テクノロジーの発達に伴いデジタルマーケティングが一般的になった現代において、改めて“顧客とのリアルな接点”が重視されはじめています。マーケティング施策の一環として、「グループインタビュー」や「アンバサダーイベント」など、“顧客との接点”を取り入れている企業も珍しくありません。

とはいえ、肌感覚として顧客との接点を創り出すことは大切だと認識していても、自社で具体的な施策として活かしきれていないという方もいるのではないでしょうか。

通称“さとなお”として知られるコミュニケーション・ディレクター 佐藤尚之 氏は、顧客との接点を持つ上で、「まずはファンの声を“傾聴”し、そのファンが自社の商品のどの部分に共感してもらえているのかを知ることが大切」と述べています。

今回、ferret 創刊編集長 飯髙悠太が佐藤尚之 氏の新著、「ファンベース:支持され、愛され、長く売れ続けるために」にも提唱されている「ファンベース」についてお伺いしました。顧客の声を企業の成長に活かすためのヒントになるでしょう。

参考:ファンベース:支持され、愛され、長く売れ続けるために

佐藤尚之 氏 プロフィール

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佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター
(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。東京大学大学院非常勤講師。
朝日広告賞審査員。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。

「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。
本名での著書に「明日の広告」「明日のコミュニケーション」(ともにアスキー新書)。「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊に「ファンベース」(ちくま新書)
“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

www.さとなお.com(さなメモ)より引用

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「ファンベース」は安定的な売り上げのための“中長期的施策”

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飯髙:
今日はよろしくお願いします。2008年にさとなおさんの著書『明日の広告』を読んだときは、本当に衝撃的でした。それ以来、さとなおさんの発信されるメッセージをずっと拝見してきたので、今日は光栄です。

佐藤 氏:
ありがとうございます。よろしくお願いします。

飯髙:
さとなおさんが近年提唱されている「ファンベース」についてお伺いできればと思います。

「企業の成長のためにも、ファンベースを取り入れよう」という言葉をよく聞くのですが、実際にそれがどんな活動や施策を指すのかをイメージできないユーザーが多いと感じています。

まずは、さとなおさんが、“マスではなくファンを重視する理由”からお伺いできますでしょうか?

佐藤 氏:
最初にお断りしておくと、僕自身はマスベースによる、つまりマスメディアを使ってマス(大衆)にリーチしようとするキャンペーンを全く否定していません。

ただ、圧倒的に情報が届きにくくなった現在、認知や話題化のためのキャンペーンはなかなか効かない時代になっています。ちょっと話題になってバズっても、数時間から数日ですぐに忘れ去られてしまう。マスのキャンペーンだけでは届かない層が増えてきた時代に、中長期的なスパンで商品への共感や愛着を形成していく施策がファンベースだと考えています。

ファンベースを定義するなら、ファンを大切にし、ファンをベース(土台・支持母体)にして中長期的に売上や価値を上げていく考え方。ファン自身が長くその商品を使い続けてくれることと、そのファンが周りの人にすすめてくれることで新規の顧客にリーチすること。この2つによって、中長期的に安定した売り上げをあげる施策です。

パレートの法則(2:8の法則)で言われるように、多くの商品において2割の上位顧客が8割の売り上げを支えています。その2割のファンきちんとキープする施策(ファンベース)で売り上げの安定とアップを図りつつ、認知や話題化キャンペーンを組み合わせて新規顧客も開拓していくといった、相乗効果を起こす感じをイメージしてもらうのがいいと思います。

「ファンベース」は中小企業において、特に効果的

飯髙:
企業の規模感によって、ファンベース施策と、キャンペーン施策、それぞれの重要度は変わりますか?

佐藤 氏:
よりファンベースが重要になるのは、中小企業のほうでしょうね。とくに、宣伝広告費に多くの予算をかけられない中小企業は、マスメディアを使用したキャンペーンを頻繁かつ継続的にやっていくのは現実的ではない。そう考えると、ファンベースが施策の中心になる。というか、ファンベースが唯一の方法になるといっても良いくらいかもしれません。

また、イノベーターやアーリーアダプターなど、感性の鋭い人たちに使ってもらいたい商品の場合もファンベースが重要になります。大量の情報に触れている彼らに、マスベースのキャンペーンで企業に都合のいいことを一方的に伝えても、ほとんどスルーされてしまいます。唯一届くのは、価値観の近い友人からの口コミくらい。だから、イノベーターやアーリーアダプターを狙う場合も、ファンベースが重要になってくるでしょう。

飯髙:
僕も日頃から、インフルエンサーマーケティングはもう届かないなと。友人などの強い絆をもった人からの口コミだけが伝わっていくと考えています。

佐藤 氏:
その通りだと思います。

ただし、インターネットの情報にあまり触れてない地方の人たちには、まだテレビなどのマスメディアやタレントなどのインフルエンサーの影響力はあります。芸能人がテレビで推薦した商品も、地方では購買率が上がります。

でも、都会に住むイノベーターやアーリーアダプターたちは、飯髙さんがおっしゃったように、インフルエンサーが宣伝したからといってものを買ったりしない。単に声が大きなだけのインフルエンサーの言葉より、自分と価値観の近い人や信頼できる人の口コミを信頼するのです。

ファンベースに取り組む前に、まずは「ファンの声」を傾聴する

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飯髙:
実際に、ファンベースの施策を行う場合、企業は何からスタートするべきですか。

佐藤 氏:
まだ誰も知らない新商品の場合をのぞいて、すでに商品が購買されているのであれば、必ずファンがいるはずです。まずは、そのファンたちの話をちゃんと聞くこと。「傾聴」が大事です。今、その商品を支持してくれているファンたちが、何に共感してくれているのか、それを徹底して聞きだすことですね。

なぜ「傾聴」が重要かというと、ファンが商品のどの部分に共感してくれているのかは、意外と企業側から見えていないことが多いからです。

たとえば、いま僕が使っているAppleのMacBook Airを例にしてみましょう。例えば、企業側は充電の持ちや液晶の美しさなどのスペックが評価されていると考えているとします。でも、僕たちAppleのファンは、無駄を削ぎ落としたプロダクトのシンプルさ、そして、Macを選んで使っている“自分の審美眼”に価値を見出しているかもしれない。

そういったズレをなくすために、ファンの声を聞くことが非常に重要になってくるわけです。

飯髙:
自社の商品と相性のいい顧客を見つけるためにも、ファンミーティングが必要ということですね。

佐藤 氏:
相性がいい顧客というのは、つまりその会社やブランドが提供している価値を支持している人ですよね。だから、その人たちがどんな人かを知らなくてはいけないのだけれど、それはちゃんと会ってみて丁寧に話を聞かないとわからない。

たとえば、ビールで言えば、キリンもアサヒもサッポロもサントリーも、目隠しをして本当に味がわかるかというと、ファンでも難しいでしょう。でも、なんとなくサッポロが好きで買ってしまうとか、いつもサントリーを選ぶとかいう人はいます。その購買の理由が一体何なのかは、ちゃんと傾聴しないとわからないものなのです。

親友や友人が好きだったという価値かもしれないし、何かの記憶と結びついているかもしれない。それを「味でしょ」というのは、企業側の勝手な幻想なんですよね。

そのズレに気づかないまま、企業本位で考えた商品の価値を発信し続けると、大切なファンを失ってしまいます。

ファンミーティングのメンバーは厳選する

飯髙:
そういったファンの声を傾聴するためには、具体的にはどんな取り組みをすればいいのでしょうか?

佐藤 氏:
僕はまず、ファンミーティングをしましょうと提案しています。ファンがこの商品のどこを愛していて、どこに強く共感しているかを、ファン同士で話し合ってもらう会です。

「いや、マーケティング担当がちゃんとグループインタビューをしているよ。それとファンミーティングは何が違うの?」という人もいるのですが、グループインタビューとファンミーティングは根本的な違いがあります。

実は、ファンの中には、自分がその商品のどこを気に入っているかが自分でもわかっていない人が多いのです。そういう人に対して、企業のマーケティング担当が質問を重ねても、なかなか核心にたどり着かないケースが多い。でも、熱狂的なファン同士が話すと、お互いに触発しあって「ここが好き!」というポイントをどんどん発見しあうんですよね。

飯髙:
なるほど。ファン同士の接触が大事なんですね。ミーティングのメンバーは、どのような基準で選ぶべきでしょうか? 

佐藤 氏:
先ほどお話したように、ファンは、単にその商品の顧客というだけではなく、その商品に共感や愛着を持ってくれている人です。だから、ネット上の公募などでファンを集めるだけでは不十分。本当のファンではない、共感や愛着のない人が集まってしまう可能性があります。

それを防ぐためには、アンケート項目を多くしてふるいにかけたり、普段SNS商品について熱いメッセージを出している人を選ぶするなどして、熱量の高いファンを集める必要があります。

細かい話ですが、交通費や謝礼を出さないほうが、本当の意味でのファンが集まりやすくなります。予算がまったくないなら、社内の社員の中にも商品を偏愛するファンがいるので、その人たちを集めてもいいです。その商品をよく使ってくれる家族や友人でもいいでしょう。

ファンの声をもとに「共感」「愛着」「信頼」を形成する

飯髙:
そして、そこでヒアリングできた「ファンが商品に感じている価値」をもとに、企業側の発信をしていくというわけですね。

佐藤 氏:
そうですね。その価値を高めて支持を強くしていく必要があります。シンプルに言うと3つ方向があって、ひとつは「その価値自体をアップさせること」です。これは「共感」を強くする必要があります。ふたつめは「その価値を、他に代えがたいものにすること」。

他社でもその価値は提供できるわけなので、他社の商品じゃなく、この商品でないとダメだという「愛着」を作る必要があります。最後は「その価値の提供元、つまり企業の評価や評判を上げること」。そのためには日頃からの「信頼」が必要です。つまり、共感、愛着、信頼の3つを強くしていくことが重要だということです。

飯髙:
共感、愛着、信頼の3つ。企業側は、それぞれを、どのように形成していけばいいでしょうか。

佐藤 氏:
「共感」は「そう、そこが好きなんだ」という想いですよね。それを強くしていく。そのためにはとにかく傾聴し、共感ポイントを知ることが第一歩です。そのうえで、その共感ポイントを伸ばしていくと、共感は自然と強くなっていきます。

「愛着」はその商品の背景にあるストーリーに宿ることが多いですね。中小企業であれば、新しい会社が多いはず。それならば、どのような志で起業したのかを語るのもいいでしょう。数多くの商品がある中で、そういった想いを語ってくれなければ、我々はすぐに浮気してしまいます。僕は「愛着」を強くしたいなら「プレゼントをもらったとき」を思い出すと良いとよく伝えています。

例えば、すごく普通の「マグカップ」があるとして、本当に普通なんで、長く使っているからって愛着が起こったりはしないことが多いです。でも、 “大事な友人にプレゼントしてもらったもの”であれば、愛着がわきますよね。それを選ぶために友人が使ってくれた時間や考えてくれた想いなどを想像すると、その普通のマグカップが他に代えがたいものになります。それが愛着です。

この「愛着」を、企業側でつくるとしたら、やはり商品開発においてどのような苦労をしたか、どんな人に届けたいと思って作ったのかなどのストーリーを知ってもらう努力が必要です。それを知ることによって、他とは違う「愛着」のある商品になるわけです。

最後の「信頼」は、提供元に対する信頼です。罪を犯したり、ズルをするような企業の商品を我々は使いたいと思いません。だから、企業がホワイトであるとか、コンプライアンスにのっとっているとか、開発力があるとか、そういった信頼の説明もしてほしい。とくに高額なものやブランド品と言われる商品を買う場合は、この信頼が重要ですよね。

これらの話はすべて「文脈を作っていく」ということに集約されます。誰のために、何のために、どんな思いで……。この文脈を発信していくことでファンの共感、愛着、信頼を得ていくことになります。

ファンは“神様”ではない

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飯髙:
今のファンを大事にして発信をしていくということはわかりました。ただ、現状のファンの思いを重要視すると、商品変更や思い切った改革ができなくなる気がするといった声も聞きます。

佐藤 氏:
それはよく受ける質問です。そして、多くの人が誤解しているところでもあります。

たとえば、ある音楽アーティストが好きだとして、みんな「今のアーティストのまま成長してほしくない」なんて思ってませんよね。そのアーティストにいい成長をしてもらって、しかも自分たちが支持している方向で成長してもらって、全然違う世界を自分たちに見せてほしいわけです。

つまり、今のファンを大事にするということは、ファンと一緒に未来に向かって成長していくことに等しいわけです。ファンミーティングで継続的に傾聴できていれば、「ファンに愛される理由」が時代とともに変わっていくのがわかるはずです。その変化を見ながらファンとともに価値を作り上げていくのが大事なんです。

飯髙:
あくまでファンと共通の価値観を作っていくのであって、ファンの言いなりになるわけではないということですね。

佐藤 氏:
そう。ファンベース施策で間違いがちなのは、ファンを大切にするあまり神様扱いすることです。ファンを特別扱いして贔屓すると、ファンは増長してしまいます。たとえば、いつもファンを優待していると「あのときはあんなに安くしてくれたのに、今は正規料金かよ、けしからん!」みたいなことになる。

そうではなくて、ファンとはあくまで企業が提供した価値を支持している人たちなので、もともと対等な関係なのです。企業が開発した商品やサービスが、自分の人生を豊かにしてくれると感じて、感謝すらしてくれる人たちがファンです。だから、優遇する相手ではなく、むしろ仲間や身内であると考えて接するべきです。価値観が近いんですから。

レストランでいうと、混んでいるときに「俺の料理を先に出せ」という人は、いくら常連であってもファンではなく、言うなればただのクレーマーです。そうではなく、むしろ「お皿くらい運ぶよ」と手伝ってくれる人がファン。そのお店の価値をわかっていて、もっとよくしたいと考えている「身内」がファンなのです。

飯髙:
コミュニティに関しては、どう考えていらっしゃいますか? ファン=強い絆と考えるからか、「ファンベース」と「ファンコミュニティ」を混同している人が多いように感じます。

佐藤 氏:
おっしゃる通り、ファンベース施策というと、コミュニティを作ることだと思っている人が多いのですが、これも違います。

ファンベースは、ファンをベース(土台や支持母体)に売り上げや価値をあげていく考え方です。ファンコミュニティはその中のひとつの手法ではありますが、コミュニティを作っていく前に、やることはいっぱいあります。

レストランで言ったら、お客さんとお付き合いする前に、お店の内装やメニューをもっと改善したり、お店のストーリーをきちんと用意したり、味を良くして信頼を作ったりと、やることはたくさんあります。そういうのがちゃんとできた上でようやく直接的なお付き合いが始まる。コミュニティを作るとはそういうことです。安易に始めてはいけないし、始める前にやることがたくさんあります。

ファンベースの弱点

飯髙:
ファンベースの弱点についても聞いていいでしょうか。共感や愛着を醸成していくには時間がかかるように思うのですが……。

佐藤 氏:
そうですね。短期で成果を出したいと思うなら、やはりキャンペーンが早い。最初に言ったように、キャンペーンとファンベースは補完しあい相乗効果を上げ合うと考えるのがいいと思います。

あとは、小さく安定してしまう場合があることも弱点のひとつ。パイを一気に大きくしたい、スケールしたいときはファンベースだけでは追いつきません。ファンベースは口コミ的にじわじわと広がる方法なので、安定感はありますがスピードは求められない。

また、ファンベースは、規模にもよりますが、新商品や無名の商品には向かないことも多いです。時間がかかるので、スタートダッシュをかけたいときのための施策ではないんですね。僕も、新商品だったらキャンペーンをやるようにします。

飯髙:
コンプレックス商材など、口コミを生みにくい商品も、ファンベースには向かないように思いますが、どうでしょうか。

佐藤 氏:
確かに。たとえば、カツラなんかはそうですよね。使用している本人はなかなか人に勧めない。でも、そういう場合でも、奥さんや家族にアプローチするという方法はあります。本人が信頼する人たちをファンにしていくと、しっかりその本人に伝わっていきます。

飯髙:
ファンベースの考え方はBtoBの商品でも同じように機能しますか?

佐藤 氏:
同じですね。むしろパレートの法則BtoBこそ当てはまります。BtoB企業はたいてい20%の顧客が80%の売上を作っていますよ。そして、そのサービスやシステムを導入しようと決めるのはやっぱり人間であり、しかもキーパーソン同士みんな横でつながって情報交換している。

なので、キーパーソンの共感・愛着・信頼を作ることは、その人が離れることを防ぐとともに、他の顧客を増やすことにもつながるのです。

「競合に良い商品を勧めるわけはないから、口コミが発生しない。ファンベースは向かないのではないか」と思うかもしれませんが、そんなことは全然ありません。同業同士、みんな情報交換して勧め合っているのが現状ですから。

ファンベースの効果測定は現状ではNPSが一番

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飯髙:
ファンベースを進めてく際の難しさのひとつに、効果の見えにくさがあると感じます。何の施策がよかったから売り上げにつながったのかを検証するのが難しいように思うのですが……。

佐藤 氏:
効果検証はしにくいですね。というか、本当はしないほうがいいんです。だって、人が人を好きになる過程だって、嫌いになったり好きになったりを繰り返して少しずつ愛に育っていくわけです。初対面のとき大嫌いだったなんて例はたくさんありますよね? そういうものです。

とはいえ、そうも言ってられないので、効果検証をするなら、定期的なNPS(顧客ロイヤリティ測定)をオススメしています。自社サイトでの行動やコミュニティ内での行動が計測できるのであれば、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)的な紐付けをして、それらを元にファンのペルソナとかを作って行けたりすると、より深い効果検証が出来るかもしれません。

とはいえ、普通は、どの施策が心に響いて共感され、ファン度がどれくらい上がったかは、データの取りようはなかなか難しいですね。ファンを定期的に追っていくのが一番かと思います。

飯髙:
効果検証がしにくいことと、中長期の施策であることを考え合わせると、ファンベースの重要性を社内で認識してもらい、継続していくことは、なかなかハードルが高いようにも感じます。

佐藤 氏:
そういう声もよく聞きますね。ファンベース施策は半年や一年で目に見えて変化が起こるものではありません。1年で改選される役員にしてみれば、取り組んだところで次に異動してくる人の手柄になってしまう。面倒だから自分の代では取り組まないと言われたというケースも聞きます。

ファンベースに取り組みたい担当者から、「上司を説得したいので、会社に講演に来てください」と言われることもよくあります。

ちょっと広告っぽくなりますが、2月5日に発売した書籍、『ファンベース』(ちくま新書)は、上司を説得するための本として使ってもらえたら、と思って書きました。

その中にはいろいろな説得ポイントを書いているんですが、直接的に上司を説得するなら、ポイントは2つありますね。

1. ファンミーティングやファンイベントなど、熱量を持ったファンが集まるイベントに、上司や役員などのキーパーソンを参加させること。

2. ファンの売り上げが、自分たちの商品の売り上げの何パーセントになっているかを調べること。

例えば、消費者パネルなどで自社商品を買ってくれている人にアンケートして、好意度を聞いていくことで、ファンが自社製品の売り上げの何パーセントくらいを占めているかがわかります。そのパーセンテージがパレートの法則に近い結果になったのであれば、2割のファンを大切にして売り上げの安定を図っていくことの重要性が認識できると思います。

「ファンベース」というと、きれいごとと思われることも多いのですが、今後顧客自体がどんどん減少していく人口急減時代に、企業の収益を安定させるために率先して取り組むべき施策なんですよね。ですから、上記の2つをやると、説得も継続も比較的うまくいきます。

一周回って、口コミが効く時代に

飯髙:
ここまでさとなおさんのお話を伺ってきて思ったことがあります。いままで「ファンベース」という言葉はなかったけれど、その考え方自体は、昔からあったのかなという気がしてきました。

佐藤 氏:
そうですね。おっしゃるとおり、一周回って重要になってきた考え方なのだと思います。

今は、毎年、千葉市や仙台市といった100万人規模の都市がひとつずつ消滅しているような時代です。そんな時代に新規顧客を大量に獲得することは、ますます難しくなっていきます。高齢化社会もそれに拍車をかけています。

高齢化社会ではみんなが新しい商品に手を出さなくなっていきます。今まで使い慣れたものを使い続けたい人が増える。だからこそ、いま、せっかく既存のファンがいるならば、そのファンを大事にして売り上げを安定させ、そのファンたちに新規顧客を口説いてもらったほうがいい。「ファンベース」が、一周回って重要である理由がこれです。

飯髙:
とくに中小企業の担当者にとって「ファンベース」の考え方は、必須になると感じました。

佐藤 氏:
今まで予算の10割を新規顧客に振り分けていたものを、1割か2割でいいので、中長期的なファンベースに割いていく。ファンの下支えがあれば収益も安定します。

ファンベースを認知や話題化を目的としたキャンペーンと組み合わせれば、これまで一過性かつ瞬間風速的だった顧客が、継続型の顧客になっていきます。

企業にとっても、自社の商品に共感し愛着をもってくれる顧客とともに成長していくことは、売り上げだけではない価値を得られることでしょう。

まとめ

ファンの声を傾聴することで、自社の商品のなにが愛されているのか、その“価値”を知ることができます。企業自身が気づいていない価値に気づくことができるという点だけでも、「ファンベース」という考え方は大きなメリットがあると言えるでしょう。

「ファンを大切にする」という考え方は、時に「ファンへの迎合」と感じることもあるはず。しかし、佐藤 氏が提唱するファンベースは「優遇するのではなく、あくまで対等な仲間としての関係」と述べています。その企業の良さを本当に感じているファンを大切にすることが大切です。

一方で、「ファンベース」という考え方には中長期的な施策という弱点もあります。ただ、佐藤氏は短期的なキャンペーンと組み合わせることで相乗効果を見込むことができると言っています。短期的なキャンペーンが効きにくくなっているという声が増えている昨今、そこに課題を感じている企業にも、佐藤 氏の「ファンベース」という考え方は大きなヒントとなるでしょう。

Written & Interviewed by Yumi Sato
Photo by Hiroaki Yoda