たちも、できるだけ相手より高い場所に陣取ろうとしました。その方が相手より情報量が多くなるからです。
「情報量を多くする」というのはコンテンツの世界も同じで、ジブリの作品も最初に驚かれたのは、その情報量の多さです。昔のアニメの作画は現在に比べて情報量が少ない、荒っぽいものでした。例えば、初代「ガンダム」の作画は、現代で見ると荒っぽさが目立ちますが、当時はそれが普通でした。
その中でナウシカやラピュタなど、背景やメカが綿密に書き込まれ、動作のディテールに凝ったジブリのアニメは、1秒あたりの情報量がまるで違っており、非常にインパクトが大きかったのです。視聴者は情報が多い方を好むのです。
この「情報量を多くする」がコンテンツの最上位の原理だと思います。そして、この原理は「どう情報を多くするか?」という2つの原理に分解できます。
ポイント1 上手くすること
1つ目は「上手くする」で、1つの面積の書き込み量を増やすことです。これは年々増えています。アニメよりもゲームの世界の方が顕著です。例えば、ゲームの初代「バーチャファイター」はカクカクしたポリゴンの集まりでした。
コンテンツにおける「ムーアの法則(半導体の集積率は18か月で2倍になる)」のように、どのコンテンツでも年々「上手く」「美しく」なっていきます。
ただ、これは美術の授業で普通に習うことで、「もっと色をたくさん使いなさい」などと言われた経験があるはずです。教材もたくさんでているので、この連載ではスッパリと扱いません。
ポイント2 面白くすること
もう1つは「面白くする」で、1つの情報を2倍以上にすることで情報量を多くする方法です。例えば、マツコデラックスは、男なのか女なのかよくわからないという意味で、普通の男女より2倍の情報になっています。
まとめると、「情報量を多くする」ために「1つの面積に詰めこめる情報を多くする」のが上手で、「1つの情報に2つ以上の意味を与える」のが面白い、という定義です。なぜ面白いかというと、意識は1度に1つのことしか処理できないため、意味が2つ以上になると混乱するからです。
目的は同じく「情報量を多くする」ことですが、前者が直線的に情報を並べていう方法なのに対し、後者はできるだけ並列的に情報を構成する方法です。直線と並列、いってみればこの2つしか情報を増やす方法はないのです。
「1つの情報に2つ以上の意味を与える」とは?
そう考えると、複雑そうに見えるクリエイティブが整理されていきます。
「1つの情報に2つ以上の意味を与える」ってどういうこと?という方が多いと思いますが、表現としては「知っているものを見たことがない形にする」という方法がよく使われます。
例えば、フランシスコ・ザビエルは、誰もが教科書で知っています。知っているものが落書きによって別人になることで、1つの情報が2つに増えています。
多くの企画は、この原理を使って情報量を増やしているだけです。例えば、日清はCMで「高校生のサザエさん」を流して話題になりましたが、これも「みんなが知っているサザエさんの、見たことがない姿を写す」という効果によって情報量が2倍になっています。
単なる落書きと異なるのは、コンテンツの多くはチームで制作するため、企画書を作って言葉にしていく作業が必要になります。この場合、「ザビエルの落書き企画書」は次のようになります。
● ザビエルの落書き企画書
ザビエルの特性を活かした落書きをします。
1. ザビエルの性質を逆にする
1-1. 増毛する
1-2. 俗物化する
1-3. 極悪にする
1-4. 性転換する
2. ザビエルの性質を極端にする
3. ザビエルを現代風にする(ズラす)
これまでを振り返ると、次の5つの手順で落書きしています。
1. 「情報量を多くする」ために、
2. 「1つの情報を2つに増やす」原理を使い、
3. 「知っているものを見たことがない形にする」という表現で、
4. 「ザビエルを題材にして落書きする方法」を企画し、
5. 「落書きする」
「何も考えずに落書きすればいいじゃん」と思うかもしれませんが、そうするとスキルが体系化できず、落書きがいつまでたっても面白くなりません。
子どもが教科書に落書きすれば、普通は親が怒ると思いますが、私なら「どうせならみんなが注目するくらいの落書きをしなさい」と言って、子どもとチームになってどうしたら良い落書きをできるかブレストしたいです。ちなみに下ネタと炎上芸は、違った練習になるので厳禁です。
まずは企画書で列挙したような、描いた落書きはどのような方法を使っているかを子どもに尋ねて、子どもがクリエイティブをできるだけ言語化できるように手伝いたいです。落書きは無意識で描きますが、その一連の無意識を特定して名前を付けることで、意識的に無意識を呼び出して使えるようになります。クリエイティブの練習はその繰り返しで、自分の無意識の活動を観測して名前を付け、呼び出せるスキルセットを増やしていきます。
もちろん、全ては言語化できないのですが、言語で体系化したクリエイティブスキルは、創作するときの土台となって多いに助けてくれます。
原理やパターンというと、ワンパターンになってしまって逆にクリエイティブじゃなくなるのでないか?と思う方もいると思います。その心配は不要で、原理は共通でもどう表現するか?という方法で個性がハッキリ出てきます。
例えば、歴史が好きな人だったら「歴史上の偉人を現代風にしてみた」といった時代をズラす方法を好んだり、その人の興味によって表現方法はいずれ偏っていって、その人の必殺技になっていきます。
私の場合はストーリーを重視したコンテンツをよく作っていますが、これは面白系では先行していたサイト「デイリーポータルZ」がドキュメンタリー的であることと、もう一つの面白サイト「オモコロ」はおそらく「デイリーポータルZ」への配慮から妄想系を得意としていたため、ストーリーが空いていたからです。
- コンテンツ
- コンテンツ(content)とは、日本語に直訳すると「中身」のことです。インターネットでは、ホームページ内の文章や画像、動画や音声などを指します。ホームページがメディアとして重要視されている現在、その内容やクオリティは非常に重要だと言えるでしょう。 なお、かつてはCD-ROMなどのディスクメディアに記録する内容をコンテンツと呼んでいました。
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