ビジネスパーソンであれば、業界の動向や世間のトレンドなど情報収集は欠かせません。しかし、Webメディアや新聞、テレビなど毎日大量のコンテンツが配信され、内容も多様化しているため、全ての情報を理解することは難しいのも事実です。

膨大な情報から何を選び、何を学べば良いのか。その“学び”の手段に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

SNS機能を兼ね備えた、経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks(ニューズピックス)」でインフォグラフィックエディターとして活躍する櫻田 潤 氏は、「学ぶことは『生きる』ことに近い」と述べています。

今回、櫻田 氏に、“図解”をとおした学びの方法と、その手段をうかがいました。また、自身の学びのルーツである「音楽」を起点に、如何に多様な情報を集め「学び」に活かしているのかに迫ります。
  

櫻田潤 氏 プロフィール

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櫻田潤(さくらだ じゅん)

株式会社ニューズピックス インフォグラフィックエディター
大学卒業後、プログラマーとしてキャリアをスタート。その後、システムエンジニア、ウェブデザイナー、マーケターを経て、現職。仕事に必要な知識を身につける過程で、「モノゴトを深く理解したい」という欲求を持つようになり、そこから本やテレビ番組の要約を「1枚の図」にまとめる習慣が生まれる。作り上げた図を、自分の個人サイト「ビジュアルシンキング」にアップしたところ、従来の図解にデザインの考え方を反映させた手法が話題になる。

WIRED、ハフィントンポストといったメディアからのデザイン依頼に加え、コンサルティングファームや広告代理店から、「デザイン×図解」「図解思考」といったテーマで研修、ワークショップの依頼が舞い込むようになる。依頼先の会社では部署を横断し、同じ研修を複数回実施するなど、その満足度も極めて高い。そうした活動が高く評価され、2014年より、ニューズピックスに参画。新しい時代の記事表現として、図解やビジュアルを幅広く用いた記事を多数執筆、デザインする。

2017年よりニューズピックスのクリエイティブを統括。日本におけるインフォグラフィックの第一人者であり、著書には、『たのしい インフォグラフィック入門』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『図で考える。シンプルになる。』(ダイヤモンド社)がある。

図で考える。シンプルになる。|櫻田 潤|Amazon)より引用
  

インフォグラフィックと出会ったキッカケは“Rock”

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ROCK'N'ROLL METRO MAPとの出会い

ferret:
Googleトレンドで「インフォグラフィック」を調べると、2010年を境にその注目度があがっていることがわかります。インフォグラフィックの台頭はそもそもどういった変遷があるのでしょうか?

櫻田 氏:
2010年頃というと、ちょうどインスタグラムやPinterestが創業した時期ということもあり、“画像”がWeb上のトレンドだったんです。その手前にFacebookやTwitterがあり、画像をシェアすることが行われてきました。とはいえ、“テキストだけでは目立たない”というマーケティング的な文脈があり、自然発生的にインフォグラフィックが広まり始めたんです。

ferret:
櫻田さん自身がインフォグラフィックを手がけ始められたキッカケは何でしょうか?

櫻田 氏:
もともと、読んだ本とかを図解で表現するのが好きで、もっと上手くなりたいという単純な欲求がありました。ある時、海外サイトをチェックしていたところ、インフォグラフィックという表現方法を知ったんです。
 
Alberto AntoniazziさんというWIREDなどで仕事をされているイタリアのデザイナーが制作した「ROCK’N’ROLL METRO MAP」というインフォグラフィックに出会いました。それが、自分でもインフォグラフィックをやってみたいと思ったキッカケですね。

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画像引用元:The Studio Of Alberto Antoniazzi

参考:
ロックなインフォグラフィック。いろんなバンドを路線図化|ビジュアルシンキング

ferret:
歴代のロックバンドが系譜やジャンル別に路線図になっているんですね。

櫻田 氏:
「こんな表現方法があるんだ!」と衝撃を受けました。僕は(イギリスのロックバンド)レディオヘッドが好きなので「オルタナティブロックとグランジロックの系譜ってこうなっていたんだ!」とインフォグラフィックを通して得た情報に惹き付けられました。

「ROCK’N’ROLL METRO MAP」のAlberto Antoniazziさんを「ビジュアルシンキング」で紹介したところ、本人から「日本に行くので会わないか」という連絡をいただいて会うことになりました。

その時、Alberto Antoniazziさんから「何でインフォグラフィックを仕事にしないのか」と言われたんです。当時は、日本にインフォグラフィックを専門に行っているデザイナーがいなかったので「日本ではそういう仕事がないんだ」と話したのを覚えています。

海外ではインフォグラフィックが1つの専門性として認められ、ビジネスにもなっていたのですが、当時は日本では無理かなと思っていましたね。

ferret:
当時はほとんどありませんでしたよね……。少し話が戻るのですが、櫻田さんがインフォグラフィックに出会ったのは2010年でしたよね。インフォグラフィックの“トレンド”を肌で感じるようなタイミングはいつ頃なのでしょうか?

櫻田 氏:
最初、世間的に注目を集めたのは、2012年頃ですね。起点となったのが、SNSとマーケティング界隈の人々です。「これはインパクトを与えるな」と注目が集まり、第1の波が来ました。でも、この波は1度収まるだろうなと思っていました。本来の役割としてトレンドやバズを狙うものではないからです。

本来、インフォグラフィックは "ためになる情報" を届けるはずなのに、当時は、「広告」と「インフォグラフィック」が混ざっていて、まるで "押し売り情報のパッケージ化" になっていました。そして、1度トレンドが収まり、2014年頃になって、地道に制作を続けていた人だけが残っていたんです。ようやく、セールス的な要素が落ち着いてきたと感じました。

ある程度、プレイヤー側も決まってきて、落ち着いて制作する環境ができたのと、「データジャーナリズム」の波が来たことで、メディアでもっとインフォグラフィックを活用しようと流れが生まれました。

そして、2016年から今年に掛けて、新たに取り組む人たちが現れ始めました。プレイヤーが地道に増えてきたイメージですね。

ferret:
確かに、当初は“新しい広告手法”というイメージもありました。

櫻田 氏:
マーケティング業界の方々も新たな商品が欲しかったという感じがありますね。インフォグラフィックの“広告的”なトレンドが収まった要因として、動画が台頭してきたことも挙げられます。なので、動画が無かったらもう少し続いたかもしれませんね。
  

インフォグラフィックの本来の役割

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ferret:
櫻田さんは、ご自身で運営されている「ビジュアルシンキング」や、NewsPicksで手がけられた「ネット四天王のすべて」など、現在の日本国内のインフォグラフィックに大きく貢献していると思います。

櫻田 氏:
いや、それはないですよ(笑)

でも、広告的なインフォグラフィックの潮流に対してはアンチでしたね。これは違うと思っていて……。当時、オーダー自体はたくさん来ていた時期なんですけど、大体断っていました。

ferret:
それがあったからこそ、結果的にプレイヤーが増えたのかもしれませんね。

櫻田 氏:
それに、2014年から2015年に掛けて、スマートフォン最適化という流れが来ました。スマートフォンにおけるインフォグラフィックの表現という文脈において、NewsPicksは貢献したかなと思います。

ferret:
テキストやインフォグラフィック、動画と様々な表現手法が一般化し、近年では「VR」や「AR」といったコンテンツの多様化が進んでいます。今後、インフォグラフィックはどういう役割を担っていくのでしょうか?

櫻田 氏:
動的なコンテンツという意味では、今後VRの普及がイメージできますが、もう一度、静的な画像が必要とされる時期が来ると思っています。なぜなら、動画コンテンツは情報を得るために時間が掛かるからです。

じっくり時間をかけて情報を理解するみたいな感じなのですが、やっぱり端的に知りたい方もいるはずです。自分のペースで情報収集したいが「テキストコンテンツは面倒」という人に対して、インフォグラフィックの価値が上がるのではないかと思っています。

ferret:
テキストで学びやすい人、インフォグラフィックのような図解で学びやすい人って結構わかれますよね。

櫻田 氏:
インフォグラフィックはディティールを伝えるには向いていないんですよね。特にモバイル環境では、概要にとどまるような気がしていて。概要をサラッと知りたい人には良いですが、深掘りしたいという人に対しては、テキストと補完しあうコンテンツが必要になりますね。