0円にすることで生まれる新しい価値観を見てみたい

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飯髙
家入さんが事業を始める時に、フリーミアムでスタートすることが多いのに理由はありますか。

家入 氏
そうですね。すべてがフリーミアムで始まっている訳ではないですが、小さく試すのはすごく大事だなと思っています。小さく立ち上げて、走りながら左右どちらに行くのか判断して行くので、自ずと、まずは無料で使ってもらおうといったところからスタートするのが多いのかな。

僕がやっていた「青空学区」という完全無料のプログラミングスクールがあります。これをなぜやったか説明すると、教育って受講する側がお金を払ってその受講料で運営するのが当たり前のようにされているじゃないですか。この授業料を0円にしたら何が生まれるのかを見てみたかったんです。

大きな話になりますが、学級崩壊やモンスターペアレンツの話って、お客様意識の肥大化ですよね。ようは、自分はお金を納めているからお客さんであり、先生は生徒に対してサービスをすべきであると。だったらこれを0円にしてみたら、また違う世界が見えるんじゃないかと思ったんですよね。

実体験ではないのですが、僕がよく話す好きな話があって。大阪でホームレスの方が5円玉を5円で売っているんですよ。5円出せば5円買えるんです。

「5円を出して5円を買うって意味あるのか」って思うじゃないですか。確かに意味はないんですけどね。でも、一見無意味なやり取りなのですが、実際には5円を出して5円を買う時にコミュニケーションが生まれているんですよね。売っている人に「なんで5円売ってるの?」って話もするだろうし、現に僕が色々な場所でこの話をしまくってますし。このコミュニケーションに5円以上の価値って生まれているはずなんですよ。これをフリーミアムっていうのかはよくわからないですけど。

無料とか、何も価値がないと思い込んでいるけれど、実はそんなことないっていうものは色々なところにあるんじゃないかなとよく思っていますね。

面白そうだけでは選ばれない時代

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飯髙
家入さんが色々な事業で「コミュニティ」や「共感」を大切にしているのはなぜですか。

家入 氏
うーん。大切にしてるのかな。

でもそうですよね、なんでだろう。

飯髙
(笑)

例えば、クラウドファンディングって基本的には「モノ」が軸じゃないですか。でもCAMPFIREを見ていると、人にフォーカスしているなってイメージがすごくあって。ここには共感とか、そこに集まるコアファンっていうものが、モノより集まりやすいのかなって思うんです。

ちょっと質問の仕方を変えると、なぜモノからヒトにフォーカスを変えたのかなって。

家入 氏
そうですね。最初に話した、後ろに物語があるかないかというのを大事にしています。実はモノだけ取り上げても、その裏にどういった作り手がいて、どのような思いや物語が込められているのかっていうところまでブレイクダウンしていくと必ずヒトに行き着きます。そういった意味でヒトにフォーカスが移っていったように見られるのかもしれません。

僕は「なぜこれをやる必要があるのか」を大事にしています。それがあるモノとないモノが明確に見透かされる時代なんだと思うんです。ただ面白そうだからやりましただけでは選ばれない時代になっています。その裏にどういった物語があるのか。それに共感するヒトたちがSNSで拡散してくれたり、モノを買ってくれたり、応援してくれたり、そういった消費につながっていくのだと思っています。

「モノ消費からコト消費」みたいな言い方もされたりしますけど、単純なモノだけとか値段、機能だけではなくて、その後ろにあるものを拾い集めていくような作業なのかな。それが本質的に大事だなと思います。

それこそ「身近な人を思い浮かべて手紙を書くようにサービスを作る」っていうのもまさにそこに行き着きます。この人に届けたい、というところからモノを作っていくと、世界中の人に使ってもらえるものじゃなくてもコアなファンがつくんです。薄く広くっていうよりは、狭く深いファンを作っていくような。そういうのって共感ベースで広がっていくものです。

飯髙
CAMPFIREのパンフレットにある「5,000万円のプロジェクトひとつより、50万円のプロジェクトを100個、5万円のプロジェクトを1000個立ち上げたい」に近いですね。
その本質には、お客さんが喜んでそこにお金を払ってくれるモノに価値があるということでしょうか。

家入 氏
それこそクラウドファンディングの本質です。強いていうなら、インターネットやテクノロジーの本質はそこにあると思います。従来だと一部の人にしか手が伸ばせなかったような手法とかモノとか利権とかを解体して一般の人でも使えるようにしていくのがテクノロジーによる民主化なのだとすれば、個人の小さなやりたいことに使ってもらえるクラウドファンディングが本質的に大事だと思っています。まだまだそこまで行き着けていないなって。「polca」はそれをさらにブレイクダウンしたものです。

自分自身がコミュニティの一員でいたい

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家入 氏
コミュニティを大事にしているのは、僕自身がそのコミュニティの中に入っていたい気持ちがあるからだと思います。僕はよく「居場所」という言葉を使うんですけど、僕自身もここにいていいんだと思える居場所をたくさん作りたいです。会社もそうですし、プラットフォームやサービスもそうですし、「リバ邸」っていう現代の駆け込み寺シェアハウスもそうです。

サービスの中で広がっていくコミュニティもそうなんですけど、僕の掌の上でって発想ではありません。きっかけとしては僕も関わったけれども、僕もまたその中のただの一員としてみんなと共に新しい世界を見ていきたい。そういう思いが常にあります。そのコミュニティの中で支えられて生きているからです。

なので共感やコミュニティっていうのは、僕自身がその中にいることで心地がいいから大切にしているだけなのかもしれません。